51話 参加者
「金殺の…トーナメント?」
無郎が聞き返す。
「そう。トーナメント。無郎さんは参加できないけど」
龍一は椅子に座って、そう言った。
「参加する気有りませんよ。というか、それには辰正組長も恐らく出るのでしょう?それに龍一様だって。勝ち目有りません」
「まぁね。でも賞金二十億だよ?二十億」
「別にお金に興味ありませんから。死ぬか生きるかが問題です」
龍一は背もたれに体重をかけ、体を伸ばした。
「トーナメント参加志願者は、大量にいるでしょう。どういう方法を?」
「さぁ…」
龍一が首を傾け、喉を響かせた瞬間、肩に腕を回される。
「龍一。出たよ」
聖一が耳の横で声をかける。
「何が?」
「トーナメントの詳細」
聖一が回した方の腕から、スマホを見せる。
「…あれ」
龍一の見たスマホには、トーナメント表が乗っていた。
そこから枝分かれするように、百名ほどの名前が書かれている。
その中で、本戦の三十二人の中に、数個名前がすでに書かれている。
第三試合の欄に、霞原龍一と乗っていた。
「わお。シードっての?」
龍一が聞くと、聖一は頷きながら他の名前へズームした。
第一試合、藤木辰正。
第五試合、夜頭竜二。
第十四試合、登竜門三郎の名前が既にあった。
「龍と辰正なら、まぁ納得だね」
聖一が笑う。
「他の試合も確認しないとね。特に第三試合βの予選は」
龍一が第三試合の、空欄になっていない二つ目の方の欄に、目を向ける。
予選は四名によって構成されていた。
二人ずつ戦い、勝った者同士で戦う。
そして最終的に残ったものが、本戦に出場する。
四名の欄には、鉄人、アダム、ソルジャー、砲弾とある。
「誰が勝つと思う?」
聖一が四人の顔写真を表示しながら、龍一に聞く。
「顔じゃわかんないよ。とりあえず、試合を見るしかないよね」
龍一が言うと、聖一は大きく頷きながら、ポケットにスマホをしまった。
『さぁ!金殺トーナメントの予選が始まります!皆さん!瞬きせずご覧になってください!』
スピーカーの音はいつもより大きく感じた。
龍一と聖一は、辰正の権限で最前列に選ばれた。
「おじさんは仕事か~。来ればよかったのに」
「何。横が僕じゃ嫌?」
「う~ん」
龍一は濁しながら唸る。
『さて、ではまず第一試合βの参加者です!』
その声と共に、四人の男が姿を見せる。
『機関車、フィニッシャー、蒸気、オールの四人で第一試合βの座を争ってもらいます!』
「これも視るの?」
「いや、別にいいかな。当たるとしても三回戦だし、それに辰正が相手だよ?どうせ観察しても意味ないよ」
龍一はそう言うと、両膝を太ももに乗せて息をついた。
「じゃあ、第三試合βまでは流し見コースかな」
聖一も同じ体制を取った。
『第三試合βの予選を開始いたします!参加者は鉄人、アダム、ソルジャー、砲弾の四名です!』
「アダァーム!」
「ぶちかませ砲弾!」
観客が注目しているのは、アダムと砲弾の様だった。
「どっちかかな」
聖一が聞く。
「いや、わからないよ」
龍一が言う目の前で、試合が始まる。
第一戦は、鉄人対アダム。
アダムは身長と四肢が高く、そのリーチを生かし、戦いを始めた。
対し鉄人は、百七十センチほどのボクサー。
アダムとは三十センチほど差がありそうだ。
そんな低く位置する鉄人の肩を、フックでアダムは叩いていく。
鉄人は殴られるたびに体を大きく揺らしている。
衝撃が抑えきれていないようだ。
アダムが大きく振りかぶり、鉄人の頭目掛けて拳を振り下ろした。
鉄人はそれを肩で受け、一歩踏み出してアダムの腹へ右ストレートを放つ。
だが読んでいたかのように、防御を外した鉄人の腹へ大ぶりの左アッパーが突き刺さった。
鉄人はグフッと声を上げ、床に突っ伏した。
勝者はアダム。
応援されるに値する実力だ。
「あの身長なら、やっぱりアダムの勝ちそうだね」
聖一が呟いた瞬間、次の試合が始まる。
ソルジャー対砲弾の対決だ。
砲弾が素早く飛び掛かり、左ハイキックを放つ。
ソルジャーはそれを避け、同時に右ローを打ち込んだ。
砲弾はその右ローに合わさった完璧なタイミングで、前のめりになりながら右肘を振るった。
その右肘が、正確に捉えられる。
ソルジャーの左手につかまれ、砲弾は左拳を突き出してソルジャーの顔面を叩いた。
