どうせやるなら
第14話です。
今回から「新星祭編」が開幕します。後々で説明するかと思いますが、新星祭は養成機関生が武を競い合うイベントです。なので、教師の晴馬はもちろん、成宮、如更己、早瀬、那須などは養成機関生ではなく等級のついた伏魔師なので新星祭には出ません。過去に出たことはありますが。
その代わり、別キャラがたくさん出るかと思います。
14話 いってらっしゃい
とある日、片桐が訪れていたのは伏魔師協会・本部の研究施設。
様々な機器が取り付けられているベッドに横になり、片桐の身体機能や練気などのデータを収集中。
片桐は伏魔師協会に来てから、週に1回のペースでこのような健診に近い対応を受けている。無論、片桐の身体に実質的に封印されている魔属の一部に関することだ。
「はい、終わったよ。お疲れ様」
そのデータ収集をメインで行なっているのは、至印将の一角である葉乙女愛徒。彼は医療面がメインの管轄だが、今回の片桐ような特殊な例の研究も担当することがある。
ある程度のデータ収集が完了したところで、片桐へ終了の合図を送る。
「どうですか?」
その光景を見ていた、付き添いの晴馬。教師としてもそうだが、片桐に最も親密な人間の一人として気になるところである。
「うーん、変わりないねぇ。不気味というべきか、変わりなく良かったというべきか……」
特に異常があるわけではない。
強いて言うならば、練気の量と増加量が平均と比較して少ないことがあげられる。ただ、これは人によっては特性として見られることもザラにある為、これが片桐本人の特性なのか身体にある魔属の一部の影響なのか判断しかねている。
仮に魔属の一部の影響があったとするならば、原因として挙げられるのがやはり霊気の影響だろう。霊気とは本来、人間を始めとする生命体にとっては毒である。強い霊気を浴びれば体調の変化が起きるし、場合によってはそのまま死に至ることも珍しくはない。
これを防ぐ方法として最もポピュラーかつ有効な手段は、練気による対策である。心身に練気をめぐらせることで、霊気を物理的にも心理的にも防ぐことが可能。そもそも伏魔師は基本的に練気を心身に纏わせることが常識につき、特段集中するべきことでもない。
ただ、片桐の場合は霊気の発生源と考えられる魔属の一部、それも魂の一部が体内にあるという点だ。これまで魔属の器になる人間はいたことはいたものの、魔属の一部が体内に現存している例など皆無。
「どうでした?」
検査を終えた片桐も、無論気になるところ。
「特に変わらないね。ま、悪いことではないから、そんなに気にせず行こうよ」
「そういうモンです?」
「そういうモン、そういうモン」
現在の不気味さに対して、かなりフランクな葉乙女。
片桐にしてみれば自身の事について何もできないことを気にしている節もある。ただ、現在変化は特になく葉乙女にしても晴馬にしても、劇的なアプローチができるわけではないのが現実。
「さて、来週から新星祭だよね。それなりの報酬も出るから頑張ってねー」
「ありがとうございました!」
いつも通りお世話になった葉乙女に対して礼を尽くし、晴馬は養成機関の校舎に戻っていった。
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「聞いてるよ?中々に良い先生やってるみたいじゃん。意外と天職だったり?」
「お戯れを。やるべきことをやっているだけです」
研究所の備え付けの喫煙室にて談笑する、葉乙女と晴馬。葉乙女は慣れ親しんだ銘柄の煙を楽しむ反面、晴馬は16歳につき喫煙が可能な年齢でもないし、喫煙をする予定もない。
ただ、喫煙室に入ってはいけないというルールもない。受動喫煙という部分は切り離せないが、ここにきてそれを気にする晴馬ではない。
「片桐君もそうだけど、アリサちゃんに統君とか粒揃いのメンツを相手に、やるべきことができている時点で優秀だと思うよ」
「それは彼らが年齢にそぐわず立派だからです。私はそのサポートにすぎません」
「彼らと同い年の君が言うかね…」
加えて、その粒揃いの三名を同時に相手して汗一つかかずにあしらっている人間の謙遜だ。人によっては嫌味レベルだ。
「それはそれとして、やっぱり来週の新星祭は俄然楽しみだね。なにせ、晴馬君が担当している生徒達の戦いが見られるんだもの。個人的には、やっぱり天征君も見てみたいんだけど…」
