11:ポンコツ王子はセンスが悪い
秋も深まり、目に映る景色が美しい季節になった。
最近ではすっかり肌寒くなり、外へ出れば冷たい風に襲われるようになった。そのため、恒例のお茶会も庭ではなく王宮内で行われるようになっている。
「最近は寒くなってきましたわね」
「リリィ、寒いのか!? もっと暖炉の近くに来い。毛布も持って来ようか?」
「そこまで寒くはないので大丈夫ですわ。逆に暑くなってしまいますもの」
そう返しながら、私は温かな紅茶を一口飲んだ。
冷めてしまっているかと思ったけれど、まだちょうどいい温度だった。じんわりとした温かさが喉を通り、冷えていた身体まで少しずつ解れていく。
私は寒くなってくると手足が氷のように冷たくなってしまうのだが、ライオネル様は年中温かいらしい。
夏はともかく、この時期ばかりは羨ましい。
「あったかいだろ!」
「でも、私の手は冷たいですから。ライオネル様の手が冷えてしまいますわ」
「リリィと手を繋げたら心がぽかぽかするから大丈夫だ!」
そう言うと、ライオネル様は自慢するように温かな手のひらで私の手を包み込んだ。
「もう……」
困ったものだと思いながらも、冷えた指先に伝わる温もりは心地よい。
私は結局、その手を振りほどくことができなかった。
「……そういえば、最近は肌寒くなっているからか、貴族たちの間でスカーフを贈り合うのが流行っているらしいですわ」
「へぇ、今はスカーフが流行っているのか。この間は別のものだった気がするが」
「そうですわね。以前はブローチでしたわ」
警備上の都合から、ライオネル様は王家主催以外のお茶会にはあまり参加できない。
そのため公爵令嬢として様々なお茶会へ顔を出している私は、貴族の間で流行しているものや社交界で話題になっている噂などを話すことが多い。
私が話すたびに、ライオネル様は興味深そうに目を輝かせる。
「他にはどんな話があるんだ?」
「そうですわね……最近は隣国から輸入された紅茶も人気ですし、若い令嬢たちの間では新しい髪飾りも――」
その後も私は、最近のお茶会で聞いた話や社交界の流行について、ライオネル様にいろいろと話して聞かせた。
ライオネル様も興味深そうに耳を傾け、ときどき気になったことを尋ねてくる。
そうして話しているうちに、気づけばお茶会の時間はあっという間に過ぎていた。
楽しい時間ほど、過ぎるのが早いものだ。
それから数週間が経った、ある日のこと。
「お嬢様、王家から贈り物が届いております」
「まあ。何かしら?」
アビーが丁重に包まれた箱を部屋へ運んできた。
誕生日は少し前に終わっているし、まだ夜会へ出席する身でもない。いったい何だろうと思いながら箱を受け取り、丁寧に包みを解く。
そして、中身を目にした瞬間、私は固まった。
「……なんですの、この変な柄のスカーフは」
「ライオネル殿下からお嬢様へのプレゼントです」
「それは知っているわよ」
箱の中には、一枚のスカーフが入っていた。
そっと手に取ってみると、肌触りは驚くほど滑らかで、布地もしっかりしている。見るからに上質な品で、おそらくかなり高価なのだろう。
だからこそ、余計に惜しい。
品質は一級品。
ただし、柄だけが壊滅的だった。
原色に近い赤と青が大胆に配置され、互いに一歩も譲る気がない。
どうしてこんな色合いを選んだのかと思ったものの、すぐに理由が分かった。
きっと私とライオネル様の瞳の色だから、と選んだのでしょう。
服に合わせてみても、スカーフだけが圧倒的な存在感を放っている。何に合わせても、これが主役になってしまうだろう。
「……本当に、困った人ですわね」
ライオネル様はセンスが悪い。
プレゼントを貰うことが多い婚約者という立場からすれば、もう少しどうにかしていただきたい。
それでも自分たちの瞳の色を合わせたのだと思うと、文句を言う気にもなれなかった。
せっかく贈ってくださったのだから、仕舞い込んでしまうのも勿体ない。
「これからますます寒くなりますもの。お茶会のときの膝掛けにでも使いましょうか」
そう決めてスカーフを畳みながら、ふと気づく。
そういえば、あの日のお茶会で私がスカーフの流行について話したばかりだった。
もしかすると、私が欲しがっていると思われたのかもしれない。
……まったく。私はそんなつもりで話したわけではありませんのに。
けれど、せっかく王家から贈り物をいただいたのだから、お返しはしなくてはならない。
「こちらは、もう少し上品なものを選びましょう」
今の流行なら、ブレスレットも悪くない。
ライオネル様が普段から身につけられるような、細身で上品なものがいいだろう。
私は宝飾品のカタログを手に取り、ページをめくり始めた。
けれど、なかなか気に入るものが見つからない。
どれも悪くはないのだけれど、どうにも決め手に欠ける。
そこで、ふと一つの考えが浮かんだ。
「……自分で作ったほうが早いのではなくて?」
そうして行動が早い完璧な私は、ブレスレットを自分で作ることにした。
素材を選び、色や形を決める。
ライオネル様に似合うものにしたいけれど、派手すぎるものは避けたい。細身で上品。それでいて、普段から身につけても邪魔にならないもの。
本を読みこみ、何度も試行錯誤を重ね、ようやく形になった。流行がすぎる前に完成させなければいけないので、かなり急いだ。
「……まあ。これなら悪くありませんわね」
完成したブレスレットを手のひらに乗せる。
赤い石を中心に、銀細工をあしらったシンプルなデザイン。
これなら、きっとライオネル様にも似合うでしょう。
私は完璧な出来に満足して、小さく頷いた。
こんなことが出来る公爵令嬢は、世界を探しても私ぐらいでしょうね。
別に、喜んでほしいから作ったわけではありませんわ。
ただ、せっかく贈るのなら、似合わないものを渡すのは私の美意識に反するだけですもの。
そう自分に言い聞かせながら、私は完成したブレスレットを丁寧に箱へしまった。
ライオネル様はどんな顔をなさるのかしら。
少しくらい嬉しそうにしてくださると、私としても作った甲斐があるのですけれど。




