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アマツガミ  作者: 佐久間
新星祭編
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16/17

都牟狩

16話です。

特進科生は数が少ないです。各支部、本部と同じように大体が三名づつくらいです。加えて今回、任務で出れない人もいるので、新生祭に出てくる特進科生は思ったより数が少ないかも。アレです。今回はバイトのシフト代わる的なノリですね。

第16話 いってらっしゃい。

 伏魔師養成機関生が切磋琢磨しあう新星祭。

現在、一巡目の二組目までの戦闘が終了した段階ではあるが、すでに白熱した戦闘が繰り広げられていた。


 本部所属は片桐と統がそれぞれ一組目と二組目で出場し、勝利を納めている。


 そして一巡目の最後の組み合わせが発表される。

そこにはもちろん、本部所属の最後の一人であるアリサの名前があった。


 しかも、その対戦相手となるのは、


「アハ♪(れん)ちゃんだ」


 第二支部の代表、(あつむ)(れん)であった。

 所属は違えど、アリサと同じ特進科の生徒。晴馬の言に当てはめると、一等師に限りなく近い有望株の一人。


 開会式から仲が良いことは読み取れたが、やはり楽しみにストレッチを行うアリサ。


「やっぱり強いのか?」


 晴馬から特進科についての好評は聞いていたが、やはり具体的な強さは気になる片桐。聞かれたアリサは「うーん」と、虚空を見つめて答えを作成する。


「もちろん強いし、かなり面白い練術使うねー」


「へぇ……」


 含みのあるアリサの答えに、少しわくわくしている片桐。


「ま、そこらへんは見てのお楽しみってことでね!」


 いつもより殊更気合と活力の入った笑顔と共に、アリサは闘技場へ向かう。



----------------------------



「や、蓮ちゃん!よろしく!」


「こちらこそだよ!アーちゃんと戦うのって、犯罪的に久々?」


「だね。前回、アタシは任務と被って出場できなかったし」


 親友同士、ほのぼのとした会話を繰り広げるアリサと侑。


 新星祭は養成機関生にとっての一大行事ではあるが、任務などと重なると基本的に任務を優先することとなっている。新星祭は結果によっては等級査定に反映されるが、任務も同じこと。寧ろ、良くも悪くも結果を出すことがほぼ必須入力の任務の方が、他の養成機関生との戦闘如何によって査定に影響する新星祭よりも等級査定への影響が大きくなりやすい。


 それでも、できるだけ新星祭への参加機会が多くスケジュール調整されるのは、やはり同じ伏魔師を志す者達との切磋琢磨の時間だからだ。血なまぐさい伏魔師の世界ゆえ、等級のついた伏魔師になれば新星祭のような機会はない。


『ヘイヘイヘイヘEEEEEEEEEEEEEEEィ!!一巡目も最後の一組だぜEEEEEEEEEEEEEEEィ!!今回は華やかな組み合わせがありそうだぜエブリイバディィィィィィィ!!

まずは彼女!!

伏魔師の中でも、ベリィビューティィな剣術を持つ可憐なソードダンサー!

ミーが二つ名を付けるまでもないらしいZE!!


陽練(ひれん)舞姫(まいひめ)!!!!


陽鋒ィィィィィィィィアリサァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


 毎回恒例、DJフレイムから口上による選手紹介が行われる。アリサも「イエーイ!」と、口上と観客の歓声に応える。元々明るい性格もあるのだろうが、こういったノリには難なくノッていくアリサ。


 大戦相手の侑も「フォー!!」と、ノリにノッている。


『対するは、こちらも麗しいギャルティックレディ!!!

見た目と中身の派手さに負けず劣らず、とんでもねえビカビカした戦いをする彼女!!

彼女こそ、まさしく伏魔師の進む先を照らすサンシャインヴァルキュリア!!!!


