第十九話 嫌な予感
着々と進む武闘大会。遂に剣崎と泉の直接対決。しかしなにか異変が──
防人の勝利のあとも続々と猛者達が激戦を繰り広げ、剣崎は気づけば自分の番が近づいてきていた。
(そろそろ準備しとくか)
すると、隣に座っていた桐生と出雲が声援を送る
「頑張ってください。その...紅隊長」
僅かに頬を赤らめながら言う桐生に思わずドキッとしてしまった
「あ!すみれちゃんずるーい!頑張ってね!こーくん♡」
片手でハートをつくりキュルンと言う出雲だったが、美人なはずなのに不思議と気持ちは凪いでいた
「ありがとうな。頑張ってくるよ」
そうして仲間の声援を背に踵を返す。
その時、剣崎の勘が、嫌な警報を鳴らしていた。
(気のせい...だよな?)
何となくモヤモヤした気持ちを抱えつつも控え室に向かった
『さぁ!ここまでもかなり熱い試合が続きましたが、次は本日のメインとも言えるドリームマッチ!生ける英雄の直接対決だぁ!』
ワァァ!と、これまでとは比較にならない程の歓声が鳴り響く。
『まずは!数多の戦場を渡り歩き、ありとあらゆる戦況に適応する果敢な戦士!《七聖》が一人、《千変万化》こと南部戦線第一戦隊戦隊長!泉珀治!』
歓声がさらに強くなる。
『対するは!魔神王封印後数年、姿を消していたあの英雄が帰ってきた!《七聖》が一人、《鮮血の桜》こと西部戦線第七戦隊戦隊長!剣崎紅!』
またしても歓声が上がる。会場のボルテージは完全に最高潮に達した。
『それでは!試合開始!』
試合開始の合図が鳴り響く。しかし、お互いまだ動かず、泉が口を開く
「さぁ、先手はお前に譲ってやるよ。なんせ6年前の3割だろ?流石に────」
「桜流刀剣術『居合春風』」
言い終わる前に、高速の居合で切り込む。もちろん泉も背負っていた身の丈ほどの大剣を抜き、ギィィン!と激しい音を立てて受けた
「流石に、何だって?」
剣崎挑発するように笑を浮かべながら言う。すると泉も笑みを返す
「そう来なくっちゃなぁ!」
すると、泉の大剣が重くなり押し返される
「スキル『重力増強』!」
剣崎は一度飛び退く。すると大剣が、地面を叩き割った
「相変わらず厄介だな」
泉珀治の異能力は『重力操者』。重力の強弱や方向を自在に操り、それを応用することで、空気の密度や圧力を変化させることもできる、万能型の異能力である。
「そっちこそな。まだ全開じゃないにしてもこのレベルってバケモンかよ。」
剣崎も、ただ待っていただけではない。来る日に備え、何とかして封印されている力を取り戻そうと試行錯誤し、封印の呪いが弱まっていたのも相まって何とか全盛期の5割程度まで復活できたのだ。
「さぁて、速攻で終わらせてやるよ」
剣崎は改めて、『血刀』を構える。
「こっちのセリフだ」
泉も自慢の大剣を構え直す。
そうして2人が駆け出した、その瞬間。
((?!))
両者共に、強大な魔力を感じ、その場に止まる。その時、会場に先程までの実況とは違うアナウンスが流れた。
『緊急連絡!たった今、「大樹の森」にて《門》が複数発生!既に決壊も始まっている模様!隊員達は、速やかに対処せよ!繰り返す!───』
「決壊だって!?」
決壊とは、長時間攻略されなかった《門》が壊れ、中の魔物が溢れ出すことを指す。しかしこれは通常、何ヶ月も攻略されなかったものに起こる現象であり、たった今発生した《門》で起こることはない。それに
「『大樹の森』って、昨日まで予選してた森じゃねぇか!」
つい昨日までなんの問題もなかった所に《門》ができるのも不思議である。
「チッ!紅!勝負はまた今度だ!今は対処を優先するぞ!」
試合は一時中断し、問題への対処を行う
「わかった!会場にいる者!落ち着いてよく聞け!三等級以下の隊員は、民間人や負傷者の避難の補助を優先!それ以外のものは状況に応じて臨機応変に対応しろ!状況開始!」
了解!と全体の雰囲気が一気に張り詰める
「んじゃ、俺は一旦偵察にでも行ってくるかねぇ」
泉が、屈伸しながら言った
「あぁ。頼む」
すると泉の体が薄く光る
「スキル『重力軽減』」
すると、泉は自身にかかる重力を極限まで軽減し、軽く跳躍しただけで、森の方目掛けて高く飛び上がった。そして、息を飲む
「おいおい、どうなってんだこりゃ...」
そこにあったのは、たった一つの《門》。しかしその規模と、溢れ出す魔物の数々は、通常のそれとは大きく異なっていた。
「まずいぞ紅!恐らくだが、S危険度級の《門》だ!」
ちょうど集まった《七聖》の全員に緊張が走る。S危険度級といえば、ひとつあるだけでひと月で国が滅びるレベルの大規模な《門》である。
「今、水木ちゃんにも連絡したわ。もう少ししたら来るって」
柊がスマホ片手にこちらに言う
「よし、なら俺らは魔物の討伐と《門》の攻略だ」
いつの間にか戻った泉が言った
すると、後ろから桐生と出雲がやってきた
「あの!私たちも同行します」
「私もできることはあると思うの」
2人が真剣な眼差しで言うが剣崎は首を横に振る
「ダメだ。まだお前達には荷が重い。避難組の援護をしろ」
「でも...」
そう言ってしょげる2人を見て剣崎も申し訳なくなっていると、柊が言った
「なら後方支援組に同行したら?前線で戦うわけじゃないんだし、二等級もあれば上等だと思うけど」
その申し出に悩む剣崎だったが意を決したように、半ば諦めたように言った
「~ッわかった!じゃあ2人は瑛介の補佐だ。このメガネから絶対離れるなよ」
「「はい!」」
すると2人はパッと顔が明るくなり、気合いの入った返事をした。
そして、5人の過去の英雄達は、各々に構える
「さぁ、行くぞお前ら!討伐開始だ!」




