12:完璧令嬢とポンコツ王子のおそろい
次に行われたお茶会では、ライオネル様からいただいた奇抜なスカーフを持参し、膝に掛けていた。
何もないよりは温かいのだから、役立ててよしとしましょう。
「おっ、リリィ! 俺があげたスカーフ使ってくれてるんだな!」
「ええ。贈り物、ありがとうございます。最近はさらに寒くなりましたしね」
「この色、リリィと俺みたいだろ! おそろいだ!」
「……そうですわね」
ライオネル様はスカーフをひざ掛けにしている私の姿を見て、心底嬉しそうに目を細めている。
それよりも、だ。
私は思わず、じっとライオネル様の首元を見つめた。
「どうされたのです、そのスカーフは」
「え? リリィから貰ったのが嬉しくて、ずっと巻いてるだけだけど」
朗らかな笑みを浮かべるライオネル様。
その顔を見ていなければ、スカーフで首を絞められそうになって逃げてきたのかと思ってしまうほど、斬新な巻き方だった。
「巻き方がなってませんわ」
これでは、私が選んだ品のいいスカーフが皺くちゃになって台無しである。
仕方なく、私はライオネル様の首元へ手を伸ばし、綺麗に巻き直してあげる。
まったく。貴族なのですから、スカーフくらい簡単に着こなしていただきたいものですわ。
もっと抵抗するかと思っていたけれど、意外にもライオネル様は大人しくされるがままだった。
手間取ることもなく巻き終えると、私は鏡を見せてあげる。
「ありがとう! リリィは器用だな!」
「ただ、貴方が不器用なだけでは……」
「リリィに巻いてもらえて嬉しい! 寝る時もお風呂の時も、このまま着けてる!」
「またいつでも巻いてあげますから、やめてください」
「本当か!」
つい苦笑してしまう。
私が不器用だの不敬なことを言っているというのに、ライオネル様は終始ご機嫌だった。
ふと、その手首で煌めくものが目に入った。
それは、スカーフと一緒に私が贈ったブレスレットだった。
「……ライオネル様は、スカーフもブレスレットも付けてくださったのですね」
「もちろん! リリィからもらった物だからな! 俺が死ぬまでずっとつける!」
「そうしてくださいな」
ライオネル様は心から嬉しそうに、ブレスレットを見せつける。
やはり、デザインから色まで全部センスのいい私が選んで作っただけあって、彼によく似合っている。
思った以上に喜んでいただけたようで、何よりですわ。
「……それから、今の贈り物の流行りはブレスレットですのよ」
「そうなのか……! リリィはなんでも知ってるな」
「社交は王太子妃となる私の役目ですからね」
まるでおねだりのように聞こえなかったかしら。
少しだけ胸がどきどきしたけれど、ライオネル様は私を尊敬するような眼差しで見つめていた。
どうやら、余計な心配だったらしい。
「じゃあ、次はブレスレットを贈るな!」
「……ありがとうございます」
こういうところでは、察しがいいのだから。
満面の笑みでそう告げる彼に、私は扇子で口元を隠しながら感謝を述べた。
それから王太子妃教育に勤しむ忙しい日々が続き、あっという間に数週間が過ぎた。
そんなある日、またライオネル様からの贈り物が届いた。
中身は、ちゃんとブレスレットだった。
忘れていなかったのだと感心する。
「……こうしてお返しをいただいたのはいいものの、こんなの幼少期の私でも似合わないデザインですわ」
今回贈られてきたのは、ハートとリボン、それに天使の羽根をあしらったブレスレットだった。
「……可愛い、とは思うけれど」
多分、女児心をくすぐる可愛らしいデザインなのだろう。
幼い頃、一度だけこういう飾りを店先で見つめたことがあった。もちろん、口にはしなかったけれど。
それにしても、宝石の質だけは一級品なのが腹立たしい。
「……いえ、やっぱり私には似合いませんわね」
幼い令嬢なら許されても、今の私の立場では難しい。
家の中でつけるにしても、食事中や作業をするときにはかなり邪魔になりそうだ。
この間のスカーフといい、こんなデザインを王族に売りつけるのは一体どこの商会なのかしら。
こうも続くと、どうして彼を止めてくれなかったのですか、と苦情を入れたくなってくる。
私は何度目か分からないため息をついた。
そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。
少々お顔がぶちゃいくな犬のぬいぐるみと目が合った。
これは、この間ライオネル様から誕生日プレゼントとしていただいたものだ。
抱き上げれば、ぬいぐるみの足が床につくほど大きい。
私を一体なんだと思っているのか。完璧令嬢らしく大人っぽい私に渡すプレゼントではないだろう。
生まれてこの方、ぬいぐるみなど持ったことのなかった私は、最初こそ扱いに困ったものだ。
この大きさのぬいぐるみが届いたときには、使用人たちも驚いていたのを思い出す。
「ふふ、良かったですね」
「なによ、アビー」
「いえ、なんでもありません」
「別に気に入ってるわけじゃないわ」
「まだ何も言ってませんが」
そんなやり取りを、以前アビーともした気がする。
昔読んだ絵本では、ぬいぐるみは枕元に置いてあるものだった。
だから私も、近くに置いてあるだけである。
別にこのぬいぐるみを気に入っているわけではないし、毎日一緒に寝ているわけでもない。
使用人に片付けてもらってもいいはずなのに、なぜかできなかった。
邪魔なのに、視界にないと少し落ち着かない。
そして、このセンスのいい部屋で異彩を放っているものは、ほとんどすべてライオネル様からの贈り物だと言ってもいい。
ライオネル様は誕生日以外にも、何の変哲もない日に突然プレゼントを贈ってくるのである。
もちろん最初は遠慮した。
けれど、聞く耳を持たない彼は、どんどん私の部屋を贈り物で埋めていく。
そこで、私はふと思いついた。
この犬のぬいぐるみに、私の代わりにブレスレットをつけてもらおう。ぬいぐるみの色合いが、どことなくライオネル様に似ている。
そのため、こんな女児がつけそうなブレスレットを身につけている彼の姿を想像してしまい、私は思わず小さく笑った。
……やはり、少し面白い。
そして、ライオネル様のセンスに任せると、どうやら良くないことも分かった。
ならば、次からは私も同行して、一緒に選ばせてもらいましょう。
これ以上、部屋を奇抜にされては困りますもの。
早速、日程を調整しなくては。
決して、ライオネル様と一緒に買い物へ行くのを楽しみにしているわけではない。