侑ゥゥゥゥゥゥゥゥゥれェェェェェェェェェェェェェェェン!!!』


「イエーイ!!」


「フォー!!」


 今度は侑とアリサが逆の立場で盛り上がる。

 誰が見ても、なんの因縁もしがらみもなく純粋無垢な戦闘となりそうな予感がしている。


「なぁ、晴馬。どっとが勝つと思う?」


 ただ、勝敗というのはどうしたって気になるところ。しかも、今回は互いに特進科というところで、これまでよりさらに展開が読めない戦闘となっている。


「うーん…。どうでしょうね……」


 これにはさすがの晴馬も結論を出しかねる。ただ、侑はまだしも、アリサには勝敗に大きく関わる要因があることを、アリサ本人はもちろん、恐らくは晴馬、片桐、統だけが知っている。


「やはり、アリサさんの新しい剣術がどうなるかってところでしょうね」


 提案した晴馬が知っているのは間違いないが、実践ではまだ使用していない。多少なくとも晴馬から使いどころのアドバイスはしたものの、判断して実践投入するのはアリサ自身。また、侑との相性の差もある。


 数多の状況を鑑みて、できるだけベストなタイミングで投入すること。伏魔師の任務もそうだが、勝敗に重要な要素だ。

 

「ま、今回は我々が議論を白熱させてもあまり意味はありません。信じて見てみましょう」


 晴馬の提案に、片桐と統は同時に頷いて同級生の行く末を見守る。


 そんな中、アリサと侑は準備万端と言ったところ。


『準備はいいかァァァァァァァァい!?

レディィィィィィィィィィィ!ファァァァァァァァァァァァァイト!!!」


 フレイムのコールが鳴り響き、戦闘開始。 

 しかけたのは両者。アリサと侑がそれぞれ相手に向かって肉薄する。


 アリサはいつも通り、自分の剣を持って剣術の構え。


 いつも使っているアリサの剣は、汎用戦式(はんようせんしき)(正式名称:汎用型(はんようがた)戦具生成(せんぐせいせい)術式(じゅつしき))の類ではない。

 

 モデルにしていた神楽の際の道具である剣を参考に、伏魔師協会の武具課(ぶぐか)に作成してもらったアリサ専用の武器である。


 札や特殊な収納方法などがある戦式と比べ、形自体をどうこうできず獲物をそのまま持ち歩く手間はある。しかし、汎用戦式はもちろん、そんじょそこらの戦式よりも耐久性や練術に対する補助火力は目を見張るものがある。


 対する侑は、事前に右手に用意をしていた札を構え、練気を流し込む。練気に反応して札が形を成したのは、一振りの刀型の戦式であった。


 アリサと侑は互いに獲物を構え、刃同士を衝突させる。刃同士がぶつかり合った金属音が鳴り響き、鍔迫り合いが起こる。


 鍔迫り合いの結果は勝敗つかず。つまり、互角。同じタイミングで鍔迫り合いを止め、後方に相手を押しやる。


 次に仕掛けたのはアリサ。剣術の特徴である軽いフットワークと鋭い突きの乱撃で侑に襲いかかる。これをしっかり凌いでいく侑。側から見れば押しているのはアリサ。しかし、変に焦る侑でもない。


(久々だな、アーちゃんの犯罪的に早い剣術。でも…!)


 そのアリサの剣術を徐々に見極め、反撃に出ていく。アリサも想定してないわけではなく、侑の反撃を防いでいく。


 ここまで互いに一歩も引かない戦闘。一巡目の最後にして、最高の見ごたえのある戦闘が繰り広げられる。だが、あくまでここまでは小手調べ。本番はここから。


 先に仕掛けるのは侑。


 左手を使って、シャツの左胸ポケットより一枚の札を取り出す。練気を流し込み、出現したのは鞘だった。その鞘に右手に持っていた刀を納めた。もちろん、降参の類による行動ではない。鞘に納めた刀に練気を流し込む。


「いくよ!」


 鞘から抜いた刀の刃には、煌々と燃え盛る炎が纏われていた。


練装(れんそう)太陽の理(アル・シャムス)


 【練装】

 練術を使用して、獲物や自身に武器の形として纏わせる技術。多くは属性を纏わせ、値する特性や攻撃力の増加などがセオリー。


 今回の侑で言えば、《(ねつ)》により炎を纏った形となる。

 侑の本領の一部に対し、剣を構えて警戒するアリサ。対する侑は、口角を上げつつ抜刀術のような構えを取る。


「準備はいい?犯罪的に熱く行くよ!」


属性派生(ぞくせいはせい)練術・(ねつ) 日刃(シュルーク)


