イカれたバスターズ
第15話です。
新星祭開幕!
どんな練術や戦い方がみれるんでしょうねー
第15話いってらっしゃい
開幕した新星祭。
本部1つと各1から3の支部、それぞれの養成機関生から代表生徒3名を選出して、戦闘をメインに日頃の鍛錬の成果を示す場である。
養成機関卒業後の等級を決める査定に影響があったり、上位入賞者には賞金が出るなど報酬も魅力的なこの大会。
ルールはいたってシンプル。
・出場者は基本的に1vs1の戦闘を、各2回行う。
・1回目は対戦相手を他の養成機関からランダムに選定。2回目は指名戦が可能で、指名した相手と合意があればそのまま対戦カード決定となる。それ以外は変わらずランダム。
・闘技場にて4組同時、計8名が一斉に戦うこととなる。
・勝敗の決定は大きく分けて3つ。1つ目は戦闘不能、2つ目は降参、3つ目は制限時間20分以内に決着がつかなかった場合の戦闘内容による勝敗判定。
・最終的に勝ち星が最も多い者が優勝。入賞は優勝含めた上位3名。
・練術や結界術、戦式の使用制限の細かなガイドラインはない。しかし、命を落とすことに直結したり、人間的生活が継続不可能なダメージを与えることは基本的に禁止である。
伏魔師世界にしては珍しく、楽しむ戦闘でもある。
--------------------------------------
開会式を終えた生徒達は、各々に用意された控え場所に移る。そこは、螺旋状の闘技場の壁に沿うように相応の高さに作られた観覧席のような場所にあった。
人によっては恐怖症に引っかかるかもしれないが、反面壮大な眺めを見ることができる。吹き抜けの最下層にある闘技場で行われる戦闘も同様によく見えるだろう。
「さて、伏魔師の世界にはあまりない身内同士の切磋琢磨の時間です。怪我しないように頑張ってください」
特別発破をかけるようなことはなく、最低限の激励を送る晴馬。
一応、等級を決める査定にも影響するのだが、晴馬はあまり重要視していない。実際の任務でいくらでも昇級は可能だと考えているからだ。
「うう…、筋肉痛がとれない…」
準備運動しつつ、アリサが全身の痛みを嘆く。女性特有というべきか、身体の柔らかさがいかんなく発揮されるストレッチで何とか痛みを和らげようと努力していく。
先日、晴馬の提案によって新たな剣術のための新たなトレーニングを開始したアリサ。片桐の時もそうだったが、アリサのトレーニングもハードの模様。
「大丈夫か?俺もトレーニング始めた時はなかなか筋肉痛取れなかったからなぁ。気持ちはわかるぜ」
隣で同じくストレッチに励む片桐。
「でも、悪くないね。しっかり成長してる感じがする」
「お!新しい剣術か?もしかして、今日お披露目だったり?」
新たな剣術開発の話を聞いてから訓練にも取り入れているが、片桐や統にお披露目はされていない。片桐の好奇心に対し、アリサは可愛らしく口角を上げる。
「ま、期待しててよ♪」
ここで、闘技場の空中にホログラムが映し出される。そこにはこれから開始される試合の対戦カードが発表されることとなる。
『イッツアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!フェスティバルデェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEえイヤッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥふshffjこsじゃh!!!!!』
突如として闘技場内に響く、爆音と音割れのハーモニー。その音色を聞いた多くの人が耳を塞ぐ。
『おっとソーリー。ミーのビートエンドバーニングがバーストしてしまったゼ』
形ばかりの謝罪を行い、マイクの調節を行う男性の声。
「…今の、何……!?」
初見で困惑必至な片桐。
「毎度恒例の《DJフレイム》による熱血実況ですね。いやはや、品位ある熱量です」
「まだやってるんですか…、アレ…」
「盛り上がるねー!イエーイ!」
感想は違えど、苦笑いを浮かべる統と晴馬。反面、盛り上がるアリサ。
