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アマツガミ  作者: 佐久間
新星祭編
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17/18

鴉合と天朝

第17話です。大変遅くなりました。

今回は統と宙良の戦闘が満載です。練術の種類も過去最多です。ホンマ、戦闘描写って大変で面白いこと。


第17話 いってらっしゃい

 新生祭、二巡目二組目。


 本部所属、鴉間(からすま)(すべる)

 vs

 第一支部所属、宙良(そら)大河(たいが)


 お互い、特段熱血な性格ではない。しかし、着実に静かに熱は持っている。まるで、己の冷静な刃を鍛える静かな熱だ。

 互いの静かな熱意と技術を、静かで熱い練気で研いでいく。


『レディィィィィィィィ!!!!ファァァァァァァァァァァイト!!!!!』


 DJフレイムのゴングが鳴り、戦闘開始。

 直後、統と宙良が同時に動く。


 宙良は右手で印を結び、練気を自身の中に刷り込んだ練術と結合させていく。

 対して統は、懐より薄い紙の束のような冊子を取り出す。


 宙良は右手で結んだ印を上に掲げた。呼応するように、宙良の真上に数個の光輝く練気の塊が発生。


 統は取り出した冊子に練気を流し込む。すると、冊子が風に煽られたように自動的にめくれていく。中身は、ファイリングのように収納されている札の束であった。開いたページの札に意識を集中させる。


 そして、両者同時に仕掛ける。


天体系(てんたいけい)練術 小惑星(アステロイド)


練成(れんせい)練術 翼撃(フレスベルグ)


 宙良の真上のある光の塊から放たれる、無数の光の弾幕。スピードと数をもって統へ襲い掛かる。

 対する統は、練気を流し込んだ札から巨大な鷲のような形をした練成体を生成。


 鷲の練成体の翼から放たれる、羽を模した練気が宙良の小惑星(アステロイド)とぶつかり合う。


 互いの飛び道具をもって、派手な開戦の挨拶変わりとなっていた。しかし、あくまで小手調べ。両者、すでに次の手に移る。


 宙良が足に練気の強化の比重を移し、統に向かって跳躍。その手には練気で生成した鎖が持たれ、振り回す先端には光輝く巨大な鉄球のような物体。


【天体系練術 明けの鉄槌(モーニングスター)


 統は再び冊子に集中して、自動で捲れたページの札の効果を引き出す。現れたのは、円形の巨大な盾。


【練成練術 守護神(スヴァリン)


「そ~お~…れっ!」


 宙良の明けの鉄槌(モーニングスター)が振り下ろされるが、しっかりと地に足を付け、盾で防いでいく統。


「ま~だ~ま~だっ!!」


 口調の緩さは少し抜けきらないが、それでもしっかりと次々に攻撃を打ち込む宙良。ただ、統も防戦一方では終わらない。

 乱舞する宙良に対し、統の背後から翼撃(フレズベルグ)の一部が数発襲い掛かる。


「わ~おっ」


 さすがに統本人への攻撃から、翼撃(フレスベルグ)を対処しにかかる宙良。ただ、あくまでけん制のような攻撃。対処自体はなんてことはなく、統も一旦、宙良の乱舞の間合いを外したかった狙いもある。


 統の狙い通り、宙良は後退を余儀なくされ、両者一呼吸つく状態。

 小手調べの段階より、互いの練術でやり合う両者。その光景に、会場も沸いていた。


「ほう…。天体系練術ですか。珍しいですね」


 そのやり取りを見ていた晴馬。統を気に掛けることはもちろんではあるが、相手の宙良の練術にも目を見張る。


【天体系練術】


 天体をモチーフとした遠距離攻撃や、練成した武器などを使用して戦うスタイル。使用者は養成機関生や等級のついた伏魔師問わず、他の練術と比較して少な目。遠距離から武器の練成まで手数と火力を両立できる優秀な種類の練術ではあるが、反面、そのパフォーマンス発揮するには相応の練量が必要。ゆえに使用者は少ない。


