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私は完璧令嬢ですが、婚約者のポンコツ王子のせいで上手くいきません!  作者: 砂糖未満


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14:完璧令嬢と家庭教師



 またある日のこと。新しい家庭教師がやって来た。


 

 彼女は理不尽な授業を行い、気に入らなければすぐに鞭を振るう。さらには、子供が泣く姿を見るのが趣味だという、悪質極まりない家庭教師だったのだ。


 

 なぜ、こんな人間が高貴な者たちの教育を任されているのか。そう思うと、腸が煮えくり返るほど腹が立った。


 

 そこで私は彼女の知識を上回る学識と、王妃教育で磨かれた言葉を駆使することにした。彼女の授業の問題点を一つずつ丁寧に指摘してあげた。


 教育とは、生徒を成長させるためにあるものだ。

 教師の機嫌を損ねないよう怯え、泣かされることに何の意味があるというのだろう。

 生徒だけが一方的に苦しむ授業など、不公平にも程がある。


 

「こんなことも分かりませんの?」

 

 

 初めは余裕の笑みを浮かべていた家庭教師も、次第に顔を赤くしていった。


 

「こ、この……っ! 子供如きが私に逆らうんじゃないわよ!」


 

 ついに逆上した彼女は、手にしていた鞭を振り上げた。

 私は目を閉じることもなく、ただ冷めた目でその家庭教師を見つめていた。



 

「そこまでだ!」


 

 その瞬間、部屋の隅で待機していた騎士が動いた。

 鞭が振り下ろされるより早く彼女を取り押さえ、床へと押さえつける。


 

「なっ……何するのよ! 不敬よ!」

「煩いですわね。早く連れていってくださいな」

「はっ」


 

 もちろん、偶然そこに騎士がいたわけではない。

 最初から彼女の言動に不審な点があったため、私はあらかじめ騎士へ声をかけておいたのだ。

 暴力を振るおうとした現場を押さえた以上、言い逃れはできない。


 

 私はその場で彼女との契約を打ち切り、屋敷から追い出した。

 


 あのときの顔といったら、実に傑作だった。

 今思い出しても、自然と笑みがこぼれてしまう。子供なら逆らわないとでも思っていたのだろうか。

 残念ながら、相手が子供であろうと、私は理不尽に屈するつもりなどない。



 高貴な身分の者に鞭を振るおうとした罪は重い。そのまま厳罰に処することもできただろう。

 けれど、私はあえて彼女を放り出すことにした。



 

 ただし、それで終わりにするほど私は甘くない。

 私の情報網を使い、彼女の過去の教え子たちを探し出した。証言を集め、裏付けとなる証拠を揃え、然るべき機関へ提出する。

 その結果、彼女は教師としての資格を剥奪され、被害を受けた複数の家から慰謝料まで請求されることになったという。


 

 これで十分かと思ったが、私はもう一つ手を打つことにした。

 社交の場で、彼女の悪行を令嬢方へ伝えるのである。


 

「あの家庭教師は、本当に酷い方でしたの。理不尽な授業をするだけでなく、気に入らなければ鞭まで振るうのですわ……」

 


 私は目元をそっとハンカチで押さえた。


 

「まあ、そんなことが……!」

「リーリエ様、私たちに教えてくださるなんて、お優しいのですね。私のお友達にも伝えますわ!」

「ええ。被害に遭う方は、少ないほうがよろしいでしょう?」

 


 涙は化粧が崩れない程度に。

 顔を伏せる角度も、声の震わせ方も慎重に。


 淑女の涙は、ここぞというときにこそ美しく見せるものだ。

 そうすれば令嬢方から、ほう、と感嘆のため息が漏れる。


 

 私はハンカチで目元を押さえながら、口元に笑みが浮かばないよう必死にこらえた。

 今回のお茶会には、心優しく噂話にも詳しい令嬢方を、あらかじめ選んで招待していた。

 


 彼女たちは私の話を真剣に聞き、心配そうに頷いてくれた。きっと、この話は彼女たちの友人へ、さらにその先へと広がっていくだろう。

 


 案の定、数か月も経たないうちに、家庭教師の悪評は社交界に知れ渡った。

 教師の資格を失ったうえ、貴族の間で悪い噂まで広まった彼女には、まともな勤め先が見つからなくなったらしい。


 

 当然、二度と家庭教師として雇われることはなかった。

 ある意味、捕まるよりも厳しい生き地獄かもしれない。


 

 被害に遭った令嬢方からは、涙ながらに感謝された。

 彼女たちを救い、信頼まで得られたのだから、私としては大満足である。

 未来の王妃となる私にとって、信頼できる味方が増えるのは喜ばしいことですもの。


 

 もちろん、厳しい指導をする教師を片っ端から排除するつもりはない。必要なのは、厳しさと理不尽を履き違えた人間を見極めることだ。


 

 優秀な教師が残り、子供たちが安心して学べる環境を整える。それこそが、教育を受ける者にとっても、この国にとっても大切なのだから。


 

 そして、彼女の後任としてやって来たのが、リアナという可愛らしい少女だった。

 ただし、彼女はまだ新人で、知識も経験も十分とはいえなかった。



「えっとこれは……す、すみません……! 今確認します!」

「この参考書に載っていますわよ」

「あ、ありがとうございます……! えっと、どこだろう……」

「三十八ページですわ」

「あっ、本当だ!」

 


 慌てて本をめくるリアナを見て、私は思わず微笑んだ。


 

 彼女には、前任者のような傲慢さも、子供を見下す態度もない。分からないことを素直に認め、教わったことを真剣に吸収しようとしている。

 何より、学問に対する熱意があった。


 

 人に教えることは、自分自身の理解を深めることにもつながる。リアナに説明するために知識を整理するうち、私にとっても新たな学びがあった。


 

 それからリアナは努力を重ね、少しずつ実力を伸ばしていった。

 今では、すっかり優秀な家庭教師として活躍している。


 

 私も勉強になり、リアナも成長した。実に有意義な時間だった。

 悪質な家庭教師を一人失った代わりに、優秀な教師が一人育ったのだから、結果としては上々だろう。



 これからも、こうして人を見る目を養い、必要な者を育てていくことにしよう。

 未来の王妃として、教育環境を整えるのも大切な務めですもの。


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