祝福
第7話です。ここで言うのもなんですが、新キャラ紹介忘れてました。お医者さんの葉乙女さんです。ガチ医者ですが、至印将でもあり、べらぼうに優秀な人で強いです。メインはサポート要員ですが、しっかり戦闘できます。これからちょいちょい出てくるかな。出番としては一番優遇されてるかも。
第7話 いってらっしゃい
とある平日、片桐は緊張の面持ちで、間立高校の校門付近の壁に背中を預けて立っていた。携帯デバイスを片手に操作するが、どうにも頭に入らない。
単純に画面の内容が面白くないものばかりだったこともあるが、これから自分の人生を左右しかねない事態に直面するかもしれないからだ。
しばらくすると、校舎から見覚えのある人物が片桐に近づく。
「待たせた。じゃ、行こうか」
晴馬の高校生用の言葉遣いを受け、片桐はうなずいて晴馬の後を歩く。無論、いわゆる「デート」ではない。
二人の行き着いた場所は、人通りの少ない路地。そこにはとある黒塗りの車が停めてあった。なんの車か、片桐は流石に想像がついていた。
晴馬が先に車のドアを開け、車内に入る。片桐も続くと、そこには片桐や晴馬と同い年くらいの青年が座っていた。
「やぁやぁ!初めまして、かな?」
さわやかに手を振る青年の両手は、蠍のような絵が印字されてある黒いグローブ。青年の挨拶に、片桐は「ど、どうも」と、警戒しつつも答えながら晴馬の隣に座った。
「さてさて、自己紹介といきましょう。ボクは伏魔師の組織で評議会員をやってます、成宮紫無介と申します。ハルちゃん…、おっと失礼、晴馬と同じ組織の人間ですので、以後よろしく!」
成宮から差し出された右手に対し、片桐も「片桐です…」と、応じて握手を交わす。
「学校、疲れたでしょー。お二人さん、何か飲むー?」
成宮は後ろの冷蔵庫に手を伸ばし、ジュースやお茶、ノンアルコールシャンパンなどを取り出す。
「私はお茶で」
真っ先に応える晴馬に、
「じゃあ、俺も…」
と、同調を示す片桐。
二人の前に出された冷たいお茶を眺める片桐とは反対に、遠慮なく飲み干す晴馬。
「あ、あの…。今日はどういったご要件で…?」
なんとなく想像はできるが、改めて要件を聞く片桐。成宮は自分に用意した、恐らくノンアルコールシャンパンを一口飲み、苦笑いを浮かべる。
「そんな緊張しなくても、って言いたいところだけど、そうはいかないよねー。んじゃ、本題」
成宮の仕切りに、空気の変わる車内。
「この間、学校側と今回の件について、話し合いがありましてね。そこで、片桐さんの今後についても話が上がったんですよ」
「ついに来た」と言う言葉が脳裏を支配する片桐。
「結論から言うと、学校側は片桐さんの対応をコチラ側に一任すると言うことで、合意となりましてね。そこで、我々から片桐さんへ、二つの選択肢を提示することになりました」
唾を飲んで、喉を鳴らす片桐。同時に覚悟を決めてうなずく。
「一つ目はこれから先、片桐さんには普通に生活を送ってもらいつつ、封印されている魔属の様子の観察にご協力いただくというものです。片桐さんは基本的に通常の学生生活を送っていただいて構いませんが、定期的な検診のようなことへのご協力をお願いすることとなります」
恐らく片桐を始めとする一般人が、おおよそ予想できる範囲内だ。成宮も言葉には出さないが、要は監視対応だ。片桐も察せたが納得できる内容であった。
「そして、二つ目です。その前に話は変わりますが、まだ今回の報酬をお支払いしていなかったようで」
「?」
「片桐さんにご協力していただく代わりに、伏魔師側の情報をお教えするというものですよー」
「あ、そういえば…」
片桐の中で忘れていたわけではないが、優先順位がかなり下の方へ下がっていたのは事実。成宮はそれを咎めることなく、自身の横に置いてあった一つの茶封筒を片桐に差し出す。
「単純にお教えしてもいいのですが、先ほどの二つ目の選択肢と同時に十分に報酬をお支払いできる提案がございましてね」
右手を出しつつ「どうぞ」と、片桐に開封を促す。茶封筒の中に入っていたのはとある冊子一部と、A4サイズの紙が一枚。そこに記載されていたのは、
《伏魔師養成機関 入学同意書》
「もしよければ、《伏魔師になる》という選択肢はいかがでしょう」
思わぬ提案に、思考が止まりかける片桐。
「俺が…、伏魔師に…?晴馬とかと一緒の…?」
絞り出したギリギリの思考結果である。一番身近、と言うか、晴馬以外の伏魔師を見たことがない為であるが。