「派手だよねー。それに、確かソーランは()()の起点にもなれるっていってたっけ。えーっと…、天体系ナントカカントカ星空!みたいな……?」


 かなりあいまいな記憶で、断片的な情報のアリサ。


「【天体系連携型練術 星空(ほしぞら)】ですか?」


「あー!そう!それそれ!」


 恐らく、宙良のあだ名であろう「ソーラン」や、練術の知識面でのアリサに思うところはあるが、今回は本筋とは異なる為、ノーコメントの晴馬。


「それはそれは。有望じゃないですか」


「やっぱり、先生から見てもそう思う?」


「もちろん。天体系を使用する人自体もあまりいないですが、星空の起点になれる人物であればなおの事です」


 絶賛の晴馬だが、アリサは心配の表情を浮かべる。無論、その宙良の対戦相手がアリサと同じ本部所属の統だからだ。


「ま、有望なのは統さんも同じです」


 統の練術は【練成練術(れんせいれんじゅつ)】練成体を生成して活用する練術。

 練成体とは、自身の練気を使用し生成する、事前に設定したある程度のプログラムの沿って行動する人形に近い存在。

 細かな命令や急遽な行動変更、人語を扱ったり、自立して思考して行動することはできないが、単純に大きな人手やそれぞれの練成体の特性に基づいた練術をを使用できる。


 基本的に練成体が内蔵されている札を使用し、その場に適した練成体を生成して戦闘を行っていく。統はその札を本のようにまとめて使用するスタイルである。


 小手調べの戦闘を終えた統と宙良。互いに練術などの戦闘を振り返る。

 両者、前回から感じてはいたが、互いに戦闘スタイルは似ているところがある。前述の通り、性格も似ているところがある。


 同族嫌悪とは違うが、同種として上に立ちたいという本能とも言うべき熱が、二人の戦闘へのインスピレーションを加速させる。


 次手への動き出しも同時だった。

 宙良は再び右手で印を結び、指差すように向ける。宙良の背後に出現したのは、先ほどと同じような数個の光の練気。


【天体系練術 光粒の弾幕(フォトン・バラージ)


 発射された光弾は小惑星(アステロイド)よりも細かで、左右と上空から曲がってくる光の弾幕。物量と角度をつけた攻撃を仕掛ける。


 同時に統も手元の札集を捲らせ、ページを選定。練気を込めて練成する。統の背後に出現したのは、数体の女神の銅像。それぞれが弓を構えている。


【練成練術 弓撃(ウル・ショット)


 それぞれの女神像から、翼撃(フレスベルグ)の時よりも数は少ないながらも、大きな矢が宙良をめがけて飛んでいく。


 数重視の光粒の弾幕(フォトン・バラージ)と、威力重視の弓撃(ウル・ショット)。それぞれ相手に襲いかかる。


 統は弓撃(ウル・ショット)の女神像の背後に隠れ、光粒の弾幕(フォトン・バラージ)を防いでいく。しかし、女神像は本来は防御用ではない。光粒の弾幕(フォトン・バラージ)の細かな物量を多少なりとも食らってしまう。無論、練気で身体防御を強化しているため、ダメージはさほどでもない。


 対する宙良は、威力重視の矢の対処となる。統は威力重視の矢で多少なりとも物量の軽減はできるが、宙良はそうはいかない。


 少し光粒の弾幕(フォトン・バラージ)の弾幕が当たったところで、矢を撃墜とはいかない。

 

 しかし、無策でもない。


 宙良は右手で印を結び、眼前に差し出す。呼応するように、背後から発射されている光粒の弾幕(フォトン・バラージ)の一部が形を成し、光輝く盾となった。


【天体系練術 光粒の盾(フォトン・シールド)


 初動の練気は光粒の弾幕(フォトン・バラージ)に似た性質を持つ練術。光粒の弾幕(フォトン・バラージ)のように拡散させず、一箇所に集約させて盾を形成させた。


 統の矢を難なく弾いていく宙良。それだけでなく、次々に仕掛けていく。


 光粒の盾(フォトン・シールド)に使用した以外の光粒の弾幕(フォトン・バラージ)を打ち続ける中で、統の正面に向かっていく弾幕に意識を向ける。その弾幕が集約され、大きな一つの光弾と化す。

 威力を上げた一つの光弾が、女神像もろとも統に直撃。粉砕される女神像と、衝撃で後方に少し飛ばされる統。


 間髪入れずに、残りの光粒の弾幕(フォトン・バラージ)が左右から統を襲撃。練成体を生成する暇はない。バック転を交えながら回避していく。


 (さすが……、お見事です……)