「お察しの通り、今は絶賛ラブコールの最中でしてね。今回の新星祭への参加は絶望的でしょう」
「だよねぇ。勿体ないなー。君らを除けばダントツの逸材なのに。あー、いや、大河君とか蓮ちゃんとか新波君とかも同じように有望か。いやぁ、晴馬君達もそうだけど、彼らみたいな人材もいるってなると、ますます僕みたいなオッサンは肩身が狭いねぇ」
「20歳の人が何を言ってるんですか…」
20歳を『オッサン』と称するかは個人の裁量にゆだねられるが、恐らくは少数派だろう。でなければ『若さ』が定義できる範囲は恐ろしいほど狭くなる。
「なにはともあれ、当日は医療班として現場にいるから楽しみにしているよ」
「戦闘をするのは私ではありませんが、ご期待に添えるよう精進いたします」
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「なぁ、さっき本部の建物に行ったんだけどさ。なんか忙しそうだったんだけど、今日って何かあるの?」
定期検診を受けた後の戦闘訓練の合間、片桐が統に雑談交じりに問いかける。
定期健診で赴いていた本部の建物内では、様々な関係者や職員が書類やタブレットを手に奔走している光景が繰り広げられていた。
無論、忙しそうな人を引き留めて理由を聞くほど片桐も野暮ではないし、大体の人は知らない人たちだ。が、気になるのもまた事実。
「ああ、今日は監査の日ですね」
「監査?ちゃんと仕事やってるか的な?」
「まぁ、端的に言えばそういうことです。定期的に保安局の担当者が来て、業務の内容や労働内容などで法を逸脱していないか見に来るんですよ」
保安局とは呼んで字の如く、世間の治安維持を主の生業とする機関である。単純な犯罪者も対処するが、魔属や魔徒にもその仕事は適応される。魔属、魔徒に関する対処数は伏魔師協会には劣るが、治安維持という点では、伏魔師協会よりも範囲は広い。
「へぇ…。割と一般的な会社みたいなことやってるんだな」
「表舞台にあまり出ないですが、れっきとした仕事ですからね。人の生き死にや実害が出やすい職業ですから、その辺りはむしろ一般的な会社よりも厳しめと聞きます。まぁ、法に則って仕事していれば問題ないハズです。実際に監査に引っかかったという話はあまり聞きませんしね」
そんな会話が繰り広げられている二人から少し離れた所。晴馬がタブレットを操作しての業務中、そこに近づく人物が一人。
「や、久しぶり。晴馬君」
伏魔師の黒い軍服とは真反対の白い軍服を身にまとう男性。糸目で人当たりが良さそうな笑みを浮かべる。右手を軽く上げて振りつつ軽快に挨拶してくる。
「……お久しぶりです」
《保安局・伏魔課所属保安官、朝希首竜》
彼が所属している保安局・伏魔課は、各管轄での治安維持をする保安局の中でも特に、伏魔師関係を担当している。
魔徒や魔属に関しても治安維持の範囲内で対応しているが、この課の真価は伏魔師協会を始めとする伏魔師に対する対策である。
今回の監査を始め、相応の能力を有している伏魔師に対して法やモラルを逸脱しないかを監視して、場合によっては制裁を加える権限も有している。伏魔師にとっての抑止力とも言えよう。
白い軍服は保安局・伏魔課の制服である。その白い服に負けず劣らず、鮮やかな銀髪が特徴的な男性。
「噂には聞いていたけど、本当に教師とはね。個人的に君は前線でバリバリ働くのがいいとは思うんだけど、さすがは晴馬君だ。教師もハイレベルでこなしているそうじゃない」
「……恐縮です」
聞きやすく、明るい声色で話す朝希。表向きにはかなりコミュニケーション能力が高く、誰でも心を開きそうな雰囲気だ。しかし、晴馬はやや怪訝に対応する。
理由は違うが、晴馬にとってはとある同期と同じレベルで会いたくない人物の1人である。
「……今日は監査の日では?こんなところで雑談していてよろしいのですか?」
まるで朝希の来訪を跳ね除けるように、朝希の仕事に関する憂いを口にする。無論、建前100%だ。
「ああ、そっちは優秀な部下に任せてきたから大丈夫さ。あと30分もすれば終わるだろう」
自信の右腕についている腕時計を見つつ、笑顔で問題ないことをアピールする朝希。
「……貴方が加われば、もっと早く終わるのでは?」