「まぁ、初めはその書類に書いてある通り、養成機関からスタートとなります。そこで実力を認められれば、伏魔師としてスタートとなりますね。また、辿る道や階級などの扱いは晴馬とは異なりますが、同業ということは確かです」
そう、今回、評議会が決めた片桐への対応の一つ。それは、片桐を伏魔師の道へ引き入れることだった。
選択肢の一つ目でもある、基本的に一般人として過ごしつつ、監視対応も可能。
だが、魂の半分とはいえ大君級の魔属の一部を宿した存在を監視する体制にしては、少し不安が残る。であれば、いっそのこと魔属もろとも懐に抱えようという伏魔師側の魂胆だ。
書類を見つめ続ける片桐に、成宮はそのまま話を進める。
「先ほど提示した一つ目の選択肢も、今後と変わらぬ生活をお望みということなら良いとは思います。が、伏魔師となれば、片桐さんに封印されている魔属に対して、より詳しくアプローチできます。また、知りたい情報がある場合も伏魔師となれば、一般人でいるよりかは遥かに効率的に調べられます。もちろん、命の危険は伴う道ですのでよく考えていただいて構いません」
じっと書類を見つめる片桐。その様子を横目で見つつ、いつの間にかおかわりしていたお茶をまったりと啜る晴馬。
「一応、結論を出す期限は一週間とさせてください。伏魔師の道へ進まれるのであれば、この同意書にサインして晴馬へ提出を。これまで通りの生活と、定期的な我々への協力体制を望まれるのであれば、その際も晴馬へ伝えてください」
「……分かりました」
書類に熱中している片桐だったが、成宮の言葉はしっかりと脳に記憶した。
「さて、我々からは以上です。片桐さんから何もなければ、解散としましょうか。ちょうど、着いたみたいですし」
車がついたのは、片桐が住むマンションの駐車場。話しているうちに、送る形となっていたようだ。
「……俺からも、特にないです」
晴馬と成宮に深いお辞儀で別れを告げ、自身のマンションに帰る片桐。去り際、成宮と晴馬の目に、葛藤と決意が入り混じった表情の片桐が映っていた。
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晴馬や成宮とのやり取りの後、マンションの自室に戻った片桐。
制服のままベッドに仰向けで身体を預ける。見上げた天井との間に、両手に持ったA4サイズの茶封筒が視界を支配する。中身を取り出すと、成宮から貰った書類が入っていた。内容は《伏魔師養成機関 入学案内》の冊子と入学同意書。
無言で冊子と同意書を見つめる片桐。思わぬ展開に、混乱気味というのは紛れもない事実。左手で冊子を空中に留めつつ、自身の心臓付近を右手でさする。
片桐は迷っているわけではなかった。不安でもなかった。
右手で感じている、徐々に高まる鼓動。そして、無意識に上がっている口角。
片桐は上半身を起こし、タンスの上に置いてある一枚の写真を見据える。その写真へ無言の決意を示し、自身の携帯電話を取り出した。電話帳からとある連絡先を見つけ、電子上での通話申請を行う。
「あ、もしもし?招也だけど。うん、久しぶり。元気にやってるよ。それでさ、叔父さん。ちょっと話があるんだけど…」
電話越しの人物と、フランクかつ内密な相談を行う片桐。その表情は、不気味な希望に満ちていた。
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「彼、伏魔師になるかなぁ……」
「どうでしょうね」
黒塗りの車内で、テーブル越しに向き合う成宮と晴馬。成宮はノンアルコールシャンパンを口にしながら、景色を見てつぶやく。
評議会員の一員として片桐へ伏魔師の道を提示したものの、内心では迷いのある成宮。理由はもちろん、一般人をこの世界へ誘い込む道を作ったことだ。片桐の今の事情を考えると、もはや一般人と呼べるかどうかは怪しいところではある。しかし、成宮からすれば、伏魔師にならずに普通の人生を歩むことができたかもしれない人を誘った感覚である。
また、成宮の16歳ということを考えると、本来なら他者の人生を背負う決断とその責任を感じるには年齢尚早だろう。
ただ、その価値観を振りかざすには、すでに歳不相応な実力、実績、そして地位を確立している。成宮のつぶやきは、自身の決断と行動が正しい道に続いていることに対する願いなのかもしれない。
対する晴馬は、本日の学校からの課題を取り組みながら成宮の呟きに対応していた。
本来、数時間はかかる量だが、晴馬は5分前後で全体の8割をすでに終わらせていた。難易度は進学生にとって骨のある問題だが、晴馬にとっては児戯に等しい。暇つぶしにはなる程度だ。
