初めての失せもの探し・4
「でも、でも……こんなのじゃないもん。僕のコインはキラキラしていて、すっごく格好いいんだ。こんな真っ黒な石ころなんかじゃない」
ボビーは信じられない、というように首を振ってやがてうわあああん、と泣き出した。
父のゲイリーは、オロオロと辺りを見回すばかりだ。
同じく食堂に陣取っていたケネスは、眉をひそめる。レイモンドも、洗い物の手を止めてやって来た。
「うるさいぞ。食堂の客に迷惑だ。どうしたんだ?」
「記念硬貨が見つかったのです」
ロザリーの声に、ケネスも立ち上がって寄ってくる。ロザリーを追い駆けてきたザックもそこに加わった。
「これはお風呂で変色したのだと思います。仕組みはよくわかりませんが、以前、温泉に入ってネックレスを変色させてしまった人を見たことがあります。おそらくですが、この記念硬貨も、硫黄のお湯に触れて変色したのではないでしょうか」
「……しかし、金は変色しないぞ? これは金貨だろう?」
そういうのはケネスだ。
そこにザックが付け加えるように言う。
「金貨はすべて金だけで作られるわけじゃない。合金だ。とはいえ、普通ならば、たかが一日で変色するはずはないが。銀や銅の含有率が高ければ硫化水素と湿気で一晩で変色することはないわけじゃない……と思う」
どうやらザックには詳しい知識がありそうだ。経験だけで語ったロザリーはほっと息をつく。
対してボビーは絶望の表情だ。
「そ、そんなぁ……」
「つまり、硬貨は失くしたわけじゃなかったということだな。変色し黒ずんだことで、君が硬貨を見つけられなかった。それだけのことだったんだ」
「嫌だぁ、僕のコインー! あんなに綺麗だったのに!」
大泣きになるボビーは、ロザリーがなだめても収まらなかった。
「いい加減にしろ! ボビー! 泣きたいのはこっちだ。私がこの旅行のために何日分の稼ぎをつぎ込んだと思ってるんだ」
ゲイリーは羞恥といら立ちをあらわにする。ボビーに向かって手が上がったのを見て、ロザリーはとっさにボビーをかばうように抱きしめた。
ギュッと目を閉じ、降りてくるゲイリーの手を待ったが、いつまでたっても痛みはやってこない。恐る恐る薄目を開けると、ザックが険しい表情でゲイリーの腕を押さえている。
「は、離せ」
「落ち着いてくださいよ、ゲイリー殿」
そして、ロザリーとボビーに向かってほほ笑んだ。
「心配することはない」
「ザックさん?」
「たった一日でできた錆など表面的なものだ。完璧にとは言わないが、元に戻せないわけじゃない。チェルシー! 磨き粉を持ってきてくれないか?」
ザックの呼びかけに、チェルシーは掃除道具入れから、掃除用の磨き粉を持ってくる。
「これを軽く磨いてみてくれ。……こすればまた輝きを取り戻すことはできるはずだ」
チェルシーは言われた通りに磨き粉を付け、コインを軽くこする。さっと水洗いして戻ってくると、一部ざらついた部分はあれど、ほぼ元の金に近い色がよみがえった。
「どうだ? 間違いなくこれが君の記念硬貨だ」
「ほ、本当だ……」
ボビー少年は驚きのあまり開いた口がふさがらないようだ。
「だが」と付け加えた彼は、ポケットをまさぐると一枚の金貨を取り出した。
「実は俺も、記念硬貨を持っている。この変色したコインは実に興味深い。君さえよければ、俺のコインと交換してもらえないか?」
ザックの硬貨は、ひとつの曇りもなく光り輝いている。一度でも錆びてしまったものと比べれば美しさは比べるべくもない。ボビーはあっという間にそれに魅了された。
「こっちのほうが綺麗だ。いいの? お兄ちゃん、ありがとう」
「いや……。せっかく王政を祝うために田舎から出てきて、ようやく買えたものが一日で変色するのでは気の毒だからな」
「す、すみません、ありがとうございます」
ザックの対応に、ゲイリーも先ほど子供を殴ろうとしたことなど忘れたように機嫌を直して頭を下げる。
「だが」とザックは厳しい表情になり、もう一言付け加える。
「チェルシーへの謝罪だけはちゃんとしてもらおうか。君たちはこの宿の従業員を疑った。誇りをもって仕事に従事する人たちを確たる証拠もなく疑うことは恥ずべきことだ。きちんと謝罪していただきたい」
「でも、我々は客だ……!」
「客だから何をしてもいいと? あなたが支払っている宿代は、快適なベッドと外敵の入ってこない空間を確保するためのものだ。決して、人の名誉を棄損して許容されるような金額は払っていないだろう?」
「それは……」
「謝罪を要求する。でなければこのコインも渡せないな」
「……若造が生意気な……」
食って掛かろうとするゲイリーをボビーが止める。
「やめて、お父さん、僕謝る」
そして、チェルシーのもとへ向かい、ぺこりと頭を下げた。
「疑ってごめんなさい。でも僕、……僕」
「大切な宝物が無くなって悲しかったのよね。見つかってよかったです。でも私も、疑われて悲しかったわ」
「……ごめんなさい」
チェルシーはそもそもが心優しい女性のようで、いつまでも意固地にはなっていない。少年の頭を優しく撫でた。
それを陰から、潤んだまなざしで見つめているのがランディだ。大きな体を戸口に隠すために体をくねらせているので気持ちが悪い。
ゲイリーはと言えば、ザックからの冷たい視線に耐えられなくなったように、渋々ではあるがチェルシーに頭を下げた。
なにはともあれ、一件落着である。