『ヘイヘイヘイヘイ!オーディエンス!!せっかくのフェスティバルだゼー!!!そんな盛り上がりでいいのかーい!!!???よくねーよなAAAAAAA!!!??ガンガン盛り上がっていくゼEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!』
DJフレイムの煽りに、観客を中心に大いに盛り上がる会場。
「伏魔師にあんな人いるんだ……」
「いえ、あの方は伏魔師ではありませんよ」
片桐の独り言に近い呟きに、晴馬の訂正が入る。
「そうなの?」
「あの方の本業は見ての通りDJです。伏魔師どころか、本来は伏魔師の世界とは無関係の方ですね。理由は分かりませんが、伏魔師のイベントごとで関わることがあるそうで。一応、世間的には有名な方らしいですよ」
「へぇ…。全然知らないや…」
晴馬の説明に、片桐も自分の記憶からDJフレイムの名前や声を検索するも結果は0件。
ただ、DJフレイムの煽りに対して会場から主に黄色い歓声が上がっているところを見ると、世間的に有名というのも納得できる。
『さぁさぁさぁさぁ!さっそくアツいバーニングファイトを繰り広げるイカれたバスターズを紹介しようじゃねぇのぉぉぉぉ!!!!』
これまた盛り上がる会場。
ちなみに「イカれたバスターズ」というのは出場する養成機関生のことである。恐らく彼なりの敬称に近いのだろうが、素直に敬称として受け取れるかは人によって分かれるところ。
そこから各養成機関生が呼ばれていき、分かっている人もよく分からない人もDJフレイムの熱量に当てられて盛り上がる。
『次のバスターズはこの男。冷静沈着、だが、その心に秘めし向上心とハングリー精神、そこからもたらされるクレバーな戦いは相手に死の方程式を叩きつける!!
本部特進科、
鴉間ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
統ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
「お、私の出番ですね」
フレイムのコールを受け、心身共に最終準備に入る統。やや緊張気味な表情ではあるが、晴馬は特に教師として声をかけることなく送り出す。緊張と言っても、集中のための必要な緊張でもありそうだからだ。
統がついた先の闘技場は乾いた硬い砂がメインの地面で動きやすい環境。また、各組み合わせに結界が張られており、思わぬ事故を起こさぬような施しがされている。
相対したのは、第二支部の一般科生。統も面識はない男子生徒。
互いに息を吐きつつ、身体の無駄な力みをとっていく。
「統、勝てるかなぁ」
少しドキドキしながら開始の時を待つ片桐。
「心配ですか?」
「だって、訓練以外で統の戦闘とか見たことないからさ」
晴馬に指摘されつつも、こういう時は意外と見ている方が緊張する時もある。
「気持ちはわかりますが、もう少し肩の力を抜いて見ましょう。こういう言い方は失礼ですが、今回の相手ならばよっぽどのことがなければ負けませんから」
「そういうもん?」
「多分ね。まぁ見ていてください」
あまり具体性のない晴馬の見解。実際、説明するより見た方が早いからだ。
『オーディエンスエブリバディぃいぃぃぃぃぃぃぃ!!ファイト!!!』
フレイムからのコールが鳴り、各々戦闘が開始される。
近接格闘で攻める者、遠隔の練術で攻める者など戦い方は様々。
かたや統はというと、
『おおーっこれは凄まじい!!ラッシュラッシュラァァァァァァッシュ!!!!』
開始早々、統は対戦相手へと肉薄し怒涛の格闘術で攻め立てる。
相手は恐らく、事前に統が得意としている戦闘スタイルは予習してきている。だからこそ、この戦い方は予想外だったのだろう。
先手を取られ、後手後手のまま必死に致命傷にならないように防いでいく相手。
それでも統は全く本気ではない。かつ油断もしない。まるで相手の防御の手段を次々と潰すように、冷静に、着実に相手を敗北という断崖の淵へ追いやる。
その戦闘スタイルやガン開きで相手を見据える目を見ると、フレイムが称した「死の方程式」という二つ名もあながち間違いではないのかもしれない。
そして、統の拳が相手の鳩尾を捉える。そのまま相手は崩れ去り起き上がれない。
『イッツオォォォバァァァァァァァ!ヴィナァァァァァァァァ!
鴉間ァァァァァァァァ!
統ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
フレイムのコールが鳴り響き、統の勝利で幕を下ろす。フレイムの熱に中てられてか、統をよく知らない人も熱狂をもって統を称賛した。
「統さんの戦闘を見てどう思いましたか?」
「えっと、圧勝だったなって」
「そうですね。非情な話にはなりますが、この結果がある意味、特進科と一般科との差を表しているとも言えます。よっぽどのことがない限りは負けないと言ったことの理由の大半です」
興味深そうに晴馬の話を聞く片桐。隣でアリサも興味津々そうだ。
「改めてですが、特進科というのは伏魔師の最前線たる至印将を始めとする一等師の予備軍。つまり、限りなく一等師に近しいポテンシャルを秘め、場合によってはすでに実力を有している者達が属するところです。もう一度非情な言い方をしますが、一般科生とはよほどのことがない限り、その差は埋まるものではない。一般科とは隔絶する才能の者達、それが特進科です」
かなりシリアスな晴馬の説明に、固唾を呑む片桐。そのあたりを弁えているのか、深く頷くアリサ。
「さて、変に湿っぽい話もここまでで。ホラ、帰ってきましたよ」
「ただいまです」
背後には戦闘を終えた統。初戦を終えて少し緊張がほぐれてか、少し晴れやかな表情だ。
「イエーイ!さすが、ハングリー精神!」
「死の方程式!」
「一周回ってバカにしてます?」
アリサと片桐からの冗談交じりの賞賛を受け、ツッコミつつも笑顔でハイタッチをする統。
「お疲れ様でした。素晴らしい戦闘でしたよ」
「ありがとうございます。でも、やりたいことやる前に終わってしまいましたけどね」
人によっては、非情でやや傲慢な発言に聞こえなくはない。しかし、あくまで客観的な事実だ。統は相応の実力とポテンシャル、それらを発揮できるだけの努力をしている。
仮に今回の統の発言に対して、傲慢という方面で非難の可能性があるのならば、統に対してほとんど何もできずに敗北した敗者が非難されるべきである。
「それは仕方ありません。次回のお相手に期待しましょう」
晴馬も統の意見にはしっかり賛同していた。何も間違ってはいないからだ。
--------------------------------------
次々に戦闘が終わり、生徒達が引き上げていく。比較的、各々がダメージ少なく終わり、次の試合の準備のためのインターバルとなる。
いい意味で思ったよりすんなりと終わった一巡目。特に教師としての出番はなかった晴馬は、この時間も合理的に使おうと脳を回す。
授業の内容作成や以外の任務についての確認などなど、その脳内は何かしらの伏魔師としての思考で支配されていた。
だが、晴馬がいかに合理的に使おうと努力しても、身体は正直なものだった。
「失礼します」
本部特進科の面々の背後から、男性の声がかかる。
その人物はずけずけと晴馬の正面に行き、丁寧に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。天津先生。第一支部の中田康二と申します」
目を瞑り、特にリアクションは起こさない晴馬。話継続の許可が下りたと認識した中田は、少し咳払いして喉を整える。
「天津先生に、折り入ってお願いがございます。そして片桐君。君にもです」
「え?俺?」
いきなりで事態が読み込めない片桐。そもそも本筋を何一つ話していないから無理もない。
「次の俺の対戦相手ですが、片桐君に決まりました」
中田のデバイスには次の対戦カードが発表されていた。フレイムのコールは別にしても、ある程度の時間経過で次の対戦カードは各人の登録しているデバイスに通知される仕組みだ。尚、登録自体は任意である。
「そこで、です。もし俺が片桐君に勝った暁には、天津先生には片桐君の代わりに、俺を本部特進科へ編入できるよう計らいをお願いしたい」
思わぬ提案に、驚く本部特進科の面々。
「ちょっとアンタ!急に失礼じゃない!」
「同感です。非常に品位に欠けますね。くだらない提案を持って、とっととお引き取り願います」
無礼な中田のお願いに、怒りを露わにするアリサと統。かたや、片桐は少し置いてけぼりになった。
「俺は今、天津先生と話しています!外野は引っ込んでいてください!」
アリサと統の指摘に怯むことなく、あくまで自分のお願いを通そうとする中田。
