表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍造寺恋鐘の時間停止ミステリ  作者: 伊神一稀
第2章 時の止まった放課後
PR
23/38

解決②:残された可能性

「えぇ……」

「毎日そうしていたのか、今日だけ例外的に持ってきてたのかは分からないよ? でも彼女は今日という日に鞄にペットを連れてきて、そして逃げられてしまった。だからこの時間まで待って探そうとしてたのさ」


 井上の不安げな顔つきが脳裏をちらついた。

 なるほど、大事なペットが逃げた上にその場所が自宅以外なら、必死に探しもする。


「どうして気づいたんです、ペットを探しているって」

「絶対に見つけなきゃいけない代物にどんなものがあるか、考えてごらん」


 試すように返される。どうも恋鐘先輩はすぐに答えを出さず、俺と議論をするのを楽しんでいる節がある。正直面倒なのだが、待っていても答えが出てこないのは明らかだ。


「そうですね……まず、大切にしてるものですよね。アクセサリ、お守り、手紙とか? あとは見られると困るプライベートなもの。薬や、日記とか」


 恋鐘先輩と一緒に行動しながら、俺なりに井上が何を探しているのか考えてみてはいた。おそらく井上にとって価値があり無くすと困るものか、学校という不特定多数の人に見られるとまずいモノ、そのどちらかだろうと予測していた。


「まぁ大体そういう類だよね。じゃあ仮に、彼女が探していたものがラブレターだったと考えてみよう。それはどこで無くしたのかな?」

「学校でしょう」

「本当に? 学校を出る前の自宅で入れ損ねたかもしれないし、ここに来るまでの道中で落としたことも考えられそうだよ」


 そうかもしれないが、可能性の話だ。どうとでも捉えられる。大事なのは井上がここで探していたということで――いや、待て。


「そういえば、なんで学校でずっと探してるんだ?」

「そう、最初の疑問はそこだった」


 恋鐘先輩は近くにあった椅子を引く。彼女の右手によって時間停止は魔法のように解け、容易く動いた椅子に腰掛けていた。


「あらゆる可能性があるのに、彼女は部活を休んで1時間半も捜索している。つまり井上さんはこの学校にあるっていう確信を持っていた。じゃあその確信はどこから来ていたのか? 学校にいる間、リュックの中にちゃんとそれがあることを確認した時間があったからだ。そして、誰もが持ってきた鞄を開けるタイミングがある」

「――ああ、昼休み!」


 俺は指を鳴らす。もし大事なものを鞄に入れていたのなら、昼の弁当箱を取り出すときに一緒に確認できる。確かに彼女は弁当派だった。


「休み時間中でもちょこちょこ見れるけど、しっかり確認できるタイミングは昼休みが濃厚。つまり彼女は昼まで大事なものが鞄に入ってることは分かっていた。だから無くなったとすれば学校だと判断して残ったんだ。さて、ここで新たな疑問が生じる。なぜ彼女は第二校舎に居たのか、ということだね。

 無くなったものが手紙、ぬいぐるみ、日記、薬、などの物体だった場合、持ち主が見つけられなかったらどこにいくと思う?」


 また質問形式だったが、その問いは考えるまでもなかった。


「ゴミ捨て場か職員室ですね」


 小さなアクセサリや薬であれば、ゴミと間違えられて捨てられる可能性がある。もしくは誰かの私物だと判断されれば職員室に届けられ、一時保管される。


「そうだね。6限目終了後には掃除の時間があるから、教室の掃除中にゴミとして捨てられてしまったか、あるいは職員室に届けられた可能性が高い。なので井上さんが真っ先に向かう先は職員室になる。遺失物保管場所があるから、そこに届けられていないかまず聞く。届いていなければゴミとして捨てられたことを疑うので、やっぱり教師に許可を得てゴミ捨て場を探させて貰うことになる。どちらのパターンでも一時間以上学校に待機するほどじゃないし、見付からなかった場合も彼女が居るべきは外のゴミ置き場だ」


 探し終えて帰ってきたタイミングかも、という反論も浮かんだが、口に出す前に消去した。上北垣高校のゴミ置き場は部活棟の横の倉庫だ。そして部活棟は第一校舎からグラウンドに行くまでの途中に位置している。外から戻ってくるなら第一校舎に直行すればいいのに、彼女は第二校舎にいた。しかも巾着袋を持っている。さすがにそんなものを持って探すのはおかしい。


「じゃあ、なぜ第二校舎の三階という場所に居たのか。さっき言った通り、彼女は自分の教室をずっと見張っていたんだと思った。つまり、教室の生徒が居なくならないと捜索できないようなものが、彼女の探し物だったということ。おそらく他人のロッカーをぱかぱか開けたり、机の中を覗き込むような行為をするつもりだったんだろうね。誰かが残っているのにそんな泥棒のような真似はできない」


 さっき全部のロッカーを開けさせたのは、井上のロッカー以外にペットが入っているかもしれないと想定したからだったのか。

 そこで恋鐘先輩が指を二本立てる。「ボクは二つの仮説を考えた」


「一つ目は、動物などの動く物体であること。広範囲な捜索が必要なくらい、どこに行ったかわからない、もしくは自律的に移動してしまう可能性がある場合は、教室中を探すことになる。二つ目は、自分の大事なものが誰かの手によって隠された。こちらも広範囲な捜索が必要になるからね」