それこそ、課題をやりながら、成宮とのやりとりができるくらいには造作もない。成宮の心中も察しているが、ここでその心の揺らぎをどうこうできる言葉も見当たらない。
「そういえば、一応だけど、片桐さんから答えを受け取った時はあの件もよろしくね」
「心得ています」
成宮とのやり取りの終了と同時に、晴馬は片付いた課題を鞄に戻す。数時間をかけて熟す難易度の課題を、実に20分前後で終了させた晴馬。退屈というのはまた違うだろうが、既に答えが決まっている問題など、晴馬にとってはなんてことはない。せいぜい、暇つぶしにはなったようだった。
「そういえば、別にご報告したいことが」
「なに?」
改まって、晴馬から成宮へ報告許可の申請が入り、晴馬から報告が始まる。
「……黒いローブの者?」
報告の内容とは、晴馬が間立高校の件が収束した翌日に学校へ向かった際、晴馬を嗅ぎまわるように現れた黒いローブの者についてだった。
「はい。先日、校舎で事後処理を行っていたところ、私の行動をコソコソと監視するような者がおりまして。一時的に結界術で捕らえたはずでしたが、逃げられてしまいまして」
「ハルちゃんが逃げられた…?」
「結界術が壊された様子はなく、その姿そのものが消えたように逃亡という形となりました。結界を壊すことに特化した練術の仕業であれば理解はできますが、不可解なことに練術を使用した気配も見られませんでした」
晴馬からの報告を聞き、やや険しい表情で右手を顎に当てて考え込む成宮。
晴馬は成宮の知る限り、仕事に対する実績は確かなものと認識している。その証拠に、晴馬が担当した仕事はほとんど滞りなく完遂を迎えている。仕事の正確さや手際、アフターケアの丁寧さなど、合理性そのもの。そして、合理性と付随する冷酷さともとれる冷静さも持ち味の一つだ。
無論、その実績の裏にあるのは、晴馬の現在の階級にいい意味でそぐわない、伏魔師としての実力である。合理性と相まって、よっぽどのことがない限り失敗はない。そして、その黒いローブの者が誰であれ、晴馬の結界術から逃げるなど成宮からすれば想定外である。
だが、晴馬の報告は終わっていなかった。
「また、その者は私の名前を知っていました。しかも『晴馬』と、下の名前で呼ばれました」
「下の名前で?いつの間にか厄介なファンでもできた?」
「…んなわけないでしょう。仮にそうなら、ファンサとして地獄に送ってやりますよ」
「冗談、冗談。それはそれとして『晴馬』呼びする人物なら限られるてくるけど…。沙月に巧海、霜司…は『ハルさん』呼びか……」
成宮は頭の中で候補を思い浮かべる。しかし、
「うーん。どの人も、そんな行動する理由がないなぁ」
「ええ。目的も分かりませんので、現時点ではこれ以上の詮索のしようがありませんけど」
報告したものの、やや八方ふさがり。しかし、こういった件は後々で重要になる可能性が高い。どう考えたってなにかしらきな臭い事情があるだろう。報告しないという選択肢はない。
「ま、あの校舎には秘密裏に監視を配置するし、なにかあったらその報告待ちでもいいかな」
今回も晴馬が感じた気配とは別に、元々、校舎を監視する伏魔師を配置する予定だ。
通常はあまりない配置だが、案件の大きさや、日中の学校の活動性を考慮してなにかあったらすぐ対処できるような配置をとることとなった。ついでといってはなんだが、より監視の必要性が増した形だ。
「と、いうわけで、そこも含めて頼むね」
成宮は、自身の座席の背後にある小窓を開け、運転席にいる今回同伴した男性の伏魔師2名に、仕事の依頼を行った。彼らが今回の監視の任に当たる予定だ。
「かしこまりました」
異議を唱えることもなく、運転席の伏魔師は承諾の返事を返す。そのまま一行を乗せた車は、次の目的地である晴馬の住まいへの道を駆けていった。
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片桐が成宮から書類を受け取った数日後、片桐は間立高校の校舎内を、とある場所を目指して歩いていた。
場所は魔属が封印されていた地下室のある裏庭。
これから、とある人物との要件を内密に済ませるにはうってつけの場所でもあった。その場所にたどりついた片桐。その木のふもとに人影。待っていたのは晴馬だった。
「すまん。待たせた、晴馬」
「気にするな」
社交辞令を感じさせることなく、淡々と答える晴馬。そして、念の為に視覚誤認と音漏れ防止の結界を展開する。
