乾坤一擲
第18話です。遅くなって大変申し訳ございません。
新星祭もいよいよ大詰め最終戦でございます。最後はアイツとアイツの戦闘となります。是非見届けてください。
第18話、いってらっしゃい
「統!」
相応の声を出しつつ、アリサが医務室の扉を開けた。中にはカーテンが付随しているベッドが数台と、白衣の男性が座している回転式の柔らかい椅子、様々な医療機器と患者の情報が載ってあるモニターが一台。
アリサの焦った声色の来訪に、白衣の男性である葉乙女が、自身の唇に右人差し指を当てる。
「コラコラ。医務室ではお静かにね」
「あ……、すいません……」
慌てて口をつむぐアリサの後ろから、片桐と晴馬が静かに入室。
「先生、統は……?」
片桐からの問いかけに葉乙女は優しく微笑み、カーテンのかかったベッドへ本部所属の三名を手招きする。
少し開いたカーテンから見えたのは、ベッドの上で静かに眠っている統の姿。寝息を立て、気持ちよさような表情をしている。
「大丈夫、寝ているだけだよ。多少は戦闘の傷があるけど、身体に大きな問題はない。練気切れによる疲労だね」
当然ではあるが、宙良の統も相応の練気を使用しての戦闘となっていた。加えて、練気切れの決定打となったのは、最後の宙良の天朝城砦を模倣し、盛大に戦闘をおこなったことだ。
天体系練術に言えることだが、本来は豊富な練気量を持つ者が使用を推奨される。宙良はそれに当てはまり、盛大に練術を使用しているが、統は当然、普段は天体系練術は使用しない。加えて、練気の宙良ほど豊富とは言えない。
そんな普段は使用しない練術と、練気を消費する戦闘をしたツケがきたといったところだ。
現実、敗北という結果と反省点はありそうではあるが、すべてを出し切った良い勝負であった。
「さ、統君は僕に任せておいて、新星祭に戻りなね。残り一組が残っているよ」
葉乙女に背中を押され、本部所属の一行は医務室を後にする。
「あ、片桐君」
退室する直前、葉乙女は片桐の背中を呼び止める。振り返る片桐。
「あ、えーっと……、無茶しない程度に、存分にね」
考えていたセリフを口にしかけたが、寸前で喉元へ押し戻す葉乙女。代わりにホスピタリティに富んだ微笑みによるエールを送る。
「うっす!」
葉乙女の少しの変化には気が付かず。エールを受け取って医務室を後にした。
本部所属の面々が帰った後、葉乙女は机に付随している回転式の椅子に腰を掛ける。
先ほど口にしかけた言葉。それは、片桐の体内にある魔属の一部についてのこと。そのことに言及し、体調の変化があればすぐに周囲へ伝えるよう言うつもりだった。
無論、何が起こるか分からず、今回は周囲に悪影響を及ぼす事態になれば、多くの人命に関わるからだ。
それでも伝えなかった理由としては、変に魔属の事を意識させたくはなかったからだ。
下手に意識させて、何かしらの事態へのトリガーになりかねないと考えた結果だった。忘却は論外にしても、意識させる方と無意識は、どちらが正解かはわからない。結果、あくまで現在の片桐のまま、新星祭の最後の戦闘へと赴かせることがベストと考えたのだった。
自分の行動に対する評価を自問自答し、何かあった時の為の準備を進める葉乙女。
(おっと……。今は仕事中だった)
無意識にタバコをくわえそうになったが、医務室ということを思い出して懐にしまった。
葉乙女はタバコを嗜むが、場所や勤務状況はキッチリ弁えるタチだ。少し変に緊張をしていることに少し嘲笑しつつ、気を引き締めた。
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新星祭も大詰め、最後の一組となる。本部所属からは、最後の一人である片桐。そして、気になる対戦相手はというと、
第三支部所属、特進科 三神新波
「わーお……ミカかぁ……」
恐らくは、三神のあだ名であろう「ミカ」を名付けたアリサ。尚、三神に対するあだ名の知名度、使用率は皆無。
やや懸念感がぬぐえないアリサ。それもそのハズ、本部所属の荒木天征と並んで養成機関生の最強候補の一人だ。そして、現在、空席の至印将の一角、煌哮将の継承候補でもある。
尚、煌哮将の候補には現役の一等師も含まれている。その上で、同じく候補の天征と並んで継承候補筆頭に躍り出ている実力者。
特進科は、限りなく一等師に近い実力やポテンシャルを有している者が大半。その中でも、天征とこの三神が頭一つ抜けている存在。
片桐も、三神に開会式で初めて会ったと時から、只ならぬ雰囲気を感じていた。初心者に近い片桐からしたら、伏魔師に関連する者も大半が格上ではあるが、相当な格上と汲んでストレッチをしながら闘技場に向かう。
片桐が戦う予定の場所には、先に三神が待っていた。
『イェェェェェェェイ!!!このスゥゥゥゥパァァァァァァァフェスティバルも大詰め!!!