「確かに、僕が加われば10分に短縮されるだろうね。けど、僕には僕の仕事があるからさ」
「……私と雑談することが仕事とでも?」
「心外だなぁ。スカウトも立派な仕事の内だと思うけど?」
そう。晴馬がイマイチ朝希を苦手としている理由の一つが、毎回会うたびにこの話となるからだ。
「個人的に、君たち伏魔師協会からは三名の人材を欲しいと思っていてね」
勝手に話を進め始めた朝希。止めるのも面倒になった晴馬はそのまま黙って聞くことに。
「一人目は至印将の那須君だ。おっと失礼。いくら年下とは言え、階級的には殿を付けるべきだね」
伏魔師と保安局ではそもそもの適用される階級が異なる為、明確にどちらが格下とは言えないが、とりあえず相応の階級には相応の敬称を付けるべきだろう。
「やはり彼は素晴らしい。あの若さで至印将を担い、練気や練術の扱い、総合的な戦闘力も申し分ない。しかも、まだ伸びしろがありそうだ。君たち豊穣の世代の中でも、天才と称されるだけはある。なにより品格も伴っている」
これに関しては晴馬も同意だ。晴馬の一つ年下とは思えぬほど完成度の高い伏魔師であり、そのうえ成長の余地もある。
「二人目は養成機関生の鴉間君だ。彼の練術は、サポートの能力がずば抜けている。彼が後方にいてくれること考えると、安心感が違うね。なにより品格がありつつ従順そうだ」
前半は同意するが、最後の評価に関しては朝希の人間性が垣間見える評価内容に思える。同意自体はするものの、場合によっては統の人間性を否定されてもおかしくはないからだ。そして朝希がそうする人物がどうかで言えば、条件が整えばする側だろう。
「そして、三人目はやはり君だ、晴馬君。まさしく稀代の伏魔師。これ以上の言葉はいらない。強さ、品格、どれをとっても最上級だ」
先ほどとは打って変わって、まるで演説のようにテンションを上げて褒め称える朝希。
「那須殿と鴉間君は私の部下として欲しいが、君は別だ。言うなれば私と肩を並べる真の同志と言ったところだろう。私と同じ視線と同じ格で仕事をしてほしいんだ」
いつものことにつき、ため息を吐く晴馬。
「……分からないなぁ。なぜそこまでして伏魔師協会に拘る?例の件があって以来、君に対して心無い風当たりもあるだろう。あろうことか『異端』というレッテルまで貼る始末だ。君のような素晴らしい人間に対して、失礼極まりないと思うんだが」
色々と思うところがあるのか、虚空を見つめて数秒の沈黙を織りなす晴馬。
「……保安局に行けば、それが改善されるとでも?」
少し予想外の問いに、朝希の眉が少し動く。
「安心してくれ。文句は言わせんさ」
朝希の微笑みに付随する答えに、晴馬も軽く微笑む。
「人々の安全を守るハズの保安局に、前職で『異端』と称される人物が入るのは不適格かと思いますが」
「それに関しては認識の差だね。確かに人々の安全を守るという点は変わらない。しかし、全員が善人でほのぼのしていれば安全を守れるとは限らない。安全を脅かす輩に対処するには力が必要だ。君に『異端』というレッテルを貼ったのは遺憾に思うが、力ゆえのレッテルということも事実だろ?」
それに関しては無言で同意する晴馬。不本意だが、朝希とは根本的にどこか通ずるものがあるのだろう。その事実を吹き飛ばすように、軽くため息を吐く晴馬。
「お褒めに預かり恐縮です。ついでと言ってはなんですが、他の2人の生徒に関してはどうでしょう。お眼鏡にかないませんか?」
晴馬が指した対象はアリサと片桐。
「ほう。僕の評価に興味を持ってくれるのかい?」
「いえ。担任ですので生徒の客観的意見は聞いておくべきかと」
朝希の言い方や評価内容はともかくとして、慧眼を持つ第三者からの意見は聞いておくに限る。
「なるほど、それもそうだ。まず、あの女子生徒は確か陽鋒アリサと言ったかな」
もうこの時点の言い方であまり評価が良くないことがよく分かる。無論、聞いた立場で止めることはしないが。
「確かに数年前は目をつけていたんだが、ここ最近の様子を見てガッカリした。美しい剣術などと称されているようだが、僕に言わせればまるで成長のない地味な剣だ。どんな事情があるのかは知らないが、同じような剣術を馬鹿の一つ覚えのようにブンブンと振り回すだけ。おまけに無駄に小うるさく品格が無い」
