朔の日(二)
母猫は、蒼一と佳月の気配を察知していたのか、何匹かの子猫を連れて姿を隠してしまっていたが、二匹の子猫が残されていた。
きっとそれは、身体が弱っていて人の手を借りなければ生きてはいけない猫だったのかも知れない。
蒼一と佳月は、どうしてもその子猫を、捨てて行くことができず、胸に抱きながら母猫を探した。
いつの間にか、当たりは薄暗く、雲は重く鉛色に垂れ込めて来ている。
「佳月、雨が来る、帰ろうぜ」
蒼一は、空を見上げて佳月に声を掛けた。
だが、声が返って来ない。
見れば、佳月は、子猫を抱きかかえたまま、ぼんやりと山奥へと続く道を眺めている様だ。
そして、その先には紅い大きな鳥居と太くて頑丈なしめ縄。
「おい、佳月、もう諦めて帰ろうぜ」
蒼一が、声を掛けた途端、佳月がふらりと足を鳥居の方へと足を踏み出した。
「佳月?」
母猫がいるのかと思って目を凝らしてみたが、その気配は無い。
なのに佳月は、フラフラと鳥居の方へ近づいて行った。
“どこで遊んでもいいが、鳥居をくぐったらいかんぞ”
蒼一は、昔から周りの大人たちにキツく言い聞かせられていることを、不意に思い出した。
神様が居るから、くぐったらバチが当たる、そう言われていたのだが、何故か、不安になる。
神様ならなんでバチを当てるんだろう。
「佳月、そっちはダメだ」
ーー 向こう側には、神様じゃない。
なにか、別のものがいる。
そんな風に、子供ながらに疑問に思っていたからだ。
佳月は何も言わずに、ただフラフラと歩き、鳥居に近よって行く。
それまで、佳月の腕の中で大人しくしていた子猫が、ふぁーっと威嚇の声を上げ、飛び降りた。
(やばい!なんだか分からないけど、佳月がヤバイ!)
そう思うのに、蒼一は身体が思う様に動かせないし、声も出せないでいた。
何かに足を取られ、喉を塞がれている様だ。
飛び降りた子猫は、鳥居に向かって小さいながらも健気に威嚇の声を上げ続けている。
(佳月!行っちゃダメだ!そっちに行くな佳月!)
あと、もう少しで佳月が、鳥居に足を踏み入れようとした時。
「散れっ!!」
幼いが、凛とした声が、蒼一の身体の戒めを解いた。