 ほぼ無傷の宙良を見据える統。破壊された女神像の破片が頬に当たっており、血が一筋流れる。


 天体系練術は見ての通り、あらゆる練術の中でも属性系に負けず劣らずの自由度誇る。弾幕、盾、鉄球。ベクトルを変えれば《星空》や、もっと広範囲への攻撃的な練術も存在する。


 光粒の弾幕(フォトン・バラージ)に対して、統が弓撃(ウル・ショット)のように威力重視の練成体を選択した理由は、光粒の弾幕(フォトン・バラージ)に意識を向ければ守りが薄くなると判断しての事。実際、光粒の弾幕(フォトン・バラージ)の威力では弓撃(ウル・ショット)は迎撃しきれなかった。


 が、宙良は光粒の弾幕(フォトン・バラージ)を応用して、盤石な守りを展開してみせた。


 臨機黄変に対処できる練術ではあるが、伏魔師に要求されるスキルもそれなりにある。前述の通り相応の練気を要することもそうだが、それ以上に様々な天体系練術へアクセスできる柔軟性と発想が求められる。


 無論、先人たちが開発した天体系練術を使用することが多いが、相手の出方やこちらの強み、場合よっては味方のことも見つつ、あらゆる選択肢を最短で模索し、実行していく。それができるのが天体系練術の強みでもあり、使用者の責務とも言えよう。


 弾幕を貼りつつ、その弾幕の練気を基に盾を形成したり、弾幕の一部を集約させて火力を増したりと、相応のスキルがある者が扱えば脅威さは見ての通り。


 その脅威を目前にした統。前回からその脅威は感じてはいたものの、当然ではあるがレベルアップしている。


 練成練術は、事前にある程度決まった形の練成体を生成できる為、火力の耐久性の安定感が売りである。


 ある意味で、天体系練術とは反対の性質を持つかもしれない。


 決して片方に優劣があるわけではない。ただ、統が天体系練術に手を出しても、恐らくは使いこなせないだろう。それは宙良にも言えるかもしれない。要は適材適所である。

 それを、いわゆる「天賦の才」として変換してしまうのが統の良いところでもあるし、悪いところでもある。


 そんなコンプレックスにも近い心理を抱きつつ、今は勝負に集中する統。


 札集の中からとあるページを選定。その行動を見ていた宙良も警戒する。

 とあるページに練気を流し込み、練成したのは一体の女神像。防御寄りの練成体かと思われたが、その女神像の口から息のように解き放たれのは、周りを包む霧だった。


【練成練術 霧の門(ヘルヘイム・ゲート)


 瞬く間に統と宙良のいる結界ごと包む霧。宙良を見据えながら、統は霧の中に姿を消した。


 宙良は、統の次の手の思慮に移る。


(多分、次の新しい練成体の選定と戦闘方法を確立。そして、この霧に紛れて仕掛けてくるはず…)


 など、少しだけ悠長に考えたことが、統の術中にハマる原因となる。


 左右を中心に警戒していた宙良の眼前に、突如として霧を纏うかの如く、突進してくる統が出現。それも、真正面から。霧に紛れてから、約3秒後の出来事であった。


「いっ!?」


 想定していなかった事態に驚愕する宙良。急いで何発かの光粒の弾幕(フォトン・バラージ)を用意して放つが、即席では威力も数もお粗末。

 霧から現れた統の手には、盾の練成体である守護神(スヴァリン)。いとも簡単に弾いていく。


 そのまま宙良へ、守護神(スヴァリン)と共に突っ込んだ。宙良も防御するものの、強い衝撃と共に後方に飛ばされる。何とか体制を立て直し、口元の血をぬぐいつつ統を見据える宙良。


 (警戒する間を逆手に取られたね…)


 普通なら、霧というブラインドの環境を作り出した統が有利な状況。しっかりと対策を練って、時間をかけて奇襲なり時間差攻撃なりするのがセオリー。


 と、いう宙良のセオリーを見事に逆手に取った統。最速、最短、最小限で宙良に特攻してみせた。

 練術のレパートリーもそうだが、近接格闘における統の約半年の進化に、静かに驚く宙良。


(前回までは、僕の方がちょっとばかし強かったんだけどな〜。すげ〜ステゴロも強くなってんじゃん〜)