散々な酷評だが、やはり見る目はある。最後の品格云々はやや主観的な好みに聞こえるが、以外は客観的意見としてケチをつけるところがない。実際に晴馬も朝希と同じ考えの部分はある。
「では、片桐さんはどうでしょう」
「片桐?ああ、あの新人か。言わなくても分かるだろう?論外だ」
これまた酷評の予感。そして、それは大正解だ。
「多少は動けるようだけど、精々素人に毛が生えた程度だ。練術もまともに扱わず、覚えたての体術で騙し騙し戦っている。戦闘に品格が無さすぎるね。それに、彼には身体に魔属の一部が封印されているんだろう?穢らわしい。正直、今すぐにでも殺すべきだとすら思うね」
人によってはラインを超えていると捉えられてもおかしくはない評価。酷評と言うより誹謗中傷に近い。
「すまない。流石に言い過ぎたかな」
一応発言の謝罪はするものの、芯を曲げる気はサラサラないのが嫌でも伝わってくる。
「個人の意見ですし、聞いたのは私ですから文句を言う権利はありません。強いて言うなら本人や至印将、評議会員に聞かれていなければ私は構いません」
晴馬にしてみれば、片桐は実際にそういった意見が出てもおかしくはない立場の人間ということを、客観的に理解している。仮に殺処分になったとしてもなんら不思議ではない。ただ、成宮や葉乙女をはじめとする面々がその意見に真っ向反対しての結果ということはなんとなく想像できる。
快か不快かで言えば不快ではあるが、それをここで発散するほど自分本位でも空気を読めないわけでもない。
「ありがとうございました。参考になりました」
「なんの。そう言えば、来週から新星祭だったな。個人的には、やはり鴉間君の戦いを楽しみにしていよう」
「お越しになるんですね」
「無論。血の気の多い馬鹿が、何かをしでかさない保証もないしね。知らんところで下手に問題を起こされても困る」
ここで朝希の懐から電子音が鳴り響く。晴馬に「失礼」と最低限の礼を尽くしつつ、懐から取り出したデバイスを手に取り通話を始める。
やり取り自体は5秒前後で済んだ。
「監査が終わったようなので、これで失礼するよ。もし僕の誘いに気が向いたら、いつでも連絡してくれ。那須殿や鴉間君もそうだが、特に君からの連絡とあらば、どんな会議や仕事よりも重要案件だからな。相応の待遇も保証しよう
スカウトプレゼンテーションと生徒への酷評を置いて、朝希は本部の建物へと去っていった。
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《新星祭》
年に2度開催される、伏魔師養成機関の生徒達の武を競い合うイベントである。
本部と各支部3つから選出された3名、合計12名による1vs1の戦闘が主となるシンプルなルールであり、入賞者には賞金が授与される。
また、養成機関卒業後の等級を決める指針の一つともなっており、実際に新星祭で評価を上げ卒業後にすぐに一等師になった者も少なくない。
選出されるメンバーは各養成機関生であれば資格はあるが、やはり最上位の特進科から選出されるのが通例。
本日はその新星祭の当日。片桐を始めとする本部特進科の面々も、その会場に赴いていた。
やや一般の区域から離れた地区。そこは伏魔師に縁のある人達による一種の町のような場所。
そこにいる人達は伏魔師にゆかりのある人達が大半で、伏魔師が本職の人もいれば武器や練術、戦式の札を作る人、その家族などの人達が住まう場所である。
正確には支部などではないが、各支部に負けず劣らずの人口比である。
その町の中央にそびえる、螺旋状の大きな建物。
大昔からある建物で、正確な建築年数はやや曖昧なほど。今回のような公的な戦闘などのイベントごとに使用されたり、そもそも歴史的な価値を鑑みて定期的な改修などで現存している。
この建物を始めとして活気のある町ゆえ、観光名所としてもそこそこ有名だ。伏魔師を知らない人からすると、入り口のような場所だろう。
「でっか……」
その建物の入り口まで来た片桐は、そびえ立つ建物の外壁を見つめる。もはや何mあるかも分からないほどのその外壁は、晴天の光すら影に落とすところをも作り出している。
「一般社会にはそうそうありませんよね。ま、伏魔師の世界にもここまでの建物は本部以外にありませんけど」
統が後に続いて建物を見上げる。