この舞台に佇むのはこの男!!!
至印将の次期後継者の一人にして、大人顔負けのストロングバスターズ!!!
その暴力的な肉体と、練術、体術が織りなす姿はまさしく破壊神!!!
《大自在天》!!!
三神イイイイイイイイ!!!新波ァァァァァァァァァァ!!!』
片桐が到着したことに気が付いて、DJフレイムのコールを浴びた三神が、右手を少し上げて闘志に満ちた笑みを浮かべる。
「よう、よろしくな」
フランクな挨拶ではあるが、やる気に満ちた覇気が滲み出る三神。
「あ、ああ、こちらこそ」
思わず、少したじろいでします片桐。
少しの声からでも、伏魔師としてもそうだが、人間としても強い人物であることが分かる三神。そんな人物を前にしてか、思わず卑屈な本音が喉元にきてしまった片桐。
「あー、その、なんかすまんな」
突然の片桐からの謝罪に、眉間にしわを寄せて首を右に傾ける。当然の反応である。
「確か、天征って人と戦いたかったんでしょ?最後の最後が、初心者みたいな俺だからさ」
謝罪の理由を聞き、思わず呆ける三神。
休憩時間に、アリサから天征のことを色々と聞いていた片桐。その時に、三神が天征との戦闘を楽しみにしていたことも聞いていた。ただ、これはあくまで片桐からアリサに聞いたため、アリサに非はない。
「おいおい、そんなことか?確かに、天征と戦いたかったってのは事実だ。でも、いないもんはしょうがいない。それに、指名戦でもないのに縁ができた君にも失礼だ」
やや苦笑いしつつ、片桐の懸念にフォローを入れる三神。尤も、フォローのための建前ではなく、あくまで本音であったが。
気合を入れるように、懐から黒い手ぬぐいを手に取り頭全体に巻いていく。
「あと、君の一戦目を見ていて思ったが、君とも戦ってみたくなったこともまた事実だ」
苦笑いのフォローから一転、鋭い眼光と上がった口角が片桐を捕らえる。喉元を唾で鳴らす片桐。
「だからまぁ、細かいことは置いておいて、せっかくの最終戦だ。葉乙女先生に迷惑かけない程度に、存分に死合おうぜ」
若干卑屈になっていた片桐の心が、三神の闘志に当てられて無理やり戦闘の舞台へ引きずり出される。晴馬とは違った圧のある存在に、警戒心が嫌でも最大限に引き上げられる。
『レディィィィィィィィィ!!!ファァァァァァァァァイト!!!!』
DJフレイムのゴングがなり、戦闘開始となる。片桐は一戦目に使った水の練術と、自身の体術を組み立てようと意識を向ける。
「は……?」
片桐の眼前に、右拳を振りかぶる三神の姿。DJフレイムのゴングが鳴ってから、1秒あったかどうか。
黒い手ぬぐいを頭に巻き、まるで獣の如く眼光を輝かせる。片桐の心身が大音量の警戒音を鳴らした。その甲斐あって、三神の拳をギリギリで受ける
いや、正確にはあくまでクリーンヒットを防ぐ防御が間に合っただけ。拳を何とか両腕で受ける。
(重っ!!!!!)
