第四話□ 武藤武史少年
村山はとりあえず前の人間に絡むことにした。
前の人間は武藤とか言った。
この蘭高校は平均学力がある程度高めな学校で、それ故両家の人間だとかと一般庶民が混同して存在するような高校だ。要するに、様々な人間が居ると言うことだな。
「さて…」
俺は周囲を見渡す。一部を除いて、ほとんどの生徒が一人で帰りの支度をしている途中だ。よし、ここは無難に前の男を捕まえよう。
「ヘイ」
俺は前の男の肩を叩きながら声をかける。すると、前の男は振り返ってきた。
「なんだね?」
この男、妙に偉そうな口ぶりである。特徴としては、少し老けた顔なのに妙に良い体格をしている感じだな。
「いや、このあと暇か?」
当然だが暇でなければ他を当たるつもりだ。
「拙者は剣道部に真っ先に寄るが…そのあとは暇だね」
剣道志望か…たしかに腕の筋肉が豊富な事が見て取れるほどにある。
「よし決めた。お前にくっついていく。名前なんだっけ?」
「さっき自己紹介で言った…武藤武史でござる」
「よし覚えた。じゃあ行ってみようか!」
「…一人の方が良かったのだが。まあよいか」
武藤はめんどくさそうだったが俺はめんどくさくないので問題ない。
剣道場というのは知っている人も居ると思うが、臭い。これはまあ仕方の無いことで、真夏にあんな装備であんなに動き回り、なおかつ洗わなければあんな臭いになるのは仕方の無いことだとは思う。だが受け入れぬ。
「あそこにいる御仁を見てみよ」
武藤がある方向を指さす。それをたどっていくと、周りの部員が地稽古してる中で、一人だけそれを見張るように立っている男が居た。なんか強そう。
「なにかこう…オーラってもんが出てますよね」
「知らないと?」
武藤が信じられないような口ぶりで言うが、一般市民から見ればそんなもんなんですよ。
「すごいのか?」
「中学高校今まで県内の大会全てで優勝し、全国大会では必ず二位か一位を取るという御仁でござる。今年でもう高校3年目で、名前は如月剣と言う。しかしだがな…面白いことにあの人と必ず優勝争いをするもう一人の人は女性なのだ」
「剣道って男女混合だったっけ」
「いや、普通は男女で別れている。しかし、その女性は実力が高すぎて女子では敵無しだったそうだ。興味本位で特別に男子の大会に出してもらったらしいがそしたら優勝してしまったのだ。それから普通に参加するようになってしまったのだよ」
「へえ、すごいなそりゃあ」
「拙者はその女性を大会で遠くから一度だけ見たことがある」
「美人なのか?」
「美人であり、なおかつ凜としている。大和撫子をそのまま再現したような御方であった」
「なるほど…かなりの美人と見た」
少し時間が経ったら武藤が前を向いて目を輝かせる。
「如月殿が地稽古に混ざったでござるよ」
「どれどれ…」
俺は探してみる。分かるわけ無いじゃん面被ってんのに。と思いつつ視線を軽く泳がせだけで何故かその人が分かってしまった。本当に全員面をかぶって顔が分からないのに何故かその人は分かってしまった。動きが一人だけ違うのだ。動きを見ていると、ホントに実力があるってのは素人から見ても分かるというか…よく分からん。とにかく相手の竹刀をよく見て、振り始めた瞬間に小手を打つ戦法が多い。しかもそれは前触れもなく動き出す行動、無拍子と言うらしい。さらに振るスピードも速く、竹刀が見えなかった。勝てるかあんなの。
「さすがでござるな。あんな人間が二人も居るなんて驚きでござる」
「ああ、絶対正面から戦いたくないな」
「村山殿は闘争本能が刺激されたりとかしないのでござるか?」
「あればいいな。そういうの」
闘争本能よりも恐怖が先行しますって。あのスピードで振ればきっと紙如きなら一気にスパっといくだろう。ついでに俺の頭も。
「こりゃまたドライでござるな」
「しょうがないじゃない、怖いんだし。ところでいつ戻るんだ?」
「今日はもうそろそろ剣道場を撤収するのだが」
「じゃあそのあと学校散策をしてから帰るか」
「…うむ」
そこで地稽古が終わり、剣道部は休憩し始めた。面を脱ぐと汗だらけ…これぞ男だな。
「村山殿、拙者は如月殿と少し言葉を交わしたいのだが…よろしいか?」
我慢ならんといった感じで武藤が頼んでくる。おそらく如月という人は高校剣道でもとんでもないレベルの人で、その人と話したいという気持ちはよく分かる。
「よし、行ってこい」
「かたじけない」
武藤は音を立てずにすり足で走っていった。もしかしたらあいつも剣道すごいんじゃないか?




