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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
50/52

50話 龍一対辰正

龍一は、入場口へ向かっていた。

「龍一。よろしく頼むぞ」

後ろから、声を掛けられる。

今度の龍一は、驚かずに冷静に振り向いた。

「…組長」

一瞬呼ぶのに詰まった後、龍一は言った。

「お前にとっては組長じゃないだろう」

「じゃあ、何て呼べば?」

「…まぁ、好きに呼べばいいが」

辰正は両ポケットに手を突っ込み、龍一の隣を歩きだす。

「…辰正、は金殺での戦歴は?」

「呼び捨てか。…さぁな」

「どういうこと?」

「何回戦ったかなんて覚えてない。精々数十回だろう」

龍一は唇を突き出し、頷いた。

「強いね」

「今日で一勝、どちらかに追加されるわけだ。大きな一勝がな」

龍一は微笑み、深呼吸をした。

「よろしく」

「あぁ」


試合場に、二人の戦士が集う。

『今日開催されたトーナメント。八人の数字を持つ闘士たちの頂点に君臨した、一!そして、それに相対するは、藤木組組長兼金殺経営者兼金殺最強闘士!藤木辰正こと、辰だー!』

試合場に響き渡るスピーカーの音は、観客の歓声にかき消された。

『金殺による戦績、五十七勝無敗!戦績及び実力最強の辰は、今日どんな試合を見せてくれるのか!』

「五十七…そのぐらいだったか」

辰正が首を鳴らしながら、独り言で呟く。

「凄いね。時牧でもそんなにいなかったよ」

龍一が両手首を鳴らし、目を見開いてそう言った。

そして、深く息を吐く。

肺の奥底まで、酸素がなくなり呼吸困難になりそうな程。

吐ききった後、ゆっくりと息を吸う。

肺を大きく、限界まで吸い込んだ後、一瞬で吐ききった。

「始めぇ!」

龍一が走り出す。

辰正は動かずに、向かって来る龍一を真っすぐに見つめている。

龍一は右足を回転が掛かるように踏み込み、左ハイキックを放った。

辰正がギリギリ間に合うレベルのスピードで、右腕を立てた。

ハイキックを受け、龍一の腹へ左拳を軽く振る。

龍一は殴り飛ばされた。

一度背中から地面に落ちた後、転がりながら起き上がる。

そこへ、辰正は少し遅い程度のスピードで歩み寄る。

決して驚くようなスピードではない。

しかし、油断もできない。

辰正はまっすぐと右ストレートを放つ。

首を傾けてそれを避け、右のボディブローを打ち込んだ。

だが辰正は怯む様子を見せず、逆に右ショートアッパーを返してくる。

龍一は左前腕でしっかりと受けたうえで、瞬間的に空中へ浮かされた。

よろめきながら着地し、龍一は防御の体勢を取る。

(一発一発が重い…!全力で殴られたら骨なんか軽く逝く…!)