しかも、火力も凄まじい。三神の拳の圧力を受けきれず、片桐の身体は後退。なんとか結界の壁には当たらずに踏みとどまった。
(マジか……!なんつースピードと威力……!!)
再び片桐の視界を支配する、三神の右拳を振るう姿。その拳をギリギリで避けていく片桐。地面に打ち込まれた拳が、地を揺らして粉塵を巻き上げる。
片桐の回避の後を見逃さず、拳による攻撃を続ける三神。回避を中心に対処する片桐だが、右拳の風圧で頬が少し切れるなどギリギリの状態。
何とか隙を見つけ、大きく後方に跳躍して三神の肉薄から逃げる片桐。三神もその距離で警戒しつつ、一旦動きを止める。
真剣な眼差しで片桐を見据える三神。頭に巻いた黒い手ぬぐいとの境目に光る、鬼神の如き眼光。真剣さの中に、少し笑みを浮かべていると錯覚させるほど、若干、戦闘への愉悦が垣間見える。
これまでの攻防と三神の圧のある雰囲気から、入学前の晴馬との戦闘訓練を嫌でも思い出す。当然の事ではあるが、片桐よりも格上の相手。練術や体術云々の話ではなく、基礎的な部分で相手のペースを凌ぐのが精いっぱい。
第一戦目で戦った、第一支部の中田と比較するわけではないが、まさしく戦闘のレベルが違う。
ゆっくりと呼吸を整える片桐。その間合いを感じ取り、三神は鋭い眼光の残像を残しつつ片桐に迫る。
凄まじい拳のスピードと火力のラッシュをぶつける三神。たとえ特進科の生徒だろうと、このラッシュをまともに防げる者も多くはない。その点、片桐はというと、
(へぇ……。やるねぇ……)
三神が評する片桐は、ギリギリではあるが三神のラッシュを着実に防いでいっている。まともに受けては、三神の火力に圧し負ける。よって、いなしや回避に比重を置いて対処していた。
一見するとうまく対処している片桐だが、今のラッシュが三神の本領ではない。そして、その本領が発揮されるのを、徐々に片桐は感じ取っていた。
(なんか……、どんどん強くなってる……!?)
拳の威力もスピードも、どんどん上がっていく。それに比例するように、なんとか凌いでいた片桐が押されていく。
そして、片桐の回避やいなしをメインとして防御が崩されていく。
三神はその隙を見逃さず、片桐の右腕を掴み、凄まじい力で片桐の身体を宙へ振り回す。その力に対抗できず、片桐の身体はされるがままに宙を舞う。
「そーらーよっ!!」
振り回した勢いのまま、三神は片桐を結界の壁に向かってぶん投げる。
片桐の身体が結界の壁に直撃する直前、片桐は練術による水のクッションで直撃を回避。
頬の汗を拭い、三神の追撃に備える。対して三神は、先ほどと同じように一旦距離を置いた。
(あの感覚…。多分、練術だよな…)
(ま、さすがに気がついたろうな。んでもって、正解だぜ)
片桐が三神の練術について分析していることを、三神も感じ取っていた。
【自己強化系練術 舞闘王】
三神の練術であり、戦闘スタイルの名称である。
有する能力は至ってシンプル。体術での攻撃を出せば出すほど、体術でのスピードや威力などの総合的な火力が上がっていく。
元々は基礎的な身体強化の練術をメインとしていたが、研鑽を積み、現在の戦闘スタイルへと練り上げていった。
片桐への初撃の時点で相応の火力を有してはいたが、そこから更に強化されるとなることとなる。
(シンプル…、ゆえに強力…か)
全身を三神の動きに警戒させつつ、自分なりに考察していく。
(さて、考察タイムはそろそろいいかな?)