「もちろん、タダでとは言いません。もし仮に!万が一!俺が片桐君に負けることがあれば、天津先生と片桐君の言うことをなんでも一つずつ聞きましょう!」
思うがままに自分のプレゼンを実行し続ける中田。言い方からして、片桐を明らかに格下と見ていることが窺える。
「どうでしょうか、天津先生」
このプレゼンの間、晴馬は目を閉じてリアクションはなかった。言い換えれば沈黙でもある。
「…その沈黙は、イエスと捉えてよろしいですね?」
相変わらず沈黙の晴馬。
「では、商談成立ということで。試合、楽しみにしています」
そのまま去っていった中田。
少しの沈黙が流れた後、憤慨する統とアリサ。
「なんなんですか、アイツ…!」
「ねぇ!どうすんのコレ!カタギーもなんで言い返さないのさ!」
「あー、いや、なんつーか…。タイミング見失っちゃって…」
他人事のように後頭部をかく片桐。
「先生も先生よ!なんで黙ってたの!?」
沈黙の晴馬。
「…ん?先生?先生!先生ってば!」
「!!!!?????」
アリサの物理的な揺りに、驚きの表情で顔を上げる晴馬。
「申し訳ありません…。少々居眠りを…」
伏魔師として合理的に脳を回しているつもりだったが、いつの間にか夢の世界へ舵を切っていた晴馬の脳。ある意味で眠気も立派な合理的な身体機能である。
目頭を摘み、眠気と後悔を取り除こうと努力する。
「あー…、ゴメン…。お疲れだよね…」
自身の剣術開発に絡んでいることもあり、多忙だということはなんとなく察して強くは出られないアリサ。
「いえ、私の体調管理不足です。申し訳ない。それで、次の対戦でも決まりましたか?」
「それが…」
アリサから中田とのやり取りについて説明が入る。
「なんですかそれ…。随分と身勝手な提案をしてくるものですね…。どうせなら契約書の一つでも置いていけばいいものを…。というか、片桐さんはなんでOKしたんですか?」
当然の晴馬の疑問。苦笑いで後頭部をかく片桐。
「いや、タイミング見失っちゃって…。伏魔師の世界ならこういうことザラにあったりするのかなーって思って…」
「あるわけないでしょう、こんな押し売り契約…。ま、決まったものは仕方ありませんね。どちらにしろ勝つ。それしかありません」
そうこうしている内に、インターバルが終了。片桐も会場に向かうことに。
「カタギー!絶対勝ってよね!やだよ、あんなヤツとカタギー入れ替えなんて!」
「同感です!あんな品位のないヤツ、叩きのめしてください!」
「お、おう…。頑張るぜ…」
片桐もやる気がないわけではないが、こうも自分より熱の入っている人を見ると、どうしたって冷静になるものだ。
闘技場にて相対する片桐と中田。ここでふと、開会式のことを思い出す片桐。
侑や三神、宙良との挨拶の後、片桐に向けられていた敵意のある視線。その視線はまさしく今、中田から向けられているものと同一だった。
だが、なぜこうも敵意を向けられるのかの心当たりはない。何せ初対面もいいところだ。
『ヨウヨウヨウヨウ!!盛り上がっているかいエブリバディィィィィィィィィィィィィ!!次のバスターズはコイツだ!!!!
最近、一般社会から伏魔師の世界に鳴り物入りでジョインしたスーーーーパーーールuuuuuuゥゥゥゥゥゥウキィィィィィィィい!
紹介しようにも情報が全くないんだぜオーマイガAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAット!!!!
だからこそ、コイツがどんなアメイジングなバスターを魅せてくれるか楽しみにしようじゃないの!!!
ダークホース?ゴールデンルーキー?
ノンノン!今のところはプラチナアンノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
片桐ィィィィィィィィィィィィィ
招也ァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!』
(情報が無いっていうのに、よくあそこまで紹介できるもんだなぁ。さすがは本職DJ)
とは思いつつ、伏魔師としての自分をほぼほぼ知らない片桐が言うのは酷である。
相変わらず片桐に敵意を向けてくる中田。片桐としては睨み返す理由もないし、敵意を受け入れる理由もない。なんともやりづらい対面である。
『アaaaaaaaaaaaaaaaユuuuuuuuuuuuuuuレディィィィィィィィィィ!!????