警戒しながら防御を解き、両手を低く前に出し、前傾姿勢になった。

グラウンドを狙っている龍一に、辰正も同じような体勢を取る。

「駄目だ龍一…!あの体格差相手にレスリングは…」

幸太郎が呟くと、そこに武美が言葉を入れて来た。

「立ち技でもあの体格差は厳しいだろうよ」

辰正の身長は、百九十を優に超えている。

しかも、体重で言えば龍一とは五十キロほど離れているだろう。

それでも、龍一はグラウンドを仕掛けた。

辰正と同時に、相手へ飛び出す。

辰正が両腕でクラッチしようとした瞬間に、龍一はさらに低くタックルする。

辰正の腹に頭を突っ込み、腰を掴む。

その状態のまま、床に倒れこもうとした。

重い。

辰正の体重は、龍一のタックルで倒せなかったのだ。

辰正はゆっくりと龍一の体を掴み、強引に引き離す。

引き離され体勢が崩れたと同時に、辰正のタックルを受けた。

仰向けに倒れ込んだ龍一の右足を素早く掴み、両足を太ももに引っ掛ける。

辰正は右足で床を蹴り、龍一ごと身体を半回転させた。

膝十字固めが、龍一の脚を極めている。

「ぐっ…!」

龍一は咄嗟に両手で地面を突き放し、勢いそのままに左足を辰正の爪先に当てた。

龍一の蹴りは、辰正の足の指を直撃し、一瞬膝十字固めを緩ませた。

その隙に、右足を思い切り引っこ抜く。

追うように低い体勢で突っ込んでくる辰正に、龍一は左手を伸ばした。

左手は辰正の背中に触れ、龍一の体を上に突き飛ばした。

側転のように龍一は回転し、辰正の後ろに回る。

辰正が振り向こうとする前に、龍一の腕が辰正の首に巻き付いた。

辰正の背に乗り、首を締め上げる。

気道を締め上げてくる龍一の腕を、そっと辰正は握った。

そして、全力で力を込め、引き離す。

しっかりと決まったチョークは外れない。

だがそれは、力の差が大きく離れていない状況に限られる。

辰正は力の限りに、龍一の右腕を首から引き離した。

気道が広がり、酸素が入るようになると、大きく息を吸ってさらに力を込める。

龍一の右手は、弾けるように掴んでいた左手から離れた。

それと同時に辰正は頭を後ろに振り、後頭部で龍一の鼻を打った。

龍一の右腕を離し、振り向きながら立ち上がる。

龍一も鼻を抑えながら立ち上がった。

指の隙間から逃れた血が、床に落ちていく。

「グラウンドは失敗だったな、龍一」

「うん。大失敗」

龍一は指で押して鼻から血を吹きだし、思い切り鼻を吹いてから両腕を立てた。

ステップを踏み、辰正をしっかりと目で捉える。

辰正は両腕を軽く浮かし、龍一を待っている。

それに応えるように、龍一は踏み出した。

右ジャブを放ち、辰正の顔面に当てる。

それに続いた左ストレート。

辰正はその左拳を、がっちりと右手で掴んで見せた。

しかし、龍一はそれも予想の一つにいれていた。

辰正の右腕を主軸にした、飛び上がっての空中右上段蹴り。

左腕で防がれた。

龍一が着地した瞬間、左腕がグイッと引き寄せられる。

そこに合わせての、左アッパー。

龍一の顎を直撃し、脳を突き上げる。

龍一の視界が歪んだ。

そこへ、辰正が右フックを合わせてくる。

辰正の右拳が、龍一の側頭部を打つ。

龍一が地面に倒れた。

歯を食いしばり、揺らめく意識の中地面を這う。

這っている龍一を、辰正は見下ろしている。

そして、手を伸ばした。

龍一の首根っこを掴み、持ち上げる。

八十七キロの龍一を、肩でひょいと。

踏み込み、右腕を振るう。

龍一は投げ飛ばされ、金網にぶつかった。

辰正が走り、左足を振りかぶって、サッカーボールキックを龍一の腹目掛けて打ち込んだ。

「げほっ」

遠のいていた意識が戻ってくるほどの、強烈なインパクト。

もう一度辰正が足を振りかぶった時、龍一は胴体をしっかりと両腕で守り、蹴りを防いだ。

衝撃は奥底まで響いてくるが、龍一は力を振り絞って右手で地面を突き放した。

辰正の蹴りが金網にぶつかった。

龍一は腹を抑えながら、後方にステップして辰正から距離を取る。

「ふっ…ふっ…」

