第二十二話 現代最強
《七大罪》の一人マモンの猛攻に苦戦を強いられていた紅達。しかしそこに”現代最強”が現れる─────
「愁翠さん...!?」
突然の登場に、一同戸惑いを隠せない
「え!?愁翠って、もしかして最後の希望の桜愁翠!?」
朱音も思わずギョッとなる
紅が不思議そうに言う
「なんで、あんたがここに...?」
すると愁翠はあっけらかんとした様子で言う
「いやーなんか面白そうな大会があるって言うからさー、仕事ちゃちゃっとで終わらして来ちゃった☆」
爽やかな笑顔とブイサインで、一気に緊張感が薄れる。
そもそも最後の希望の第一席である愁翠の仕事といえば、世界各国の高危険度の《門》の攻略や魔物の討伐であり、ちゃちゃっと終わるようなものではないのだが、紅はそこはツッコまないことにした
というか居るの自体は知っていたのだが、望む回答は得られそうにないので黙ることにした
「チッ、なんだテメェ。邪魔しやがって」
苛立ちを露わにするマモンが愁翠に悪態をつける
「いやー、懐かしの弟子とその仲間が何やらやられてたもんでね。少々手を出させてもらったよ」
そう言いながら愁翠はマモンの方に向き直る
その時、珀治が紅の方に寄ってきて耳打ちした
「そういやお前!なんで現代最強とふつーに話してんだよ!」
すると紅は思い出したように言った
「あぁそういや言ったことなかったか。あの人は俺の...師匠みたいなもんなんだよ」
すると3人とも驚いたと同時に口を揃えて言った
「「「もっと早く言え!」」」
するとマモンが、痺れを切らしたように言った
「チッ、要するに俺らの敵か。ならやることは同じだ!」
そう言ってまた周囲の魔力が集まり始める
「素直に引いてくれると助かるんだけど...」
愁翠が困ったように言うがマモンは聞く耳を持たない
「馬鹿言ってんじゃねぇ!全員まとめてぶち殺してやるよ!」
すると、先程まで温厚だった愁翠の雰囲気が変わる
「いいのかい?そうなれば...こちらも刀を抜かない訳にはいかなくなるが」
そう言い、腰の刀に手をかける。すると周囲の空気が重くなったかのような殺気を、マモンは感じ取った。
「ッ!...上等だ!」
そういい、強く地面を蹴ると、先程よりも早い鉤爪が愁翠に襲い掛かる。
しかし、現代最強は全く動じず言い放った
「それはさっき視た」
そう言ってかすることなく躱す。そして
「桜流刀剣術『飛燕桜』」
刀身が見えない程の高速の抜刀からの、ほぼ不可視のカウンター攻撃。
「は...?」
マモンは反応もできずに肩から腰にかけて大きく引き裂かれ、鮮血が飛び散る。
「終わりだ。悪いけど、僕に勝てるとは思わないことだね」
そう言って踵を返す。しかし、マモンは血を吐きながらも立ち上がる
「まだ、だ...!ぶっ殺す!」
すると愁翠は面倒くさそうに振り返る
「えーまだやるの?君もう限界でしょ?」
しかし、マモンは奥歯をギリギリと噛む
「テメェだけ、は!確実に殺、す!」
そう言って飛び出そうとしたマモンの後ろ、突然景色が歪んでそこから出た手に掴まれた
「はい、そこまでな〜」
そこからニュッと、いかにも気だるげな表情の長身細身の男が現れる。
「ん?なんだ?あんた」
すると捕まった猫状態のマモンが暴れる
「ベルさん...!離せよ!俺はまだ...!」
「ダーメだ。マモンくんもう動けないだろ?それに、時間切れだ」
するとマモンはハッとしたようにしかし不服そうに口を紡ぐ。
「そういうわけで、今回はここでお暇させてもらうよ」
しかし、愁翠が刃を構える
「流石にはいそうですかと言う訳にはいかないんだよね〜聞かなきゃ行けないことも沢山あるし」
紅以外の全員と、遅れて着いてきた瑛介や菫たちも共に戦闘態勢に入る
「はぁ〜怠いな」
その時、空間の歪みがもうひとつ生まれ、フードを被った男が1人、ゆっくりと出てくる。
「今の我々に戦闘の意思はない。今日のところはこちらの撤退を許してはくれないか」
低く重圧のある声色に、総員警戒を強める
「...もし引き止めたら?」
愁翠が試すように聞く。すると、突然フードの男の魔力が膨れ上がる
「そうなれば、この場で全て終わらせよう」
全員がその圧に、思わず気圧される
「あ、そうだ。これは回収しておこう。あれらも含めて」
すると森の後ろから、首がなかったり、丸焦げになったりした魔物の大群が、ノソノソと歩いてきた。そして次々と《門》に戻っていき、《門》そのものも小さな石のようなものになって男の手のひらに収まる
「...では失礼する。また会おう、《MAA》」
そう言って、3人の襲撃者は空間の歪みの中に消えた
その時、紅は武闘大会前のゴブリン討伐の任務を思い出す。まさにあの時と同じ状況。死んだはずの魔物が突然起き上がり、やつの命令に従うようになった
「奴らは、一体...」
《陰の箱庭》の拠点の一室、空間がぐにゃりと歪み、3人の人影が現れる
「チッ、もうちょいだったのによぉ」
いかにも不機嫌そうにぶつくさ文句を言っているマモンに、同じく不機嫌そうに長身細身の男──────ベルフェゴールが言う
「何がもうちょいだよ。下手すりゃ死んでたろ。俺に感謝して欲しいもんだね」
そして七つの椅子が囲む円卓のうちの一つに座る。
すると長髪をひとつにまとめて括った美女─────アスモデウスが嘲笑うように言った
「あら、いつも調子に乗るくせにあっさり負けるのねぇ」
今度は巨大な肉をバクバク頬張る小柄な青年─────ベルゼブブが口を挟む
「ねぇねぇマモン!外の食事はどうだった!?もう久しくここから出てないからボクお腹ぺこぺこだよ!」
さらに、小柄な体を覆うほどの髪をギュッと掴みながらボソボソ喋る少女────レビアタンが言う
「ベルゼブブくん、喋りながら食べちゃ行儀悪いよ...あ、でも私、そんなに食べられない...いいな、羨ましい...羨ましい...」
すると今度は常にイライラした様子の大きな刺青の目立つ上半身を晒す男─────サタンが怒鳴る
「おい!マモン!てめぇまた勝手なことしたらしいじゃねぇか!いつまでも我儘が通用すると思うなよ!」
マモンは円卓の席に着きながら言った
「目的は果たしてるんだからいいだろうが。いい駒も手に入ったし一石二鳥だろ」
マモンが指を鳴らすと、後ろから白基調の羽織を羽織った男が1人歩いてくる
そして、手のひら程度の小箱を円卓の上に置く
「ご苦労さん。しばらくは待機だ。何かあれば連絡は入れる。まぁせいぜい働いてくれや。お兄ちゃん?」
すると男は何も言わずに立ち去った。
「チッ!正直やり方は気に入らねぇがな!」
そう言ってサタンがドカッと座り直す
それと同時に、フードを被った男────ルシファーを名乗る男が小箱を手に取りながら口を開く
「準備は整いつつある。《MAA》...特に《七聖》と《最後の希望》は確実に息の根を止める。魔神王様の復活は目前だ」
そして全員が立ち上がる。
「「「「全ては魔神王様のために」」」」
人類にあなだす邪悪は少しづつ、でも確実に波紋を広げていた