ファァァァァァァァァァァァァァイト!!!!!!』
早く始まってほしいとすら思っていた時、タイミングよくフレイムによる開始ゴングが響く。
開始と同時に肉薄する片桐。伏魔師の戦闘のセオリーとして、いわゆる「様子見」は存在する。だが、片桐がそれをしたところでメリットがあるかないかで言えば、生かしきれないという意味でない。
であれば、自身の現時点で使える技術である近接格闘にて勝負に出た。
中田も冷静に対処していく。体術はほぼ互角。似通った戦闘スタイルというのは否定しきれないが、現時点で優劣はない。
均衡を崩す要因はいくつかあるが、その一つを中田は所持している。
ある程度のやり取りの後、中田は自ら距離を取って懐に手を伸ばす。取り出したのは一枚の札。
「練術解放!」
札から中田の身体に伝い、身に纏うは練気でできた風。
【属性系練術・風】
練術とは、練気によって練り上げられた《練術の素》が形を成したもの。
扱う手段は大きく分けて三つ存在する。
一つ。練術が内包されている札を用いて練術を扱う。練気を流し込むことで簡易的に練術が使用でき、仕組みとしては汎用戦式が近い。反面、火力などの性能はやや控えめ。
二つ。練術の素を体内に刷り込み、身体器官の一つのように扱う。札よりも難易度は高いが、札での解放よりも高い練度と発現速度、様々な成長派生を扱える。
一等師を中心に最前線で戦う伏魔師の多くは、メインで使用する練術を体内に刷り込み、サブで使用する練術を札などでの外付けで解放することがスタンダード。
体内に刷り込むことのできる練術の数は人によって異なるが、基本は一つから二つ。多くて三つ。それ以上は人間の限界と言えよう。
三つ目は先天性の練術。呼んで字のごとく、生まれ持って練術の素を有していること。
基本的に伏魔師は前述の通り練術を体内に刷り込むか、札などでの外付けを解放することで使用する。細かいプロセスは置いておいて、いずれも外付けという点は一緒。言い換えれば、生まれながら練術の素を有している人間はほとんど存在しない。元来はそれが普通。
しかし、非常に稀に練術の素を有している人間が生まれてくることがある。さらに、その練術も固有性が非常に高い強力な練術が大半となっている。無論、伏魔師協会側としても下手に評価対象に加えないようにしている。ほぼ運のような存在を基準にするわけにはいかないからだ。
今回の中田は、札での解放により練術を使用可能にした形となる。
練術の種類は見ての通り属性系の《風》。
様々な種類のある練術の中、個人の使い勝手は置いておいて属性系は人気のあるシリーズである。
その中でも人気なのが《風》と《水》など。
理由は単純で、普段から人間が多く触れる属性でもあるからだ。ゆえに、自らの練術として扱うには抵抗が少ない。
逆に少ないのは《炎》と《雷》などがあげられる。
この理由は風と水とは真逆で、見る機会こそあれど触れることはない属性だからだ。
練術はあくまで《扱う》ものである。触れられない、見られない、そんな心持ちの者が扱える属性ではない。もちろん、前述の4つ以外にも属性は存在する。
風の練術を発動させた中田は、その風を利用したスピードをもって片桐へ肉薄する。
急激なスピードアップに対応する片桐。拳や蹴りをなんとか凌ぐが、かなり押され気味だ。
大抵の攻撃はガードしているためダメージはさほどないが、このまま一方的なのは流石に勝敗に関わる。
片桐からも仕掛けていくが、速度を増した中田の動きによってかわされたり防がれていく。そして、徐々に中田の反撃が片桐のガード越しでもダメージを増して与えてきた。
ついには、片桐は両手で必死に防御しなければならないほど一方的な戦闘に。
「うう…。なんか…、なんか…、ガンバレェ…!」
「厳しいですね…。あんなヤツですが、新星祭に出てくるだけはある」
片桐の一方的な戦闘を目の当たりにして、本人以上に辛そうなアリサと統。
「先生ぇ!なんかカタギーに教えてないの!?こんな状況をガッ!っと吹っ飛ばせるやつとか!」
アリサと統とは対照的に、特に表情や感情の動かない晴馬。
「お気持ちはわかりますけど、もう少し肩の力を抜かれては?片桐さん本人より先に果てますよ?」
「んなこと分かってるよ!しょうがないじゃん!で!なんかないの!?」
興奮を抑えられないアリサに気圧される晴馬。そうこうしている内にも戦闘は進む。
一方的に攻撃を続ける中田だが、全部が全部、順調というわけではない。
(しぶとい…!)
