母娘似たり
二人が滞在を始めた初日は、マアルちゃんの執拗な質問攻めで一日を費やす結果となった。彼女は見る物全てに納得がいかないと不機嫌になるらしく、トイレや、風呂、陶器、投網、階段など屋内にある自分が解らないものには理解するまで説明を求めた。こちらは徹底して前の住人がやったものだとのスタンスを貫いていたが、どこまで信じたかは微妙だ。しかも、彼女は説明をしてある程度納得すると母親に逐次報告にいく。なので、こちらが伝える情報は全てセシリアさんに筒抜けだった。セシリアさんは衣服を縫いながら常にニコニコしていたが、果たして彼女はどう感じたのだろうか。それも心配だ。ちなみに、自室には立ち入らせなかった為、奥の作業場はばれることがなかった。少女は勢いで入ろうとしていたが、流石に母親が止めた。立ち去る時、ちょろっと舌を出したのを見逃さなかった。おのれ、確信犯か。その日は軽い夕食を済ませて、風呂に入って寝た。・・・その日は、とても静かな夜だったので、母娘のすすり泣く音が聞こえてきた。煙草一本をくゆらせ、頭から毛布を被った。
二日目の朝を迎えた。・・・寝不足だ。しかし朝の漁にいく。熊田さんはいつの間にか倉庫で気持ちよさそうに寝ていた。試しに一回熊田さんに投網してみる。うん、捕まえた。熊田さんはそれでも起きなかった。・・・こういう事はもうやめよう。
リビングにセシリアさんが待っていた。少し疲れた表情をしていた。こちらも寝不足だ。お互いの顔を見合わせ、少し笑う。それだけで十分だった。彼女の苦悩は時間が解決するしかないし、こちらもそれは解っている。言葉はなかった。ただお互い相手のやつれ具合に笑った。彼女も泣き声が聞こえていたのを自覚していたんだろう。軽い挨拶を済ますと、二人で滝壺へ向かった。
狩りを行い、朝食を済ませる。2日目は、オー窟の外を二人に案内した。まず自分達が落ちた自殺防止ネット。しっかりした造りを確かめると少し離れて崖までの高さに絶句していた。ネットも前の住人が造ったことにしたが信じたかどうかは判らない。こちらは、ただあったとだけしか答えることができない。
そして水堀。今ではどこから来たのか魚以外に小さな沢蟹や蛙、亀なんかも棲むようになってしまった。お前らどっからきたんだよ。熊田か。熊田が持ってきたのか。そういえば、食料になるなら何をもってきても構わないような事を言った。昨日から彼を見かけなかった。そしてここ数日クマダミはなかった。ああ、全て繋がった。
「・・・色々いるんですね。」
「・・・そうみたいですね。」
マアルちゃんはすでに亀を捕まえたようだ。母親に窘められて離したものの、目の輝きは衰えていない。子供にしてみれば、この水堀は宝石箱や。
よくよく観察してみると、プールの底にはのっしりと動くものがあった。あれ、小物ばかりだと思っていたが熊田さん、何してんの。プール底には何か蠢く巨大生物がいる。新たな、発見だ。熊田さんには後で契約面を含めて話が必要なようだ。
「おかあさん、これなに。」そう彼女が向けた視線の先には鉄壁を誇る四方を囲った土壁だ。返しもついている周到さ。「・・・なんでしょう。」と、セシリアさんは視線をこちらに向ける。前の住人がと返してみたものの、セシリアさんは鋭い視線を投げかけて来る。マアルちゃんは気にせず土壁をバシバシはたいている。・・・やめろ、それ以上そこを刺激しないで欲しい。そこは様々な災厄と唯一の希望が混在する、いわばパンドラの箱なのだ。あらゆる世俗の問題を解決するが、しかし実質何も解決していないという非生産の局地なのだ。不安ガクブルの視線をセシリアさんに返すと、彼女は娘を宥めて帰路についた。
・・・帰路につく際、彼女がちらりと土壁に送った視線が忘れられない。
プロット達成率13%