 抜刀のように、刀を数回振った侑。燃え盛る刃から放たれたのは、炎の形をした刃。アリサに対して飛んでいく。


「!!」


 合計三発の炎の刃がアリサに襲い掛かる。アリサはどっしりと構えて炎の刃を迎撃していく。熱自体もそうだが、練気の乗った重い刃は対処するのに相応の力を要する。


(さすが蓮ちゃん……!こんな技を使えるようになってるなんて……!)


「まだまだぁ!」


 更に数発の刃を放つ侑。アリサも迎撃していくが、防ぎきれずに物理的な後退を余儀なくされる。ひとまず放たれた刃をしのぎ切ったと思ったアリサだったが、これで終わりではない。


 直後のアリサの眼前に、突如として炎の刃を纏った刀を振りかぶる侑の姿。侑の刃を自身の剣で何とか受けるアリサ。侑の剣はアリサよりも重く、恐らく刃の纏っている炎をジェット噴射の要領でさらに火力を増していると思われる。また、先ほどの突如として接近した侑も、ダッシュする際に同じようにジェット噴射を使って接近したと考えればカラクリとしては妥当だ。


 そのまま力強く連撃を加える侑。

 アリサの剣術が突きを主体としていることに対し、侑の剣術はシンプルに膂力と練気を刀身に載せて力の限り圧していくスタイル。侑にアリサのような何かをモデルにした剣術などの自己流のスタイルはない。


 それゆえ、型にとらわれず、その時その時で感覚的にベストな剣を振るっているという強みでもある。


 かなり押され気味のアリサ。このままでは恐らく判定負けをしてしまうだろう。ただ、全部が全部、侑の思い通りというわけでもない。


 侑の剣の圧が徐々に薄くなっていく。それを感じたアリサは、タイミングを見計らって侑を剣ごと押し返していく。一旦距離をとったアリサ。


 侑も追撃をやめるつもりはない。距離を取られたのなら、再度日刃(シュルーク)で追い打ちをかける。対し、アリサは横移動をメインとしてダッシュし侑に近づける隙を伺う。


 侑はそこに次々と日刃(シュルーク)をとばすが、アリサは紙一重で躱していく。そして、徐々に変化が起こる。かわすタイミングが紙一重ではなくなってきていた。言い換えれば、かわすことが簡単になってきていたということ。


 そのタイミングを見計らって、アリサは一気に侑に向かって迫る。侑もアリサに向かって日刃(シュルーク)をとばすが、今度のアリサはダッシュしつつも日刃(シュルーク)を簡単に弾いて止まらない。


「!!」


 やや想定外だったのか、驚く侑。


(やっぱり……!短時間にこんなに練気を込めてをとばしてたら、どんどん威力がさがってもおかしくはない……!)


 放てば放つほど、日刃(シュルーク)の威力もスピードも落ちてきていた。


「あのバカ……。新技開発したからってはしゃぎ過ぎだ……」


 侑の担任教師である宝生も、侑の戦い方に懸念を示す。

 普通ならガス欠になる時間経過ではないハズだが、練気配分にミスがあったということになる。


 正直、そんじょそこらの一般科生であれば、日刃(シュルーク)と接近での炎の剣術だけでノックアウトされる者もいるだろう。実際にそれだけの火力はあった。しかし、相手は同格の特進科生であるアリサ。そう簡単にはいかない。それ以上に、久々に戦う友人を相手に、新技をお披露目したかったという心情もあって練気配分に支障が出た模様だ。


 肉薄するアリサに対して、侑も焦りつつ今度は炎の刀身で迎撃していく。今度はアリサのターン。

 なのだが、侑とは打って変わってこれまでと変わらない剣術で攻め続ける。無論、侑も難なく対処していく。


 ワンパターンな戦闘を続けていけば、相手にとって脅威は薄れる。それが顕著に表れる戦闘が繰り広げられ、アリサの攻撃にターンはすぐに侑に奪われることとなっていた。侑の燃え盛る刃を受けていくアリサ。先ほどの近接の剣術のぶつかり合いよりも、重い刃への対処を余儀なくされている。