再び眼光を置き去りにし、片桐に迫る三神。振りかぶる右拳。その拳がたどり着いた感触は、肉体を穿つものではなかった。
右拳に伝わる、柔らかく、冷たい感触。三神の拳は、片桐が眼前に展開した水の膜につつまれていた。
【属性系練術・水 水精の秘膜】
片桐の練術に包まれ、三神の拳は自身の想定していた威力を失った。
片桐は三神の練術や体術の脅威を考察しているのと同時に、とある対策を立てて水精の秘膜を展開していた。
それは、初撃を止めること。
理由は単純明快。段々と火力が上がっていくのならば、その火力が最も小さいハズの初撃を止めればいい。最終的に反撃に出ることは別に必要として、まずは相手の弱点を突いていくことにした片桐。
ただ、単純に防御力に割を振った練術などでは、恐らく体術による連撃は止まらない。そこで片桐が展開した水精の秘膜。これは種別的には防御の練術ではあるが、伸縮性のある性質を持つ。本来ならそれだけの練術である。
しかし、片桐は水精の秘膜で三神の拳を纏いつつ回転させることにより、絡みつく《拘束力》を生み出すために使用していた。結果、三神の連撃は一旦、鳴りを潜めることとなる。
ように思えた。
「甘い……!」
片桐の耳に届く、少し低めでハキハキした声。
三神の声が響いた着後、水精の秘膜が震え始める。正確には、水の中の三神の拳から放たれる練気の鳴動が、水にも伝わっているのだった。
纏わりつく水精の秘膜の拘束力に抗うべく、片桐が拘束力の為にかけた回転とは逆の三神の拳の捻りに連動する練気。片桐の拘束力を凪いで行く。
振動と共に、三神の拳が片桐へ前進する力に加わっていく。
(マジ……!?かよ……!)
片桐も練気を込めて維持しようとするが、三神の練気の方が上だった。
「そォ……らァッ!!!」
三神の踏ん張りを伴う練気の拳のよって水精の秘膜がはじけ飛び、そのまま三神の右拳が片桐の顔面へクリーンヒット。
【舞闘王・螺旋練拳】
これは舞闘王の中でも、性質による強化した練術ではなく、舞闘王の強化恩恵が十分に発揮されないときの選択肢である。
拳と連動する練気に捻りによる回転を加えることで貫通力を生み出し、即席での火力の底上げや、水精の秘膜を始めとする防御系の戦法に対しても、ある程度は有効な練術である。
これまでに経験したことのない火力を感じる片桐。ましてや今度は顔面へクリーンヒット。口の中に嫌な鉄分の味が広がり、視界がぐらつく。
頭に巻かれた黒い手ぬぐいの端から片桐を見据える、三神の眼光。
強い。まさしく格の違うシンプルな力の差。晴馬との戦闘訓練とはまた違うが、勝てるイメージが湧かない。
なんとかして考察していくも、三神は容赦なく襲いかかる。
(おいおい…!冗談だろ…!?)
三神の連撃をなんとか防ぐ片桐だったが、連撃とは別に、そもそものベース火力が明らかに先ほどよりも更に上がっている。
【舞闘王・演舞高潮】
三神の練術により火力レベルが一段階上がった状態であり、メインの戦闘段階である。つまり、本来はここからが本番。
三神の体術や肉体は、基礎的な部分で既にかなりなもの。ゆえに、この演舞高潮を拝めずに敗北する魔徒や討伐される魔属も少なくない。
片桐も、この状態での連撃を防ぐどころか動きを見極めるので精一杯。格の違いをこれでもかと思い知る。
踊るように、その力強い動きと拳、スピード、ぶん投げなどの体術を駆使して片桐を圧倒する三神。火力はもちろん、片桐から反撃しようにも動きをとらえきれない。
どんどんダメージは蓄積され、時間切れになれば当然、三神の判定勝ち。集中が切れようものなら、恐らくノックアウト級の攻撃をくらう。
新星祭は基本的に命のやり取りはなく、切磋琢磨の趣向である。しかし、一方的にいいように翻弄されたままでは、学びや成果もあったものではない。
せめて一矢。なにかできることはないか、頭を回し続ける。
最中、片桐は三神の一連の攻撃から、とある違和感を感じ取る。
もしかしたら……
三神の連撃の途中、連撃がほんの一瞬止まり、ぶん投げに移行するために片桐の腕を掴もうとした。
(ここ!)