龍一が絶え絶えになりながら、呼吸を何とか紡いでいる。

辰正はそこへ、足を滑らせてくる。

同時に龍一も、距離を取っていく。

辰正が左ストレートを放つと、龍一は左に体を躱して避ける。

息を正常な状態に戻しながら、辰正から逃げていく。

そして、そんな龍一を辰正は追っていく。

それが続いていくと、次第に二人のスピードは変わっていった。

体力が徐々に回復されていき、逃げるスピードが上がる龍一。

空振りを続け、体力が奪われていく辰正。

二人のスピードはいつしか入れ替わっていった。

辰正が幾度目かの空振りをしたとき、龍一は右足を振り上げ、辰正の右脇腹に蹴りを入れる。

順当な判断だろう。

体力を失った相手に対して、カウンター気味の内臓攻撃。

だが、相手は体力を失った相手でまとめられるものではなかった。

辰正はたとえ体力が落ち、スピードが低下したとしても、そこへ攻撃されたとしても、相手を倒す。

右脇腹を蹴られたと同時に、左アッパーを放つ。

龍一は後ろに躱し、顎の目の前を拳が通っていった。

後退した体勢の龍一に、右ボディブロー。

龍一の腹に、右拳が突き刺さる。

「がはっ」

体力を失ったとは思えないほど、重い拳。

辰正は振りかぶり、左拳を龍一の顔面へ飛ばした。

龍一はしゃがみ込むような体勢で、拳を避ける。

そこから、左掌を辰正の腹に添えた。

「ふっ…!」

龍一は息を吐き出し、辰正を突き飛ばすように力を込める。

発勁が辰正の腹を通り、内臓まで響かせた。

辰正が前傾姿勢になりながら、後ろに下がる。

左手で地面を突き放し、左足を振り上げる。

左ハイキックを、辰正の右頬に打ち込んだ。

そして右足で地面を蹴り飛ばし、一回転しながら右肘を再び辰正の頬に打つ。

辰正の後頭部を両手で掴んで、ぐらりと揺らぐ巨体の顔面に左膝を合わせた。

辰正の鼻から血が噴き出した。

右手を離し、振りかぶって右アッパーを顎へ放つ。

辰正は後ろに何歩も下がった。

だが、倒れはしない。

背中が後ろに激しく反った状態でとどまり、ゆっくりと体を起こした。

「まだか…」

龍一が呟く。

辰正は鼻で息を吹き、龍一へ走っていった。

龍一は深く息を吸い、同じように飛び出す。

辰正が右フックを放つ。

それをぎりぎりで避け、左ローキックを打ち込む。

しかし、龍一の頭を大きな手が掴んだ。

左腕を振りかぶり、顔面に向けて拳を叩きこむ。

龍一は防御の両腕で守りながら受け、吹っ飛ばされた。

金網に背が当たり、龍一の身体は止まる。

辰正が仕掛けてくるが、右前蹴りで腹を打ち、距離を取った。

その勢いのまま、左ミドルを放とうとする。

その左足が掴まれた。

回すように足を取られ、龍一は体勢を崩し、地面に倒れこむ。

辰正は覆いかぶさるように腕を振るう。

だが龍一の右足がつっかえ棒のように辰正の体をせきとめ、思い切り蹴り飛ばした。

威力はないが辰正は後ろに下がっている。

そこに龍一の右ロー。

辰正はしっかりと食らったうえで、左手をのばしてきた。

その左手首を掴まえ、振りかぶっての頭突きを鼻っ柱に打ち込む。

辰正の鼻からさらに血が噴き出ると、そこを狙うように龍一は左拳を真っすぐ叩き込んだ。

辰正がよろける。

弱点の多い顔面を打たれ続けているのだ。

それでも、辰正はまだ戦う。

右拳で龍一の腹部を狙う。

その拳に合わせ、龍一は左足を上げた。

拳は龍一の脛を叩き、龍一は一度左足を下ろした。

龍一が右手を離す。

そして、勢いづけての左ハイキック。

辰正の顎を外すかの如く、鋭いハイキックが刺さった。

辰正の体が低く落ちる。

龍一は後退しようとした。

だが、辰正の身体はまだ生きている。

龍一に向かって、一直線のタックルを放ってきた。

龍一ごと、金網に突っ込む。

「げはっ…!」

龍一が血を吐いた。

辰正はただ押し込み続けている。

辰正の首の後ろを狙い、龍一は肘を打ちおろす。

何度も、何度も。

すると、辰正の押し込みは少し弱まった。

(よし、足が地面につく!)

