安全第一
次の目標は塩の入手だ。問題は、いかに人目を避けて海水を入手するかだ。それが一番の問題だ。第一村人の驚愕と恐怖で見開かれた目が俺をいつまでも苛ませる。
水と同じように土魔法で海まで穴を通せばいいのでは、という考えるが問題はそう簡単ではない。もし海水なんか樹海の真ん中に引っ張ってしまったら最悪ここを中心として樹海が枯れかねない。そうなれば樹海エンドのフラグはものの見事に折れてしまうだろう。それは断固死守したい。そもそも海までどれだけ遠いのか。オー窟の崖を登れば何が見えるのか。まずはその当たりから手をつけるか。
「土が階段を形作って固まる。」リビングに階段を設置した。魔法を何度も唱え天井を超えてさらに突き進んでいく。地上10m、ビル3階分の高さの階段を通しようやく地上に出た。
・・・崖の上にでてみれば、ああ、そうだよな。第一村人がいると解った時点で予期していた。周囲は崖下と同じく樹海に囲まれているが、獣道に近い小径が一本崖から樹海の中に伸びていた。・・・この先は文明の香りがする。樹海トゥルーエンドを目指している自分とっては、この選択肢は回避するべきだろう。無言で崖からの眺めに目をやると、見渡す限りの森、森、森だった。木へんに森と書いてジャングルと読む。それぐらいの森だった。清流や滝も完全に埋もれている。これでは正確な地図作成も不可能か。雨水が流れてこないよう階段の出口を塞ぎ、リビングに戻った。
探索は進んだ。しかし謎だけが残った。なぜ、こんな辺鄙な森の崖に小径が続いていたんだろう。崖に何らかの用途があるのか?小径ができていることから察すれば、定期的に使われているということだ。崖に何の価値が?定期的に犯人を追い詰めているのか?馬鹿野郎、流石に偏見すぎるだろ。
ここは何らかの廃棄場所なのか。しかし、オー窟の前に残留物、またその痕跡は見当たらない。オー窟、そうだ金髪糞豚野郎を忘れていた。・・・一応断っておくが、金髪糞豚野郎はネタであって本当に金髪ではない。ネタのソースは林さん家の次女。自分のネタに解説をいれる・・・超恥ずかしい。だったら使うな、と。
オークの群れがいたという事実を加味すれば、推測は成り立つ。元々ここの崖は近くの村か街かの廃棄場所だった。廃棄場所に選ばれた理由は、廃棄する物が身近な場所では不都合だったからだ。崖の眺めからすると、近くに山など高低差がある土地も見当たらない。投げるという簡単な動作で、より遠くに廃棄できるこの崖は正にうってつけの場所だったろう。うん、筋は通っている。さて、肝心の廃棄物だが、おそらく生モノだったのではないか。この洞窟に転がっていた大量の骨。しかし、自分が2週間以上ここで生活してもそれほど生物に出会った記憶はない。そこで、あのオークの群れを維持していけるだけの要素が必要になる。そこから加減乗除してさらにうんたらかんたらして導き出される答えは・・・近くの人間社会の生モノ処分場と死体遺棄場所、及び投身場所だった可能性がある。背筋がヒヤリとする。遺棄していたのは個人がやっていたのか業者がやっていたのか解らないが、50を越える大食らいを支える供給がここには間違いなくあった。それがあった為に飛べない豚はここに群れを形成できたのだろう。
最悪の可能性を考え、自宅前の広場に自殺防止用ネットを造っておくことにした。この作業のために数日を費やすことになるが、家に帰れば死体が転がっていましたという事態には陥らない。それだけは勘弁して欲しい。やるせない気持ちになる。・・・やるせ●すは今何しているんだろう。どうでもいい。
ネットは崖の手前3mまでを土魔法で造った高さ3mの石柱で囲い、柱の頂点を荒い麻糸で張り巡らした。さらに、上から見れば分からないようネットを木の枝や草で覆い偽装しておいた。文明社会との接触は目指すトゥルーエンドを阻害するものだ。出来ればないに越したことはない。しかし、2週間以上経つが何も落ちてこない。何か上の世界であったのだろうか。
数日かけてネットを張り終えると、当初の予定を大幅に逸脱していることに気づいた。そうだ、塩を手に入れようとしてたんだ。ありもしない妄想の為に貴重な数日を無駄にしたんじゃないか?くそ、反論が見当たらない。・・・この経験を糧に、明日から頑張ろう。ふて寝した。
自然から塩を手に入れる方法は2種類ある。海水を入手するか、岩塩を掘るかだ。他に現代では劇薬を調合して塩化ナトリウムを精製する方法があるが用意できない。とすれば、現在海水の入手は難しいので、岩塩に当てを絞る。リビングに造った階段をそのまま地下へとつなげた。水道管と温泉はどう引っ張ってきているんだろう。ぶつかったら溺死するかな・・・と考えながら掘り進める。結果は・・・大丈夫だった。地下20mに達した所でようやく安堵した。さて、ここからが本番だ。
どこかで得た知識だが、地下を掘るにしたがって地層から有毒なガスなどが染み出る場合があり、それで軍隊一つが全滅したこともあったらしい。採掘の仕事には従事していなかった為そこらの専門的な知識はないが、ダルヴァザという言葉はよく覚えていた。曰く、”The Door to Hell(地獄の門)ダルヴァザ”だ。トルクメニスタンにある一村なのだが、天然ガスの採掘によって絶えず有毒ガスが噴出するようになってしまった。有毒ガスを何とかしようと火をつけたところ、絶えず燃える土地になってしまった例だ。現代では観光名所となっているようだが、オー窟が観光名所になるのは避けたい。崖上に向かうのとは状況が異なり、地下採掘は慎重に行っていく。絶えず風魔法で外に空気を逃がした。日本の陸地部分の地質がどうなっていたか、まるで知らない。大地震が起こった時に大陸棚などの説明はあるが、実際地層が概ねどうなっているのか分からない。例えば富士の樹海を500m掘ったら重油は出るんじゃないのか?とか疑問が湧いてくる。金は?ダイヤは?地層の知識がまるでない。俺は日本の地層調査の脆弱性を指摘した。地震調査も必要だが、純粋に垂直調査も行っていく必要はないだろうか。まあ、誰にも伝える人はいないのだが。ともかく、岩塩目指して掘り進んでこう。周囲の空気は非常に肌寒い。どこまで寒くなるのだろう・・・。
何十層も経て、様々な所で湧き出す水に足をとられながら掘り進んだ。これは孤独との闘いだ。いままさに神に試練を与えられているんだ。俺って、ぼっちって呼ばれることはないと思っていた・・・と現実逃避しながら掘っていると、唐突に透明な層にでた。舐めてみる。・・・塩辛い。
プロット達成率9.3%