 冷静に統の体術の強さを分析する宙良。統と同じ本部所属のアリサもそうだったが、半年前と比較してベースの戦闘が数段、レベルアップした印象。恐らく、本人に合った特殊なフィジカルトレーニングをこなしているのだろうと推測する宙良。


 そして、それらの発案をする人物に心あたりがあった。


 同年代のハズなのに、すでに等級のついた伏魔師であり、数々の武勇や黒い噂などが付いて回る《異端》。

 宙良は異端という言葉の意味は知らないし、蔑称として使用するつもりはない。しかし、蔑称に近いということはなんとなく感じ取っている。故に口外はしないものの、心の中では神秘的で不気味なその彼に対して敬称のような使い方をしている。


 と、言ったところで、脳内の思い浮かべた人物への賛辞を止める宙良。例え外部的な支援があったとしても、統の元々の実力とポテンシャルあってこそ。


 目の前には、自分の足元を掬って汚泥を舐めさせるには十分な相手。そして、自分のインスピレーションと熱を加速させる相手でもある。


 統を倒せる練術を、脳内全身で紡ぎ出していく。


(あれやこれやそれや….。いいや違う。違う、違う、違う、違う、違う、これも、どれも、あれも、それも、あっちも、こっちも違う違う違う違う違う違う!)


 練術というのは、体内に刷り込んだ練術の素や、札などの外部ツールに練気を結合させ、発現させるもの。

 ただ、それはあくまで初歩的なプロセス。練術の真価は、その名が指す通り「練り上げる」ことにある。

 既存の練術やノウハウから、自分に合った、相手に合った、状況に合った、そして自分が欲する形へと練り上げることが、伏魔師の才の一つである。


 何も先人が遺した練術が全てではない。己が望んだ景色へ練り上げること。それが練術の真価の一つ。


(これだ…!)


 宙良の中で何かが練り上がる。その雰囲気の変わりようを察した統。警戒する統と、不気味に笑う宙良。


「……やっぱ、君を倒すにはド派手に行かなくっちゃなぁ〜!!!!」


 宙良は自身の両手を天に掲げ、練気を集中させる。そして、天から何かを引っ張り出すような動作。呼応するように、宙良の上空から光り輝く巨大な何かが姿を現す。


【天体系練術 天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)


 それは、練気でできた光輝く巨大な城壁の一部。外壁のような場所からは、何門もの銃口のような物体が付随しており、その銃口が統に向かって向けられる。


 統が適材適所を「天賦の才」と変換して、宙良と自身とを比較するのは悪い癖かもしれない。しかし、実際にその評価が間違っているかは別。


 むしろ、統は正確な評価をしたと言えるだろう。


「準備はいいかい〜!?」


「マジですか……!?」


 これから何が起こるかを瞬時に想定し、統は急いで自分の札集からページを選定。

 錬成したのは、巨大な門。統を守るように眼前に聳える。その上に、ラッパを持った小さな男性の神像。


【錬成練術 門番(ヘイムダル)


 その門に向かって、天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)の銃口から、おびただしい数の練気の光弾が打ち込まれる。


(ほう……。あのような天体系練術は私も知らないですね……)


 戦闘を見ている晴馬が呟いた対象は、宙良の天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)に対してであった。

 それなりに天体系練術を扱う晴馬ではあるが、宙良の練術は初見。それもそのはず、


(恐らく、今し方その場で開発したんでしょうね)


 そんなことが可能か不可能かで言えば、少なくとも不可能ではない。しかし、容易でもない。


 練気で練り上げ、練術を考案するということに関して重要なのは、どれだけ練術に対するイメージができるかどうか。それに必要なのは刺激。


 人の脳内にインスピレーションをもたらす状況はそれなりに存在する。ポピュラーなのは命の危機。走馬灯にも近い状態で、新たに練術を生み出せることもある。


 今回は別に命がかかっているわけではない。言うなれば、宙良が統に勝ちたいという欲。ライバルに勝ちたいという気持ちは平和的なものではある。ただ、命に手のかかる状況と比較して軽視されるべきものではない。


