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亜麻色の髪の乙女

 ・・・「おじさん、だれ。」母に手をつながれて現れた少女は、まずそう言った。



 ・・・覚悟していた。人と交わることで得るメリット、そしてデメリット。おじさん(・・・・)という言葉は正にデメリットを体現した言葉だった。実年齢27歳の精神的にはいきなり心臓の半分をごっそり削がれた感じだ。ああ、まだあっち(元世界)じゃ未経験だったのに。肩書き的には<おじさん童貞>(おじさんと呼ばれたことがない人)だったのに・・・。子供は正直。

 「おじさんじゃなくて、お兄さんだよ。」ちらりと母親を見ると、少々困った表情だ。何故困った。何が困った。明らかにおじさんに見えるからか。親子共々正直ですね、この野郎。「うん・・・。」と言った娘に視線を目を戻すと、まだ眠い目をこすっていた。聞いているのか、いないのか。熊田は、一匹で充分だ。

 二人にはリビングのテーブルに着席してもらって、朝食を作る。今日は朝の漁を断念して、メニューは堀から網で獲ってきた川魚の塩焼き、刺身、魚茶、爆裂弾、星狐、クマダミの用意できる6種類だ。これまでは二人?だけだったので不満はなかったが、昼からはパーティー犬でも狩ってきた方がいいのだろうか。米もパンもない。パンがなければお菓子もない。そもそも異世界人は何食ってるのだろうか。


 「場所が場所なので、たいした料理はできませんが。」そう前置きして、それぞれの皿を出していく。気持ち5人前より多めだ。昨日は果実の備蓄に努めたが、最悪これでも足りないとなるとこれからの食料ロードマップを変更する余地がありそうだ。

 最後に、朝食を一通り並べ終え、テーブルを挟んで困惑した母娘を前に静かに待っていると、リビング中央の倉庫からもっそりと顔を出した何かがあった。・・・勿論、我らが熊田さんだ。母娘は、「ヒッ・・・。」といったっきり、驚愕の表情を見せている。そうか、熊は異世界でも恐れられる存在なのか。

 熊田さんはまだ眠いようであちこちの壁に身体をぶつけながら着席した。母娘は身をちぢこまらせて抱き合ってる。熊田さん、朝から迫力ありすぎっすよぉ、と心の中で呟いてみた。何もなかった。

 「全員揃ったようなので、食べましょう。」努めて笑顔で、朝食を開始する。客人を安心させる為にもまずはこちらが誠意をみせるべきだろう。テーブルのこちら側では、熊田さんと自分がばりばりむしゃむしゃ、片や一方では、熊を凝視。そんな光景がしばらく続いた。・・・いい加減、この状況を打破するのがホスト(主催者)の務めか。そう思い、女性に質問してみた。

 「初めまして、自分の名前はユータ・カドエビといいます。こちらは熊田さん。失礼ですが、貴女方のお名前は。」・・・うん、満点に近いんじゃないだろうか。よく対人恐怖症(トラウマ)を負った中でこれだけ言えたものだ。どうか生涯あの第一村人には出会いませんように。お願いします、神様。

 「・・・あ、ごめんなさい。私はセシリア。娘はマアルです。モッカ村に住んでいました。」熊田さんを凝視していたセシリアさんが、慌てて応える。そっか、セシリアさんていうのか。

 「住んでいました、とは。」「はい、あの、・・・ふう。モッカ村はもう無いんです。」「え。」「大勢の盗賊に襲われまして、あの、み、みんな殺されて・・・夫も・・・。」セシリアさんは話の途中から、いきなり肩を震わせて泣き始めた。釣られてマアルちゃんも涙組む。おいおい急展開。慌てて熊田さんを見る自分。熊田さんは何をトチ狂ったのか、アタフタしながら尻尾でマアルちゃんの頬の涙をしゅるりと拭った。はっ、と泣き止むマアルちゃん。見ると尻尾が猫じゃらしのように揺れている。たちまち泣き顔が笑顔になり、尻尾を掴みにかかった。ひょいひょいと躱す熊田さん。セシリアさんと自分は、それで一息つけた。「よく無事で・・・。」「もう駄目かと思ってました。村から逃げた人も一人二人と捕まっていき・・・絶望の崖まで追い詰められて。」絶望の崖。この家の上にあるのが絶望の崖と呼ばれていた。・・・正直、何よりもショック。どうか例えば住まいの近く道路が、魔の交差点と呼ばれていたのを知ったと仮定して欲しい。正直ショック。そんな感じ。

 「ぜ、絶望の崖。」その一言だった。それしかなかった。「ええ、絶望しかない場所だと。村ではそう聞いてました。追いついた盗賊5人に囲まれて、もうどうしようもなく。娘さえ生きてくれたらと娘を抱えて飛び込んだんですが。命が続いたようです。助けて頂いてありがとうございました。」「・・・いえ、当然の事をしたまでですから。」と反射的に返答して、悩む。あれ、多分だけど相互に情報の齟齬が生じている。たぶん、向こうには絶対死ぬといった状況で生き延びた=なにかしらの奇跡的状況下で運良く生き延びて、その後こちらが助けたと思われているのだろう。本来なら奇跡的状況(自殺防止ネット)をつくったこちらが褒められてしかるべきなのに。どうしようか、どうにもならないか。マールちゃんは、相変わらず熊田さんの尻尾を掴もうと悪戦苦闘している。掴ませる気はないのか、熊田さん。最初の一回ポッキリって、どんだけ宣伝上手いんだよ。

 「まずは安心してください。ここらには命を脅かす生き物はいないですから。」セシリアさんは熊田さんとチラリと見た後こういった。


 「それはそう見えますが、村では崖の下は、オークの巣窟と呼ばれていました。」・・・しまった。



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