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遭遇

 起床し身体を動かしてみると、いまだ強敵(筋肉痛)の襲来がなかったようなのでその時に備えて準備に取り掛かる。いつものようにシャツとズボンを身に付け、腰紐に安全ナイフを差し、革の靴の靴紐を結ぶ。早朝はまだ寒いのでマフラーとロープを羽織り、その上に投網が入ったズタ袋を背負った。さあ、出発だ。漁場の滝壺へと向かった。そこまでは、いつもと変わらぬ日常だった。



 「・・・熊だ。」熊がいる。


 滝壺につくと、川の中に大きな熊がいた。朝の漁は既に日課となっているため別段に警戒していなかった。滝の音で相手が立てていた大きな水音もかき消されたせいもあった。気づくと、熊と5mない距離で見つめ合ってしまっていた。

 ゴクリと唾を飲み込む。熊は水の中で立ち上がりこちらを見つめたままだ。相手が何か動き出したら、とにかく魔法を唱えよう。若干時間が経ったので、脳が正常に動き出す。まず身を守る。やらなければやられるだけだ。熊の容姿はヒグマそのもの、体長は2.5mぐらいか。つぶらな瞳でこちらを見つめている。あ、尻尾が熊と違う。どちらかといえば長尾の猫のそれに近い。流石は異世界か。

 熊はこちらの様子をしげしげと観察すると、振り返ってゆっくりと川の中を進み対面の岸に座り込んだ。・・・そこから動く気配がない。何だ、場所を譲ってくれたのか?まあいい。襲ってこないというならこちらも無理に手を出すことはない。手早く漁を済ませよう。

 投網を5回投げる。3匹獲れた。ヒグマはこちらの様子を眺め、最初の一回こそはビクリとしたものの投網の様子を熱心に観察しているようだった。人の目ではないためあまり気にはならないが、多少見られていると気恥ずかしい。

 それにしてもおかしな熊だ。普通は人と会ったら襲うか逃げるかするもんだろう。それでなくとも特に何する訳でもなく、川の岸に座り込んでこちらを眺めたりしないだろう。みれば鼻歌でも歌いだしそうな佇まいだ。本当におかしな熊だった。彼には尊敬の念を込めて思わず呟いてしまった真名を贈ろう。それではこちらはそろそろ失礼するよ、熊田(・・)さん。いずれご縁があればまた。そう熊田さんに声をかけ、軽く手を振り滝壺を後にした。



 ・・・想定外の事態が起こった。ほぼ、間違いない。・・・熊田さんがついて来ている。・・・なんだ、どこで間違った。あれか、別れ際に手を振ったのが間違いだったのか。違うよ熊田さん、あれは別れの挨拶であって決して付いてこいの合図じゃないよ。何でそう受け取っちゃうのかな。

 最初はちょっと行き先が同じ方角なんだなぐらいにしか考えてなかった。獣道も少ないし、意外に住まいが近場なのかなとしか。でも、薄々感じてはいた。確信したのは小休止をとった時だ。ずっと見えるか見えないかでつかず離れずの距離をとっていた熊田さんが、こちらに合わせて歩みを止めたのだ。後ろを振り向くとそっぽを向く。尻尾は天に向かってピンと張っていた。これは間違いないと。しょうがない撒くかと駆け出した所、熊田さんは驚くべき速さでこちらについてきた。何でこんな部分だけ猫なんだ。何なんだアンタ。何がしたいんだ・・・。駄目だ、絶対撒けないわ。足では向こうに分があるわ。


 ・・・そうこうしている内に豚橋まで辿りついてしまった。もうこの際止むを得まい。豚橋の上で振り返り、30m先の熊田さんに向かって指をかざした。


 「炎が拳大の塊を形づくって指し示す方向へ飛ぶ。」いわゆるファイヤーボールだ。AがBをどうするという型にはめた結果こんなに回りくどいものになってしまった。緊急時では使えない、威嚇用の魔法だ。

 炎の塊は見事熊田さんの足元に着弾し、周囲2m程に焼け広がった。熊田さんは慌てて逃げ出し、樹海の中に姿を消していった・・・。勿論、その後消火した。

 これでもうここに近づくことはないだろう。流石に熊と一緒に暮らす度胸はない。いつ咬み殺されてもおかしくはないのだ。猛獣と暮らすということは、餌を与えてくれ、かつ寝床の掃除までしてくれる動物園の飼育員でも一つ間違えば大怪我を負うのが現実だ。自分は飼育員ではない。では何かというと、職業不詳だ。・・・あれ、違和感を感じる。


 オー窟に戻り、獲ってきた魚を開く。3匹はそれぞれ刺身、塩焼き、うお茶にした。自慢の食器類で食事に華を添える。幸福というのはこうやって実感していくものなのか。

 そうだ、花瓶も作った。午後は果物の採取がてら何輪か花を摘むか。そして自室と客室に飾ろう。とにかく明日は動けまい。多めに採取するため肩掛けバッグの他にズタ袋も持っていくか。投網は一旦空室に仕舞おう。



 ・・・食後のうお茶を啜りながらそんなとりとめもない事を考えていると、庭から突如轟音が響き渡った。急いで外にでてみると、水堀に落ちた熊田さんだった・・・。

 

プロット達成率9.8%

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