第十八話 不穏な影
火村桜花対八塚悠仁の激闘は、火村のリベンジ成功という形で決着した。
しかしそんな最中、不穏な影が、遂に動き出す───
『なんと!あの南の双星、八塚悠仁をルーキーが打ち破ったぁぁ!』
歓声鳴り止まぬ中、試合は終了し、倒れた2人が運ばれていく。
いきなりの白熱した試合に会場のボルテージも最高潮に達していた
『さぁ!続いてBブロックの入場だぁ!』
そして、続いての2人が両サイドから歩いてくる
『まずはこの人!由緒正しき武家の出である、西部戦線の《歩く要塞》とも名高い才女!西部戦線第一戦隊副隊長!防人要!』
眼帯の付いていない方の目でウインクをして、主に女性隊員の悲鳴混じりの歓声が響き渡る。
『対するは!戦う姿はまるで流星!もう1人の南の《双星》!南部戦線第一戦隊副隊長!星詠王介!』
南部の漢たちの熱い声援が響き渡る
『それでは!第2試合!始め!』
2人の副隊長が、一斉に技を放った
大会のボルテージが最高潮に達する中、予選会場でもあった森には、数名の黒いローブの人間がいた。
「...マモン様。魔石の準備が整いました。いつでも計画を実行できます。」
そしてマモンと呼ばれた男は、不敵に笑う。
「ご苦労。さぁ、あとはやつが配置に着くのを待つだけだ」
クククッ、と堪えるように笑うマモンを見て、そばにいた男が言った
「もうまもなくですね。あの御方の復活まで」
するとマモンも答える
「あぁ。ようやくだ。ようやく!あの御方のお役に立つことができる!」
手の全ての指に全て異なるデザインの指輪をカチカチ言わせながら高らかに笑う。その様はまさに狂信者そのものであった
「しかし、あの者は本当に信用できるのですか?」
怪訝そうに他の黒ローブの男が言った
「心配するな。信用出来ずとも奴が俺たちに逆らう事は絶対にねぇよ。」
「ですが、敵の最高戦力の一人ですよ?何かある可能性も...」
するとマモンが苛立ちをあらわに言い放つ
「しつけぇな。そんなに言うならお前がやるか?あ?」
胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げる。
「ぐっ...!申し訳、ありません!」
ドサッと男が落とされ、思わず咳き込む
「まあ、今回はあいつじゃなきゃほぼ不可能だけどな。」
そして、マモンがスマホを手に取り電話をかける
「───あぁ俺だ。もうじき始める。ちゃんとやれよぉ?お兄ちゃん?」
するとブツっと電話が切れる
「ハハハッ!良質な道具がこうも簡単に操れるとはなぁ!」
その時、少し離れた闘技場から大歓声が響き渡る
「さぁ、あの歓声が絶望の悲鳴に変わるまであと少しだ。」
『さぁ!勝負は大詰め!次の一撃で全てが決まるぅ!』
防人と星詠戦いはまさに最終局面となっていた
お互いボロボロで魔力は残り僅か。最後の攻防に、会場全体に緊張が走る
「これで決めてやるよ!」
そう言って、星詠の背中の星座が変わる
「あぁ!私もそのつもりだ!」
防人の両腕も変化する
「スキル!『射手座ノ加護』!」
無数の矢が防人に襲いかかる
「スキル『身体兵装:カーボン装甲──』」
それを全て盾で防ぐ、その時、高速で星詠は側面に回り込む
「盾で、両手が塞がっちまったなぁ!?」
正面の攻撃は囮。本命は防御後の硬直を狙った直接攻撃。勝ちを確信した星詠は強化した体で
突貫すると
────ドォン!
「グハッ...?!」
眼前、星詠を完全に捉えた大砲が咆哮した。
(なん、だと?!両手を盾にしたんじゃ...?!)
「君は単純だよね。私が昔から成長してないと思ったかい?」
してやったり顔の防人が言った
「スキル『身体兵装:背部、九九ミリ徹甲弾速射砲』」
背中に取り付けられた大砲を見ながら星詠は参ったとばかりにその場に倒れ込む
「くっそ...」
そこでアナウンスが鳴り響いた
『決着ぅぅ!激闘の末勝利したのは!防人要隊員!』
会場が歓声に包まれると、防人はその場に膝を折る
(...っ!流石に限界か...私もまだまだだな...)
そして会場の熱気も鳴り止まぬままに試合は終了した。
───同時刻、中央統制本部受付
「もぉ〜なぁんで今日に限って当番なのぉ〜」
普段とは打って変わって人もまばらで静まり返ったエントランスホールに居残りの受付嬢の声が響く
「そんな事言ってないで、あんたも仕事して」
先輩らしき職員が、軽く叱責する。しかし、受付嬢は気だるそうに答えた
「だって仕事ないんですも〜ん。みんな武闘大会見に行ってるから!私だって行きたかったのに〜」
すると書類を抱えた女性職員は怪訝そうに聞く
「みんな言ってるけど、そんなに見たいものなの?」
すると受付嬢は、クワッ!と起き上がる
「そりゃみたいですよ!あの《七聖》が出場するんですよ?!絶対面白いに決まってます!それに...」
そして、目がハートになる
「あの太刀川颯様も出るんですよぉー」
デヘヘ、と受付嬢にあるまじき顔をしている後輩にやれやれとため息を着く
「だから見に行きたかったのにー、今日なんか絶対誰も来ないですよぉ〜」
などと言っていると、受付の呼び鈴がなる
「あれぇ?!はーい!今行きまーす!」
そして慌てて受付に戻った。
いつも通りの営業スマイルで対応をする
「お待たせしました。ご要件はなんでしょうか?」
すると、背の高い男は、低い声で言った
「...保管庫の鍵を開けてくれ」
中央統制本部の地下にはありとあらゆる武器や魔導具、《古代遺物》を保存管理している保管庫が存在する。各戦線にも倉庫はあるが、中央統制本部のそれは桁が違う。もちろんその分、危険なものも多いため規制も多いが、間違いなく《MAA》の重要施設のひとつである
「では、等階級書のご提示をお願いします」
それだけの重要施設であればもちろん自由には利用できない。基本的には大佐以上の隊員しか、アクセスすることは叶わない。普通は腕章等で判断するが、男は白の羽織を羽織っていたため確認が取れなかった
「...」
何も言わない男に、受付嬢は笑顔がひきつる
「えぇと...それでは鍵をお貸しすることは出来ないのですが...」
その時、書類整理を終えた先輩が顔を真っ青にして受付に走ってきた
「申し訳ありません!保管庫の鍵はこちらになります!」
困惑した受付嬢を押さえつけ、半ば強引に鍵を渡した
鍵を受け取ると、男は地下への階段を降りていった
「ちょっと先輩!確認取れてないのに渡しちゃダメなんじゃないんですか?!」
すると、先輩は呆れたように言う
「あのねぇ、あんた新人だからってあの人達を知らないのは論外よ」
急に罵倒され、ムッとなる
「じゃあなんなんですか、あの人」
少し不機嫌そうに問う
保管庫の鍵は厳重に管理されており、大佐以上の隊員でなければアクセスすることすら叶わない。しかし例外として、無条件で鍵を渡す場合がある
「あの人はね、《最後の希望》の一人よ」
《MAA》最高戦力である13人は、意図がどうであろうと階級を問わず無条件で解放されるのだ。
そしてこの時、同時に黒い影は動き始めていた




