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盗人の真相・4


 一行は場所を切り株亭に移す。

 ケネスは黒服の男たちが一緒に戻ってきたのを見ると、目を見開いて「おやおや」とつぶやいたが、ザックの目配せを受け、緩やかにほほ笑む。


「ご苦労だったね。君たちは元の配置に戻っていいよ」


「はい」


 一斉に頭を下げる黒服たちを見て、「伯爵家の護衛か」とレイモンドが納得したようにつぶやいた。

 それに納得していないのは、彼らがザックを『殿下』と呼んだことに気づいていたロザリーだけだ。


 料理人が不在だったのだから当たり前なのだが、現在食堂は閑散としていた。ニールはみんなに取り囲まれ、すっかり観念した様子で頭をさげる。


「オードリーが帰ってきてるっていうからさ」


 オードリー、ランディ、ニール、レイモンドはみな同年代で、年齢はその順番で一歳ずつ下る。

 同時に学校に通う時期があるので、仲の良し悪しはあれど、全員が顔見知りではあった。

 オードリーが一番の才媛で、グラマースクールに進学したことも、レイモンドがオードリーに片思いしていたのも既知の事実だ。


 加えてニールは、十七年前の指輪事件についても知っている。当時十二歳の子供だったが、指輪に金庫の鍵が隠されていて、それを目当てにオリバーが盗んだという噂は街中を駆け巡ったからだ。


「最近、親父さんいないだろ? ってことはレイモンドが跡を継いだのかなって思って。そこにオードリーが戻って来たから、てっきりレイモンドがオードリーを口説き落としたのかと思ったんだよ。……もしそうなら、これまでの宿主と同じように指輪を渡しただろうし。オードリーの娘が指輪もってたからこれが件の指輪か?って思って」


 ほんの出来心だ、とニールは言った。

 金庫の鍵番号がわかれば、深夜に忍び込み、ちょっとだけお金をちょろまかすこともできるだろう、と。


 そう思い、ニールはクリスの背中を押して転ばせた。

 しっかり指輪を持ったままだったクリスは、手の痛みに指輪を離し泣きだした。それを横目に、ニールは指輪をすっと奪い、そそくさと立ち去った。


 しかし指輪をよくみても、数字などどこにも見当たらない。光を当ててみたりもしたが、特に何も新しいものは見えてこなかった。


 すべて自分の勘違いだったか、と思ったニールは、次に質屋で指輪を換金しようとした。が、琥珀の質がそこまでよくないと値段を下げられた。

 どうしようか迷っていた時に、泣きながら走るチェルシーを追うランディを見つけたのだ。


 ランディがチェルシーに片思いしているのもまた、同年代の中では酒の肴として知られていた。

 見た目はいかついが中身はおとなしいランディは、仲間内でも立場が弱い。脈はなさそうなのに、いつまでもあきらめきれないのは女々しいと馬鹿にされてもいた。


 ランディを甘く見ているのはニールも一緒で、とっさに、これを売りつけてしまおうと思ったのだ。


 宿屋の指輪でないとすれば、オードリー個人のものだ。おそらくは死んだ夫からの贈り物だろう。それを宿屋の従業員が持っていたとしても、似たデザインのものだと思われるだけで終わるはずだ。


 仮に疑いを抱いたとしても、オードリーには言えないだろう。

 レイモンドが店の従業員を見くびられるのが好きではないことくらい、幼馴染である彼女にはよくわかっているはずだから。


「……ってわけで、ランディに売ろうとしていたところだったんだ」


「はー、バカじゃねぇの。よく盗んだ指輪でそこまでせこい儲け方しようと思えるな」


 レイモンドが呆れた様子を隠さずに言う。歳は下だが明らかに彼のほうが威圧的だ。


「バカっていうなよー。だってよ、行商に出るんだって先立つものがいるんだって」


「そもそもあんな小さな子供に怪我させてまで指輪を奪おうとしてる時点でどうかしてる。人間の屑め」


「ひでぇ! そこまで言う?」


「言いたりねぇくらいだよ、バーカ!」


 レイモンドにけちょんけちょんに言われ、ニールはへこんでいる。

 とはいえ誰も同情はしなかった。


 レイモンドは「ほら、クリスに謝れよ」と言い、クリスを彼の正面に立たせる。

 クリスは怯えたような様子でレイモンドにしがみついていたが、ニールに「……すまなかったよ。痛かったか?」と頭を下げられ、ホッとしたように息をつく。


「ゆびわ!」


 クリスは痛みよりも、指輪の行方が気になるらしくニールに手を出す。

 なおも渋々とポケットから指輪を取り出したニールから指輪を奪い取ると、すぐさまオードリーの方に向かう。


「ママ、勝手にとっていってごめんなさい」


 頭を下げたクリスに、オードリーも泣きそうだ。


「ほら見ろ。純粋な人間はこうなんだよ。分かったか。お前は腐っている」


「……違いない」


 クリスの素直な謝罪行動に、ニールは怒られるよりもショックを受けたらしくうつむいた。


 これによってニールを責め立てる空気は薄れていった……かに思えたが、それを許さなかったのがザックだ。


「悪いが、俺は無罪放免する気はないぞ」


「なっ」


「子供に怪我をさせた傷害罪、それから指輪を盗んだ盗難罪。程度が低かろうとも立派な犯罪だ」


「そんなぁ。つか、あんた誰だよ。若造が、憲兵でもないのに偉そうに」


 そう言うと、今までのんびりと座っていたケネスが立ち上がり、ニールの頭をひっぱたいた。


「不敬罪も追加されたいか? ザックは俺の従弟だぞ?」


「ケネス様……? え? 伯爵家のお方なんですかっ! こ、これは大変な失礼を」


 ニールは蒼白になり、おでこを擦り付けるようにして土下座する。


 しかしロザリーは知っている。先ほどの黒服の男たちが、ザックを「殿下」と呼んでいたことを。

 殿下という呼び名は通常王族にしか使わない。

 ケネスの従弟というだけでこうなのに、もし本当に王族だとしたら、それどころでは済まないだろう。


 息をつめて見つめていたら、ザックが振り返りゆっくりと片目を閉じた。


 “後で話そう”と声を出さずに口だけを動かす。

 内緒話をしていると思えば、妙に気恥ずかしくなってしまう。ロザリーは真っ赤になりながらも頷いた。




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