中田の懸念はいくつかあるが、その一つは自身の練気切れだった。今は有利ではあるが、練気が切れた後には状況は一変する。
攻撃力、防御力、速度など、様々な部分で練気は伏魔師にとっての生命線だ。本来は切れないように戦闘するのが基本であり、練気切れを想定して戦闘することはあまりない。
また、完全に切れずとも少なくなれば攻撃、防御、速度、練術それぞれに割けるリソースも少なくなる。
それ以上に不気味だったのが、これだけ一方的に攻撃し続けても焦ったり諦めが垣間見えることもないその眼だった。
まるで中田の動きに穴がないかじっくり観察するように、じっと見据えつつ攻撃に耐えていく。
虎視眈々。その言葉が最もふさわしい。
(こうなったら…!)
現状は中田が圧倒的に有利ではある。しかし、このままいくとは思えない不安感が中田を煽る。
やや距離を取り、近接ラッシュに重きをおいていた練術を中断。その手に風を集めていく。
風が中田の両手に集まり、黒く濃い密度の渦のような風へと変化。
片桐を含め、見る者すべてが悟る。大技が出ると。
【風属性系大規模練術・北風】
放たれた、黒く冷たい暴風。その質量をもって片桐に命中。なんとか防ごうとするも、その身体は質量に圧されて後方の宙を舞う。
そのまま後方の結界の壁に激突し、闘技場の地に落ちた。
「はぁ…、はぁ…」
大規模練術を使用したため、さすがに練気と体力の消耗が激しい中田。
「カタギー!」
「まともに食らってしまいましたね……」
アリサと統もその場面を直視していた。
「……」
反面、晴馬は特にリアクションはない。その眼が見据えるのは、片桐が落ちた地面。
いや、正確には落ちたのではなく着地していた。
「いやー…、あっぶねえ…。《《うまくいったぁ》》…」
さすがにダメージはあるが、致命傷とは程遠い。
「なんで…!?」
驚愕する中田。無論、必殺のつもりで放った一撃だったからだ。
そんな中田に片桐の眼が映る。何かを決意したような、中田にとっては不気味な眼だった。
思わず鳥肌が立つ中田。
(…うん。いい感じ)
次にその眼は、控え場所にいる晴馬に向けられる。
(晴馬、《《アレ》》やってみるよ…!)
アイコンタクトを受け取った晴馬。
(どうぞ)
目線と首を少し動かして許可のジェスチャーを出す晴馬。その光景に気が付いたアリサ。
「ん?今何かカタギーがこっち見てた?」
「アリサさん。先ほど、状況を打開する手立てはないのかと仰っていましたね」
「え?まぁ、うん」
「では、見ていてください。第2ラウンドの開始です」
晴馬の口角を上げたアドバイスに、アリサは不思議そうに闘技場の片桐へ目線を移す。
とあるプランを定めた片桐は中田を見据える。中田は背筋に悪寒が走りつつも、消耗した練気と心身を必死で整えていく。
しかけたのは片桐。先ほどよりも力強い格闘術を中田にぶつけていく。中田も消耗しつつも防御していく。
ただ、中田や観客席から見ていたアリサ、統はその格闘術に違和感を覚えた。
確かに力強い格闘術ではある。しかし、その弊害なのか大雑把な攻撃でもあった。言い換えれば雑ということ。そして、中田にしてみれば「隙ができる」という意味でもある。
そして、その隙が中田の前に姿を見せた。
左拳がかなりの大振りで中田に迫る。スピードはそれなりだが冷静になれば避けることは可能で、狙っている場所も分かりやすい。
その見立て通り中田は冷静に左拳をかわし、よりノックダウンを期待できる片桐の部位を選定する。
直後、その思考と視界が冷たい衝撃と共に揺らぐ。
(!?)
