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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
49/52

49話 一対二

試合が始まって数秒後、龍一の右足が飛び跳ねる。

弧を描きながら、竜二の頭に向かって。

竜二は左腕でそれを防ぎ、右ジャブを放った。

龍一も左腕で、それを受けた。

「痛っ…」

竜二が一瞬、眉間にしわを寄せる。

龍一が飛び下がった。

「もしかして、アドレナリン切れて痛い?」

竜二は口を尖らせながら頷いた。

「どうする?棄権する?」

「ははっ、面白いね。でも、一は戦闘中にぐちぐち言わなかったよ」

「そう。真面目だね」

「うん、すごく」

竜二は脂汗を掻きながら、微笑んで言った。

龍一が軽く頷き、竜二に向かって駆けだす。

軽いジャブを放ち、竜二がそれを避ける。

避けた瞬間、左ローを打つ。

竜二は跳びあがってそれを避けた。

右腕が高く振りあがっている。

(やばっ)

龍一が見上げた瞬間、見えたのは前腕が折りたたまれ、鋭利に突き出た肘。

龍一の鎖骨を砕くように、肘が撃ち落された。

左鎖骨に強烈な衝撃が走る。

だが、鎖骨に肘を入れられたまま、着地した竜二に向かって右掌底を放つ。

掌底は胸を叩き、心臓を揺らした。

竜二は歯を食いしばりながら、龍一の額に向かって右肘を振るう。

龍一は素早く膝を曲げる。

竜二の肘は、龍一の頭上を切っていった。

龍一が体勢を下げたまま、右拳を突き出し、竜二の腹にめり込ませた。

「ぐっ…」

一瞬唸った竜二の脇腹へ、体勢を屈めたまま左ブローを放つ。

右脇腹に深く食い込んだ瞬間、龍一の顎に向かって右膝が飛んできた。

龍一は咄嗟に右手を挟み込み、顎を守った。

しかし、衝撃は脳に届き、景色が歪む。

歯を噛み締め、衝撃を最小限に抑え込みながら、両手を地面についた。

そのまま地面を押し出し、竜二と距離を取った。

それでも、すぐに距離を詰められ、右ミドルが放たれる。

ミドルは龍一の側頭部へ正確に打ち出された。

龍一が左腕を立てて防御しようとするが、竜二の右足はそれを透けて届いた。

歪む景色は、空間の認識を乱らせたのである。

龍一が右に向かって倒れ、竜二はそれを見下ろす形になっている。

龍一は地面を這い、逃げようとした。

だが、竜二はそれを許さない。

右脚を振り上げ、龍一に向かってそれを振り落とす。

龍一の腹に、深く突き刺さるように。

龍一が両肘で地面を押し、自分の体を立てた。

宙に浮いた腹に向かって、足が落ちてきた。

そして足が触れた瞬間肘を崩し、背を地面に落とす。

一瞬減速した足が、腹に落ちてきた。

ダメージも衝撃も、薄い。

龍一は竜二の脛を殴り、足をずらして転がり出た。

龍一は呼吸を整えつつ、距離を取っている。

それを追うように、竜二が進み出る。

左肘を振り下げ、龍一の頬のあたりを狙う。

龍一の頬骨に、竜二の肘の先端が触れる。

それと同時に、肘と同じ方向へ頭を振るう。

肘が頬骨を掠っていき、龍一は一回転して飛び跳ねた。

そして回転の勢いのまま、左ミドルを放つ。

竜二は右腕でガードし、左ローでふくらはぎを狙う。

龍一が真上に跳び、足を避ける。

着地した瞬間、地面を蹴り飛ばし、頭から竜二の腹へ突っ込んだ。

竜二の身体は吹っ飛び、背中から地面に落ちる。

竜二が一瞬息を口から吐き出した。

そこに、龍一の拳が落ちてくる。

竜二は咄嗟に頭を傾け、拳を避けた。

竜二が右拳を振るい、龍一を遠のかせ、起き上がった。

両腕で後ろの金網に触れ、龍一を見る。

龍一が一つ息を吐いて、右のハイキックを放つ。

竜二は小さく屈んで躱し、膝を曲げた状態で右のストレートを放った。

龍一の胸を叩き、殴り飛ばして距離を取る。

左前蹴りを放ち、さらに龍一に追い打ちをかけた。

左足は龍一の腹を正確に貫き、龍一を蹴り飛ばした。

浅く息を吸い、倒れた龍一に飛び掛かる。

龍一が体を起こそうとした瞬間、右方向から蹴りが飛んでくる。

龍一は左掌をつき、肘を曲げて体を落とした。

竜二の左足が、龍一の頭上を駆け抜ける。

龍一は左手の隣に右手を付き、右足で竜二の足を払った。

竜二が体勢を崩すと同時に、逆に龍一は体勢を立て直す。

立ち上がってから飛び退き、龍一は距離を取る。

それを見てから、竜二もゆっくり体勢を立て直す。

龍一と竜二はどちらもボクシングスタイルのまま、距離を測っている。

そして、龍一が進み出た。

右ストレートを放つ。

竜二が頭を傾けて躱し、右ブローで体を打つ。

龍一がひるんだ隙に、竜二は左肘を振るいながら、龍一に背を向けた。

肘が通った腹から、血が出始めた。

「っ…」

龍一が顔をしかめる。

その腹の傷に向かって、蹴りを放つ。

龍一は数歩下がった。