 現に、宙良は新たな可能性を示した。伏魔師として素晴らしい限りである。


 対して、統の門番(ヘイムダル)は激しい光弾の雨霰を何とか凌いでいく。その内側にいる統は無事ではあるが、焦って錬成した分、少し門番(ヘイムダル)の耐久が脆い。


 統は思慮する。この状況をどう覆すか。

 宙良は見事に新たな練術を開発して、統を追い詰めていく。客観的に見れば間違いではないが、統の心中はそれだけではない。


 同じ特進科という立場にはあるが、やはりどこか、宙良の方が一歩秀でている存在として認識していた。実際に前回は宙良が勝っている。任務や授業の成績などの、細かい部分まで比較するわけではないが、そういうことでもない。


 多分、いわゆる「いいところ」まではいくだろう。しかし、宙良を越えるのは無理だと壁を作っている。


 でも、それでいいのか?


 その現実を再認識するために、指名戦に挑んだのか?


 晴馬という強力な教師が来て、ワクワクしていたのは何でだ?


 もっと強くなれると思ったからじゃないのか?


 宙良にも勝てるかもと思ったからじゃないのか?


 いい加減、素直になれ。


 するべきことは、宙良との間にある壁の建築や補修じゃない。


 向き合え、自分自身と。


 お前が進む道は、間違っていない。


 統は門の内側で、自身の眼鏡を外した。



--------------



 統の意識は、とある暗闇の中に移った。その暗闇の先、とある二つの気配が統を見据える。


「おやおや、珍しいではないか。身の程を知らん童が、妾達にわざわざ会いにくるとは」


 その気配の一つ。口調は荒いが、上品な艶のある女性の声。


「ふん。大方、手に負えない事情でもできたんだろう。くだらん」


 もう一つの気配。老練で力強い男性の声。

 その気配達を前に、統の意識は冷や汗をかく。それほどまでに強い存在だと、統はよくわかっている。


 そんな気配を前に、統は一呼吸おいて口を開く。


「……二人に頼みがあります」


 その言葉の直後、統の首は何かの手で絞められ宙に浮く。


「そんなことだろうと思うた。とことん、つまらん童じゃ。もう少しマシな礼儀でも身につけたらどうじゃ」


 その手の主は、女性の声の気配。キリキリと嫌な音を鳴らしてしまっていく統の首。苦しむ統。女性の気配の手を掴んで解こうとするが、凄まじい力でビクともしない。


「その辺にしてやれ。もし本当に逝ってしまったら、後始末が面倒だ」


 そんな状況を嘲笑う、男性の声の気配。


「案ずるでない。そうなれば、妾が汚らしい童の肉を絶品料理に仕立てあげてやろう。尤も、豚の餌にしかしならんかもしれんな」


 女性の声の気配も共に嘲笑う。


 同時に、統が口角を上げた。


「……童。何がおかしい?」


 統の上がった口角が気に入らないのか、少し首を絞める手を強める。女性の気配。


「……パン、ケーキ……」


「……は?」


 統が絞り出したとある単語。それを聞き、女性の気配は不快感と共に疑問を口にする。少し首を絞める手が緩んだ。


「……忘れたとは、言わせません。3年前、珍しく、どうしてもパンケーキが食べたいと言って、私の身体を貸してあげましたよね……?それを貸しとして、貴方と約束したはずでしょう……?」


「…………」


 徐々に徐々に、首を絞める手が緩くなってくる。その光景を見た男性の気配が、ため息を吐いて肩をすぼめる。


「おいおい、そんなくだらん約束事に踊らされてどうする。所詮は甘味を口にしただけだろうが」


「……何を言っているのですか?貴方もですよ……?」


「……何?」


 今度は男性の気配に向けて意識を移す統。


「……2年前、歌舞伎を直接、生で見たでしょ……?それも貸しのはずです……」


「………」


 少しの沈黙の後、女性の気配が統の首から手を離す。床に落ち、必死に呼吸を整える統。


「……何がしたい、童」


 呼吸を整える暇を与えず、女性の気配が統を物理的、心理的に見下しつつ目的を問う。必死に呼吸を整え、女性の気配を見据える統。


「何も、難しい注文はしません。力を貸してください。宙良君に勝つために……!」


 その真っ直ぐな言葉と視線に、女性の気配と男性の気配は顔を見合わせる。


「……正気か?妾達への貸しぞ?このような児戯(新星祭)のために、妾達への貸しを使うのか?」


 表情は分からないが、困惑している女性の気配。言葉こそ出さないが、男性の気配も同じであった。


「貴方達にとっては児戯かもしれませんが、私にとって、ここが正念場なんです……!この先、もしかしたら貴方達への貸しをとっておいた方がよかった場面があるかもしれない。けど、ここで出せるカードを出さなければ、それ以上に後悔する……!それだけです……!」


