第二十九話 嫉妬の少女
桜花が保護して連れてきた少女は、まさかの《七大罪》が1人、《嫉妬の罪》レビアタンだった────────
「...桜花、立てるか?」
呆然とその場にへたり込んだ桜花に、紅は静かに声をかける
「すぐに、菫達にもこのことを伝えてきてくれ。その間は、俺たちで何とかする。」
ハッと気がついたように桜花は顔をあげる
「ッ!...了解...」
少しフラフラとした足取りで、菫たちのいる方へ向かう
「あれ?お姉さん、どこ行くの?」
そう言うとレビアタンは複数の水の塊を鞭のようにしならせ、桜花目掛けて振るう。
しかし、その全てが弾かれ、地面に叩き伏せられる
「悪ぃな、あのねーちゃんはちょっと用事があるんでなぁ」
「こっからは、俺達が相手をしてやる」
2人の戦隊長が、レビアタンの前に立ちはだかる。
「...どのみちみんな殺すし、今やっても変わんないか」
三者の魔力がぶつかり合い、空気がビリビリと震える。
その間、レビアタンは思考を回す。レビアタンは年齢こそまだ10代に入ったばかりだが、戦闘経験においては、並の戦隊長をも凌駕する
(大剣のお兄さんはスピードとパワーが主体の近接型。英雄と呼ばれるだけあって魔力圧も尋常じゃない。となればまず狙うのは...)
つい先日までなりを潜めていた過去の英雄。レビアタンは《鮮血の桜》に狙いを定める
しかし直後、
「スキル『血ノ雨』」
「!?」
レビアタンの周囲の水が消し飛んだ
「なーんか勘違いしてるみてぇだな。」
すると珀治が大剣を抱えながら言う
「お前は今、魔力圧を見て俺よりこいつの方が弱そうって思ったんだろ?その歳で大したもんだよ。そりゃあ確かに魔力だけでいやぁ今は俺の方が圧倒的に多い。だが経験不足だな。こいつは魔力量云々の前に、鍛え上げた技術が段違いだ。」
紅の後ろには赤黒い雲が立ち込めていた。
そしてすぐさま指先の切り傷から血でできた真紅の刃を振るうべくかけ出す
「魔力制御、剣術、どれを取っても今のこいつに勝てるのは《最後の希望》ぐらいなもんだろ」
そして、紅の刃が、レビアタンの元に喰らいつく
「桜流刀剣術『居合春風』」
「ガハッ...!」
レビアタンは体を袈裟に大きく切り込まれ、鮮血が飛び散る。
「クッ...ソ!もう、全盛期の、力を...!」
そう吐き捨てるレビアタンに紅は首を傾げる
「何言ってんだ?まだ大戦時の半分くらいしか戻ってないぞ」
レビアタンは戦慄した。目の前の生きる伝説の規格外さに。──これと同等のがあと6人?ふざけるのもいい加減にしろ。
しかし同時に、嫉妬の少女は不敵に微笑む。まるで、水を得た魚のように
「ふふ、確かにお兄さん達は強い。でもだからこそ...私には勝てないよ」
するとレビアタンの周囲の水が、霧状の雲のようになる。
「!...まさか!」
次の瞬間、レビアタンは攻撃を放つ
「スキル『血ノ雨』」
紅と全く同じ技を、レビアタンは2人に向けて放つ。
「クッ!...攻撃をコピーする能力か!」
するとレビアタンは唇の端を釣り上げ、意気揚々と話し始める。
「そう。私の『大罪権能』、《嫉妬の三槍》は私がくらった攻撃を自分のモノにする!私が羨んだものは全部私のモノ!」
そして、そのまま攻撃は続く。
「スキル『紅弾丸』」
高速の弾丸が、的確に紅達を狙う。既に何発かは命中してしまっている。
「チッ!相手に自分がいるようなもんだな。これは...!」
どちらも1歩も譲らぬ攻防。しかし確実に紅達の方が削られていった
「そろそろ終わりかなぁ!これでもくらえ!」
そして、先程よりも速く大きい弾丸が、紅の眼前に迫る───その時
「スキル『狙撃』、銃弾選択『衝撃弾』発射!」
後ろから飛んできた銃弾に見事撃ち落とされた。
「紅隊長!ご無事ですか!」
「お前ら...!」
菫達援軍が、到着した。これで一気に形成が逆転する
「はぁ、仲間が多くて羨ましいなぁ...今日のところはこの辺で諦めてあげましょう」
するとレビアタンは諦めたように水を解き、海の方へ歩いていく。その後ろ姿を桜花が呼び止める
「待って!あなたは...!」
するとレビアタンは振り返り、冷ややかな目を向ける
「大丈夫、また会えるよ。その時は、お姉さんの全部を貰うから。またね、おうかお姉ちゃん」
そう言って、レビアタンは海の中へと姿を消した。皆、そのさまをただじっと眺めていた。
─────中央統制本部
「よし、もうすぐ出発するぞ!」
愁翠が声をかけると、全体から声が上がる
「ほな、サクッと終わらせましょか」
「...征くぞ」
《最後の希望》を筆頭に、各戦隊の選ばれた精鋭達が続く。目的地は、もちろん与那国島。
「さあ、決戦の時だ!」
《影の箱庭》討伐作戦が本格的に始まろうとしていた。




