第三十話 反撃の狼煙
紅や珀治の想定以上の戦力にやむなく撤退したレビアタン。そのタイミングで、遂に愁翠達が満を持して到着する────
海を渡り、与那国島まで戻ってきたレビアタンは、その場に座り込む。
(危なかった...《鮮血の桜》、これ程とは...)
レビアタンは能力の特性上、ほかの《七大罪》と比べても回復力が頭ひとつ抜けている。故に、大概の傷はその場ですぐに治るが、紅から受けた傷はほぼ致命傷で、回復を持ってしてもギリギリであった
「全盛期の五割でこのレベル...あぁ、羨ましいなぁ...もっと、もっと欲しいなぁ...」
そして、レビアタンはよろよろと立ち上がり、島の奥に歩いていく。
「羨ましい、次は絶対、私が貰う。」
レビアタンは、その身を焦がす嫉妬の炎を、さらに燃やしていた。
レビアタンを撃退した紅達は、珀治の案内の元、南部戦線第一戦隊の隊舎に来ていた。その中のブリーフィングルームに、皆が集まっていた
「まさか、向こうから攻めてくるとはな...」
珀治が嘆息する
「申し訳ありまセン。ワタシが探知を怠ったばっかりに...」
「いや、アーシャさんは悪くないよ。誰も悪くない。」
肩を落とすアリューシアを紅がフォローする。とは言え、皆の表情は暗い。とくに今回、元凶を連れてきてしまった桜花はすっかり沈んでしまって、部屋の端で俯いている
「だから桜花もそう悲観的にならなくていい。むしろ事前に敵の情報がしれて良かったと思おうぜ。」
「でも、アタシは...」
それでも思うところがあるのか、ショックが大きかったのか沈み込んでしまった時、ブリーフィングルームの扉がゆっくりと開け放たれた
「そうだ。何をそこまで悲観的になる必要がある」
扉から白い羽織が見に映る。
世界最強を意味する『壱』の文字をその純白の背に背負う、侍のような男
「本隊が来たというのに?」
13の人類最高戦力《最後の希望》、その頂点に立つ、《MAA》戦闘部隊総隊長。
桜愁翠は、余裕の笑みを浮かべる
「さあ、作戦会議を始めようか」
ついに、開戦の狼煙が上がる
「まず詳しい作戦の確認だ。栗田隊長、頼めるか?」
「承りました」
今回の作戦に選抜されたのは西部戦線からは紅たち第七戦隊の6人と、朱音と要、東部戦線からは瑛介、水木、北部戦線からは颯、南部戦線からは珀治、王介、悠仁、そして《最後の希望》の第十一席狭霧、第十席アリューシア、第七席十四郎、第五席銀次、第一席愁翠の計19名である。これにプラスして、南部戦線の第一以下戦隊も協力を要請している。
「今回の作戦は、まず4つの部隊に別れて一斉に島に突入。そして4方向から一気に中心部に向けて進軍します。途中、構成員との戦闘も予想されますが、なるべく体力と魔力は温存し遅延戦闘をお願いします。そしてこちらで戦闘をしている間に、諜報部隊《宵闇》協力の元《光の箱》を奪還します。そうすれば、あとは《影の箱庭》を壊滅させれば作戦完了、という流れです。」
瑛介が作戦の説明を終えて席につく。
「《光の箱》回収まで時間を稼ぎつつ、《影の箱庭》を潰すって感じか。」
紅が簡単に作戦を要約する
「うちの戦隊員達も好きに使ってくれ。アイツらも久々のデケェ戦いに興奮しっぱなしだしな。」
珀治が苦笑気味に言う
「ありがとう、泉隊長。さて役者は揃った。これより部隊分けを発表する...」
そして待機組と実行4部隊の割り振りを聞き各々、作戦の準備を始めた。
そして海上、与那国島に向かう4隻の船の上で紅が口を開く
「あの人、どういう割り振りで、この部隊決めたんだろうな...」
第1班『剣崎隊』剣崎紅を班長に、火村桜花、アリューシア・ミグルディア、防人要、以下南部戦線の戦隊員数十名。
『まぁ、ある程度バランスは取れてると思うけどな』
紅のボヤキに珀治がインカムで応答する
第2班『泉隊』泉珀治を班長に、星詠王介、出雲薫、雨宮水木、以下南部戦線戦隊員数十名。
『...紅、鼻の下、伸ばすな、集中しろ』
颯もボソッと突っ込む
第3班『太刀川隊』太刀川颯を班長に、佐々木銀次、八塚悠仁、桐生菫、以下南部戦線戦隊員数十名。
『お前たち、仲がいいのはいいことだけど、程々にな』
愁翠が苦笑しながら応答する。
第4班『桜隊』桜愁翠を班長に、桜十四郎、栗田瑛介、柊朱音、以下南部戦線戦隊員数十名。
そしてそんなこんなであっという間に与那国島に到着した。
インカム越しに、愁翠の声が響く
『よし。それでは各々臨機応変に頼むぞ...作戦開始!』
同時刻、4班同時に与那国島上陸。
戦いの火蓋はたった今、切って落とされた。
「...来たか」
与那国島中心部の地下に構えた《影の箱庭》本拠地の更に最奥。《七大罪》の円卓で1人、フードを深く被りボソリと呟く。
「はたして、奴らの中に俺を知る者はいるのか...」
どこか空虚な瞳はただ空中を見つめている。左右で色彩の微妙に異なるその瞳は、はたして何を探すのか。男は、色彩の薄くなったサングラスをかけ直した。