 熱弁の統に、困惑を続ける女性と男性の気配。

 もう一押しと判断してか、痺れを切らしてから、統は咳込みながら熱を加える。


「理解しろとは言いません……!ですが、貸しというものを認識しているんだったら、今は黙って私に力を貸しやがれ!……です!」


 統の熱弁に、二人の気配は顔を見合わせる。その後、女性の気配が統の目の前に立ちはだかる。


 次に首を絞めれば、死なずとも血反吐くらいは吐く。それほどまでに矮小な存在である童。その童を見つめる目が細くなる。


 弱く


 醜く


 つたなく


 もどかしく


 そして…、


 その気配はその先の言葉を消し去り、ため息を吐いて統の頭を鷲掴みにする。ただ、先ほどまでとは違って痛みを伴う行動ではない。


「えっと…?何を…?」


「黙っておれ」


「あ、はい…」


 統の困惑を押しつぶす女性の気配。


「5分じゃな」


 端的に呟く女性の気配。


「えっと…?」


「つくづく察しの悪い童じゃな……。妾達の力を行使できる時間じゃ」


 この時間を長いか短いかは、人によって分かれるところ。


「パンケーキで貸しを作ったからと言って、なんでも願いが叶うなどと変な勘違いをするでない。今の童に貸せる妾達の時間なぞ、その程度じゃ」


 提示された条件に対し、思慮にふける統。


「それがダメなら、この話はナシじゃな。例えパンケーキ分だとしても、妾達への貸しは貴重じゃ。精々、この先の未来で懸命な判断をするんじゃな」


「いえ、十分です!ありがとうございます!」


 真っ直ぐな納得の感謝の言葉に、キョトンとする女性の気配。


「……たった5分の児戯のために、本当に妾達への貸しを使うと……?」


 改めて、統の正気を疑う女性の気配。それほどまでに、気配達への貸しというのは貴重なものなのだろう。


 ただ、統はもう迷ってはいない。


「ええ。さっきも言ったでしょう?ここでカードを切らなきゃ、必ず後悔すると思いますから」


 非常に真っ直ぐな目をする統。女性の気配も困惑と迷いをやめた。


「……ええい、分かった。準備ができたらとっとと戻れ。精々、後悔せんことだ」


「ありがとうございます!」


 こうして統は現実の世界へと意識を戻す。



--------------------



「……良いのか?」


 途中からやり取りを傍観していた男性の気配。女性の気配へ、選択の感想を問う。


「……仕方あるまいよ。貸しなのじゃから」


「素直ではないな。それだけじゃないだろうに」


「五月蝿いわ。妾とて、このような立ち振る舞いをしたくはない。ただ、童はどうにも、ある意味で妾達を神格化しすぎなんじゃ。妾達がどういった存在かを正しく認識しておらん。()()()()()()のままの心持ちではダメじゃ。これは言葉で説明しても解決せん。傷つきながら解決していくしかないのじゃ。()()()()


「……そうだな」


 暗い空間から、統の意識が戻っていくのを感じ取る二つの気配。


「さ、童の児戯が始まる。面倒じゃが、妾達も付き合うてやろうじゃないか」


「やはり、素直でないな」


「五月蝿い喧しい鬱陶しい」


 二つの気配は、口角を上げてそれぞれの準備に取り掛かった。



----------



 統の意識は、門番(ヘイムダル)の内側へと戻ってきていた。手元にある札集は使わず、自身の目に集中した。

 統の眼が、眼鏡が担っていた制限が取り払われる。その前は、美しい虹色に近い色の練気を有していた。


 これは、統の固有の眼である【全眼(フリズスキャヴル)】というもの。正確には練術ではないが、先天性の練術に関連する体質のようなもの。


 この全眼(フリズスキャヴル)をもって、統の真価は発揮される。


 眼に意識を集中させ、先ほどの女性と男性の気配を浮かべる。今の統にとっては、悪魔の契約に近い過ぎた力。でも、契約は契約。存分に使い倒すつもりで、眼に力を宿す。


(行きますよ…、【双鴉神(フギン・ムニン)】!)