その瞬間、逆に片桐は三神の右腕を掴み返す。三神は強化した身体能力ではがそうとするが、片桐は自分の腕ごと水精の秘膜で三神の腕を覆い、伸縮力を利用して巻き付け、拘束力により三神の動きを止めることに成功していた。
三神の腕が伸び切った状態での拘束により、螺旋練拳も十分な威力が期待できる状態を失った。
片桐が感じていた違和感。それは、三神が連撃の途中でぶん投げなどの体術に移行すること。最初の攻防で片桐の防御が崩れた時も、三神は拳の連撃を中断してぶん投げに移行していた。
ただ、そのぶん投げ自体にフィニッシュの感じはしなかったし、距離も離れてしまう。ダメージが無いわけではないが、せっかくなら強化した拳の火力を防御が崩れたところに打ち込んだ方が、片桐のダメージは大きいハズ。
そこで、片桐はとある仮説を立てた。それは、舞闘王には火力上昇の上限と、リセットのような仕様があるのではないかと。
それならば、わざわざぶん投げで距離を離す理由にも納得がいく。
片桐の考察は、大枠は捉えている。正確には、舞闘王の火力上昇に上限はない。しかし、上昇する練気に三神の身体が耐えられないゆえ、結果として上限となっている。
リセットも正確には、舞闘王の実質的な上限からのクールダウンに近い。人間、何をするにも常にマックスで活動できるわけではない。練気も同様で、火力がマックスのまま動き続ければ身体に影響が出る。
尚、演舞高潮はあくまで三神のベースを本調子へと引き上げる状態。今回のリセットなどの条件には当てはまらない。
以上のカラクリにより、三神はぶん投げなどの選択肢を取っているのである。細かい正解は置いておいて、結果として片桐の考察は実を結んでいた。
「やっと……、捕まえた……!」
「……意外だな、チェーンデスマッチでもお望みか?」
「まさか……!君にそれは無謀だろうしね……!」
頬に汗を流しつつ、なんとか三神の動きをとどめようとする片桐。三神も不敵な笑みをするが、隠しきれない一筋の汗が頬に流れる。
仮にチェーンデスマッチのようになっても、どっちみち三神に分があるだろう。動きを止めるだけが狙いの可能性もあるが、どうにも片桐に対する不気味さがぬぐえない三神。
綱引きのように、自分に有利な状態を作り出そうと鎬を削る両者。ただ、その均衡を続けるつもりは三神にはなかった。
片桐が掴んでいるのは三神の右腕。つまり、左腕がフリー。三神が仕掛ける。
前述の上限とリセットの関係により、連撃による火力上昇は一定までリセットされている。しかし、三神には選択肢がある。
捻りを加えて貫通力を高めた一撃、螺旋練拳。ここで、片桐はとある賭けにも近い選択肢を取る。
片桐に向かって放たれる一撃が行き着いた先には、片桐の心臓部。拳が片桐の肉体を穿った。
片桐の身体に相応の痛みとダメージが駆け巡り、口から唾液交じりの血が吐き出される。ほぼノーガードで三神の拳をくらった片桐。
勝負あったか。
三神の拳を受け吐血した片桐だが、笑みをもって三神を見据える。三神の拳が片桐にクリーンヒットする直前、水のクッションを挟んでギリギリ致命傷を避けていた。
(……やはり、か)
それを見ていた、控え場所の晴馬。少し眉間にしわを寄せて、この片桐の選択を見つめていた。色々と思うところはあるが、ひとまずは戦闘の行く末を見守ることに。
(コイツ…、わざと誘って受けた…?)
