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第259話・ユリアVS大天使スカッドⅡ

 

 1秒ごとに強くなる。

 それが、途中まで大天使すら相手に優勢だったユリアを追い詰めている原因だった。


 スカッドは翼を広げ、外から響く鐘の音に耳を澄ました。

 恍惚とした表情で、倒れる彼女に語りかける。


「聞こえるかなエーベルハルトくん、この鐘の音が……。今ある世界の秩序とルールが崩壊する音だ。実に愉快で痛快で爽快だろう?」


「ッ…………」


 なんとか起きあがろうとするユリアは、胃の奥から込み上げてきた鮮血を思わず口から吐き出した。

 ここまでダメージを受けたのはいつ以来だろう、かなり久しぶりなのは間違いなかった。


「せっかくだ、世界崩壊の前に1つ教えておいてやろう」


 濡れた長髪を払い、スカッドは笑みを浮かべる。


「君は……なぜ自分が神の作りし宝具を使えるか、一度でも考えたことはあるかな? そうそれだ、キミが両手に持っている……今は剣と言えば良いかな? とにかくそれだ」


「ッ……」


「かつて我々は(いにしえ)に繁栄せし”古代帝国“を滅ぼした……まさしく天界総出となってね、何故だかわかるかい?」


 それがどう宝具の話と繋がるのか、激しい痛みに苦しむユリアにはわからなかった。

 しかし手を広げた大天使は、まさに時間潰しの雑談でもするように歴史の空白を語った。


「かの古代帝国は禁忌に触れたのだよ……。実にいっぱい犯してくれた、死んだ竜の力を再利用して人間の身に宿す––––君たちが今『血界魔装』と呼ぶものがまず1つ」


 そういえばミライも、古代帝国跡地で竜の力を手に入れていた。

 しかも、その土地にゆかりのあるとされる雷轟竜の……。


「だがそれだけでは収まらなかった……。古代帝国人は本来人間の手にあるべきではない超常的存在––––”宝具“を人工的に創り出した。現代ではアーティファクトと呼ばれる物だ」


 スカッドの冷たい目が、未だ床に倒れるユリアへ向けられた。

 拳が怒りで握られ、熱を放つ。


「古代帝国人は自らの遺伝子を改良し、強大な宝具をも扱える子孫を生み出した。そいつらは非常に強力な戦闘能力と、一般人を大幅に超える学習能力を持っていた……」


 瓦礫から必死で身を起こそうとするユリアに、スカッドは近づいていく。


「奴らが増殖すれば……いずれ天界をも侵略されると危惧した。だから我らは連中を完膚なきまでに滅ぼした。だが失敗した、奴らは静止衛星軌道上に一部の子孫を打ち上げ脱出させていたのだ!」


 大天使は忌々しげに、怒りを露わにしながら……ユリアを指差した。


「それが”お前“だ、“お前”なのだエーベルハルトくん。君とその家族は古代帝国の生き残り––––通称『賢竜族』と呼ばれる、我々が取り逃がした古の負の遺産なのだ!」


 ユリアの中で、何か歯車のはまる音が聞こえた。

 幼少より気にはなっていたのだ、何故みんなは宝具を使わないのだろうと。


 だが考えてみれば、答え合わせは実に簡単だった。

 同じく宝具を使う彼女の師匠、ルナ・フォルティシアは聞いても答えられないくらい永く生きている超常的存在だ。


 人工宝具(アーティファクト)を使うミライに関しても、使用時は必ず血界魔装を発動しなけれならない。

 そうだ、使わないんじゃない……普通は使えないのだ。


 それはユリアも同じ––––スカッドの言う、『賢竜族』だからこそ、今手に持つ宝具は機能を発揮する。


 竜は––––竜王の下に集う、これは必然だ。


「うぐっ……! はぁっ、いっつ……」


 立ち上がったユリアは、痛みを誤魔化すように冷笑を見せた。


「それで? こんなアフタヌーンティーの談義にもならないカミングアウトでこのわたしが動揺するとでも? これだから自称上位種族は困りますね」


「何っ……?」


「世界崩壊の音がなんでしょう、愉快? 痛快? 爽快? ご冗談を––––“不快”でしかありませんね。わたしは最愛の人が生きると決めたこの世界を……ただ守るだけですッ」


 大天使の脳裏に、眼前とかつて見た光景が重なった。

 そうだ……その目だッ、闘志と愛に満ちたその目が我々を恐れさせたのだ!


 歯を食い縛り、腹から湧き出る怒りを宿してスカッドは再びユリアへ襲い掛かった。


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