潜伏
・・・いるな。
現在モッカ村外周の茂みの中だ。時刻は明け方。薄暗闇の中で村の入り口を覗くと、いかにも山賊ですといったむさ苦しい男2人が焚き火に当たっていた。といっても周囲を警戒している様子はなく、棒で何かを地面に書き込んで時折笑い声をあげている。何だろう、ゲームにでも興じているのだろうか。警戒のわりには随分集中力散漫だ。しかし彼らの腰元には鉈のような本当によく切れそうな刃物が鈍い光を放っていた。
・・・思わず腰元の自分の得物に手を添えてみる。うん、安全ナイフとなまくらの鉄剣だ。これは駄目だ。早急に交換が必要だ・・・。
溜息を一つ吐き、後ろを振り返る。そこには、決意の表情をしたセシリアさんとマアルちゃんがいた。念のため、もう一度"あれ""敵""?"とハンドサインで問いかける。頷く両者。そうか、と納得しながらもう一匹を探した。ああ、安心の存在感。彼?が居る、それでだけで何とかなる気がする。この際、素直に認めていいかも知れない。友と。ここで、でも彼?が嫌だったら嫌だし・・・と定番の台詞を付けてみる。そんな意味のない思考を繰り返すことでようやく落ち着くことができた。思った以上に気持ちが浮わずっていたようだ。息を吐く。
・・・左手を挙げる。やるか。樹海エンドフラグはとうに折った。後悔は何もない。決意をもって左手を振る。出した合図は『作戦開始』。
…
人間3者でこれまで無駄に白熱し、練りに練ったハンドサイン。その発端は、授業中にセシリアさんがちなみに・・・で簡単な看板などを紹介したことで話題が脇道に逸れ授業の空気が弛緩したことが原因だった。それまで距離や重さの単位からいきなり話がずれたため、思わずここは自分が大幅に逸らした上で注意を入れ本筋に戻そうと「先生、手サインなんてあるんですか」と発言してみた。この、結果的失言に対しマアルちゃんがすかさずこちらの裾を掴んだ。「手サイン」。・・・いくら引っ張っても離さない。観念して基本を示しながら解説するとマアルちゃんが食い付き、途中からは先生であるセシリアさんまでが参戦した。・・・こうして長い時間をかけ眼前でマアル派のお手軽・簡単論とセシリア派のスマート&スピード論が争われた。白熱する議論と前に進まない授業を収束する意味で、「判ればいいのでは。」と漏らしたことより更にに火に油を注ぐ結果となった。他人言では済まなくなった為、なんとか対立の仲裁に乗り出して本日事無きを得た。
そんな一幕もありつつ・・・この日を迎えるまでにモッカ村攻略作戦を4人?で何度も検討した。地理に関しては情報が二人から容易に得られたので、最悪賊30人が残っていた場合を想定した。教室の黒板の村概略図を描く。出入口は東西二箇所。周囲を横に長い楕円形の柵で覆い東西に伸びる大通りと中心に位置する村長宅、そして木造の家屋が点在する。そんな村だった。
情報を確認した上で、作戦を打ち明けた時は母娘から絶句された。いくら説いても納得しない様子だったので、実は簡単な魔法が使えることを打ち明けた。それで母であるセシリアさんは今までの事があった為かすんなり受け入れた。しかし、娘からは「嘘だっ。」と必死に抵抗をみせたため耳元で、作戦が終わればお母さんとは考えてみると告げるとすんなり納得した様だった。・・・マアルちゃんはとっても良い子だ。
・・・問題は熊田さんだった。以前自分の発言で両者の参加が決定事項だと言っても何ら反応を示さない。理由を問うても解らない。お家を聞いても解らない。迷子の迷子の熊田さんだった。彼?の返答は、こちらの顔を尻尾でひたすらはたくだ。どうやら納得がいかないようだった。村へ行ったらそちらへ住むかも知れないから温泉は止めると告げても、無いなら無いなりに彼?は過ごしていく事が可能だ。熊田さんが今回の作戦に必ず参加しなければならない理由が必要だった。「良い温泉掘るよ。」・・・ピクリと止まった尻尾をガシッと掴み交渉は成立した。
…
村に最初に到達したのは絶望の崖に近い村の西口だった。幸い途中で斥候などとの遭遇はなく、焚き火にあたっている見張り役はこちらには気づいていないようだ。首尾は上々といった所か。振り下ろした左手を戻し、無言で茂みから歩み出て言葉を発す。
「水が指し示す二人の喉と肺を満たす。」
見張りはゴフっと音を立てて倒れた。白目を剥くまで待ち、痙攣が収まったのを確認して歩み寄る。首を掴み脈がないことを確かめ、なまくらの鉄剣と鉈を取り替える。第一段階は成功だ。村の内部にも伝わった様子はない。シン、と静まり返っていた。右手で鉈を腰元に収めつつ、左手で"クリア"と後続にサインを出す。向こうも行動を始めたようだ。確認して次の行動に移る。
・・・30分後、自分は村の反対側、東口を伺う茂みの中に潜伏していた。こちらは単独行動で、大幅に北を迂回してようやく辿り着いた。道中は駆け足。聞きしに勝る起伏の激しさに思わぬ時間を取られた。なんだったんだ。あの傾斜。まあ、置いておく。そう思えたのもこの場所に予定通り間に合ったからだ。そろそろ向こうが動き出す頃。息を整えながら、合図を待つ。ぜー、はー。ぜー、はー。周囲に聞こえるのは、もっぱらその音のみだった。当然、自分だ。
・・・予定の時間が近づき、セシリアさんは振り返る。その表情は固く厳しい。
「間も無くユータさんが示した時間です。マアル、準備はいい。」
「ん。いい。」
「熊田さんはいかがですか。」
(顎をしゅるりと撫でる。)
「・・・はい、よろしいのですね。では。」
三者?が頷く。
・・・時は満ちた。準備は万全だ。唯一、予定と違うのは自分の呼吸。背中のズタ袋重すぎた。運動不足だったかなあ。
プロット達成率19.5%