伏魔師協会の本部は山中に隠してある分、分かりにくいが、高さはこの建物と遜色ない。全体的な体積では本部に圧倒的な分があるが。
「観光はほどほどに、そろそろよろしいですか。入りますよ」
晴馬はあくび混じりに片桐と統に誘導をかける。
「晴馬、寝不足か?」
そのあくびが気になった片桐。
「え?ああ、失礼。顔に出てましたか?」
「なんとなくだけど。教師ってやっぱり大変?」
「そうですね。魔属や魔徒の討伐などであれば話は別ですが、教師の経験などないものでしてね。慣れない仕事は疲れます」
「そりゃそうだ。何せ16歳だからね」
「そんな常識は通用しませんからね。この世界」
なんて雑談をしつつ、一行は建物の中に入る。内部は螺旋状に沿うように廊下が続き、壁は歴史を感じる石造で重厚なデザイン。
また、人混みもそれなりにあり、屋台や観光向けの店舗なども並び活気あふれる様子だ。
一行が向かったのは、建物の中心地。そこは吹き抜けとなっており、最下層には広大な闘技場が広がる。
そこに計12名のメンツが集まり、開会式となる予定だ。
「当然だけど、見たことない人ばっかりだなぁ…。みんな特進科?」
「どうでしょう。毎年、結果的に特進科の面々となりますから大半がそうだと思いますよ。私も見たことのない人がいるので、一般科の人もいるかもしれませんね」
養成機関は特進科を別枠にして、その下に一般科が存在する。
この場合の一般は伏魔師に関係ない一般を指すのではなく、養成機関生の中での一般的という意味だ。この一般科の生徒も出場資格はあるが、実力と成績が優先されるため特進科の面々が出場することが大半となっている。
そんな中、アリサもあたりを見渡す。そして、その目当てを発見したようで「おーい!」と元気よく声を張り上げる。
その対象も気がついたようで、同じく元気にアリサの元へ向かってくる。
「久しぶりー!蓮ちゃーん!」
「アーちゃんも犯罪的に久しぶりー!」
互いに両手を合わせて飛び跳ね、再会を謳歌する女性二名。
「お久しぶりですね、蓮さん」
「お!統もヤッホー!」
統も遅れて挨拶を交わす。
そして無論、置いてけぼりの片桐。
「あー、そっか。カタギーは初めましてだもんね。こちら、第二支部の侑蓮ちゃんです!」
「お初に!侑蓮でーす!蓮って呼んでねー!」
金髪かつ長髪で、両耳にはピアス。軍服のズボンは履いているが、上着はシャツで裾を結って縛っており、いわゆる『ヘソ出し』スタイルの装い。
キャミソールの紐が少し見えていたり、豊かな胸の谷間が露出しているが、本人はどうやらお構いなし。
見たらわかる。『ギャル』である。
伏魔師の軍服は夏にも対応できるほど高性能だが、装い的には7月の現在、シャツをメインに着ている蓮の方が正解といえば正解だ。
「片桐招也っす!よろしくです!」
なかなか絵に描いたような装いに少し驚くも、すぐに立て直して元気に挨拶する片桐。
「噂は聞いてるよ!なんでも一般人から伏魔師の世界に来たんだって?なんかよく分かんないけど犯罪的に凄いねー!」
「まぁ、成り行きでね。アリサや統のおかげでなんとかやれてるよ」
『犯罪的』がよく分からなかったが、恐らくは口癖のようなものだろうと解釈して呑み込む片桐。
快活な面々との会話に難なくついていく片桐。特段喋る方でもないが、だからと言って熱量の高い人についていくのは苦ではない。
本部特進科の面々とのファーストインプレッションもそうだが、他者とのコミュニケーションに関しては抜群のものを持っている片桐。
伏魔師に縁がなかった片桐がここまで溶け込めたのは、コミュニケーション能力の高さもあるだろう。
「相変わらず元気だな、お前ら」
「ね~。始まる前に燃え尽きるよ~」
そこに近づく男性二名。
「お!新波に大河じゃん!おひさー!」
やや割って入る形の男性二名だが、礼儀を忘れるような者達でもない。
「君が噂に聞く片桐君かな?初めまして、第三支部の三神新波だ。よろしく」
「第一支部の宙良大河で~す。よろしくね~」
「片桐です、よろしく!」
キッチリとした話し方の三神、緩やかな話し方の宙良と握手を交わす片桐。どちらもある程度の人格者だということは分かる。
「……天征はやはりいないか」
少し辺りを見渡す三神。
「ええ、連絡もつかなくて…。ただ、先生によると元気なことは元気らしいですよ。三神君との約束を守れなくて申し訳ないですけど…」
