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第263話・ミライ&アリサVSドクトリオンⅡ

 

「ゼェッ……、なんだろう今の揺れと音。もしかして、ユリに何か……」


 全身を傷だらけにしながらも立っていたアリサは、一瞬注意が逸れるもすぐに眼前の問題へ向き直った。


「エーベルハルトさんならきっと大丈夫よ、今は……目の前のこいつを突破しなくっちゃ」


「うん、そうだね……。きっとユリもアルスくんも大丈夫だ」


 アリサとミライは、ネロスフィアの心臓部にあたるこの部屋で苦戦を強いられていた。

 強化された肉体を持つ天才科学者ドクトリオンを前に、なす術が一向になかったからだ。


「おやおや、竜の力とは本当にこの程度なのですか? だとしたら非常に残念……落胆したと言わざるを得ません」


「ッ!! こっのぉ!!」


 もう何度目かもわからない肉薄を、アリサが仕掛ける。

 数回フェイントを掛け、接近した直前で全力の高速移動––––背後から踵落としを落とすも。


「チッ!!」


「はいー残念ですねぇ」


 首を確かに潰し折ったはずなのに、ドクトリオンは微動だにしない。

 また足を掴まれないよう離れるが、今度はミライが真横から突っ込んだ。


 その右手には鍵型アーティファクトが握られており、ドクトリオンの背後にあるパネルへ刺そうとするが––––


「んんんッ!! だから無駄だと言ったでしょう!」


「あぐぁッ!!」


 立ち塞がったドクトリオンが、強烈な回し蹴りを放った。

 ガードの上から吹っ飛ばされたミライは、壁に叩きつけられる寸前、


「だあぁっ!!」


 走り込んできたアリサが、間一髪で彼女を受け止める。

 なんとか追加ダメージは避けれたものの、アリサは打ち止め感に苛まれていた。


 ヤツは化け物だ……。

 自分たち2人が別々に挑んでも、返り討ちに遭うのがオチだろう。


 っとなれば、チームワークで攻めるのが定石。

 せめて役割分担でもしなければ勝てない、それなのに……。


「クッソ! もう少しだったのに!」


 立ち上がったミライは、憤りながら自身の持つ鍵を見る。

 彼女は即刻ドクトリオンを倒すことに、こだわっていなかった。


 それよりも、この鍵をあのパネルへ差し込まなければと躍起になってしまっていた。

 それが勝利だと信じてだ。


 ドクトリオンを倒そうとするアリサと、背後に鍵を差したいミライとで連携が全く取れていないのである。


「この鍵さえ差せれば……! こんな戦いすぐ終わるのに!!」


「むっふっふ!! それはあり得ぬ話ですねぇ……この私がそれを許すわけないでしょう。そのマスターキーは絶対に差し込ませませんよ」


「ああっ! もうッ!!! こうなったらぁッ!!!!」


 激昂したミライが、魔力を全開まで引き上げる。

 周囲にイナズマが走り、彼女の杖に高出力の魔法が集約していく。


「全力全開の滅軍戦技で、お前を吹っ飛ばしてやる!!!」


「良いでしょう!! 掛かってきなさい、雷轟竜ッ! やれるもんならねぇッ」


「はあァアアッ!! 滅軍戦技––––––––!!!!」


 怒りに任せて、残った魔力の全部を込めて杖を振ろうとしたミライは––––


「えっ……?」


 “左頬をいきなり殴られた”ことで、床へ倒れ込んだ。

 持っていた杖が投げ出される。


 放たれようとした魔力が、静かにミライの中へ戻っていく。

 動揺の目で見上げた先に立っていたのは……“アリサ”だった。


 彼女が、いよいよ技を使おうとしたミライを横合いから殴りつけたのである。


「おやおや……遂には仲間割れですか、終わりましたね」


 首をかしげるドクトリオン。

 理解できないと言った彼女の胸ぐらを、アリサは静かに掴み上げた。


「ミライさん、ウチの店長––––大天使になんて言われたか知んないけど……今の戦い方、全くらしくないよっ」


「ッ!!!」


 語りかけてくる紫色の瞳には、若干の怒りも混じっているようだった。

 あまりの覇気に、反論が出なくなる。


「確かにアイツは強いよ、攻撃が通じなくって詰んだような気持ちになるのもわかる……けどッ!!」


 極めて真剣な表情で、殺意すら感じそうな声でアリサは叫んだ。


「今上手くカギを差したからってヤツは倒せないし、なんの解決にもならない。ミライさんがさっきからやってるのは、敵からの逃げと、怒り任せに無計画で魔力の浪費をしかけただけだ!!」


「なっ……! わ、わたしはっ」


「言い訳はいいッ!! ミライさんはこの戦いが終わったらアルスくんに告白するつもりなんでしょう!? 正々堂々、正面から!!」


「っ……!」


「けど今のミライさんは……ただ焦って、怒りに任せて成果だけを求める大馬鹿だ!! 言っておくよっ。わたしはアルスくんの彼女として、そんな中途半端な逃げへ走る女に––––彼を渡す気は毛頭無いッ」


「グッ……ウッ、だったら……! だったらどうしろってのよ!! 打撃も滅軍戦技も効かない、あんなチートにどうやって勝つのよ!!」


 目尻に涙を浮かべて反論するミライへ、アリサは胸ぐらから手を離し––––両手を掴んだ。


「わたしたちは“双竜”。2人でやっと1匹の竜だ……だから、わたしとミライさんの2人で倒す」


 掴んだ両手に力を込め、そのままミライを立たせる。


「あるでしょミライさん、ずっと失敗続きだけど……賭けてみる価値のある魔法が」


 一転、優しく微笑んだアリサの顔を見て––––


「…………ッ!!」


 ミライは、自分の頬を思い切り両側から叩いた。

 それは目覚めと冷静さの回帰、アリサが認める……普段のミライ・ブラッドフォードが帰ってきたことを示していた。


「うん、ごめんアリサちゃん。わたし……ちょっと焦り過ぎてた」


「わたしこそ、後で殴り返してもらって構わない。まずは––––」


 ミライとアリサは、互いの拳を近づけあった。


「ヤツをぶっ倒そうッ」


 2人の拳に、異なる色同士の魔力が弾け合った。


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