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進め生活向上委員会

 ・・・皿だ。皿が欲しい。『皿が欲しいね』と俺が言ったから七月六日は皿だ記念日。そのぐらい皿が欲しい。


 現在、食事はリビングのテーブルに樹海で採取してきた大きな葉を敷いてその上で食べている。箸は小枝で賄っているが、皿だけはいかんともし難い。文化大国日本出身の自分にとってはここら辺をなんとかしたい。

 木の皿でもつくってみるか。しかし、のこぎりもノミもないしな。安全ナイフでガシガシ削っていく方法もあるだろうが、果たしてどれ程時間がかかるだろうか。鍛冶でもやってのこぎり作ってみるか?いや、鍛冶に必要な炉は土魔法で造れても、高温の鉄をぶっ叩くハンマーや金床がない。ではそのハンマーや金床をつくればいいんじゃないかといえば、それを造る道具もない。ないないスパイラルに陥るだけである。木の皿の線は諦めるか。

 諦めるにしても、ともかく今日は皿だ記念日だ。皿をなんとかしたい。どうするかと悩んでいた所、ふと小学校5年生で親父と一緒に参加した『夏休みサマープログラム 伝統文化を体験しよう』の記憶が蘇ってきた。昨年の苦い経験から学習センターの体験教室に見切りをつけた父親が、NPO法人が主催する本格的な体験ツアーに申し込んでいた事が一学期の終業式の朝に発覚した。昨年で体験教室の類は懲り懲りだった自分にとっては、正に天国から地獄に叩きつけられた思いだった。おとうさん、はかったね。・・・当時はそんな思いを抱いたもんだ。大型バスで揺られること3時間、山奥の一軒家に連れて行かれた一行はまず初日のプログラムである陶芸教室を体験することとなった。そこから全5日間の行程で様々な体験をするのだが、それはまた別の話。・・・懐かしい思い出だ。

 ・・・試してみる価値はあるかも知れない。陶器作りに最低限必要なものは窯と粘土と釉薬(うわぐすり)だけだったはずだ。窯は土魔法で用意するとして、粘土は地下の地層からいくらでも採れる。釉薬も灰と折れた銅剣から作れるか。問題はなさそうだ。本日はそこんとことさんと(ねんご)ろになってみることにした。


 朝の漁を行うと本日の漁獲高は8匹だった。急いで帰って堀に6匹放す。よかった、今回も脱落者はいなかった。2匹は塩焼きで朝食とした。後片付けをして作業場に移動する。まずは窯の準備だ。


 「土が、焼き窯を形作って固まる。」・・・よし、成功した。作業場の一角に縦2m×横2m×高さ1m程の円形ドーム状の窯を造った。実は焼き物の釜造りはそんなに難しいものではない。造ろうと思うならドラム缶でもできたはずだ。要は熱に崩れない素材を用いることと、内部の温度を一定に保つ構造をしていればいい。今回は硬い岩でつくったので、熱には強いだろう。構造としては、まずドームの入口の竈で火魔法を唱えその空気を竈の上に設置した通風孔でドーム内壁の下に通す。下から内部へと抜けた熱風はまずドームの上に集まり、徐々に下がってくる。内部の温度を一定にしたあと、通風孔の対面に排煙口を設けそこから煙が逃げるようにする。あとは煙突で崖上まで煙を逃がす。勿論煙突も土魔法で造った。土魔法万歳、土魔法万歳。

 この窯のミソは通風孔と排煙口を内壁の一番下に造ることだ。下手に円の中程につくってしまうと内部の温度が均一にならず陶器の置く場所によって焼き過ぎ・生焼けなどの違いが生じてしまう。窯はこんなものか。


 次に、材料となる粘土の採取だ。地下へと続く階段を下るとテカテカと光るいい感じの地層があった。濃い灰色だが若干キラキラと光っている。何か鉱物が含まれているのだろうか。安全ナイフを使い大量に採取した。作業場に持って帰り、ろくろがないため一つ一つ手ごねで成形する。一応、投網を編む時につかった定規を用いて採寸を行い、限りなく均一に近い物を3点ずつ作った。土魔法で作ればいいんじゃないという意見もあるだろうが、これぞ陶芸の醍醐味だからやってみたかったのだ。作ったものは、茶碗と箸置き、小皿、大皿、小鉢、大鉢、コップ、湯呑、急須、花瓶の10点だ。果たしてどれだけ成功するだろうか。


 「水が粘土を出て蒸発する。」成形した粘土の周りが一瞬もやっとした。よし、大丈夫そうだ。本来なら成形後一週間ぐらい放置して乾燥させねばならないが、ここは異世界だ。その手の常識は通用しない。十分に乾燥したものを窯に並べ土魔法で窯に蓋をした。

