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補助は後方支援だと,誰が決めたのか

 王都近郊の街道で,護送任務が組まれた.

貴族の魔導具を運ぶため,最低限の戦力で十分――という判断だった.


「……嫌な予感がします」


 馬車の中で,リリーはぽつりと言った.


「具体的には」


「説明できないタイプの予感です」


「一番信用できるやつだな」


 ガレオンは剣の位置を確認し,周囲を見渡した.

同行するのは,数名の騎士と魔法士.

そして,見覚えのある青年が一人いた.


「やあ,また会いましたね」


 あの夜会で声をかけてきた青年貴族だ.

名を,セシル・フェルディナントという.

家格は高く,魔法理論にも明るい.


「今回の任務,私も同行することになりまして」


「……なぜ」


 ガレオンの声が,低くなる.


「護送対象の魔導具が,補助系の研究資料でして.

 専門家が必要だと判断されました」


 セシルは,ちらりとリリーを見る.

微笑みは柔らかいが,観察の色が濃い.


「あなたが噂の補助魔法士ですね」


「噂?」


「ええ.

 『最強騎士を無傷で運用できる少女』」


 リリーは首を傾げる.


「運用……?」


「気にしなくていい」

 ガレオンが即座に割って入る.

「彼女は,俺の――」


 言葉が止まる.

部下? 妹? 庇護対象?

どれも,しっくり来ない.


「……同行者だ」


「なるほど」


 セシルは,面白そうに目を細めた.


 街道は静かだった.

静かすぎるほどに.

鳥の声が消え,風が止まる.


「来ます」


 リリーが小さく言う.

その瞬間,地面が割れ,魔獣が現れた.

数は少ないが,魔力反応が異常に強い.


「罠だ!」

「迎撃!」


 騎士たちが構える.

だが,魔獣の動きは鋭く,連携も取れている.

明らかに,誰かが意図的に放ったものだった.


「リリー,後ろに――」


「いいえ」


 リリーは,一歩前に出た.


「今回は,少し配置を変えます」


「……何?」


 彼女は,静かに術式を展開する.

いつもより,広く,深く.


「術式三三番,位置固定.

 術式五六番,魔力反射緩衝.

 術式七七番,役割最適化.」


 その瞬間,戦場の構図が変わった.

ガレオンの一撃が,最短距離で当たる.

騎士の防御が,必要な瞬間だけ強化される.

魔法士の詠唱が,途切れない.


「……なんだ,これは」


 セシルが,息を呑む.

彼は理解していた.

これは単なる補助ではない.

戦場そのものを「設計」している.


 魔獣は,あっという間に押し切られた.

最後の一体を倒したガレオンが,振り返る.


「リリー」


「はい」


「……前に出るなと言った」


「後方支援では,最適化できませんでした」


「理由が理詰めすぎる!」


 だが,声は震えていた.

恐怖だ.

彼女が狙われる可能性を,はっきりと認識してしまったから.


 セシルが,ゆっくりと近づく.


「……素晴らしい」


「?」


「あなた,自分が何をしているか,分かっていないでしょう」


「祈っていました」


「それを,人は『戦術支配』と呼びます」


 リリーは,少し考える.


「難しい言葉ですね」


「ええ.

 ですが一つ,確認したい」


 セシルは,真剣な眼差しで言った.


「あなたは,彼のためだけに,それを使っている?」


 ガレオンの背中が,強張る.


「はい」


 即答だった.


「ガレオン様の信仰者ですので」


 セシルは,苦笑した.


「……なるほど.

 それは,厄介だ」


「何がでしょう」


「いえ.

 あなたが気づく頃には,世界が放っておかない」


 ガレオンは,一歩前に出た.

明確な敵意を隠さない.


「彼女に,余計なことを吹き込むな」


「余計かどうかは,彼女が決めることです」


 二人の視線が,火花を散らす.

リリーは,その間で首を傾げた.


「……ガレオン様」


「何だ」


「魔力が,少し荒れています」


「……誰のせいだと思っている」


 任務は,無事に完了した.

だが,何かが確実に動き始めていた.


 夜,野営地で.

リリーは焚き火の前で,術式ノートを広げていた.


「今日の配置,少し改善できますね……」


 ガレオンは,その背を見つめる.

彼女は,信仰しているだけだ.

だが,彼女の存在は,すでに戦場を変え,

人の感情を動かし始めている.


(……独り占めできるものじゃない)


 そう分かっているのに,

胸の奥が,強く締め付けられた.


 遠くで,セシルが静かに微笑んでいる.

嵐が来ることを,確信した顔で.


 補助魔法は,後方支援だと,誰が決めたのか.

その答えを,まだリリーだけが知らない.


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