 その光景を見ている多くの面々が、侑の判定勝ちを想像するに難しくはなかっただろう。ただ、アリサもノープランではない。制限時間が迫っている中、アリサも新たな挑戦に出る。


 アリサの剣術が一定の段階まで来た際、とある癖が出る。それは、後方に後退して一呼吸を置く行動。そして、その行動も知っている侑。寧ろチャンスの一つとして狙っていた。


 大きく後退するアリサと同タイミングで、侑はその着地点へと向かう。しかし、ここからが侑の知らないアリサであった。


 本来なら一呼吸を置くような行動だったハズが、中腰でどっしりとし、右手で持った剣の切っ先を侑へ向けている。左手は支えるように剣先に添える。そして、その鋭く光る眼は侑を見据える。


 その雰囲気の変わりように、侑の背筋に嫌な悪寒が走り、思わずアリサへの接近を躊躇う。

 


 ----------------------------



 晴馬の監修による、アリサの新たな剣術の習得中。


「さて、新たな剣術を練習するにあたってですが、まず、ご自身の剣術の弱い部分はなんだとお考えですか?」


「やっぱり、火力不足かな。そもそも手数と動きが強みだから、一撃の火力を求める剣術じゃないんだけどさ。でも、やっぱり一撃必殺の攻撃とかがあるに越したことはないからね」


「しっかりとした自己分析、さすがです。私も同意見ですね。やはり必殺級の攻撃があるのとないのとでは、攻撃のバリエーションや、なにより相手に与えるプレッシャーが違います」


「でも、今までそんな戦い方したことないしなぁ……」


「その点に関してはご安心を。恐らくですが、そのポテンシャルはアリサさんはもうお持ちのハズですから。そして、これから練習する剣術が、その弱みを補う剣術となります」



----------------------------



 アリサの剣術の強みは、素早い突きによる連撃と素早い動きによる翻弄。確かに初見では脅威でも、慣れてしまえば火力自体は低い。早い段階で見極めたの片桐は褒めるにしても、ある程度、アリサの戦いを知っている者からすれば対処はより容易となる。


 ただ、今まで火力にかけていた部分が、決してアリサの可能性まで決めつける決定打になることはない。寧ろ逆。


 一つ一つは火力に欠ける突きと、翻弄がメインとなる動きかもしれない。


 では、今までそれらの動きと火力を成立させていた筋力や練気を、分散させずに一撃に集約させることができたら……?


 対象の侑を見据え、下半身と右手、そして剣の切っ先に集中を向ける。いままでの剣術を支え、培ってきたその筋力。それを集約させて放つ一撃。


 新剣術【都牟狩(つむがり)


アリサの剣から放たれた、空を裂く突きの一撃。


(ヤバい……!)


 とっさに剣を防御の姿勢に構える侑。直後、刀身に纏っていた炎が一瞬にして凪いだ。その所業を成した存在は、侑の左側を紙一重で通り過ぎ、後方の結界に直撃。

 凄まじい轟音と抉れた闘技場の地面。今まで闘技場を支配していた歓声を、一瞬で消し去る衝撃。


 アリサの剣から放たれた、新たな剣術【都牟狩(つむがり)】。


 突きとフットワークに使用していた筋力を、一撃に集約させて放つ突きによる練気の刃。弱点である火力不足を補うための、晴馬が考案したアリサの新たなる剣術。


 威力は見ての通り、直撃すればKO必至。火力不足を補えているかという問いに対して、十分な答えを示した。


『ここでタァァァァァァァァァァイムアァァァァァァァァァァップ!!!!!決着がつかなかったため、判定となるぜェェェェェェェ!!エブリイバディ!固唾をドリンキングオォォォォォォケェェェェイ!!??』


 DJフレイムのコールが鳴り響き、侑とアリサの戦闘は降参や戦闘不能では決着つかず。よって、戦闘内容を参考とした勝敗判定となる。尚、この勝敗判定を行っているのは、一等師の等級を有している伏魔師数人となる。


 約10秒前後、フレイムがマイクに向かって叫ぶ。


『オーライエブリイバディ!!発表するぜぇぇぇイエッ!!


