21:ハイタッチ!
二日後の朝。今日の天気は雨。
「ふわあ……」
パジャマ姿のまま、眠い目をこすってリビングに行くと。
英語のロゴの入った水色のTシャツを着た優夜くんと、赤いシャツを着た千聖くんが揃ってご飯を食べていた。
昨日は夜更かしして眠かったのに、優夜くんの服装を見た瞬間、寝ぼけていた私の脳は完全に覚醒した。
もしも田沼くんたちが私の警告を聞かなかったら、優夜くんは今日、田沼くんたちにいじめられて泣いてしまう!
「ゆ、優夜くん、おはよう」
「おはよう。どうしたの?」
動揺を隠せない私を見て、優夜くんは目をぱちくり。
「えっと、あの。優夜くん……」
「愛理」
警告するべきかどうか迷っていると、千聖くんが落ち着いたトーンで私の名前を呼んだ。
不安にさせるようなことは言わなくていい、と目が言っている。
――もし今日、田沼くんたちが話しかけてきたら聞かなくていいからね。何かされそうだったら全力で逃げてね。今日はなるべく一人にならないで――
喉まで出かかっていた数々の言葉が、千聖くんの視線を受けて消えていく。
「……なんでもないの。今日は雨だね」
リビングの大きな窓の外を見て、私は言った。
窓の外では、まるで誰かが泣いているかのような雨が降っている。
「? うん。雨だね?」
優夜くんは困惑顔。
この雨のように、優夜くんが涙を流したりしませんように。私は心底祈った。
果たして、その日の夕方。
クラブ活動が終わり、急いで家に帰ると、優夜くんはリビングでジロさんと戯れていた。
「おかえりなさい、愛理ちゃん。今日はオムライスよ」
キッチンでエプロン姿の麻弥さんが微笑んだ。
「そ、そうなんだ。やった、私、オムライス大好き……」
重いランドセルを背負ったままの私は、息を弾ませながら笑顔を作った。
オムライスは嬉しいけど、それより今日、優夜くんは無事だったのか。
田沼くんたちに何もされなかったのか。そればかりが気になる。
「大丈夫。何もなかったらしい。優夜のキーホルダーも無事だった」
私より先に帰っていた千聖くんが寄ってきて、私の耳元で囁いた。
優夜くんが振り回すひも付きの玩具にジロさんがとびかかる。
玩具を操りながら、優夜くんは楽しそうに笑っている。
平和そのものの光景だ。
「……良かったあ……」
私は胸に手を当てて大きく息を吐いた。
優夜くんが無事で、本当に、本当に良かった。
「ありがとな。全部愛理のおかげだ」
喜びをかみしめていると、千聖くんが手を上げた。
手のひらは私に向いている。ハイタッチを待つ構えだ。
「どういたしまして!」
私は笑顔で手を上げて、千聖くんとハイタッチした。
パン、とリビングに軽い音が響く。
――ああ、最高に気持ち良い!
笑い合う私たちを見て、優夜くんと麻弥さんは「何してるんだろう?」という顔をしていた。