統がやや申し訳なさそうに答える。
「おいおい、統が気に病むことはないだろ。結局はアイツ次第だ。寂しくはあるが、いないものは仕方がない。ところで、その先生とやらは、やはり天津晴馬のことか?」
「ハル様!!!!!!!!!!!!!」
突如として、会話を切り裂く蓮の声。
「びっくりした…。なんだ急に…」
最も近くにいた三神は心臓に悪い体験をしたが、そんなことより気になるのは会話を切り裂く声を出した原因だ。
「ハル様!やっぱりいるの!?」
「うん、私たちの引率で来てるよ。今は関係者の打ち合わせでどっか行ったけど、見かけたら呼んでこよっか?」
晴馬がいるであろう方向を、親指で指すアリサ。
「いや!待って!!まだ準備できてない!!!ハル様に会うなら、もっとメイクとか盛ってこないと!!!!」
「そのままで十分可愛いと思うけど」
アリサの言う通り、年相応にきらびやかな装いの蓮。
ここまでのやり取りで、なんとなく晴馬に好意があることを察する片桐。
男目線ではあるが、晴馬は確かに男前である。おまけに身長もそれなりにあるしスタイルもいい。モテてもなんの不思議もない。
「それよりも天津晴馬、いや失礼。天津先生の授業はどんな感じなんだ?」
今度は別の視点での興味を惹かれる三神。その質問に本部特進科の三名は顔を見合わす。
「鬼!」
「鬼だね」
「鬼ですね」
アリサ、片桐、統による三者三様の言い方。ただ、内容は違わず一致している。
「そんなにか…?」
予想外の完璧な満場一致に、質問した三神は少したじろぐ。
「うん。正確には先生の強さが鬼だね。戦闘訓練の時に先生一人と3vs1でやることがあるんだけど、勝つどころか一撃も当てられたことないんだよねー」
「武勇は耳にするがそれほどとは…」
アリサの評に素直に驚愕する三神。
「さっすがハル様!!!!!!!!!」
かたや大興奮する蓮。
「こわ~」
割とどうでも良さそうな宙良。
そんな中、もう少しで開会式が始まる旨のアナウンスが響く。
「さて、もう少しで始まりますね」
「うん!楽しみ!」
「ね!犯罪的にアガってきた!」
「僕は犯罪にならない程度にいこ~」
「まだあんまりよく分かんないけど、確かになんかアガるな!」
「柄じゃないが、どうせやるなら勝利は全部もらっていく。お前らは俺と対峙した時の、黒星の覚悟でもしておいてくれ」
統、アリサ、侑、宙良、片桐が意気込みを新たにする。
三神は普段はあまり煽る発言はしないが、周囲の熱やイベントごとの熱気に中てられて意地悪っぽくある意味で発破をかける。
「いーだ!新波こそ、ハル様へのアピールの踏み台にしちゃうもんねー!」
「それに、始まる前のビッグマウスは負けフラグってやつじゃない~?」
「抜かせ」
最後に三神が微笑む形で解散となった。
一方で、片桐に向けてとある視線が向けられている。恐らくはやや遠目に見えるとある男子生徒から向けられていた。ほんの少し目線が合ったが、すぐに相手側から外される。
なにより気になったのは、それはどちらかというと敵意に近いものがあったからだ。
気にはなるものの、確証もないのに事を荒立てる必要もない。気にせずに開会式へと向かった。
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関係者の打ち合わせを終えた晴馬は、本部代表の控室に向かっていた。
「よう、晴馬」
その道中、後ろから男性の声で話しかけられる。
第二支部特進科の担任教師、宝生親弥。
彼は今回の新星祭での第二支部の引率である。
「お久しぶりです。先生」
そして、かつて晴馬が短期間ながら養成機関に在籍していた際の担任教師でもある。
真に心を許せる数少ない存在でもあり、思わず肩が軽くなり自然な笑みが溢れる晴馬。
「今はお前も先生だけどな。何はともあれ立派にやってるみたいじゃねぇか」
「先生ほどじゃありませんよ」
「お前のスペック考えると、どうにも変な謙遜にしか聞こえねぇな」
「これでも苦労してるんですよ?授業の内容考えたり、報告書とか成績表とか」
「あー、すまん。前言撤回だ。その苦労はよく分かる。なんか疲れてるみたいだしな」
「…分かります?」
「ああ。イカしてる男のツラをしてるぜ」
