第二十七話 束の間の休暇その2
久々の休暇をいっそ楽しんでしまう紅達。しかし不穏な影はなお蠢いていて─────
場所を砂浜に移した紅達は任務(一応)であることも忘れて、遊びまくっていた
「アーシャさん!パース!」
「まっかせなサーイ!」
「いったぁ!?これほんとにフツーのビーチボールだよね!?」
「薫姉!ちゃんとトス上げてください!」
そう言って、女子たちのプロの選手よりも激しいビーチバレーの攻防を、紅は、パラソルの下で荷物と病人の番をしながら眺めていた。
「うぅ...暑い...溶けるぅ...」
桃寧が長旅疲れと暑さにやられ、すっかりダウンしたのである
「なんかお前、見るたび体調崩してるよな...」
紅も思わず苦笑するしかない。
「お待たせしました!紅兄!軽い食べ物と、桃寧ちゃんにお薬です!」
芽衣が狭霧に連れられて元気よく手を振っている。こういうところは本当に年相応だとな、と微笑ましく感じる。
「ありがとな〜。狭霧さんもありがとうございます」
すると狭霧は長いポニーテールをはらいながら言う
「いえ、こちらこそこんな可愛い子とデート出来て楽しかったですよ」
そう言って、2人が微笑み合う。こちらもすっかり仲良くなったようだ
「そういえば、お二人は兄妹という訳では無いんですよね?なんでお兄さん呼びなんですか?」
すると紅は苦笑いで頭をかきながら言った
「あ〜最初は違ったんですけど、この前、水木...西部第三の戦隊長に会いに行った時に、そいつが俺の事紅兄っていうもんだからそれがうつっちまったみたいで。やめなって言うんですけど、聞かないもんで。」
そういいながら芽衣を膝の上に乗せ、髪を結んであげている様を見て、狭霧は思った。
(そういう所なのでは?)
そんなこんなで小一時間、たっぷりビーチで遊んだところで、珀治達、南部第一の面子がやってきた
「よう紅。随分と楽しそうだな」
こっちは仕事があるのに、と暗に言っているように聞こえたが、紅は気にしない
「あぁ、お陰様でな。後ろの2人も元気そうだな」
今度は後ろから着いてきていた王介と悠仁に目を向ける
「...ウッス」
「おつかれッス」
2人とも素っ気なく返事をして、そっぽを向いてしまう
「あ〜悪ぃな。こいつら、お前んとこの2人に負けてからバツがわりぃんだとよ」
そこで紅は納得したように手を合わせる
「あぁそういうことか。なら良い機会だ。アイツらと話して来いよ。」
「は?いや俺らは別に...」
「...王介、たぶんもう手遅れだ。」
すでに紅が桜花と薫を呼んでおり、気づいた2人が駆け寄って来ていた
「「今度は何ちょっかいかけにきたの!」」
2人揃ってガルル!と威嚇するように声をあげる
「いや、別に何かしに来た訳じゃねぇよ!」
「珀治さんの付き添いで来ただけだ」
そう言ってギャイギャイと言い合っているが、お互いに邪険な感情はもうすっかり無いようだった
「微笑ましいな後輩たちが仲良くしてんのは」
珀治がいつの間にか紅の隣に立ってしみじみと4人を眺めている
「あぁ、そうだな」
紅も同じく4人を見る。実に微笑ましい光景だ。この時間だけは奪わせてはいけない
「...それで?本当は何しにきたんだ?まさか南部戦線第一戦隊戦隊長ともあろうお方が、呑気に海遊びって訳じゃねぇだろ?」
すると珀治は、表情を曇らせた
「察しがいい所は相変わらずだな...実は、ちょっと面倒なことになった。」
そのまま、少し声のトーンを落として続ける
「実は、俺の方で与那国島の巡回の強化を海自に依頼していたんだが、ついさっき、巡回していた駆逐艦、イージス艦計4隻が突然行方知れずになったと連絡が来た。それと一緒に、駆逐艦のうちの1隻『白凪』から最後の通信で、ある映像が送られてきたんだ 」
すると後ろに控えていた女性隊員が、ノートパソコンを立ち上げ、映像を再生する
「おい...!これって、まさか...!」
ちょうどその時、桜花は一人で浜から少し離れた所に飲み物を買いに来ていた。
「くっそー、もうちょいだったのになぁ〜」
悠仁たちと言い合う前、実はビーチバレーで惜しくも薫&菫ペアに敗れた桜花&アリューシアペアは、罰ゲームで、人数分の飲み物を調達してくることになっていた。しかもなんとアリューシアに関しては、負けたとわかるやいなや海に飛び込んで逃げたため、結局桜花一人で買いに来るという事態に。
「アーシャさんも逃げちゃってー!戻ったらちっとデコピンでもしてあげないとねぇ...」
人数分のジュースやお茶を自販機で買い、一人デコピンの練習をしていると、曲がり角のところで走ってきたなにかにぶつかってしまった。
「うわ!びっくりした...ごめんね?大丈夫?」
転んでいたのは小さな子供だった。珊瑚礁のような鮮やかなワンピースを身にまとい、頭には大きなヒトデの髪飾りをつけた、深い海底のような暗いブルーの瞳を潤ませる、小さな少女。
「あ、うぅ...」
今にも泣きそうな顔で見上げられ、桜花も思わずたじろぐ
「あぁ!そうだよね!痛かったよね...!ほら!痛いの痛いの〜、飛んでけー!」
「うぅ...」
先程よりは収まったがそれでもまだ少し泣きそうな顔をしているので、どうしたものかと困って、ふと思いつく
「あ!そうだ!君、ジュース好き?」
「う、うん...」
「それじゃあいいものあげる!ほら、どうぞ」
桜花はつい先程買ったジュースのうちの一つをゆっくり差し出した。元々多めに買っていたので、1本くらいどうってことはない。
「え、いいの...?ありがとう!」
ぱぁっと表情を明るくする少女に、桜花思わずキュンとなってしまった
(か、可愛いぃぃ!)
自分の部隊にも芽衣という年下女子がいるが、やはりそれとこれとは別である。
「お姉さん、いい人だねぇ。」
その後小さく、羨ましいなぁと聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう
「それじゃあアタシ行くね。バイバイ!」
「あ、え、待って...!一緒に、遊ぼ?」
コテンっと首を傾げながら言うその姿に、桜花の心が思わずギュン!となった。
「しょ、しょうがないなぁ〜じゃあお姉さんと一緒に海行こっか!」
そう言って少女と手を繋いだ。むせ返るような暑さの外気に似合わずひんやりとした手はまるで、深い深い、海の底のような虚無感を感じさせたが、桜花は特に気にせず手を引いて歩き出した。
その少女が何者なのかも、特に考えることはなかった。