その衝撃の直前、中田がその正体を視界の隅でギリギリ捉えていた。その正体は《水の練気》だった。
(コイツ!練術を使えたのか!?)
顎のあたりに練気がヒットし、揺らぐ中田の視界。何とか見えたのは、片桐が中田をノックアウトさせんとばかりの右拳を自分にむけようとしてくる光景。
ただ、あんな大雑把な攻撃がかわされた後にしっかりと腰の入った拳を用意できるのは違和感があった。しかし、それは逆にあんな大雑把な攻撃を左拳で放ったことも起因して解消できていた。
(まさか…!いきなり大雑把な動きになったのはわざとか…!)
中田が片桐の隙を見据えたことと同じように、片桐も中田の隙を窺っていた。
いや、正確には作り出そうとした。
大雑把な攻撃をすれば、ある程度の武術の心得がある者ならば真っ先に隙として捉えるだろう。恐らく中田もその例に漏れない。
わざと利き腕とは反対の左拳で大雑把な攻撃をしたと見せつけ、本命は腰の入れた右拳を準備する。
そして何よりも、中田の計画を突如として揺るがした水の練気。
まるで砲台のように片桐の背後に配置され、左拳が空を切ると中田に向かって発射された拳の形をした水の練気。
【属性系練術・水、水塊砲】
練度が低いため威力は致命傷とはいかずとも、不意をついた中田の顎にヒット。思考と視界が揺らがせるのには十分だ。
そして片桐は、揺らぐ中田に対して右拳を集中させる。
(まずいまずいまずいまずい!なんとか練気を防御へ…!)
中田も必死に防御態勢を整えるが、揺らぐ視界と思考ではお粗末もいいところ。
そんな中田の身体へ無慈悲に拳が迫る。しかも、ただの拳ではない。先ほどの水塊砲と同じように、水の練気を纏った拳だった。
【水塊拳】
先ほどよりも強い衝撃の拳が中田の腹部へ直撃。更に、その練気の水が中田の身体へ接触したまま激しく爆散。
その衝撃たるや、中田を後方の結界の壁へ吹き飛ばすには十分。
中田は結界に激突し地面に倒れ込む。そのまま気絶した。
「イッツォォォォォォォォバァァァァァァァァァァァァァ!!!
ヴィナァァァァァァァァァァァァァ!片桐ィィィィィィィィィ招也ァァァァァァァァァァァァァ!!」
フレイムのコールが響き決着。軽く息を吐き、勝利という結果と共に高揚した心身を整える片桐。
「イィィヤッタァァァ!!」
「っし…!」
両手をバンザイのポーズで上げ、本人以上に盛大に喜ぶアリサ。珍しく拳を握って、これまた本人以上に喜ぶ統。
「やったよー!先生ー!」
喜びのまま、やや寝起きの晴馬の肩を激しく揺らすアリサ。
「そうですね」
冷静に結果を受け止める晴馬。もちろん賞賛している。しかし、全部が全部賞賛できる内容でもなかったと捉えていた。
「先生、どしたの?眉間に皺が寄ってるけど。嬉しくないの?」
「え?あ、いえ、嬉しいですよ。お見事でしたね」
内心を表に出していたつもりはないが、悟られるレベルで隠し切れていなかったらしい。
そうこうしている内に、片桐が控え場所へ帰還。アリサと統とハイタッチをかわし、2人からの祝福を受ける。
その後、晴馬も片桐へ賞賛を送る。晴馬は内心を現時点で表に出したり、片桐に直接指摘するつもりはない。したところで、変に空気を悪くするだけだ。
「どうでした?練術は」
それより気になるのは、ついに使用した片桐の練術について。傍から見れば、結果も踏まえて大成功と言えるだろう。
「うん。いい感じだったよ。とっさのアドリブも上手くいったしね」
「随分と思い切りましたね」
「あんな大技くるのは予想外だったけど」
それは、中田が片桐へ北風を放った時のこと。その質量に押されて片桐は闘技場の結界の壁に叩きつけられ、ノックアウトになるところだった。