晴馬は伏魔師として非凡な存在ではあるが、流石にやったことのない仕事に関しては苦労するものである。それでも文句のつけようがない授業内容や報告書などを書き上げている辺り、謙遜と捉えられてもおかしくはないが。
ただ、簡単かどうかは別。晴馬にしてみれば苦労の末の仕事ぶりなのだ。
それなりの年月、教師をやっている宝生もその苦労をよく理解している。
「しかしまぁ、面白いもんだな。年齢を考えたらお前は本来は引率じゃなくて、出場する側だもんな」
「今更言います?それ」
「お前の経歴とスペックからしたらありえねぇんだけどよ、本来はもっと学生らしい時間を過ごした方がいいんじゃないかって考えちまうのよ」
「ご心配していただいているとして解釈しますけど、そういう理屈が通じる世界でもないですから」
「おいおい、お前の年齢でそういうこと言われちゃ、オッサンの立つ瀬がないじゃないの…」
「優しいですね、相変わらず」
「バーカ。いくらお前でも俺を慰めるには10年早ぇよ。ところで、どうだ。今年の新星祭は誰が優勝すると思う?」
「あまりそういうのは気が進まないんですが…」
戦う前から勝敗を決めつけるのはあまり気が進まない晴馬。下馬評などの言葉はあれど、勝敗を決めることができるのはあくまで当事者と未来だけである。
「いいじゃねぇか。俺も本来ならあんまり怪我なく終えてくれりゃなんの文句もねぇけどよ、せっかく晴馬が教師になって教え子も参加してるときたもんだ。少しくらい、その辺り楽しんでもバチはあたんねぇと思わねぇか?ホラ、軽い雑談のついでだと思ってよ」
「……分かりました。全員の戦闘を見たことはないので、あくまでデータ上での判断になりますけど」
「それでいいそれでいい」
宝生の言い分も分からなくはない。ひとまず今回は乗ることに。
「個人的な優勝候補は三名ですね。第一支部の宙良さん、第二支部の侑さん、第三支部の三神さん。次点でアリサさんと統さんでしょう」
「自分の生徒を優勝候補に加えないのか?」
「その辺に関して嘘はつきたくありませんので。本人たちが一番解っているでしょうし」
「生徒想いだな」
これは皮肉ではなく言葉通りに誉め言葉だ。教育において、場合によっては事実を隠して方便を使ってモチベーションを保たせる手法もあるだろう。だが、晴馬の生徒達はその方法を使わなければならないほど技術、メンタル共に稚拙ではない。
「じゃあ仮に今回、天征が参加していたらどうだ?」
宝生の質問に対し、沈黙が流れる。
「……優勝候補の中には入るでしょうね」
仮定もいいところなのでノーコメントで回答をしようと思ったが、仮定の権化でもあるデータで話が成立している以上、今更である。ひとまず晴馬の中の事実を回答することに。
「その様子だと、やっぱり授業に来てねぇんだな」
「ええ。数日前にお会いしたんですが、振られてしまいましてね。それ以降は中々に動向を掴めません。……全く、厄介な技術をお持ちなものです」
一度は気配を掴んで挨拶はできたものの、以降は気配を掴むのが難しい。教師の仕事や通常の伏魔師としての仕事もあって時間を取れないこともあるが、天征本人が気配の消し方に修正を加えたようだった。
「まぁ、評議会にしてみれば、後進育成の面で今一番に対応しなきゃいけねぇことかもな。単純に伏魔師協会の伏魔師になってもらいたいこともそうだが、野放しの方面でも嫌だろうから」
本人が伏魔師協会の伏魔師にならないなら、組織としてはまだいい。だが、最も避けるべきなのは天征が伏魔師協会にとって敵対するような立場に収まること。
具体的には魔徒のような存在になることだ。
現時点で実力があり、さらに伸び代のある人材が敵対とあっては組織として大損である。
「だからこそ、晴馬を教師にしたんだろうしな。正攻法で解決できる問題でもなくなったっつうわけだ」
前述のような事態になる前に、なんとしても天征を伏魔師協会管轄の養成機関へと連れ戻したいのが組織の思惑だ。そこで、ここまできたら合理的な成功のためなら他者が躊躇うような手段を積極的に用いる人間が最適だという判断だ。
晴馬がその人物像に当てはまるかどうかは、数ヶ月前の間立高校の件で立証済みである。
「…はた迷惑な話です」
他者が躊躇うような合理的な手段を用いて片桐を巻き込み、教師の任を受けざるを得ない状況を作ったのだからある意味で自業自得ではある。
「プランはあるんだろ?それも評議会が頭抱えそうな」