今回の勝者はァァァァァァァァ!??


侑ゥゥゥゥゥゥゥゥゥレェェェェェェェェン!!!』


 決着。勝者、侑蓮。

 アリサの最後の一撃は目を見張るものはあったが、そもそも当たっていない。そして、それ以前の戦闘では侑がアリサを押す場面が多かった。客観視すれば妥当な結果だ。


 互いに控え場所に戻る両者。色々と話したかったが、闘技場で雑談するのは何かと迷惑になりかねない。新星祭の本番が終わった後に開催予定のお食事会に色々と話を持ち越すことに。


「クーーー!惜しかったのにー!」


 控え場所で悔しさをあらわにするアリサ。最後の剣術が少しでもズレていたら、勝敗は変わっていたかもしれない。


「でも、凄かったぜ!大砲でもぶっ放したかと思った!」


「同感です!勝敗は残念でしたが、良い手ごたえはあったんじゃないですか?」


 片桐と統からも惜しみない賞賛が送られる。実際、勝敗以上の実践経験を得たのは確か。しかも、相手は同格の侑。新技のお披露目としては上々だ。


 そして、晴馬も同様の感想だった。


「私もお見事な戦いぶりだと思いますよ。新技の練度は研鑽が必要ですが、使用するタイミングや、それこそ本命の威力は十分でしたね」


 確かにアリサへ剣術の案を提示したのは晴馬。しかし、それを自分の形で昇華させ、実践で使用して見せたのは紛れもなくアリサ自身。筋力や使用のタイミングを図る洞察力と実行する胆力などがあってこそ。まさしく特進科生の肩書に恥じぬ戦闘とポテンシャルを見せつけた。


「ありがとう!ちょっと最後の最後で変に力が入っちゃったかも…」


 実践での初披露とだけあって、力の匙加減は調整が必要。少し力を入れ過ぎて、本命の侑から少しずれてしまったようだった。


「それをご自身で自覚されているのならば、勝敗以上の成果ともなります。ひとまず初実践。お疲れ様でした」


 改めて晴馬とお疲れ様のハイタッチをかわし、アリサの実りある一巡目は幕を下ろした。



----------------------------



「よう。おめでとさん。……って、素直に喜べないって顔だな」


 激闘を終えた生徒である侑に対し、素直に労う担任教師うの宝生。しかし、侑は苦笑いで冷や汗をかいていた。


「マジ……犯罪的に危なかった……」


 脳裏に浮かぶのは、アリサが最後に放った空を裂く突きの一撃。無論、初めて見る技だった。改めて、直前に感じた背筋の悪寒は間違いない感覚だった。自分の刀の刀身に纏った炎を、一瞬で消し去るほどの火力。後方の結界の直撃した際の轟音もあって、仮に自分に直撃したことを考えると、本能から「死」をも連想させた。


「……ああ、とんでもなかったな」


 アリサの一撃についても素直に賞賛する宝生。

 ここで、少し侑の事を心配する宝生。おおよそ、人に向かって放つのがはばかられるような火力。それを直近の紙一重で見せつけられたのだ。変な恐怖心が芽生えてもおかしくはない。


 と、思っていた宝生だったが、やや杞憂だったようだ。


 冷や汗は変わらずだが、苦笑いは好奇心を携える良い意味で不気味な笑顔へと変わっていた。我が教え子ながら、頼もしさを感じる宝生。


「どうせこれから休憩に入るから、先に一応、愛徒(まなと)のとこに行って診てもらってこい」


「……はい!」


 恐らく話半分で、医療班である葉乙女(はおとめ)のもとへ治療を受けに行くという宝生の提案を聞いていた侑。そのまま控え場所を後にする。


 教え子への杞憂は解決済みとして処分し、改めて闘技場を見つめる宝生。すべての戦闘が終わった闘技場の地面は、戦闘による損害の補修が行われている。その中、ひときわダメージが伺える抉れた地面。それは無論、先ほど教え子と戦闘を行ったアリサが最後に放った凄まじい火力の一撃によるもの。