「それより、要件はやはりそれですか?」
いつもの口調に戻した晴馬が目線を移した先にあったのは、片桐が右手に持っていた茶封筒。晴馬からの切り出しに、片桐は持っていた茶封筒をしっかし視認しつつ、大事に両手に持ち替えゆっくりと晴馬に差し出す。
「一応、中身を確認しても?」
「ああ、もちろん」
片桐から差し出された茶封筒を受け取り、茶封筒の中から一枚の用紙を取り出す。
その用紙には、伏魔師養成機関への入学に対して同意する旨のサインがされていた。
書類の不備が無いかを確認する晴馬。この約5秒間、片桐は変に緊張していた。
「差し支えなければ、決断の決め手をお伺いしてもいいですか?一応ですが、よっぽど伏魔師が不利になるような回答でもない限り、片桐さんの進退に影響はないので安心してください」
晴馬の問いを受け、片桐は自身を見つめなおす。伏魔師の世界は、これまで見た世界とは別物。そして危険と隣り合わせ。そんなことは分かっている。
晴馬にも口外できないとある目的を別にしても、明確にもう一つ理由が、その危険な世界へ飛び込むきっかけとなっていた。
片桐の内面にあるのは、伏魔師の世界への不安すら燃やし尽くす『熱』。高鳴る鼓動、無意識に上がった口角。そう、ワクワクしたからだった。
あの前途有望な学舎での、光り輝く学生生活。それのもたらす未来。誰もが羨む道の一つが片桐にはくすんで見えた。それほどに、伏魔師の世界が光り輝いて見えた。
その光は淀んだ灰色かもしれない。どんなに危険か。どんなに修羅の道か。それらを含めて、片桐の心は伏魔師の世界へ惹かれていた。
青く、若く、無鉄砲、無謀、それでいて、実に淡く輝かしい。
その名は『衝動』
理性と好奇心とが両立する、愛すべき馬鹿な若者に許された特権。
様々な懸念や不安を生み出す理性を薪にくべ、自分を動かす燃料を生み出す心情。
今回の選択に対し、母がなんと言うかは分からない。天寿を全うした先の世界で説教が待っているかもしれない。
それでも、
それでも、
手を伸ばさずにはいられない。言語化できぬ、片桐の本音の一つだった。
「……分からない。でも、今はこうするのが正しい気がして」
正しいのかどうなのか分からない。分かるわけがない。多くの同年代の若者は通らない道だし、少なくとも、片桐の周りに前例はない。
ゆえに、他者の通ったルートという意味でのマニュアルはない。それでも飛び込む価値はある。
その意図を汲み取ったかは分からないが、晴馬は丁寧に書類を茶封筒に戻す。
「確かにお預かりしました。私から成宮様にお渡ししますので、追ってお達しをお待ちください」
晴馬はしっかり右手に茶封筒を持ち、片桐の横を通り過ぎる。去り際、片桐の肩に手を置いた。
「……覚悟と判断に敬意を」
力強く、それでいて、なんの他意や曇りもない晴馬の言葉。
実際、晴馬自身も少し責任を感じていた。理由は無論、片桐をこの世界に引き込む状況を作ってしまったこと。
例え片桐に確固たる伏魔師への希望があったとして、晴馬が一線を引いて遠ざければ現在の状況は違っていたかもしれない。
そして、片桐の目の前には伏魔師にはならないという選択肢もあった。逆の立場ならば、恐らく晴馬は伏魔師にならなかっただろう。なぜなら、その方が安全だからだ。進学校で優秀な成績を修め、相応の企業などに就職し、所帯を持って幸せに暮らす。そんな選択肢も片桐ならば可能だろう。
様々な伏魔師とは違う選択肢がありながら、その上で片桐は伏魔師としての世界を選んだ。事情や経緯がどうあれ、その選択に対して敬意を示すことは、晴馬にとって自然なことだった。
晴馬が去った後、片桐は一人裏庭で自分の鼓動と向き合っていた。晴馬にバレていたかはどうかはともかく、自分では冷静な立ち振る舞いはできていたつもりだった。
しかし、自分はごまかせないものである。
脈打つ鼓動。自分の鼓膜まで振動させてくる勢いで、全身に血潮と興奮を与えてくる。
裏庭の空を見上げる片桐。脈打つ鼓動に呼応するように、それまで快晴だった空が曇天に包まれていく。
「……降りそうだな」
一人呟き、裏庭を後にする片桐。その数分後、片桐の予想通り裏庭を含めた学校全体が冷たい雫の祝福に包まれた。
ご覧いただきありがとうございました。
色んな後始末ですね。そしてそして、片桐が伏魔師の道を歩み始めましたと。なかなかに重い決断のような気はしますが、本人の性格から身辺含め、意外とそうでもなかったり?
第7話 お疲れ様でした