だが、片桐はとっさに水の練気を背中に纏わせ壁との間でのクッションに使用した。これは正確には練術ではなく、あくまで水の性質を持った練気の塊をアドリブで使用したもの。
片桐に練術の準備はできてはいたものの、今回のクッションのように使用するのは想定していない。まさしくとっさの判断とアドリブ、そして実践させるだけの度胸と技術の成せる業だ。
また、その後の大雑把な攻撃による罠も片桐のアドリブである。晴馬からなんとなくそういった戦法もあることは聞いてはいたが、晴馬はあくまで選択肢の一つとして伝えたまで。これまた実践できた片桐の勝利である。
対戦相手の中田も、事前に片桐の練術を知っていればあるいはカラクリには気がつけたかもしれない。しかし、片桐の練術は今回が公には初披露。困惑しても無理はない。
「ただ…、片桐さん」
「ん?」
喉元まで出かかって、言葉が詰まる晴馬。時間にして2秒前後の思考。
「…体調はいかがですか?身体に何か変化が起こったりは?
本命の言葉は喉の奥に流し込み、現実的には片桐の身体を気にする。理由は無論、片桐の身体にある魔属の一部への作用だ。
「いや、今のところ問題ないね。むしろ、練術が成功して絶好調かも!」
「…それは何よりです」
微妙な間があったことは片桐も薄々気がついていたが、変に掘り返す必要もない。
--------------------------------------
闘技場の観客席から、片桐の戦闘を見つめる目線が一つ。
黒いローブを身に纏い、明らかに怪しい人影だが周りは気に留めない。
いや、そもそも認識されていなかった。高度な視覚誤認の結界を自身に展開させ、孤独な世界で観戦していた。
(懐かしいなぁ。練術も戦い方も青いや)
少し嘲笑気味に微笑む、ローブの下の顔。もう少し観戦といきたいところではあったが、ここでとある視線がローブの者に降りかかる。
(やっべ、もう気付かれた。さすがは晴馬。油断も隙もありゃしないぜ、あの鬼教師。いや、もう教師とは呼べないか…)
その者が視覚誤認の結界を張った上で見るからに怪しい装いをしているのは、万が一にでも結界を張った上で認識できる者に姿を見られないためだ。
その者は結界を張ったまま、忽然とその姿を消す。まるで最初からそこにいなかったかのように。
(……気配が消えた。気付いたことに気付かれたか)
控え場所から、観客席の妙な気配を見ていた晴馬。動向を注視していたものの、直後にその気配が消失。
(今の気配、やはりあの時の…)
脳裏に蘇るは、間立高校で相対した黒いローブの者。その気配と似ていた。
あの件以降、その気配には注視しているが、どうにも足取りなどは掴めない。そもそも練気の痕跡や物的足がかりもないのだから、動向を掴みようもないが。
本来ならば気配がした段階ですっ飛んでいきたいところではある。しかし、今回は多くの人々が関わる新星祭。教師として学生の晴れ舞台を壊したくはないし、変に騒ぎを起こしたくもない。
視線を向けたのも、そのローブの者が何か良からぬことをしないようにプレッシャーをかける側面もあった。
それが功を奏したかどうかは分からないが、その者は特に何かしたような様子もなくその気配を消した。
引き続き警戒は続けていくとして、今回はあくまで教師として新星祭に集中していくことにした晴馬だった。
ご覧いただきありがとうございます。
祝!片桐&統、初勝利!
統は本領発揮はまだですが、片桐はついに練術を使いましたね。まだまだ練度は低いですが、戦い方の工夫の勝利です。
さて、最後の最後に現れたローブの者。セリフなどからして、なんとなく見覚えがありそうなものですが、果たして。
次回からさらに戦闘や練術が過熱しますのでよろしくお願いします
第15話 お疲れ様でした。




