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失せもの探しのお嬢さん・5


 結局、ふたりが宿に戻る前に、ケネスとエイブラムはそろって店から出てきた。

 ケネスが壁際にたたずむふたりを見つけ、両手を腰に当てたまま呆れたような視線を送ってくる。吐き出されるのは、恨み節だ。


「君たちが遅いから、出てきてしまったよ。今日、ルイス男爵には伯爵邸に泊まっていただく。ロザリーも積もる話があるだろう。一緒に来るかい?」


「私は、片付けをしてからお伺いします。レイモンドさんにもちゃんと説明しないといけないし」


「そうかい? じゃあ後で馬車をまわそうか」


 そう言ったケネスを遮るようにザックが前に立つ。


「いいよ。俺が後で連れていく。護衛の馬を一頭貸してくれ」


「そうすると君の護衛がひとり減るよ」


「構わない。そもそも護衛をつけすぎなんだ。覗かれているようで気分が悪い」


 そう言いながら、ザックは暗闇に目をやる。ロザリーは気づかなかったが、きっとそのあたりにもザックの護衛が潜んでいるのだろう。


 さすがに伯爵邸までの距離をひとりで行くのは無理があるので、ロザリーもおとなしくお願いする。

その様子を見ていたエイブラムは、どこか寂しげに笑った。


「ロザリンド。……縁談はやはりお断りしておこう」


「はい。お願いします、おじい様」


「それと、……たまにでいい。手紙をくれないか。私も年を取った。お前からの手紙が来るくらいの楽しみがなければ、生きていくのがつまらないからな」


「いいんですか?」


「仕方ない。お前を連れて帰るのは無理そうだからな」


 ザックに冷やかすような視線を向けながら、エイブラムはロザリーを抱きしめた。




 レイモンドには翌日きちんと説明する、と約束したうえで、ロザリーはその晩、イートン伯爵邸に泊った。

 祖父と孫とはいえ、一緒に寝る風習はない。あくびが止まらなくなる時間まで、ロザリーとエイブラムは語り合い、それぞれの部屋に戻って眠りについた。

 伯爵家のベッドはふかふかで、翌朝のロザリーはいつもよりも寝過ごしてしまう。


 朝食を食べていたエイブラムに別れの挨拶を済ませ、宿の仕事に戻るために屋敷を出る。


「朝食くらいちゃんと食べないと倒れるぞ」


「でもでも、遅れちゃいますし」


「やれやれ。落ち着きのないお嬢さんだ」


 頭上からの呆れたような声に恥ずかしくなるが、文句を言いつつ送ってくれるザックには感謝の念しかない。そして、こっそり彼を護衛しているであろう人たちにも、余計な仕事を増やしてごめんなさいと心の中で謝っておく。


 切り株亭はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。

 一晩の休憩を終え、旅路に戻る人々がちらほらと宿から出ていく。食堂の朝食は基本泊り客のみに出されるので、この時間に中に入るのはロザリーくらいだ。


「すみませんっ、遅くなりましたっ」


「なんだ、ロザリー。ゆっくりしてきても良かったのに」


 既に朝食の波が過ぎ去った厨房では、レイモンドがまかないを作っていた。


「おはよう、ロザリー。飯は食ったか?」


「いえ、寝坊しちゃって」


「なんだ。せっかく伯爵邸の豪勢な食事を食べれるチャンスだっていうのに。だったらお前も食うか。まかない」


「はい!」


 正直、料理はレイモンドのが一番おいしいのだ。

 直ぐ帰るつもりだったザックまで、「なら俺もご相伴に預かろうかな」などと言い出す。


「ザック様にまかないはさすがに……」


「俺が食いたいって言ってるんだからいいんだよ。なんだ? 働かざる者食うべからずというなら、俺も手伝えばいいか?」


 レイモンドは顔をひきつらせたが、ザックはロザリーの隣に腰掛け平然と言ってのけた。


「やめてくださいよ。ケネス様に怒られます。ロザリーを送ってくれた分で帳消しでいいです」


 言っている間にもレイモンドの手は止まることはない。

 あっという間にできたまかないをいただき、ロザリーとザックは舌鼓を打った。


「……で、昨日のご老人はお前のじいさんだってのは聞いたけど、他にも言うことがあるんじゃないのか?」


 レイモンドに促され、ロザリーは途中だった食事を飲み込む。

 そして、チェルシーやランディにも向けて頭を下げた。


「すみませんっ。今まで素性を隠していて。……実は私……」


 ロザリーは自分が男爵令嬢であることを告げた。

 騙していたとなじられるかと思ったが、ロザリーが危惧していたほど、彼らには反応がなかった。何を今さらと呆れた様子だ。


「貴族のお嬢さんだろうとは思っていたぞ? ルイス男爵令嬢だったとは知らなかったが」


「えっ。いつからですか?」


「最初に来たときから。服の仕立てが庶民のそれとは違うからな」


 レイモンドの言に驚いているロザリーに追い打ちをかけるようにチェルシーも言う。


「あのどんくささは庶民のものじゃないわよ。私もどこかいいところのお嬢さんなんだろうなって思っていたわ」


「チェルシーさんもですかぁ?」


 嫌われるのではないかと心配していたのに、あっさり言われて拍子抜けだ。そこに、ひとりだけ、「えっ、俺は驚いたぞ!」と反応するのはランディだ。

 ロザリーはアワアワするランディに親近感を覚える。


「なんだ。私、身分がバレたら解雇されちゃうかと思いました」


「なんでだよ。貴族だろうがなんだろうが、働く気があるんならずっといてくれないと困る。だってさ。……なあ、お客さん、この宿の名前、憶えているか?」


 突然レイモンドが客席に向かって声をかけた。ロザリーもそちらを見ると、食後のお茶を楽しんでいる数名の客が、客席にはちらばっていて、みんな一様ににっこり笑いながら答えた。


「失せもの探しの切り株亭、だろ。有名だよ」


「ほらな」


 レイモンドがぱちりと片目をつぶる。嬉しさでロザリーの胸がいっぱいになる。尻尾の代わりにふわふわの髪を思い切りよく揺らしながら、「いつもありがとうございます!」と、お辞儀をした。




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― 新着の感想 ―
[一言] 優しい世界でいいねぇ( ´∀` ) いや子供や犬に暴行する人は居るけど(ォィ 私だったらリルの部分がさらに出てきて、視力が落ちたり紫外線が見えるようになったり識別できる色が減るとかそういう…
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