 直後、ついに破られる門番(ヘイムダル)。容赦なく降り注ぐ天朝の城砦(ウルク・ザ・フォート)からの砲撃。


 しかし、その主である宙良は妙な違和感と気配を感じとる。一旦、砲撃をやめて統がある場所へと視線を移す。土煙を纏って出現したのは、眼鏡を外した統。

 その眼は、左右で白と黒に輝く練気を纏っていた。異様な姿の統を見て、宙良は恐怖ではなく高揚感を憶える。


 この双鴉神(フギン・ムニン)は、統の錬成練術の中で唯一、他の女神像などのような実体として錬成体を顕現できない存在である。いや、正確には、統の眼に宿るのが顕現方法という方が近い。


「それが君の奥の手ってとこかい……!?」


 宙良の興奮した様子に、統は少し微笑む。


「どうでしょう。ですが、少なくとも君に勝つための手ということは間違いありませんよ」


 統の自信に満ちた答えに、宙良は再び天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)の砲撃準備を始める。


「じゃ、遠慮なく見せてもらおうか〜!」


 砲撃再開。練気の光弾が統に降り注ぐ。統は守護神(スヴァリン)を手にして、砲撃を防いでいく。側から見れば防戦一方だが、無論、それで終わりではない。

 統は降り注ぐ光弾を、白と黒の練気に輝く両眼で見つめる。


 解析開始


 練気情報取得


 練気生成


 錬成体への情報移行完了


 錬成体、生成可能


 統の中で何かのプロセスが実行され、完了へと至る。

 統は両手に練気を込め、天へ掲げる。天から何かを引っ張り出すような動作。宙良はその動きに見覚えがあった。


「まさか……!?」


 そう、天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)出した時と同じ動きだった。


 そして、宙良の予測は現実のものとなる。

 

【模倣錬成 天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)鴉神(レイヴン)改模倣(エディション)


 天より現れたのは、宙良の光輝く城砦とは真逆の黒い城砦。宙良の天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)を統なりにアレンジして錬成したのだった。


 これこそ、双鴉神(フギン・ムニン)全眼(フリズスキャヴル)に宿すことで発現する、統の真骨頂。


 内容は実にシンプルで模倣(コピー)である。

 特筆すべきは、全眼(フリズスキャヴル)を用いて視認だけで相手の練術を解析できること。


 その上で、双鴉神(フギン・ムニン)の特徴である「記憶」と「思考」をもって、解析した練術を自身の中に記憶、そして思考により自らへ落とし込むことで、アレンジによる模倣が可能。


