第262話・ユリアVS大天使スカッドⅢ
向かってきたスカッドの攻撃を捌き、ユリアが反撃の体術を叩き込むことで第2ラウンドは始まった。
スカッドが驚いたのは、1秒ごとに力を増し、今や圧倒的優勢となっているにも関わらず……、
「はあぁっ!!」
「くっ!?」
追いつかれていた。
繰り出される剣撃が、先ほどまでと比べて別次元なまでに速く、鋭く生まれ変わっていた。
いや、それだけではない……さらに速度が上がってきている!?
理解できない、ありえもしない精神作用が彼女を強化したとでも言うのか!!
「なぜだ! なぜそうまでして足掻く! この世界は不完全だ! 生まれ変わらせる必要がある!! どこに君がそうして命を賭ける意味があるのだ!!」
宝具の連撃を腕で受け止めるスカッドだが、1発受けるたびに威力の増大が実感できた。
この女……まさかっ、1秒ごとに強くなる私に気合いで追い縋っているというのか!?
「さっきも言いましたよ大天使、わたしは大好きな方のためだけに命を張ります! 張らなければならないのです! そのためなら寿命だって削り、貴方にだって一矢報いて見せましょう!!!」
スカッドも反撃を打ち込むが、もはや尋常ではない反応速度へと進化したユリアには全く届かない。
それどころか、彼女の剣が徐々に掠り始めた。
「エーベルハルトくん!! この世には絶対に変えられないものがある!! それが“理”だ!! 理だけが我々を導く!! 間違った道理を正してくれるのだ!! それをなぜ理解しない!!!」
「だったらぁッ!!!」
遂にユリアの斬撃がスカッドを捉えた。
「星凱亜––––『彗星連斬』!!」
10発、20発と大天使に裂傷を与え、頬の表面をザックリ切り裂いた。
飛び散った血が床を濡らす。
これ以上ないくらい忌々しげにユリアを睨んだスカッドの目に入ったのは、モードチェンジを終え、ハンマーと化した宝具だった。
「『木星巨弾』!!」
大天使の胸部へ、渾身の一撃を打ち込んだ。
最初の邂逅とは威力からして違う、たまらず吹っ飛んだスカッドは壁を突き破り、連なる高層建築群を5つほど貫通してようやく……空中でブレーキを掛けた。
「天使の血も、赤いんですね」
空いた穴からスカッドを見るユリアへ、大天使は表現不可能なレベルで怒りに燃えて胃を煮えくり返らせた。
こんなことあってはならない……! あってはならないのだ!!!
ゴッと急加速したスカッドは、音速を瞬く間に超えてユリアへ迫った。
同じく彼女も建物から飛翔、互いにマッハを超えた状態で激烈に正面衝突した。
「クッ!」
「ぐぬぅッ!!」
衝撃波で再び雨水がドーム状に吹き飛ぶ。
今度の衝突はあまりに激し過ぎ、既に強度を失った周囲の建物が木っ端微塵に砕け散った。
舞い散った雨と瓦礫が降りしきる中、またも空中でユリアとスカッドは取っ組み合う。
「この世で絶対に変えられないのが理なら! わたしはそんな絶対不変すら変えてしまう人間を知っている!! 理やルールなんかに縛られない最強の竜王を!!」
信じられない現象が起こっていた。
ユリアとスカッドは互いに攻撃を打ち付け合い、もつれ合い、絡み合いながら重力を無視して上昇していた。
1メートル高度を増すごとに、“互いの力関係が逆転”するのだ。
空へ昇っていく間に数百回実力の反転が発生し、とうとう高度が500メートルを突破した辺りで、2人は螺旋状に回転––––三度目の激突を行った。
『神結いの儀式』とは別に、世界へ鐘の音が響く。
これは魔力が一定空間内で飽和した時に鳴る自然現象だが、今までアルスがブルーに変身した際にしか発生しなかった。
つまり、
もはやユリアとスカッドのパワーが、この現象が起きるほどに高まった証拠でもあった。
「星凱亜––––『彗星連斬』!!!」
急接近したユリアが、剣舞の嵐をお見舞いする。
だが、ここでスカッドが再び逆転した。
「ぬぅんッ!!」
「ゲッホッ!?」
剣技の隙間から拳を打たれたユリアは、空中を回転しながら距離を取り––––
「ッ……!! 星凱亜––––」
何もない空間を蹴るように加速、またも宝具をハンマーモードへ移行した。
「『木星巨弾』!!」
「ぐぅっ!!」
今度はユリアが逆転した。
強烈な打撃を顔面に食らい、弾き飛ばされたスカッドは塔の傍で翼を広げることで制動を掛ける。
なんとか静止したスカッドは、ここに来てとうとう神力を全開にまで上げた。
「この一撃で決めようか、エーベルハルトくん!!!」
黄金のオーラを纏ったスカッドが、大きく半円を描きながら加速。
途中で真っ白なソニックブームが見えたことから、マッハを超えて突っ込んでくるだろう。
ユリアとしてもこれ以上は限界だった、本来突き放されている実力を気合い1つで埋めているのだ。
「さて……正直気は進みませんが、今こそ最高のチャンスでしょう。ヤツがバカであることを願って––––この作戦に賭けます」
宝具を魔法杖モードにしたユリアは、ありったけの魔力を『インフィニティー・オーダー』へ注ぎ込んだ。
杖を中心として、超高密度の火球が形成される。
スカッドが軌道を変え、こちら目掛けて突っ込んでくる。
杖を振りかぶったユリアは、最大最強の魔法を発動した。
「星凱亜––––『太陽神越陣』ッ!!!」
空が閃光で埋め尽くされた。
雷すらかき消す光と轟音が、ネロスフィアⅡの上空を一瞬だけ覆った。
「カッハ…………っ」
落下しながら、ユリアは大量の血を口から吐き出す。
その爆発は……スカッドの一撃が、ユリアを完璧に捉えたことで発生したものだった。
彼女の放った『太陽神越陣』は大天使に当たることなく、遥か上空へ逸れていた。
「失望したよ……エーベルハルトくん!!」
飛翔魔法の解けたユリアへ一気に追い縋ったスカッドは、彼女の制服を掴むと同時に急降下を開始した。
隕石を彷彿とさせる速度で、要塞が間近まで迫ってくる。
「はあああぁぁああああああッッ!!!!」
激突の衝撃でコンクリートは吹っ飛び、建物から雨水まで放射状に砕け散った。
轟音が響き、要塞は大きく揺れて……後には雨音だけが残った。