「…人聞きが悪いですね。そもそもお鉢を回しておいて、勝手に頭抱えられても困りますよ」
「勘違いすんなよ。別に俺はケチつけようってんじゃねぇさ。次も五体満足で雑談できりゃ十分だ」
「…そこまで危険なことしそうに見えます?」
「お前…、その辺の自己評価高すぎるぞ…。大君級相手に、支援申請しないでほぼ単独でやった奴が何を抜かしてんだよ」
評議会員へ送った別々の内容の資料は置いておいて、支援申請なしで大君級を単独討伐した事実は誤魔化しようがない。
どうにも天秤に乗せる自分の命の価値が軽すぎる晴馬。実力を自負していることを差し引いても、正直異常もいいところだ。
宝生も晴馬の担任をしていた際にその片鱗は見えてはいたが、矯正できなかった。宝生が担任をしていたころには、悪い意味で晴馬は様々な点で完成された人物だったからだ。
自分の実力、実績、そして自分が世界にとってどんな存在かも嫌というほど理解していた。
そして、そこに宝生が付け入る隙はなかった。無論、宝生以外にも。
ここで、開会式の開催を伝える旨のアナウンスが響く。
「さて、時間だな」
「ですね」
宝生の言葉に応じて、晴馬も腰を上げて控え場所に向かう。
「あ、ところでよ。一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょう」
並走して歩きつつ、晴馬に肩を組んでくる宝生。少しタバコの匂いが気になるが。
「お前さっき、ウチの蓮を《侑さん》って呼んだだろ?」
「ええ、もちろん。実際にお会いしたことがない方ですから。それが何か?」
「そこなんだけどよ、下の名前で呼んじゃくれねぇか?」
「下の名前で…って、《蓮さん》みたいな感じでってことですか?」
「そうそう!それで頼むぜ!」
「いや、流石にお会いしたこともない方を下の名前で呼ぶのはどうなんでしょう…。というか、何でですか?本人からの頼みであればそうしますけど、そういうわけじゃないでしょう?」
当然の晴馬の疑問に「あー…」と呟きつつ、後頭部をかきながら虚空に答えを求める宝生。
ここでうまく嘘をついたり誤魔化せないのが、宝生のある意味の長所である。
「…まぁ、なんだ。下世話ってやつだ」
「…はい?ますます意味がわかりませんよ…」
「だー!もー!悪いことは言わねぇから、頼まれてくれ!な!?」
なぜかグイグイ肩を寄せて必死になる宝生。ここまで熱を入れるのは、晴馬が宝生の生徒として過ごした間にも見たことがなかった。
「あー!もう!分かった!分かりましたよ!ただし、これで本人に変に嫌われたりしたらちゃんと責任とってフォローしてくださいよ!?」
「それは大丈夫。嫌われることはまずないから」
「…その根拠がどこから出てくるのかは知りませんけど、色々と頼みますよ…」
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例年通りの歴史ある闘技場で行われる新星祭。闘技場を中心に活気あふれる街を歩く、とある男性。
伏魔師養成機関・本部特進科の生徒、荒木天征。
多くの伏魔師が身に着けている黒い軍服は着ずに、ややカジュアルな服装で歴史ある建物に向かって歩く。その表情は暗く、足取りは平均と比較して遅め。
見据える闘技場の中で、顔見知りの面々が自分の事を憂っていることは想像に難くない。だが、今はその憂いを払拭する行動に出るつもりはなかった。
いや、真に払拭するべきは自分自身の心にかかる霧だということを天征も解っている。
恐らくその霧を払拭できる答えを求めてここに来たのだろうと、自分自身で考察してみていた。
(カスかよ)
そんな他力本願の心持を嘲笑している時点で、まだまだ霧は晴れないだろうと自己評価を下す。
歩みの先の闘技場は、今まさに祭りを迎えようとひときわ活気を増すのだった。
ご覧いただきありがとうございます。新キャラたくさんですね。
第一支部の宙良。まったりした喋り方と、星型の髪留めが特徴ですね。
第二支部の侑。金髪ギャルです。もう隠す必要もないですが、晴馬LOVEです。
第三支部の三神。めっちゃガタイと性格のいいNiceGuyです。強いです。
そして、保安官の朝希です。白い軍服と糸目、銀髪の男です。ナチュラルに性格が悪いです。
以後、お見知り置きを。
第14話 お疲れ様でした。




