第二十八話 海のような少女
桜花は出会った謎の少女と、言葉を交わしつつも、どこか違和感を覚えていて────
桜花は南国特有の暑苦しい道を少女の手を引き歩いていた。そして道すがらに色んなことを話した
「そういえば、自己紹介がまだだったね。アタシの名前は火村桜花。あなたは?」
すると少女は少し考えるような素振りをした後おずおずと答えた
「れ、レビ、です」
「レビちゃんか!よろしくね!」
好きな食べ物は?好きな遊びは?どこに住んでるの?
と言った感じで、桜花は、どんどん会話をふっていく。レビもそれぞれの質問に丁寧に答えて言った
「じゃあ、お父さんやお母さんは?兄弟はいるの?」
するとレビは少し表情を曇らせる
「えっと、お父さんとお母さんは、ずっと昔に死んじゃったから、今はいないの。兄弟みたいな人はいるけど、仲良しかどうかは、わかんない。友達も、ほとんどいないから、いつもひとりぼっち...」
その時、桜花はしまった、と思った。今の話から察するに、この子はおそらく孤児院の子であると気づいたからだ。魔物や《門》による被害に遭った子供たちを集めて育てる孤児院は、全国各地に存在する。この子はおそらくこの辺りの孤児院の子であろうと簡単に予想がついた。
「そっか...でも心配ないよ!これからレビちゃんにはたっくさん!友達ができる!ずっとひとりぼっちの人間なんて、この世にいるはずがないんだから。いつか必ず、大切な存在が、あなたにはできる。お姉さんが保証する!」
かつて一人残された自分が、そうだったように。
心の中でそう付け加えると、優しく微笑んだ。するとレビも、一瞬驚いたような顔になって、すぐに破顔する
「そっか...そうだよね。私、頑張る。」
するとまもなく、みんなのいる砂浜が見えてきた。
「おい...!これって、まさか...!」
すると珀治が続けた
「あぁ、おそらく、《影の箱庭》の構成員、それも幹部の《七大罪》のひとりだろう。」
紅はもう一度よく映像を見る
「これは、水を操ってるのか?かなり自由度が高いな...」
すると珀治も自分の推察を話す
「具体的には『敵の武装を水で模倣する』ってとこだろうな。映像に映ってるのも『白凪』の武装と全く同じだし。」
もしこの推測が当たっていたとして、紅たちのスキル等も模倣できるのか、模倣に条件はあるのかなど色々あるが、
「まぁ、どうであれ、強敵であることに変わりはないだろうな。」
このレベルがまだあと複数いると考えただけで頭が痛くなるが、何かしら作戦を考えておく必要があるだろう。
「そんでやっぱ、対応が早すぎんな。」
珀治が顔を曇らせながら言う
「...裏切り者の信憑性が増したってことだな」
紅も、唇を噛む
早すぎる敵の情報収集能力。そこに裏付けられるのは、裏切り者が情報を流している、という事実であろう。
「クソ...後ろも気にしながら戦えってのかよ」
大きく舌打ちをする珀治に、紅が声をかける
「まぁ確かに裏切り者は気になるが、今は奴らをどう倒すか、だろ?敵の動きが早かったんなら俺たちが先遣隊で来てて良かったじゃねぇか」
すると珀治は毒気を抜かれたように表情を崩す
「...それもそうか」
お互い落ち着いたことを確認して、2人揃って腰を上げる
「そんじゃま、作戦会議でもすっかねぇ〜。あれ?お前んとこの騒がしいのが一人居ねぇぞ?」
ふと、珀治が周りを見渡すと、確かに一人いなくなっていた
「ほんとだ。大方、罰ゲームで飲み物でも買いに行ってんだろ」
見事正解を言い当てた紅だが、もちろんそんなことは知る由もなく。
「まぁ待ってりゃそのうち...あ、噂をすれば戻ってきたぞ」
本当に飲み物を買いに行っていたことに多少驚きつつ声をかけようとしたその時、桜花の後ろからヒョコっと現れた少女を見て、2人は戦慄する。
「おい!紅!あのガキ...!」
「うっそだろおい...!桜花!そのガキから離れろ!そいつは────」
珊瑚礁のような柄のワンピースに、大きなヒトデの髪飾り。まさについ先程見た、映像の少女。
「《影の箱庭》だ!」
その時、どこから現れたのか、少女の手には自身の倍ほどの長さの三又槍を握っており、こちらを振り向いた桜花の背に襲いかかった。
「そいつは...《影の箱庭》だ!」
紅の必死の形相と怒号に、一瞬、何を言っているのか分からなくなった。でも、レビのことを言っているだろうことはすぐにわかった。自分でもわかっていた。何となく、レビという少女の異質さに。でも、この子は普通の子だって、ただの可愛い女の子だって、そんなわけないって、自分に言い聞かせて。でもだからこそ、後ろから感じる気配に殺気がこもったことに、なんの違和感も持たなかった
「ウグッ...!」
既のところで急所への攻撃は避け、左肩に攻撃を逸らした。でも、避けなければ確実に後ろから心臓を貫く軌道だった。桜花は飛び退き、少女に問う。
「なんで...どうして...!レビちゃん!」
わかっている。どうしてなんて、初めからわかっている
「あ、殺り損なった...すごい反射神経...いいなぁ...羨ましい」
目の前の少女から放たれるどす黒い殺気に、思わず身がすくむ。再び槍を構え、突進してくる少女に反応できないほどに。
「スキル!『紅血弾』!」
少女は後方から飛んできた紅の弾丸に、槍ごと弾き飛ばされた。
「チッ!まさかもうここまで来てたとはな...!」
紅が舌打ちしながら、桜花の横に立つ。
すると、少女は何事も無かったかのように立ち上がる。
「いいなぁ、強いなぁ、仲間も沢山いて...羨ましいなぁ...羨ましいなぁ...!私にも、ちょうだいよ!」
海岸の水が、少女の周辺に集まる。まるで、海の神かのような、いっそ神秘とも言える、しかし嫉妬に染まった、どす黒い悪魔。
「私は《七大罪》、《嫉妬の罪》レビアタン。ねぇお姉さん、私は全てが羨ましいの。何もかも無くなった私と違って、なんでも持っている、あなたたちが!」
目の前の少女、レビアタンは、悪魔の本性を露わにした。




