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龍造寺恋鐘の時間停止ミステリ  作者: 伊神一稀
第2章 時の止まった放課後
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開幕⑤:龍造寺恋鐘の守護者

 同人文化部は話に聞いていた通り緩い部活だった。放課後は部室に移動して好きに過ごしているだけで済んだ。漫画を読んでいても試験勉強をしていても一向に問題視されない。

 恋鐘先輩は毎日来ていたが、大体は食料を補充するか黒岩先輩と喋りながらお菓子を食べている。その黒岩先輩も毎日来るわけではなく、週二回か三回程度しか来ない。彼女自身もバイトをやっていると言っていた。

 部にはもう一人、小波渡美咲こばとみさきという3年生女子の部長がいる。最初の時間停止中に部室で見かけた人だ。彼女は毎日来ているが、家庭の事情があって帰宅するのが早い。大抵はイラストを書いて過ごしたり恋鐘先輩たちの雑談に混ざっている。俺にもたまに話しかけてくれる優しい人だ。

 矢野はといえば、今のところ完全な幽霊部員にはならず、たまに部室に顔を出していた。というより黒岩先輩が来る日に合わせて参加している節がある。ちょくちょく使いっ走りになったり2人で話し込んだりして、最初の険悪な雰囲気から一転、舎弟みたいな関係になっていた。部活参加を認められるときにどんな話をしたのかは知らないが、さりとて興味もないので深堀りはしていない。

 俺はといえば、毎日参加しているものの、早速暇を持て余していた。

 矢野がいればスマホゲームで対戦したり駄弁ったりしていたが、男子一人になったときは読書くらいしかやることがない。元来、小・中学校と外で遊ぶことが多かった俺にとって、一箇所でジッとしているのも性に合わなかった。

 恋鐘先輩は俺に気を遣ってか、黒岩先輩や部長がいるときはあまり話しかけて来ない。矢野がいるときも同様だ。関係を疑われるのは避けたかったので願ったりではあるものの、一人きりという自分の孤独な感覚はどんどん増していった

 そんなわけで、たった2時間程度の部活にすら、俺は苦痛めいたものを感じ始めていた。


 ***


 今日も俺は部室に顔を出しているが、やることがないので持ってきた小説をちまちまと読んでいた。


「ちょっとお手洗い~」


 黒岩先輩と談笑していた恋鐘先輩が席を立ち、部室を出ていった。残された黒岩先輩は頷き、パイプ椅子にもたれかかる。

 ドアがしまり、部室には俺と黒岩先輩が残された。

 しばらく無言の時間が流れる。


「――お前さ」


 足を組んでスマホを操作していた黒岩先輩が、唐突に声をかけてきた。

 「はい」俺は読んでいた小説から視線を上げる。


「やっぱり恋鐘目当てだろ」


 ジロリと横目で睨みつけられる。


「……違うって言ったじゃないですか」

「じゃあ何で毎日部活来てんだよ。バイトしたいから暇そうなところ選んだつってたよな?」


 ギクリとした。そうだった、矢野が咄嗟についた嘘に便乗したから、俺もバイトを探している体になっている。


「それは、まだ見つからなくて」

「はっ。だからって毎日来る必要ねぇだろ。しかも矢野がいなかったらお前、ずっと黙ってるだけじゃねぇか。本を読みたいなら家でやりゃいい。わざわざここに来る理由が他にあんだろ?」


 意外に鋭い。最初から思いっきり怪しまれていたが、俺の行動が更に疑念を抱かせてしまっている。

 こっちだって来たくて来ているわけじゃない。恋鐘先輩が居ないと死ぬかもしれないから彼女が見えるところにいる――なんて説明したところで、頭がおかしくなったと思われるだけだ。

 その証拠に、恋鐘先輩は黒岩先輩にも時間停止現象のことを説明していない様子だった。彼女の実の両親ですらオカルト的な解決策に傾倒してしまったくらいだし、他人はもっと信用してくれないことを実感しているのだろう。

 俺も同意見だ。もし両親の耳にでも入ったらノイローゼになったと思われて、強制的に実家に連れ帰られてしまう。そうなったとき恋鐘先輩に会えない俺は、凍りついた空間に閉じ込められて死ぬ運命が待っている。どこで両親の耳に届くか分からない以上、黙り続けていくしかない。


「それは……」


 言い訳を探しても見つからない。矢野がいたら何とかフォローしてくれたかもしれないが、今日に限っていない。

 苦し紛れに俺は、答えではなく質問をぶつけていた。


「なんでそんなに、こが――龍造寺先輩のことを心配するんですか」


 黒岩先輩は一瞬怯んだように眉を動かし、俺から視線を逸らす。


「恩人だから」

「恩人?」

「お前には関係ねぇ」


 拒絶の言葉を返されて、会話は終わった。

 また無言の時間が続くかと思ったが、ややあって黒岩先輩が鼻を鳴らした。


「本当に恋鐘目当てじゃねぇならよ、湿気た面で部活来んな。気になんだろ。お前、ほんとは何がやりたいんだ?」


 俺は瞬きを数回繰り返した。そんなことを聞かれると思ってもいなかったので、思考に空白が混ざる。


「なんだその間抜けな面は」

「もしかして心配してくれてたんすか?」

「ばっ――」


 黒岩先輩が弾かれたように振り返った。赤い顔をして眉間に皺を寄せている。


「そんなんじゃねぇ……ただ、こっちは気楽にやってんだ。深刻そうな雰囲気を持ち込むなつってんの」

「そんな感じでしたか」

「鏡見てこいよ」


 頬を触る。他人に気遣われるくらい、俺は気力のない感じだったのだろうか。


「なにニヤケてんだ」

「いや、黒岩先輩に気にされるくらいだから、よっぽどだったのかなって」

「ぶっ飛ばすぞ」


 黒岩先輩が立ち上がりかけたので「冗談っす」俺は両手を上げて抑えてくれとジェスチャーをした。


「でも、そうですね。ちょっと事情があってこの部活に来たんですけど、少し、悩んでます」

「ふーん……まぁ勝手にすればいいけどよ。あたしも似たような理由でこの部活に居させてもらってるだけだし。部長はああいう人だから来るもの拒まずで、辞めるのも居続けるのも自由だ。その代わり、湿気た面はすんな」


 言い切った黒岩先輩は、またスマホの画面に目を落とした。でも頬は赤いままだ。

 初見は恋鐘信者のヤバい人かと思っていたが、実は意外に面倒見の良い人なのかもしれない。

 なぜ容姿や性格が正反対の恋鐘先輩と仲良くなれたのか、少し分かった気がする。

 彼女もまた、他人を放っておけない気質なのだ。


「それはそうと、恋鐘を悲しませたらぶん殴るからな」


 こちらを見ずに言ってくる。

 ヤバい人でもあるな。


「しませんて」

「男に二言はねぇな?」


 むしろパパかな。


「たっだいまー。あれ、珠樹ちゃんと小林くんで楽しくお話してたの?」


 ドアを開けて入ってきた恋鐘先輩が開口一番にそんな事を言う。

 「「楽しくはない」」俺と黒岩先輩は同時に否定していた。


面白かったらブクマ・レビューよろしくお願いします

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