(ほんと、とんでもなかったな……。下手すりゃ、俺の防御も破りかねねぇぞ……)


 年齢やキャリア、伏魔師や養成機関生などの垣根を超え、あくまで伏魔師としてあの一撃を客観視する。正直、あの一撃を近くで体感した侑に同情すらしている。


 まだまだ精度を始めとした練度は未熟。そもそも当たっていないこともある。だが、その前提があっても、火力は既に一品級。

 陽練(ひれん)舞姫(まいひめ)という二つ名に恥じぬ戦いは以前からしていたが、そこからある意味で二つ名からは想像できない大砲のような一撃がでてくるのは想像できなかった。


 同時に宝生がもう一人評価する人間がいた。

 今まで、自分の剣術をメインとして戦ってきたであろうアリサ。そこから、新たにあそこまでの火力を出せる戦い方は自分で見出すのは難しい。言い換えれば、外部からのテコ入れがあったと考えるのが妥当だ。


 そして、直近で思い当たるテコ入れが一人。かつて宝生の教え子の一人として師事し、教師の宝生をあざ笑うようなポテンシャルと実力を持っていた人間。


(……ったく。教師どころか、魔改造する科学者じゃねぇかよ)


 かつての教え子であり、今は同業者となっている灰色の髪の男。その男の手腕に嬉しく思いつつ、歳不相応の成果に嫉妬する宝生だった。



----------------------------



 新星祭の一巡目が終了し、ここで休憩となる。各々、多少の怪我は負うものの、致命傷や人間的生活に支障をきたすような重症者はいない。


 伏魔師の世界の中でも、数少ないある種の観光的建築物でもあるこの闘技場。お昼時には多くの人が食事をメインとした時間を楽しんでいる。


 そんな中、晴馬はその闘技場の中でもさほど人が通らない場所を歩いていた。


 傍らには、晴馬の肩ほどの位置で飛んでいる黒い猫に翼が生えたような、マスコットに近い姿形の奇妙な存在。晴馬のパートナーであり練成体の《ヤミ》。


 お昼時の周囲の人間が卒倒するような、一人満漢全席による昼食を平らげた後とは思えぬほど、何食わぬ顔でとある場所を目指していた晴馬。


 いや、正確にはとある気配を探って。


 晴馬の視界には、とある人物の後ろ姿。周りの人物からは見えないように、視覚誤認と音遮断の結界をご丁寧に張って柱に寄りかかって立っている背中。仮に一等師であったとしても、かなり注視しなければ見破れぬほどの精度を誇っている。


