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私は完璧令嬢ですが、婚約者のポンコツ王子のせいで上手くいきません!  作者: 砂糖未満


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08:ポンコツ王子は好き嫌いが多い


 ライオネル様と過ごす時間が増えるにつれて、私は彼のことを少しずつ理解するようになっていた。


 

 優しくて素直で、困っている人を放っておけない。

 その一方で、王太子としては少々頼りなく、礼儀作法もまだまだ勉強が必要である。


 

 そして、もう一つ。

 私には、どうしても気になることがあった。


 

 ライオネル様は、とにかく好き嫌いが多いのだ。

 


 お茶会ではあれほどケーキや焼き菓子を食べるというのに、普段の食事となると途端に難しい顔をする。



 

 それを初めて知ったのは、ある日の昼休憩のことだった。

 その日は珍しく、ライオネル様が私のところへ会いに来なかった。


 

 婚約者なのだから、もし倒れてでもいたら一応は気にかけなければならない。ただ、それだけである。

 顔が見られなくて寂しいから会いに行こう、などと考えたわけではない。


 

 そう自分に言い聞かせながら使用人たちに尋ねると、ライオネル様はちょうど昼食の時間だという。

 それなら、せっかくだから顔だけでも見ておこう。まあ、私は彼の婚約者なのだし。


 

 そう思って王族専用の食堂へ向かった私は、扉を開けたところで思わず足を止めた。

 


「こんなもの食えるか!!」


 

 目の前では、ライオネル様がほとんど手をつけていない料理を前に、派手な音を立てながら立ち上がっていた。


 

「ライオネル様……?」

 


 声をかける間もなく、彼は私に気づかないまま、そのまま食堂を出ていってしまった。


 

 私はしばらく呆気に取られたあと、残された料理へ視線を落とす。

 そして、思わず眉を寄せた。


 


 白い皿の中央には、香ばしく焼き上げられた鶏肉が綺麗に盛り付けられている。

 表面にはこんがりと美しい焼き色がつき、ナイフを入れれば肉汁が溢れそうなほど柔らかそうだ。

 


 その隣には、色鮮やかな野菜のソテー。

 バターの香りをまとった人参やじゃがいもが艶やかに輝き、添えられた緑の葉野菜まで瑞々しい。

 


 さらに、肉料理の周りには濃厚そうなソースが細く描かれている。

 香草とバターの香りがふわりと漂い、食欲をそそる。


 

 王族の料理人が腕によりをかけて作った、見るからに美味しそうな昼食だった。

 少なくとも私には、どこが「こんなもの」なのか分からない。


 

 それを一口も食べずに拒否するとは、随分と贅沢な舌をお持ちのようである。


 

「少し良いかしら」

「り、リーリエ様!」

 


 近くにいた料理人へ尋ねると、彼は深く頭を下げた。


 

「ライオネル様は、いつもこのような調子なのかしら?」

「ええ……殿下は、お召し上がりになれるものが少なくて。一口も召し上がらずに下げさせることも珍しくありません」

「まあ……」

「料理人としては、できるだけ殿下のお口に合うものをお出ししたいのですが……なかなか難しく……」

 


 なるほど。どうやら、私が思っていた以上に食事にこだわりがあるらしい。

 


 お茶会ではあれほどお菓子を食べるのに、食事となると口にできるものが限られている。

 そのうえ、好物を用意しても、その日の気分次第では手をつけないことまであるという。

 


 私は冷め始めた料理を眺めながら、思わずため息を吐いた。

 せっかく料理人がこれほど手をかけているというのに。

 これでは栄養も偏ってしまうのではないだろうか。



 

 ふと、自分の婚約者の姿を思い浮かべる。


 

 これから王太子として国を背負っていく方なのだ。きちんと食事を取って、健康な身体を維持していただかなければ困る。

 


 せっかく美しい私が隣に立つのだから、婚約者にもそれなりに健康的な姿でいてもらいたい。


 

 ガリガリなのも困るし、逆にぶよぶよなのも困る。

 私としては、ほどよく筋肉のついた身体くらいが好みである。


 

 ……もちろん、これは決して個人的な好みというわけではない。


 

 未来の王となる方の健康を気にかけるのは、王太子妃として当然の務めなのだから。


 

 私は料理人へ向き直った。

 


「それでは、ライオネル様が召し上がれるものを教えていただけますか?」

「は、はい。ただ日によっても変わりますので……」

「そう。では、分かる範囲ですべて教えてちょうだい」


 

 料理人から、食べられるものや苦手なもの、特に嫌がる食材、比較的口にしやすい料理などを一つずつ聞き出していく。


 

 聞けば聞くほど、思っていた以上に複雑だった。

 これは、なかなかの重症である。


 

 このままではいけない。

 けれど、正面から「好き嫌いを直しなさい」と言ったところで、ライオネル様が素直に従うとも思えない。


 

 ならば、別の方法を考えるべきだろう。


 王太子妃となる以上、将来は食事についてもある程度把握しておく必要がある。

 そう考えれば、これは王太子妃としての務めの一つと言えなくもない。

 


 私はしばらく考えたあと、ふと一つの案を思いついた。

 うまくいくかどうかは分からない。

 けれど、少なくとも今のまま何もしないよりはいいだろう。


 

「……少し、私が動きましょうか」


 

 誰に聞かせるでもなく呟く。


 

 食いしん坊で、好き嫌いの多い、私の困った婚約者。


 

 さて。どうすれば、きちんと食事をしていただけるでしょうね。

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