しかし手は離れず、逆にソルジャーの右拳を顔面にくらい、砲弾の体は沈んだ。
「あらま。もう大番狂わせ」
「あのソルジャーっての、良くあの肘掴めたな」
「どういうこと?」
「右ローに意識を配った瞬間の右肘だったから、相当広い視野を持ってない限り気付くのに数コンマ遅れて食らうんだよ。普通ならね」
「…ふ~ん」
聖一は分かっているのかいないのか、小刻みにうなずいた。
そして、次の試合が始まる。
アダム対ソルジャーだ。
アダムが長い腕を振るい、ソルジャーを鉄人と同じように追い詰めていく。
左アッパーを腹に打ち込まれ、ソルジャーが一瞬怯んだ瞬間に、アダムの右拳がソルジャーの後頭部に迫る。
ソルジャーは素早くしゃがみ込み、右拳をすれすれで躱した。
その低い体勢のまま左ローで膝を打ち、アダムの腰を落とす。
落ちたアダムの顎へ、右アッパーが飛んでくる。
アダムは巨体をそらせ、その後前に倒れた。
第三試合βを勝ち上がったのは、ソルジャーだった。
「おお。大番狂わせが二回」
「ソルジャーか。ふぅん」
龍一は頷きながら、試合場を去るソルジャーを目で追っていた。
『何と砲弾を返し、アダムを食らい、ソルジャーが堂々の本戦出場だー!紹介しましょう!ソルジャー!ノアリム・エブリィ・マルティネスです!』
観客から歓声が響く。
どうやらソルジャーノアリムに負けた二人を応援していたものも、今はノアリムを応援しているようだ。
「次はどの試合?あのノアリムってのは今日もう戦わないでしょ?」
「…うん。次は第五試合β。夜頭竜二の対戦相手。一応見ておいた方がいいかと思って」
相手である土偶を床に投げつけ、試合場の真ん中で雄たけびを上げる。
「ハラショー!ハラショー!」
観客が、ハラショーコールをしている。
第五試合βを勝ち上がったのは、ロシア人だった。
『蛇がすべてを食らいつくした!変温動物なんだ!寒いロシアも日本もどこでもやってやる!スネーク!ウラジミール・シガールだぁ!』
ウラジミールは肩で風切りながら、試合場を去っていく。
「竜二、面倒そうなのと当たったかもね」
「うん。次は?」
「第九試合α。古八木さん出場のね」
古八木が巨象の後頭部を地面にたたきつけ、意識を奪う。
第九試合α、勝利者は古八木智。
その後も試合は続き、予選は予定通りに進んでいった。
『予選をすべて終え、本戦メンバーが遂に決定いたしました!発表いたします!』
「龍一様」
観客席の龍一に、黒いスーツを着た男が話しかけてきた。
「本戦メンバー全員の紹介をいたしますので、入場口の方へ」
「はい…」
龍一は男に導かれるまま、入場口に整列した。
『どうやら準備が整ったようです!それでは、入場です!』
そう言われ、入場口に整列していたメンバーは歩き出す。
『第一試合β!モンゴルの重戦車!フィニッシャーバトロン・ネルグイ!』
筋骨隆々、腕を捲ったようなモンゴルの民族衣装を纏い、少し前のめりに出てきた。
『第二試合α!全身の鎧は相手の骨を折る!鎧武者!貝塚永琉!』
肘や膝が硬く突き出た男が、首を鳴らして入ってくる。
『第二試合β!最速の金殺闘士!太陽の子!尾島陽!』
少し日焼けした、細く引き締まった筋肉を持っている。
『第三試合β!俺の目は戦場のすべてを見通す!ソルジャー!ノアリム・E・マルティネス!』
三十代ぐらいの金髪の男が、堂々と入場してきた。
『第四試合α!日本の拳法は俺の者!日本背負い!遠藤大!』
道着を着た若い男が、帯を直しながら入場する。
『第四試合β!鋭利な肘で何でも切り裂く!ライトナー!光原正敏!』
色黒の男が、ハーフパンツのみで歩いていく。
『第五試合β!何だろうと嚙み毒で殺す!スネーク!ウラジミール・シガール!』
ぴっちりとした服を着て、腰にジャージのようなものを巻いている。
『第六試合α!銀メダリストだからってなめんじゃねぇ!人投げ!中田誠!』
柔道着を着た大柄な男が、裸足で大股に進んでいく。
『第六試合β!地を這って全て食ってやる!地を這う獣!ジョゼアントニオ・シルヴァヴェイラ』
低姿勢の男が、黒い髪を地面に垂らしている。
『第七試合α!拳で語り合うなら俺の得意分野だ!メッセンジャー!ウィロリアン・J・ディクソン!』
金髪で額にサングラスをかけた男が、息を鳴らしながら入ってきた。