 ただ、晴馬はそんな結界を嘲笑うように、何の注視もせず悠々と近づいていく。


「こんなところで何してるんですか」


「!!!!!!!????????」


 まさか話しかけられるとは思っておらず、その背中は30cmは浮いていた。驚いた衝撃で、思わず結界が全て解かれる。


 その背中は、本部特進科の生徒、荒木(あらき)天征(てんせい)のものだった。


「ビックリしたぁ!あのなぁ、先生!前もそうだったけど、気配消していきなり後ろから話しかけるのやめてくれねぇかなぁ!!心臓がいくつあって足らねぇんだけど!!」


「気配消さずに近づけば逃げるでしょうに」


「ぬっ…!」


 天征のクレームは尤もだったが、晴馬は畳み掛けるような正論を用意していた。あえなく惨敗する天征。


「……よく俺の居場所がわかったな」


 少し不機嫌そうな天征。前回の時もそうだったが、結界など高精度の隠密を使っている天征。前回よりもことさら隠密には気を遣っているが、今回も破られた。


「優秀なパートナーに力を借りましてね。こちら、ヤミさんです」


 晴馬が紹介したのは、隣に浮いている存在。晴馬の紹介に、小さな両腕を組んで尊大な態度を見せる存在。


「晴馬様の優秀なパートナーです!貴方が不登校の困った生徒ですね!?晴馬様の授業を受けに来ないだなんて、万死ですよ万死!」


「ヤミさん…。初対面早々に失礼ですよ…」


 天征からすれば何とも情報量の多い絵面。


「いや、なにソレ…。練成体…?いや、そんな自立して、ましてや軽口叩ける練成体なんてありえなぇしな…」


 カルチャーショックの来訪に、少し混乱気味の天征。


「ヤミさん、お疲れ様でした。眠っていただいて結構ですよ」


「はい!また何かあればお呼びください!」


 晴馬の労いに、元気に応じて晴馬の影へ入っていくヤミ。


「さて、立ち話も何ですから、座りましょう」


 その後、晴馬は天征の前の観客席の一席に腰を下ろす。天征も後頭部を右手でかきつつ、晴馬の誘いに応じて隣の席に腰をかけた。

 ここで去ってもいいが、隠密を見破られたこともあり、素直に敗北の代償として晴馬の誘いを受け入れることにした天征。


「何の用だよ」


「別に、ただの雑談ですよ。どうでした?皆さんの戦いぶりは。見てたんでしょう?」


 晴馬の問いに、天征はじっと闘技場を見つめる。その脳裏に浮かぶ、先ほどまでの戦闘。


「……強いよ。みんな強い。最後に見た時よりずっと。特にアリサと統は目を見張る。練術や戦い方はあんまり変わってないけど、全体的にレベルが上がったような感じだ。多分、特別なフィジカルトレーニングに力を入れだしたってところか」


「ご明察です」


 天征の洞察力に素直に感心する晴馬。カラクリを明かせば単純だが、意外とその単純さに気がつく人間も少ない。


「さすがは《百崎(ももさき)》様の弟子と言ったところですか」


 晴馬の褒め言葉から出てきたとある人物の名前。その名前を聞いて、明らかに天征の雰囲気が変わったことは当然、晴馬も分かっている。


「……知ってたのかよ」


「少々調べましてね。直近での私の任務にも関わりのあった方ですので」


 《百崎(ももさき)文乃(ふみの)

 元、至印将(しいんしょう)の一角、《煌哮将(こうこうしょう)》を担っていた女性。

 晴馬が担当した間立高校の件の前任者であり、その任務の途中で失踪し、実質的に任務失敗となった人物。


 そして、天征の師匠に当たる人物でもあった。


「ずっと追っていた背中が、突如として訳も分からずに失踪。そうなれば、色々と思うところがあってもおかしくはありませんね」


 天征の心境を推察する晴馬。返事の代わりに、無言で観客席から立ち上がる天征。


「……先生が初めてだぜ。今のあの人(百崎)のことを《様》付けするのも、俺の事情にここまでズケズケと踏み込んでくるのも」


 少しの怒りと、少しの悲しみを含んだ天征の声色。晴馬の推察は色々と正解だったようだ。そのまま数歩、観客席から遠ざかる。


「先生。俺、一応先生の生徒でいいんだよな」


 背中越しに、晴馬へ確認をとる天征。


「……ええ」


「じゃあ、不登校の生徒から先生に質問があるんだが」


「……何でしょう」


 少し半身で振り返る天征。


「至印将って、そんなに偉いのか?偉いのに、そんな簡単に何も言わずに捨てられるものなのか?」


 天征の質問に対し、答えずにじっと天征を見つめる晴馬。天征の目からは怒りが消え、悲しみと迷いの目となっていた。


「……なんてな。じゃあな先生。みんなによろしく…、伝えなくてもいいや。不登校の激励なんて要らねぇだろうしな」


 そのまま去っていく天征。その姿をじっと見つめ、何も言わずに見送った晴馬だった。



------------------------



 各々がリラックスして過ごす休憩も終わり、二巡目にして新生祭、最後の戦闘となる。そんな二巡目の一組目には、アリサが先頭で出場。相手はランダムで選出された。


 一巡目でお披露目となった新たな剣術である都牟狩(つむがり)を使用。まだ力加減がうまくいかずに外れたものの、やはり威力は目を見張る。

 その威力を前にした相手が、思わず降参。アリサの勝利となった。


 そして、二巡目の大きな特徴である指名制度。これは、他の養成機関生へ指名による戦闘申込を行い、合意されれば、その組み合わせで決定されるもの。以外の面々はランダムとなる。