 一番目もだが、二番目も俺は予想だにしない仮説だった。


「二番目は、否定できるんですか?」

「考えてみてよ。いじめで隠される定番の上履きや教科書とは事情が違う。今回は彼女の大事なものだよ。鞄の中に入っていた大切なものを、他人がどうして知ることができるの?」

「あ、確かに」

「その時点で犯人の候補が絞られてしまうので、盗むこと自体リスキーになる。それでも仮に盗まれた場合、井上さんが学校に留まる理由はないよね。持ち去られたかもしれないんだから。“お前の大切なものは学校に隠したぞ”なんて通知があったとしたら別だけど」

「そんなことする奴は……いないでしょうね」

「だよね。でも時に人は馬鹿馬鹿しいこともするので可能性は0じゃない。愉快犯かもしれない。ただそれも状況と証拠の面で否定できる。謎の手紙とか怪しいメモなんかは見つからなかった。電子メールで通知するなんて凝ったやり方も考えられるけど、この停止空間で彼女を見張っているような人間も居なかった。愉快犯なら慌てふためく彼女を見るのが目的になる。でもそんな頭のおかしい奴は存在していなかった」


 さっき恋鐘先輩は逢引きの相手を確認していたと言っていたが、どうやらいじめの可能性も同時に検証していたようだ。


「となると、一つ目の理由で学校に留まっていると考えるのが妥当だね。巾着袋を持って監視していたのは、発見次第すぐに捕まえたかったから。あるいは教室外で見つかったときの対応とか、不安から所持していたかった気持ちとか、そこは色々とあるかもしれない」


 丁寧に様々な仮説を検証していった結果、恋鐘先輩の中にはペット脱走という結論だけが残った。

 そして、それは正解だった。


「扉は施錠できないし、爬虫類は足音もないから授業中だと誰も気づかない。隙間から出たあと、湿った暗いところを好んで段ボールの中に身を隠したんだと思う。夜行性らしいしからジッと動かなくなった。でもボクらで見つけられてよかったよ。この時間だと教師の見回りも始まって、探す時間がほとんどない。井上さんはロッカーや机の中を探しても見つからなくて、諦めて帰ることになっていたはず」


 「ね?」と恋鐘先輩が俺に同意を求めてくる。結果オーライと言いたいらしい。それで罪悪感は消えたりはしないが、恋鐘先輩が井上を救ったことは事実なので、小言は控えておく。


「で、ペットはどうするんです?」


 問題は、見つけたのが時間停止中ということだ。現象が終わった後にペットを捕まえて差し出すにしても、さすがにどう説明していいかわからない。あそこに居たと教えてあげるにしても、掃除用具入れの上の段ボールを理由なく見るなんて不自然だ。


「鞄に入れておこう」


 恋鐘先輩はトカゲを移動させるジェスチャーをした。


「鞄の中で見付かれば、実は元から隠れてたとか、自力で戻ってきてたとか、彼女が何とか理屈をつけてくれるさ」

「それは、なるほど……でも動かせるんですか?」

「できるよ。ぞうきんごとトカゲを持ち上げるだけ」

「ぞうきんはどうするんですか。中に入ってたら不自然ですよ」

「トカゲの足が接着している面以外の布を切り取ろう。トカゲの足下だけ布が残るけど、まぁゴミくらいに見てくれるっしょ」


 安直な案だったが、大きな違和感にはならない気がする。俺は頷いた。


「さて、じゃあハサミを調達して作業しようか」


***


 作業はあっという間に終わった。足にぞうきんの布が少し残ったトカゲを恋鐘先輩が持ち上げ、リュックの底の方に入れる。それから机の横のフックにかけておいた。

 まるで元から入っていたかのように、ペットは飼い主の元に戻った。

 しかしきっと、これで終わりではない。少なくとも恋鐘先輩にとっては。


「やっぱり井上がペットを見つけるまではこの場で待ちますか」


 聞くと、恋鐘先輩は居心地悪そうに首をすくめて笑った。


「ごめんね? どうしても気になっちゃって。今回も君の家には寄れそうにない。学校で寝泊まりしてくれる?」

「わかりました。保健室のベットを使わせてもらいますし、保存食も貰いますけどいいですよね?」


 反応がなかった。見れば、恋鐘先輩は大きな目を丸くしていた。


「え? 怒ってないの?」

「土下座したって聞いてくれないでしょ」

「土下座されたら興奮するよ?」

「ですよねってあんたはなにを言ってんだ」

「したくはないけどしてほしくはある」

「やっぱり怒っていいですか」

「ごめんて」


 俺は腕を組み、そこらへんにあった机に腰掛けた。感触は固く、冷たくも熱くもない。


「前の迷子のことがあるから、そうかもなと身構えてました。マジでそうするなんてどうかしてると思いますが」

「あはは~」


 恋鐘先輩が誤魔化すように笑って両手を合わせる。どこか軽い。本当に申し訳なく思っているのだろうか、この人は。


「なぜです?」


 その質問は唐突すぎたようで、恋鐘先輩はきょとんとしている。


面白かったらブクマ・レビューよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