難儀
第2話です。よろしくお願いします。
「一般人と情報のやり取りなど反対ですな」
「まったくだ!適当にはしたか金を渡して利用すればいいものを!」
「しかし、片桐という一般人にしか聞こえぬ魔属の声があるのは事実でしょう。ましてや天津君にもわからないのであれば、我々の誰にも無理です」
「左様。何を利用しても、任務は着実に行うべきだ」
とある円卓にて、様々な年代の男女が議論を交わしていた。
ここにいるメンツは、晴馬も所属する伏魔師協会の最上位決定機関、評議会。重要な案件や決定事はこの評議会を通すことが大半。
ただ、結論はでそうになかった。
その円卓から少し離れたところに、晴馬は軍隊の「休め」の姿勢でこの円卓を眺めていた。内心、非常に面倒くさそうに。
(予想はしてましたけど、やっぱりこうなりますか.....。報告しなきゃよかったかも....)
円卓の議論にうんざりしつつ、言葉を挟まず時を待った。
晴馬が評議会へ報告した内容は、晴馬が当たっている任務にて、一般人の片桐と情報を主とする取引を受けるかどうか。その是非を評議会へ報告していた。
厄介ごとというのは晴馬もよくわかっている。面倒とは思いつつも、下手に意見はせずに表向きは評議会のメンツを立てることに。ただ、ノープランでこの円卓の決を待っているわけでもなかった。
(そろそろか.....)
「天津君」
突然響く低い声。円卓の最も上座。そこに座す老骨の男性。その一声にその場の一同が空気を正す。
評議会員にして、実質的な最高権力者、御戒千太郎。
評議会では全員が全員、同一の権力を保有することとなっている。無論、誰かが表向きに権力が飛び抜ければ、議論の必要などないからだ。
それでも、どうしても実質的には権力の上下が発生する。
「君の持ってきた提案は、確かに魅力的だ。これまで手をこまねいていた現状に風穴を開けられるなら、我々とて喜ばしい。だがね、同時に前代未聞でもある。それにリスクも高く不透明だ。ゆえに、評議会も結論を出しかねる。それは理解してるね?」
「はい」
「我々とて君の提案を無下にしたくはない。だから、個人的にはある程度は、君の裁量に委ねたいと考えている。言ってる意味、分かるね?」
ずっしりと、それでいて不快感のない聞きやすい声が晴馬の耳を支配する。
晴馬の裁量。要は、晴馬が取引をするか否かを判断してもいいということ。一見するとありがたい判断ではあるが、その言葉の真意は、
何かあったらお前の責任だ
ということだ。
情報漏洩の対応から片桐の処遇如何、それらを全て晴馬が背負う代わりに今回の案件ではある程度は晴馬の好きにしていい、ということだった。
悪く言えば放置と責任転嫁。しかし、実質的な黙認でもある。
「心得ております」
それを十分に理解した上で、千太郎の提案に返事をする晴馬。
「さて、同志達よ。私の提案はどうだろうか」
千太郎が他の評議会員に決議を問いかける。そこに流れたのは沈黙だが、この場合は賛成と同義。
「どうやら異議はないようだ。さて天津君、決議は出た。いい報告を待っているよ」
「ありがとうございます」
最初の挨拶と同様に上半身を45度に床に下げる。その頭に、千太郎のずっしりとした視線が突き刺さる。
この私が口を出したのだ。失敗は許されん
その無言の言葉と共に。
◇
会議の終了した晴馬は、何食わぬ顔で昼食の調理に取り掛かる。人によっては一息つきたくなる空気の後だったが、晴馬にとってはなんてことはない。
今回の案件での手続き上、集まった評議会員への、片桐との取引の可否を問うた晴馬。しかし、晴馬は評議会員達の話し合いでの決議など、初めから期待していなかった。
晴馬が期待したのは、千太郎からの実質的な黙認の言質をとることだった。
片桐との取引が前代未聞なのは百も承知。それに対して、考えも価値観も違う人間が雁首を揃えたところでまともな結論など出るはずもない。
挙句に晴馬の提案は却下され、正攻法では通用しそうもない不気味な状況を相手に、正攻法での解決を余儀なくされる状況になるところだった。そこで必要なのは一瞬で空気を変える鶴の一声。
それがまさしく千太郎の存在。よっぽどのことがなければ異議が出ない存在感。それが必要だった。
多くの時間を伏魔師の為に尽力しており、彼の意見はいつでも筋が通っており合理的。
そんな存在の一声に誰が異を唱えられようか。
そのために、千太郎へ送った資料には出来うる限りの成功率や、そのプロセスなどを詳細に明示したのだ。
今回の報告と同時に、評議会員には資料を提出していた。が、実は内容が送った人によって違う作りになっている。
正確に言えば、千太郎へは詳細な資料を送り、他のメンツへはぼかした内容の資料を送っていた。
最初から千太郎以外のメンツの意見などどうでもいい。前述の通り、どうせまともな結論など出ないから。
ならば、初めから相応のターゲットからの言質を取ること、そこに絞ったわけだ。
晴馬にしてみれば、一定の価値の見込みを提示すれば、千太郎の腰は年齢にそぐわない身軽さを見せると考え、実際に成功した。
要は、解決のために、晴馬の好き勝手にできる環境ができあがったわけだ。
この私が口を出したのだ、失敗は許されん
だと?
言われるまでもない。始めから失敗を前提にするバカがどこにいる。
晴馬は晴れ晴れした気分で、昼食に勤しんだ。
伏魔師が魔属を相手にする際に、メインとする武器であるー練術。その発明の作業をお供に。
第2話、ありがとうございました。