片桐のこの行動に、三神も違和感を覚える。
対して、千載一遇の機会が訪れていた片桐。待っていたように、右拳に水の練気を纏わせ、三神の腹部に放つ。
【属性系練術・水 水塊拳】
ついに片桐の攻撃が三神へ直撃。手ごたえを感じる片桐。
しかし、片桐の眼に映ったのは、痛みに苦しむ三神ではなく鋭い眼光を帯びた眼。
片桐の攻撃が腹部へ直撃する際、三神は全身の練気を腹部に集中させ、ダメージを抑えていた。
三神の右腕を押さえている拘束用の水精の秘膜も、あくまで即席のもの。この瞬間にもはがされてしまってもおかしくはない。
そうなれば、今度は片桐が反撃をくらう。
せっかくの攻撃もここまでか。
「確か……、こんな感じか……!」
三神の耳に届く、片桐の呟く声。同時に、腹部に直撃した片桐の拳が変化を見せる。
片桐の拳が徐々に回転を始め、纏っていた水塊拳の練気も呼応するように、螺旋状に鳴動する。
それはまさしく、螺旋練拳と同じ練気の扱い方。その変化は徐々に大きくなり、水塊拳は貫通力を帯び始める。
「さまか……!」
片桐の狙いに気が付き、驚愕と焦りが生まれる。
「せい……っかい……!!」
狂気的な笑顔と共に、その拳はついに三神の防御を砕く火力へと変化する。
【属性系練術・水 渦拳】
高い貫通力を帯びた拳が、三神の身体を穿つ。
その直前に拘束用の水精の秘膜を解き、拳に集中させて放ち、三神の身体はついにダメージを負って後退する。
やや口の中に血の味がにじみ、ダメージを負ったことを自覚する三神。
片桐のベットした賭け。それは、三神の螺旋練拳から、練気の使い方を学んで即席で練術を使用すること。
仮に隙を作っても、中途半端な火力は三神へのダメージとして望み薄というのを三神の強さから想像した。そこで、三神の貫通力を高めた一撃である螺旋練拳をわざと受けることで、練気の使い方を一か八かで学習しようとしていた。
結果として大成功。三神にようやくしっかりとしたダメージを与えることに成功となった。
互いに吐血と痛みを感じるが、笑みをこぼす。
残り時間も僅か。恐らく、タイムオーバーになれば、三神の判定勝ちだろう。片桐はもちろん逆転のKO勝ちを狙うが、三神もタイムオーバーに甘えるつもりはない。
互いに拳を構えて足に力を込め、恐らくは最後の攻防へと意識を向ける。
(……え?)
片桐の身体に違和感走る。
何かが、どんどんあふれてくる。
(やばい……、やばい……!なんだこれ……、なんだこれ……!なんだこれ……!?)
片桐の体中にあふれ出る。エネルギーの奔流。その違和感は片桐の動きを止め、異変を感じ取った三神の身体も動きを止める。
違和感。その起点は心臓。あふれ出るは、これまでの片桐が保有していた練気を遥かに上回る、凄まじい量の練気。
「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァ!!!!」
片桐の身体は防衛本能から、叫びと共に練気を練術へと変換して対外へ排出する。
水の性質を持った練気が、片桐の背後にあふれ出る。そして徐々に形を成していく。
成した形はまさしく水の巨人。笑みを浮かべ、長髪のような形と大きな爪を携えた手。
その光景を見ていた多くの人間が、感嘆と少しの悲鳴を上げる。しかし、その光景を異常と捉えた人間はあまりいない。新しい練術を使用した戦闘の途中だと思っているからだ。
だが、晴馬はそうはいかない。片桐の様子がおかしかったのはそうだが、片桐が成した水の巨人の造形に見覚えがあったからだ。まさしく、間立高校で相対した大君級の魔属そのものだ。
さらに、あの水の練気の中には、晴馬だけが感知できたごくごくわずかな霊気が含まれていた。原因の心当たりはすぐに分かった。片桐の中にある魔属の一部に、何かが起こった。
葉乙女は霊気は感じ取れずに、水の巨人が大君級の魔属に酷似していることは知らない。しかし、明らかにこれまでとは違う片桐の様子だと言うことは、よく分かっていた。
晴馬も葉乙女も、すぐさま適した練術を準備して、控え場所から現場へ飛び立とうとした。
現場の様子を見てその動きを止める。
それは、片桐へ相対した三神の姿だった。
(なんだ……、こりゃ……)
水の練気が元になっているのはなんとなくわかる。しかし、これまでの片桐の戦い方とは全く違うし、片桐のこれまでの練気量からしてここまでの練術の形成は難しい。仮に奥の手だったとしても、いきなり練気量が数百倍クラスに跳ね上がらければ、ここまでの芸当は不可能。そんなことはあり得ない。
それ以上にどうにも様子がおかしい片桐に、さすがに動揺はした。しかし同時に、片桐が三神を見て何かを伝えようと口を動かしているのが見えた。
しっかりとした音声の認識はできなかった。が、何を伝えたいのかは分かった。
(たす……、けて……、くれ!)
