31:告白(2)
俯いて、もじもじしていると、千聖くんは私の隣に座った。
そして、私に向かって左手を伸ばす。
彼の指が、私の濡れた頬にそっと触れる。
「なあ愛理。話を戻すけどさ。予知夢が何の意味もないなんて言うなよ。これまで愛理はおれを含めて何人も助けてきたじゃん。言っただろ、それはすごいことなんだって。愛理はこれまで人知れず、たくさんの人の涙を止めてきたんだよ。そんな頑張り屋の愛理だから、おれは好きになったんだ」
千聖くんの指が私の頬を優しく擦る。
その感触がくすぐったくて、私は首を竦めた。
「何の意味もなかった、助けなきゃ良かったなんて言われたら、これまで愛理に協力してきたおれも優夜も、なんか、馬鹿みたいじゃんか。愛理は四年前、優夜が父さんに連れて行かれても良かったのか? 昨日、坂本が怪我をしても良かった? 田沼に優夜が泣かされても良かったのかよ」
「……ううん。嫌だ。優夜くんが泣くなんて嫌だ。坂本くんにも、他の誰にも怪我なんてして欲しくない。ごめん。言い過ぎた」
謝ると、千聖くんは私の頬に手を添えたまま微笑んだ。
柔らかい微笑みに、ドキリ、と心臓が跳ねる。
「そうだよ。それでいいんだ。神様じゃねーんだ、おれや誰かの不幸な未来を100%を予知して防ぐなんて無理に決まってる。愛理が予知夢で防げるのはたった1%のことなのかもしれない。助けた人は、その後もっと酷い怪我をすることだってあるかもしれない。でも、それでも、愛理がそのときその人を助けた事実は変わらねーよ。愛理は確実に誰かを救ってるんだ。その人本人と、その人を大事に思う誰かも含めてさ」
「……うん」
「人間だけじゃなくて、動物もな」
千聖くんは床に寝転がっているジロさんを見て、笑った。
「愛理がいなかったら、ジロさんはここにいない。そうだろ?」
「うん、そうだね」
ジロさんは半分白目を剥いて、人間みたいに寝息を立てている。
完全にリラックスしきったその姿を見て、私はつい噴き出した。
「拾ったときは警戒心剥き出しで、しゃーしゃー威嚇しまくって、引っ掻きまくってきた猫が、いまではあの有様だ。愛理は不幸だった猫を一匹救ったんだよ。何度でも言う。それはすごいことだ。猫を助けたいと思う奴はたくさんいるかもしれないけど、実行できる奴はそういないよ」
「うん」
「愛理は猫を助けた。それだけで愛理の予知夢にはものすごい価値がある。予知夢を変えるべく行動した愛理は自分を誇っていいし、誇るべきなんだよ」
「……うん。ありがとう」
私は新しく流れてきた涙を拭って頷いた。
「千聖くんの怪我は防げなかったけど。これからも誰かが不幸になる予知夢を見たときは、変えられるように頑張るね」
不幸になった人や動物なんて見たくないし。
千聖くんが誇れって言ってくれたから。
だから、私はこれからも頑張りたい。
千聖くんに誇れる自分でいたい。
強く、強く、そう思った。
「そうこなくっちゃ。とはいえ、愛理が危ない目に遭うようだったらおれが全力で止めるけどな。不幸になる他人よりも、一番大事なのは愛理だし」
ぼそっとした呟きは、まさに殺し文句だった。
私が赤面している間に、千聖くんはベッドの縁から立ち上がった。
「リビングで待ってるから、着替えて来いよ」
「うん、待ってて」
パタンと扉が閉まり、千聖くんは部屋から出て行った。
私は急いでパジャマのボタンを外し、用意していた服に袖を通した。