そして、辰正の側頭部に両手を添えた。

深く息を吸い込み、両掌を打ち込む。

両震脳波(リョウシンノウハ)。

龍一の両掌から放たれた広がる衝撃波が、辰正の脳を揺らす。

頭を抑えながら、辰正は龍一から離れた。

金網を蹴り、辰正に蹴り込んだ。

辰正が数歩下がる。

龍一はまた深く息を吸い、高く飛び上がった。

身体を捻り、右足を相手の頭に向かって振り下ろす。

辰正は思っていた。

(この技の威力は当たったところに由来する。つまり、硬い肘で受ければ何の問題もなし!)

そう思い、右腕を振り上げる。

ガクンと、膝が落ちた。

両震脳波の衝撃波が、辰正の膝と肘を落とした。

そして、辰正の首の後ろに、龍一の右足が落ちた。

回天落とし。

辰正の瞳は高速で上に行き、体は前に倒れ込んだ。

龍一はしっかりと着地する。

審判が辰正に駆け寄り、顔を上に向けた。

「…勝負あり!」

歓声が巻き起こる。

耳を打ち抜くほどの歓声は、沸きあがったスピーカーの声さえ完全に打ち消した。

「龍一ぃ!」

その中で、聞き覚えのある声が唯一龍一の耳に届いた。

その方向へ向くと、凛太が総一郎と聖一の肩に腕を回しながら、手を振っている。

幸太郎と武美も同じように手を振っている。

龍一は笑って、手を振り返した。

「龍一」

湧き上がる声の中、近くから小さな声が聞こえる。

振り向くと、辰正が目を覚ましていた。

「まだ意識ははっきりしないが…負けたようだな」

「えぇ」

「そうか。それで、頼みがあるんだが」

「頼み?」

「俺の金と組。そのすべてをお前にやる」

龍一は目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻して答えた。

「いらないよ。別に金目的じゃないし、組も別に…」

「なら、組は解体だな」

「え。あぁ…組だけは貰っといて、信頼できる人に回すよ」

「…そうか。藤木組は名乗るなよ」

「うん。分かってる」

「それで、金が要らないというのなら、こういうのはどうだ?」

「何?」

辰正がゆっくりと立ち上がる。

「全員、聞け!」

辰正は少し揺らぎながら声を出す。

大きく通りやすい声が、観客含め闘士全員の目を向かせた。

「もうすぐ藤木組は消える!別の組になるだろう!そこで金殺は終了とする!」

辰正の言葉に驚いた観客は、声を上げた。

「もう見れないのかよ!あーいう試合!」

「見たいのなら別の所へ行くしかない!が、最後の最後!最高の試合が見れるだろう!」

「最後?」

龍一が聞いた。

「優勝賞金は俺の全財産、二十億!闘士は全員参加可能の金殺トーナメントを行う!」


50話 龍一対辰正 終

50話後書き。

遂に大台の50話です。

一年経ちました。

一話から存在があった藤木辰正との戦いも、これで決着です。

まさかここまでかかるとは思いませんでした。

これにて、金殺編は終わりとなります。

当話の最後、金殺トーナメントの開催が発表されましたね。

正直辰正は一回気を失ったのに元気すぎるし、こんなテンションのキャラだったかなと思ったのですが、これからはこういうキャラです。

それで、金殺トーナメント編が次回から始まります。

時牧トーナメントから考えると、大体20話ぐらいでしょうか。

まだ続きます。

現在進行形で他の小説を書いているのですが、それを出すのはまだ先になりそうです。

今回は、藤木辰正です。

身長195センチ 体重137キロ。

龍道の中でもトップレベルで強いです。

では。

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