『第七試合β!倒せるなら倒してみろ!大樹!樹山豊太郎!』
黒い道着を着た筋肉質な男が、腕を組みながら入場する。
『第八試合α!人間が作り出すキメラはここまで来たか!合成獣!春 洪郎!』
リズムを軽く取りながら、標準体型の男が入ってきた。
『第八試合β!獣は一人じゃねぇ!大虎!後藤猛』
大きく肩で風切り、試合場へ歩いていく。
『第九試合α!薬使っても勝てばいい!樹木!古八木智!』
智が頭を掻きながら入っていく。
『第九試合β!謎の男は進出していく!血濡れた男!赤桐松之助!』
黒い髪で顔を隠している。
『第十試合α!中国の真髄は円にあり!サイクル!見沼円!』
細身の体で、黄色い髪を揺らす。
『第十試合β!俺はとにかく突っ走る!ストレート!三坂丈!』
あまり筋肉質ではないボクサーが、悠々と歩く。
『第十一試合α!すべて打ち砕いてやる!鋼!鋼山響十!』
髪をなびかせて、スーツを整えている。
『第十一試合β!回転は威力に直結する!九十九!九十九恵介!』
長い金髪を掻き上げた。
『第十二試合α!煙は殴れない!揺らぐ煙!李 悠羅!』
黒い髪の毛を、ひもで後頭部にまとめている。
『第十二試合β!鳴れ!轟け!音鳴!轟凛太!』
雄たけびを上げ、両腕を振り上げた。
『第十三試合α!全てを一発で倒せてこそ空手だ!一撃必殺!佐藤風!』
黒髪の短髪の空手家が、拳を握りしめた。
『第十三試合β!宇田家は俺によって支えられている!影!宇田晴喜!』
紺色の道着を着た中年の男が、袖を直している。
『第十四試合β!スピードで言えば俺が強い!速打!木倉良助!』
ハーフパンツの男が、シャドーしながら入ってきた。
『第十五試合α!横綱最強は俺だ!富士宮!』
巨大な筋肉がうごめいている。
『第十五試合β!殴られても組んでやる打ってやる!バグ!マクロス・ミット!』
両腕を伸ばしながら早歩きで歩いてきた。
『第十六試合α!守るのならなんでも得意だ!守護者!櫨本慧!』
迷彩服を着て、足を進めていく。
『第十六試合β!コンビで言えば俺が速い!霧!禪院霧斗!』
指先で動きながら、入場する。
『そして、今大会シードの者たちです!第十四試合α!殴って殴って殴るだけ!三!登竜門三郎!』
三郎は全身を伸ばしながら、首を鳴らして入ってくる。
『第五試合α!リベンジすれば優勝は決まったもの!二!夜頭竜二!』
竜二が笑顔で試合場へ入場した。
『第三試合α!俺の優勝は当然だ!一!霞原龍一!』
龍一がステップを踏みながら、試合場へ入ってきた。
『第一試合α!組長は最強である必要がある!辰!藤木辰正!』
辰正は拳を握り締め、最後に堂々と入ってきてみせた。
『以上三十二名により、金殺トーナメントを実施します!』
観客の歓声が、試合場を包む。
『金殺トーナメントは一ヶ月後!そこまで全ての試合はなしになってしまいます!そこはご了承ください!詳細は追って連絡いたします』
龍一が大きく息を吐く。
聖一が手を振っているのが、視界の端に移った。
龍一は手を振り返す。
その時、考えていた。
優勝賞金の使い道を。
「…勝つか」
そう呟いた。
51話 参加者 終
51話後書き。
遂に始まりました金殺トーナメント編。
未だトーナメントは始まっていませんが。
抗争前から久しぶりに登場した佐々木無郎です。
恐らく、登場はほとんどないです。
金殺トーナメントが龍道の最終章になる予定です。
というか、これ以上龍道で広げられるものはありません。
ただ、龍道からつなげられるものはあります。
今他に書いている作品が終わる頃、それが出て来ると思います。
今回、新たに24人の新キャラが出てきました。
といったものの、数名名前だけ出ていたりしてるんですよね。
九十九恵介は龍トーナメントで、中田誠は総一郎のメモで登場。
富士宮に関しては1話で堂々と登場しています。
因みに、もうトーナメントの勝敗は既に決まっています。
それを悟らせず、どう描写していくかが悩みます。
さて今回は、第一試合に参戦する1人、バトロン・ネルグイです。
身長187センチ 体重134キロ。
モンゴル人です。
αやβというのはその試合に参加する人を指し示す言葉です。
例えば第一試合はαの辰正とβのバトロンです。
では。