 二組目は統が出場。そして相手は、指名制によって選ばれた第一支部の宙良大河(そらたいが)


 組み合わせが決定してからというもの、統は控え場所にて緊張気味だった。望んでいた宙良との戦闘。命がかかっているわけでも、倒すべき怨敵というわけでもない。


 だが、勝ちたい。


 その想いが、統に少しのしかかっていた。


「緊張してますか?」


 その統に対し、優しい声色で話しかける晴馬。


「……ええ、まぁ。相手が相手ですから」


 相手は同じ特進科。アリサと侑の戦闘もそうだったが、一歩違えば勝敗が大きく変わる相手。


「……先生、何かアドバイスとかあれば聞いておきたいんですけど」


 統の言葉に、少し意外感を感じる晴馬。統は基本的に冷静で聡明。そして、どちらかというと自分で考えて行動するタイプである。晴馬からのアドバイスやフィジカルトレーニングなどは素直に受けるが、自らアドバイスを求めるのは、少なくとも晴馬は初めて。


 何かしら客観的な意見を聞いて、少しでも緊張をほぐしたいという目的もあるかもしれない。


 そんな中、出場者を闘技場へ誘導するアナウンスが響く。


 アドバイスと言っても、正直、晴馬から言えることは一つだけ。


「統さん。背中を向けてもらっても?」


「え?は、はい」


 晴馬の言う通り、背中を向ける統。その背中に右手を置き、少し押した晴馬。やや驚く統。


「大丈夫です。貴方の進んでいる道は間違っていません。今、貴方にできる全力をぶつけてきなさい」


 そもそも、晴馬から統に対して欠点的な意味でのアドバイスはない。ゆえに、多くを語る必要はない。少しでも自分に自信を持てれば、それが何よりの統へのアドバイスともなる。


 晴馬の言葉を聞き、やる気と安心感を滲ませる。


「行ってきます…!」



----------------------------



『二巡目二組目いくぜエブリバディィィィィィィ!!

のらーりくらーりとしながらも、その練術は実にロマンティックでデンジャラス!!!!気をつけねぇと、いつのまにか絶滅までまっしぐらかもしれないぜオーマイガアッッッット!!!


タイガ・ザ・シューティングスター!!!


宙良ァァァァァァァァァ!!!大河ァァァァァァァ!!』


「わ〜。すげ〜すげ〜」


 DJフレイムの熱況に当てら熱狂する観客。その声援を受け、まるで物珍しい珍獣を見るが如く、他人事のように軽く拍手する宙良。その目の前には、対戦相手の統。


「や。指名してくれると思ってたよ〜」


「そちらこそ。ご指名していただけるとは、柄にもなくやる気じゃないですか?」


 今回の統と宙良は、互いに指名を行っていた。無論、合意に至り対戦が決定。


「そりゃ、前回の不完全燃焼を改善できるかもだからね〜。僕が勝ちはしたけど、君も本気を出したわけじゃなさそうだったし〜。それに、な〜んか体術とかも強くなってるみたいじゃん?指名しない手はないでしょ〜」


「それこそお互い様ですよ。もう恐らく残り少ない新生祭の機会です。私も柄にもなく、君に勝ちに行きます」


 冷静な統とのらりくらりとしている宙良。それぞれ、どうにも戦闘面などで熱を入れるタイプではない。

 だが、今は違う。目の前のライバルとも言える存在を超えるため、互いに緊張感とやる気を織り交ぜ、不気味に口角を上げる。


 二巡目、宙良vs統。戦闘開始。





ご覧いただきありがとうございます。

アリサの新剣術お披露目です。名前の由来は調べたら出てくるかと思いますので、気になった方はどうぞ。

さて、天征の事情が少し露わになりました。何とも複雑で年相応ですね。目の前の目標が忽然と消えたらどうなるか。皆さんも想像してみてください。

次回は統と宙良が存分にやり合います。ライバル相手って、意外と緊張するんですよ?

第16話 お疲れ様でした。

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