片桐に何が起こったかはわからない。しかし、三神が覚悟を決めて再び相対するには十分な理由だった。
晴馬と葉乙女が動き出す前に、三神が片桐に向かって肉薄していく。それを見て晴馬と葉乙女も動きを止めた。下手に介入すれば、思わぬ二次被害を出しかねないと考えたからだ。
肉薄する三神に対し、片桐が半狂乱のまま水の巨人が拳を放つ。三神は強化した身体能力をもって回避していく。先ほどとは違ったベクトルではあるが、凄まじい戦闘ではある。しかし、三神の表情は少し浮かなかった。
(……凄い練気量だ。けど、残念だな)
三神は一旦、片桐から距離を離し、改めて構えをとる。どっしりと地に足をつけ、正拳突きのような構えを取った、その三神に水の巨人の拳が迫る。
頭部に巻かれた黒いバンダナの端から、鋭い眼光が水の巨人の拳を睨みつける。
(最終奥義ってわけでもなさそうだし、そもそも片桐君が制御している感じもしない。なにより、さっきまでの創意工夫と身を粉にする勇気をもって戦う君の方が、ずっとずっと面白かった)
そして、構えから拳を繰り出した。
三神の練気がこもった静かな拳が、水の巨人の拳と接触。
【一撃目】
その瞬間、巨人の拳が爆散する。三神の拳から放たれる練気の衝撃が巨人を穿つ。
水の巨人はあふれ出る練気で修復しようとしたが、そうはいかなかった。
【二撃目】
三神の打ち込んだ練気が時間差で発揮。今度は水の巨人の頭部が爆散した。
片桐の練気が乱れ、巨人は形を保てなくなっていた。しかし、ここで終わりではない。
【三撃目】
三つ目の練気による一撃が、片桐の水の練気をほとんど爆散させた。
時間差で三つの練気による衝撃が対象を穿つ、三神の中でも最高峰の総火力を誇る練術。
【舞闘王・三練槍】
徐々に練気の暴走が引いていく片桐の身体。そのまま片桐は意識を失い、闘技場の地面にうつ伏せで倒れこんだ。
頭部に巻いていた黒いバンダナを解き、優しい眼を片桐に向ける三神。最後の最後で、恐らく片桐本人も思いもよらぬハプニングとなったであろう。人によっては、怪訝に不気味さを感じておかしくはない。
それでも、三神にとっては今回の戦闘そのものに敬意を示すことは、ごく自然なことだった。
自身の右拳で胸に手を当て、敬意を込めた右拳を片桐へ差し出す。
(いい死合いだったぜ)
戦闘終了。勝者、三神新波。
ご覧いただきありがとうございます。
今回は全面的に片桐vs三神となりました。
本文でも少し言ってますが、三神はハチャメチャに強いです。本来なら、現時点の片桐の伏魔師としてのキャリアでは足元にも及びません。ここまで食い下がったのは、さすがの片桐のアドリブ力と言ったところでしょうか。
そしてそして、最後の最後であらわになった片桐の厄ネタ。一見、強力そうですが、はてさてどういうカラクリなのやら
尚、あの水の巨人は一等師であっても対処に苦労します。それだけ練気量と質量の正義でした。
最後で演舞高潮でもう一段階、調子が更に上がっていたとはいえ、割とすんなり対処した三神に天晴れです。
第18話 お疲れ様でした。




