20:世界で一番格好良い(3)
「真面目に聞いて。もし優夜くんを泣かせるようなことがあれば、私はあなたたちを許さない」
幼馴染の私は知っている。
四年前、親の離婚が成立するまでずっと、優夜くんたちは横暴な実の父親に苦しめられてきた。
優夜くんが泣く姿を見るのはもうたくさんだ。
優夜くんにはずっと笑っていて欲しい。そうでなければ嫌だ。
「へっ。許さないって、何するんだよ? 俺たちと殴り合いでもする気なのか?」
田沼くんは鼻で笑い、身体の前で拳を握った。
怯みそうになったけれど、私はぐっと堪え、逆に一歩足を踏み出した。
「ううん、喧嘩じゃ勝てないのはわかってるし、暴力は嫌い。だから、家族も学校も、場合によっては警察だって、巻き込めるものは全部巻き込んで味方につける」
頼りになる味方は多ければ多いほど良い。
これは成海家の離婚騒動のときに学んだことだ。
「家族もって、おい、親に告げ口する気かよ。それは反則だろ」
三井くんが弱々しい声で言った。
あれだけ威勢の良かった田沼くんも親に告げ口されては困るらしく、無言で拳を下ろした。
「何が反則なの。親に言われて困るようなことをしているのが悪いんでしょ? あなたたち、五年生にもなって、やっていいことと悪いことの区別もつかないの?」
形勢逆転だ。私は強く二人を睨みつけた。
「これだけ言ってもまだ優夜くんに絡むつもりなら、覚悟してね。私は大切な人を傷つける人に容赦なんてしない。全力で戦う。あなたたちの心が折れるまで徹底的に、再起不能になるまで叩きのめしてやる」
私の本気が伝わったのか、田沼くんたちは気圧されたように何も言わない。
優夜くんにもう何もしないって約束して。
そう言おうかと思ったけど、止めた。
口では何とでも言えるから。
「これからの態度と行動には気をつけて。もし優夜くんを傷つけたら、本当に許さないから。それじゃ」
言いたいことを言い切った私は、くるりとその場で半回転した。
視線を上げて、階段を上ろうとして――そこで動きを止める。
階段の上に立って私を見ているのは、菜摘ちゃんだけじゃなかった。
何故か、千聖くんが菜摘ちゃんの傍に立っていた。
千聖くんは私を見て、なんだかとても嬉しそうな、誇らしそうな、そんな顔をしていた。
菜摘ちゃんは千聖くんの傍でニコニコしている。
「千聖くん? いつの間に?」
驚きながら階段を上り、二人の前に立つ。
「最初から見てたよ。愛理の様子がおかしかったから、こっそり後をつけてたんだ。優夜に用事があるのかと思ったら、まさかいじめっ子にお説教とは。何? 優夜があいつらに泣かされる夢でも見たわけ?」
ぎくっ。
その表情が表に出てしまったらしく、千聖くんは「やっぱりな」と笑った。
「ありがとう。優夜のために怒ってくれて。さっきの愛理、超格好良かった。世界で一番格好良かったよ」
千聖くんは口の端をつり上げて、ニッと笑った。
それは、私の胸を強く打つような、そんな笑顔で。
「……そ、そうかな」
胸に、じわじわと喜びが広がっていく。
格好良かった――それは、私の行動を評価し、賞賛する言葉。
嬉しくて、つい、頬が緩んでしまう。
照れていると、菜摘ちゃんが悪戯っぽい笑顔を浮かべて千聖くんに聞いた。
「成海くん、愛理ちゃんに惚れ直したんじゃない?」
「ほ!?」
顔を真っ赤にして狼狽えている千聖くんの横を、田沼くんたちが気まずそうな顔をして足早に通り過ぎていった。
「な、何言ってんだよ河本さん! おれと愛理はそんなじゃねーから! ただの幼馴染だから!!」
「そ、そうだよ菜摘ちゃん! 変なこと言わないで!!」
二人して慌てていると、
「もー、じれったいなあ……」
何故か菜摘ちゃんは呆れ顔になった。