 陶器作りの大まかな流れは、成形→素焼き→釉薬を塗る→本焼きの4行程だ。うろ覚えだが、確かサマープログラムで教わったのは素焼き800℃、本焼きが1200℃ぐらいが適温だった。温度調整か・・・。確か蝋燭の火でもその温度はおよそ1000℃だったはずだ。とすると、熱風に変わって温度が落ちることを考慮すれば素焼きはメラメラ、本焼きはゴウゴウぐらいの火力でいいのか。焼きは子供の身ではやらせてもらえなかったので、ここら辺の知識は欠いている。まあ、やってみるか。竈に手をかざし魔法を唱えた。  


 「炎が、拳大の塊をつくって留まる。」お、成功した。炎の塊が竈の中で停滞している。一つでは不安なので塊を2時間ごとに1つ増やし最終的に合計4つにした。4つでたっぷり2時間焼き上げて消火し、自然冷却する。確かいきなり取り出すと温度の急激な変化で割れてしまったはずだ。ここまでで一日かかり、これで皿だ記念日は終わりを迎えてしまうが、それならばと明日も皿だ記念日にすることにした。やったぜっ。その日は露天風呂で汗を流し寝た。



 翌朝起床し、投網を行う。5匹か。こんな日もある。3匹を堀に放すと、堀の淵に蛙が一匹跳ねているのを見つけた。異世界らしく、紫色だ。どこから来たんだこいつは。いいか。朝食を済ませたら続きをやってしまおう。


 魔法で窯を開き、素焼きした物を取り出していく。ひびは・・・大皿が2枚、大鉢は全滅、湯呑1個、花瓶が1つと。割れた物は次回に補充するとして、釉薬を塗る工程にすすむ。釉薬はリビングの釜から取ってきた灰と折れた銅剣を曲がった鉄の剣のざらざらした部分で削ってつくった銅粉を混ぜ合わせて作った。水に溶き、各素焼きの底となる部分以外に指で塗っていく。底に塗らないのは焼き上がった時に地面とくっついてしまう為だ。全ての素焼きに塗り終わると、再び窯に戻す。さあ、いよいよ最後の仕上げ、本焼きだ。窯を閉じ、素焼きと同じように竈に2時間ごとに炎の塊を放り込んでいく。素焼きより400℃上げないといけないため、塊は合計6個、計12時間に及ぶ作業だった。12時間に及ぶ作業といっても、2時間に1個塊を放り込むだけだったので、時間の合間は露天風呂にゆっくり浸かったり、やわらかい麻布から水着を作ったりしていた。水着は太ももの半ばぐらいから上が赤色で、下が紺色に変化している部分染めを用いてみた。染めようと思ったのは、白だと透けてしまわないかと思ったからだ。・・・万が一の為だ。蛙の目もある。決して誰か訪ねてくることを期待している訳ではない。そう、心に誓ったはずだ。思い出せ、不慮の事故(トラウマ)を・・・。明日晴れたらプールで遊ぼう。そして明日も皿だ記念日。そう決めて寝た。



 翌朝漁を終え、朝餉を焼き魚で済ませて作業場へと向かう。いよいよ、待ちに待った皿だ記念日のお披露目だ。土魔法で窯を開く。結果はどうだ。どうだ・・・やった、成功だ!続々と完成した陶器を取り出す。

 素晴らしく・・・きれいな青緑色をした陶器が出来上がった。緑は銅の影響だろう。狙っていたものだが、青が混ざっている。採取した土の影響か。何にせよいい色が出た。これはもうオー窟の特産品といってもいいんじゃないか。ま、出荷先はないけれども。


 3つ全て出来たのは茶碗と箸置き、小皿、小鉢、コップだ。2つが花瓶と湯呑、急須と大皿は一つだけ残った。初回にしては最高の結果じゃないか。もう職業陶芸家を名乗ろうか。

 いやいや、服屋さんも捨て難い。漁師という可能性もある。そもそも、俺は会社員だった。まあ、この際全てで生計を立てている訳だから、職業不詳というのが一番適当な所か。・・・あれ、違和感を感じる。


 出来上がった陶器をリビングに運び、すぐに土魔法で食器棚を造った。出来た食器を並び揃える。綺麗に並べ終え、改めてリビングを見渡してみた。ちょっとずつ物が増えていくのは何かこう、確かな手応えを感じる。心の中がほんのり温かい。


 生簀から一匹獲ってきて急須を使い、湯呑にうお茶を入れた。・・・ほっとする味だった。



 


 

プロット達成率9.6%

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