番外編/初めての男の子②
娘に付き添い目が覚めた所で居間に連れて行った。好青年を初めてマジマジと見る。ちょっと緊張する。
「おじさん、だれ。」彼は何故かたじろいでいたが、娘にやさしい対応をしてくれた。うん。任せよう。とりあえずここは安全みたいだ。私達を保護下においていただければそれだけで充分。さらに寝床と食料を提供して頂ければ御の字。もう私の人生娘を守るだけだし。それだけだ。食料さえあれば生きていける。心の整理はその後。はっきり言うと、それしか考えられなかった。旦那、斬られてた。瞼の裏にその光景が浮かんでくる。目を瞑る度に心を抉ってくる。娘がいる。私を頼ってくれる。衣服の端をいつも掴んでくれる。それだけが今の支え。
「場所が場所なので、たいした料理はできませんが。」
着席して、目の前に皿を出された。バリエーション豊かな食事。この青年できるわ。娘を促していただきますの直前通路の奥からドンゥ、ドンゥと何かの音が近寄ってきた。思わず好青年を見るとニコニコしている。え、知ってる人。でもこの重量感はとてもとても。信じられない。人。人じゃない。のそっと現れた通路の先から茶色い毛皮が近づいてきました。熊だ。驚愕。
「全員揃ったようなので、食べましょう。」
青年が食べた。熊もガツガツ食べた。何。恐る恐る食べる。大丈夫そうだ。娘にも促す。……しばらくすると青年はユータ・カドエビと名乗った。熊は熊田さんといった。どう考えても熊田さん適当でしょとは言えなかった。寝床を提供して頂いてる以上それはできない。
現況を聞かれたので自己紹介も含めて身の上話を素直にした。旦那が死んだことも。カドエビさんは「よくご無事で・・・。」と言ってくれた。その後もひたすら優しく慰めてくれた。いつの間にか熊さんが娘を尻尾で慰めてくれていた。娘が笑って尻尾をひらひら追いかけている。え、熊さん娘を気遣ってくれてるの。あ、それを見てカドエビさんも微笑んでいる。承知の上か。あー、そういうことしてくるのね。そういう人達なのね。
「まずは安心してください。ここには命を脅かす生き物はいないですから。」やわらかい笑顔でカドエビさんは言った。一瞬、熊さんに目がいった。熊さんはガフガフいいながらマアルと尻尾のやりとりをしていた。
身の安全を確認出来た所でまずは最初からの疑問ぶつけてみる。
「それはそう見えますが、村では崖の下は、オークの巣窟と呼ばれていました。」一瞬、時が凍る。彼の冷や汗がダラダラ垂れている。情報の出所を確認された。素直に話すと何故か考えこんでしまった。その後、日時や真偽の程を確認するとやはり黙りこんでしまった。結構な時が経つ。……私何かいけないことを言ったのだろうか。単純な疑問だったのに。結局、彼は熟考に熟考を重ね解りませんと言ってきた。はい、この人あやしいです。ですが食料と寝床がある限り今は笑顔で保留する。
彼との沈黙が続いていたので話題の移そうと料理に出てきた奇妙な皿を選んでみた。綺麗だし。どこで手に入るんだろう。ウチの村は木皿だけだったし、もしかして結構高価な物かも知れない。それを口にすると更に彼の冷や汗が増えた。もう見ていて切ない程だ。顎からヒタヒタ垂れている。前の住人がと言っていたがもう見てられない。この人本当に嘘がつけない人なんだ。こんなに可愛い人だったんだ。なんでこんな人がここに住んでいるんだろう。
………えっと、熊と。