 予想だにしない光景に、驚愕と共に息を呑む宙良。同時に、笑みを浮かべて興奮していた。


「いい…、いい…、いいねいいねいいね〜!!!そうこなくっちゃね〜!!!」


「お気に召していただいたようで、なりよりです。では、ド派手にいきましょうか……!」


「もちろん!ドンパチやろうよ〜!!!」


 両者、互いの城砦に意識と練気を込め、砲撃を開始した。凄まじい練気の弾丸のぶつかり合いが行われ、まるで戦争のような光景。

 愉悦に浸りつつ、城砦の攻撃に集中する宙良だったが、その集中はすぐに削がれることに。

 砲撃が開始されてすぐに、統が近接戦を仕掛けてきた。


「アッハ!君ならそうくるよね〜!!!」


「城砦戦もいいですが、人間ドラマも大切にしたいものでしてね……!」


 奇襲に近い統だったが、霧の門(ヘルヘイム・ゲート)の時の奇襲もあり、しっかりと対処する宙良。

 さっきまででは練術もそうだが、接近戦も若干、宙良の方が上だった。ただ、今はほんの少し統が押している。

 宙良の攻撃の手を潰すように、着実に追い詰めていく。さらに、徐々に鋭くなる攻撃。

 一巡目でもその片鱗を見せてはいたが、一層、洗練されていく。


 全眼(フリズスキャヴル)を使用したことにより、視認で宙良の体内の練気情報を正確に取得。次の出方を着実に潰していっていた。


 それでも尚、ほぼ互角に見えるほどの戦闘を繰り広げている宙良も見事。


 上空では砲撃が。そして、その砲撃の流れ弾を背景に、統と宙良が拳を混ぜ合う。

 互いが互いに、限界より少しだけ上の世界で戦う。これほどまでに高揚し、血潮沸き立つ戦闘も珍しいものだ。


 勝ちたい


 いや、勝つ


 でもそれ以上に、


 まだまだ戦いたい


 もっと先にいける。そんな気がする。


 その思いが両者の心を支配する。

 ただ、いずれは終わりの時を迎える。

 統ほ分かっていたはず。何せ、女性の気配に告げられたからだ。


 (ここまでじゃな)


  頭に響く声。少し優しげで、どこか寂しげな声。

 その直後、統の肉体は脱力し、振おうとしていた拳は空を切る。身体は宙良の横の地面にうつ伏せで倒れ込んだ。


 呆気に取られる宙良と観客。


『イ、イッツオォォォォォバァァァァァァァ!!!ヴィナァァァァァ!


宙良ァァァァァァァァ大河ァァァァァァァァァ!!』


 DJフレイムのゴングが鳴り響き、決着。

 勝者、宙良大河。


 固唾を呑んで見ていたアリサと片桐は、天を仰いで深く息を吐いた。

 晴馬も軽く息を吐いて、心の中で統に賛辞を送る。


 倒れ込んだ統の元には、数名の医療スタッフとタンカが持ち込まれ、医療管轄の葉乙女(はおとめ)も同席した。

 自力で立ち上がれないこともあるが、いきなり倒れたとあっては色々と心配になる。医療機器を使用して、その場で統の状態を確認していく。


 あらかた確認した葉乙女は、タンカで医療室に運ぶよう部下に指示を出した。


 宙良もその光景を不安そうに見つめる。

それに気がついた葉乙女は、微笑んで宙良の元に赴く。


「大丈夫。練気切れと一時的な気絶みたいなもんだよ」


「そうですか…。なら、よかった〜」


 戦闘を終え、いつものように気だるげな雰囲気へと戻っていく宙良。

 医務室へ運ばれる担架上の統を、その姿が見えなくなるまで見届ける宙良。


 ずっと宙良の練術に張り合ってきたのもそうだが、最後の最後に天朝城砦(ウルク・ザ・フォート)という膨大な練気を使用する練術をコピーしたのだ。

 統の練気量も少なくはないが、豊富とは言い難い。練気の底が、統のポテンシャルについていけてなかったのだった。


 統が倒れた時とほぼ同時にタイムアップの時間を迎えており。他の組も戦闘を終えて引き上げていく。


 そんな中、宙良は闘技場の地面に仰向けで思い切り身体を預ける。螺旋状に聳える建築物を輪郭に、雲一つない空が広がる。


 そして口角をあげて、徐々に笑いの声が漏れる。観客や他の生徒がキョトンとするような、地面に伏せた宙良の笑う姿。周りを気にせず、宙良は肺に思い切り空気を吸い込む。


「あ~~~!!!楽しかった~~~~!!!」


 なんとも年相応な無邪気な笑いと感想。呆気にとられる者や、怪訝に見る者、微笑みで見守る者。周囲の反応は人それぞれ。


 しかし、宙良の感想に対して、一人だけ唯一無二ともいえる感想を抱く者が一人。

 担架で運ばれ、気絶している統の口角も上がっていた。


 同感です。


 声にはならないが、その笑みからはそんな感想が読み取れた。






ご覧いただきありがとうございます。

爽快感Maxパートですね。珍しいです。

統の持っている力の一部が露わになりました。もちろん、持っている力のすべての全力全開ではないですが、今回の試合では出し切れる分はしっかり出し切っております。

宙良の描写がむずかったです。基本、ダウナーっぽい感じではありますが、意外と熱い男にしたかったです。なっていると良いな。

第17話 お疲れ様でした。

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