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初めての失せもの探し・1


「じゃあ、お手並み拝見と行こうか。ロザリーと呼んでいいかな? 俺のことはザックと呼んでくれ」


「はい。ザックさんよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げて、まずは相棒となるザックに挨拶をする。

 ザックはとても背が高く、ロザリーは首を思い切り曲げないと目を合わせられない。

 艶のある黒髪に、すっと通った鼻筋。切れ長の目の中は輝く緑色の瞳だ。顔形が整っているというだけじゃなくて、気品のようなものが感じられる。隣に立つと気後れしてしまうほどだ。

 もちろんケネスも美形なのだが、彼はたれ目と言動の軽さで少しばかり砕けた印象になる。

 ちなみに彼は、重労働は自分の仕事じゃないとばかりに、食堂に陣取ったまま蜂蜜酒をおかわりしている。


「自分なら探せるかもしれないと言ったな。それはどうしてだ?」


「……信じてもらえるかわかりませんけど、私、鼻が鋭いんです。あの子のお守りだといっていたサシェからはラベンダーの香りがします。ラベンダーは香りが強いので、それを辿れば探せると思います」


「ほう……?」


「ここからでも、あの子からはラベンダーの香りがします。でもチェルシーさんは手のあたりに限定して嗅いでも香りはしなかった。だからチェルシーさんは少なくとも袋は触っていないと思います」


「ふうん。そんなのわかるものなのか。じゃあ俺の匂いからわかることを教えてみろよ」


 急にザックが近づいてきたので、ロザリーはびっくりして思わず身をよける。


「……なんだ?」


「すみません。距離が近いなーっていうか、男性に慣れていないんです」


「そんなんでよく一人旅なんてしているな」


 呆れたようなザックに、改めて深呼吸をしてから近づく。

 身長差のせいで、普通に近よると胸のあたりの匂いを嗅ぐことになる。しゃがんで足もとの香り、それから、少しかがんでもらって顔のあたりの匂いを嗅ぐ。

 顔が近づいてきたときは再びたじろいでしまったが、また馬鹿にされては困るので平常を装った。


 ザックから一番強く感じる香りは、馬の匂いだ。それと、先ほど飲んでいた蜂蜜酒の匂いが強いが、その前はおそらく肉料理を食べている。ほんのわずかだが、甘さを含む優しい香りがした。少年が言うところのお守りのようなものを持っているのかもしれない。


 まずは彼に信用してもらうことが一番だ。

 ロザリーは匂いから読み取れただけの情報を提示する。


「ザック様は乗馬がお好きですかね。馬のお手入れももしかしたら自分でされるのではありませんか?」


「ああ、そうだな」


 当たりだ。

 馬に乗るだけではそれほどつくはずのない藁の匂いがザックの腕のあたりに残っている。頬にひときわ強くついた馬の匂いは、おそらく唾液のもの。


「馬に舐められても平気ですね?」


「ああ」


「お昼に召しあがったのはお肉を焼いたものでしたか?」


「ああ」


「あとは、なにか香を持っていませんか、あまり嗅いだことのない珍しい香り……ちょっと甘い感じ?ですけれど」


 それまで冷静な顔で頷いていたザックが、一瞬眉を動かした。

 もしや、触れてはならないものだったのかと焦るが、ザックは胸元を一度触ったあと、納得したように頷いた。


「……分かった。君の嗅覚を信じよう」


「本当ですか?」


「ああ」


 先ほどよりも砕けた微笑みに、ロザリーの胸はドキリとなった。これまで、多少お転婆であったとしても貴族の令嬢として屋敷でつつましく暮らしていたロザリーにすれば、若い男性しかも美形との交流は珍しいものであり、胸が高鳴ってしまうのは仕方がない。


(そうなのです。免疫がないんですもん。だから……このドキドキは仕方ないのです)


 胸の高鳴りはごまかして、「では、記念硬貨を探しましょう!」と意気込む。


 改めて、父親であるゲイリーとボビー少年に向き直る。


「私が、あなたの記念硬貨を探して見せます。だから協力してください。嘘をつかずに真実をすべて話すと約束してくれますか?」


「そりゃ……でも本当に見つけられるの? お姉ちゃん」


「大丈夫です」


 本当は自信などないが、子供に弱気を見せては舐められる。


「まずはボビー君の匂いを嗅がせていただけますか?」


「匂い? お姉ちゃん犬みたいだね」


 ギクリとする。

 そうです。前世は犬なんです。と言ってしまってもどうせ信じないだろうけれど。

 ここはリルが暮らした街だから、今の自分がここに受け入れられるまでは、名乗ってはいけないような気がする。

 それに、頭がおかしいと思われて病院に連れていかれたら元も子もない。


「し、失礼しますね」


 気を取り直してボビーの肩から腰のあたりの香りを嗅ぐ。ポプリの匂いが一番強くついているのは常に袋を下げている腰ベルトのあたりだ。宝物である硬貨の金属臭は主に手から。汗の香り、本人の体臭。いろいろなものを嗅ぎ取って記憶していく。


「では次に、お父様のゲイリーさん。そしてお掃除をしたチェルシーさん。他にお部屋に入った方はいませんよね?」


 頷いたのを確認して、ゲイリー、チェルシーと香りを嗅いでいく。

 ゲイリーからは、ボビーと近い匂いがした。もちろん、ポプリの香りもする。中年の男性だからが体臭が強く、ロザリーは顔をしかめないように気を付けるので精いっぱいだ。


 続いてチェルシーの香りも嗅いだ。彼女からは消毒薬の香りが強い。朝から、空いた部屋の掃除にいそしんでいるのだろう。

 そのほかに、彼女の服からはミルクっぽい優しい香りがする。これはきっと本人の持つ香りだ。ラベンダーの香りはほどんどしない。


「次は、コインが無くなった現場であるお部屋を見せていただけますか?」


 ロザリーは匂いをたどるように鼻を動かしながらボビーの後について階段を上る。そのあとをついていくのはザックだ。


 ボビーはまだロザリーにうさん臭さを感じているのか、何度も振り返っては彼女にいぶかし気な視線を向ける。


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[一言] まさしく異世界のデカワ〇コ(ォィ
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