竜二は腰を落とし、相手を伺う。

龍一と竜二が同時に飛び出し、竜二は左のミドルを打つ。

それを見て咄嗟に、龍一は足を止めた。

その左足が、龍一の腹の前で過ぎていった。

竜二が蹴りを外し、体勢が崩れた瞬間、龍一の右足で残った足を払う。

後ろに倒れそうになった竜二の左手を右手で掴み、龍一の左拳が顔面を叩いた。

龍一は前に体重をかけ、竜二の後頭部を地面に打ち付ける。

竜二が鼻から血を吹きだし、顔面から拳を持ち上げる。

両足を使って、竜二から離れる。

竜二は鼻を抑えながら、ふらふらと立ち上がった。

「その状態でまだ戦うの」

「…しつこくね」

竜二は血を垂らせながら、微笑んだ。

「でも、その状態じゃまともに殴れないでしょ」

「なら、筋肉で叩かない」

深く息を吸い、龍一に向かって駆けだす。

龍一も飛び出し、距離を詰めた。

竜二が左肘を振る。

しかし、竜二と龍一の距離は肘が当たるほど遠くなかった。

龍一はそれを踏まえ、右拳を突き出す。

だがそれが届く寸前、龍一の腹を右膝がド突いた。

「がふっ」

龍一が空気を吐く。

一歩、竜二が足を引く。

そして、右肘を振るう。

今度は、龍一の額を切り裂いた。

額から血が流れ出し、龍一の目まで垂れていく。

竜二は左膝で、龍一を突き飛ばした。

龍一は転がっていき、竜二と距離ができてしまった。

龍一がすぐに体を起こす。

その時、左目を赤い膜が覆った。

血が左目を覆っている。

龍一が左目を瞑りながら、立ち上がった。

「まだやる気?」

血だらけの顔で、竜二は言った。

「…しつこく?」

龍一は笑いながら言い、竜二の方に飛び出した。

竜二の肘や膝よりも射程の長い、蹴りを突き出す。

胸を狙ったその蹴りは、竜二の左肘と左膝に挟まれ、止められた。

竜二はその足を離し、一瞬体勢を崩した龍一に向かって、右肘を振り下ろす。

龍一の肩に、肘は落ちた。

「ぐっ…!」

龍一が痛みに顔を歪ませる。

右足で竜二の脛を蹴り、止まった隙に龍一は距離を取った。

龍一は左肩を抑えながら、竜二を見た。

竜二は首を鳴らし、龍一に歩み寄ってくる。

龍一が深く息を吐き、右手を肩から離した。

竜二が射程に入った瞬間、右ストレート。

足を止め、右拳は目の前で止まった。

左膝を突き出そうとする。

その瞬間に合わせ、右足を進みだす。

膝と龍一の右ももは、数センチの距離まで近づいた。

このままでは、膝を繰り出せない。

竜二は左足を下げ、再び距離を取ろうとする。

龍一はそれと同時に、距離を詰める。

肘や膝は、距離を正確にとらえないと当たらない。

龍一は距離を詰め続け、竜二の攻撃を防いだ。

しびれを切らした竜二は、右拳を突き出す。

龍一はこれを待っていた。

拳を掴み、飛び上がる。

竜二が何かをする前に、首に右足を引っかけ、その右足を左足でロックする。

三角締めが、竜二の首を締め上げる。

「かはっ…」

空気が漏れ出て、竜二の顔が赤くなっていく。

頸動脈が締め上げられ、脳に血が溜まっていっているのだ。

竜二が龍一の足を掴み、もがいている。

外そうとしているが、しっかり決まった足を外すことは難しい。

なら、外させる。

竜二はできる限り息を吸い、前に走り出した。

龍一を飛び台にするかのように、竜二の身体は跳ね上がった。

龍一の肩甲骨が、竜二の走り出した勢いに、急ストップをかけて飛び上がらせたのだ。

竜二が飛び上がったことによって、龍一の足は離れた。

竜二は背中から落ちたが、すぐに体勢を立て直す。

そこへ、龍一の両腕が伸びてくる。

龍一は飛び上がりながら、竜二の首に右腕を回した。

その右腕は、左腕を掴んでがっちりホールドされている。

チョークが続いた。

竜二は首を連続で締め上げられ、意識が遠のいていた。

それでも、なんとか脱出しようともがく。

右腕を振り上げ、後ろの龍一に肘を振り下ろした。

龍一のレバーを、竜二の肘が深くついた。

「づっ…!」

龍一は詰まった悲鳴を上げる。

しかし、腕は緩まない。

竜二は左瞼が落ちてきていた。

血が回らなくなり、体の動きが落ちてきている。

竜二が後ろに向かって、頭を振った。

龍一の鼻っ柱を、竜二の後頭部が突く。

鼻から血が流れ出し、一瞬腕が緩む。

竜二は全力で腕を外し、龍一と距離を取った。

竜二は首を抑えながら立ち上がる。

龍一も、鼻を抑えながら立ち上がった。

深呼吸をする竜二を見ながら、龍一は体を屈めた。

「絞め技ばっかり狙ってきて…タチが悪いね」

竜二は咳ばらいをし、首を回す。

既に体に血が行き渡り、竜二は本調子を取り戻していた。

その竜二に、龍一が突っ込む。

竜二は跳び下がるように足を下げ、龍一と正確に距離を取る。

龍一が息を深く吸い込み、竜二に飛び掛かる。

再び、両腕が流れてくる。

竜二は右肘を自分の顔の前に突き出し、龍一の顔面を肘の先端で突いた。

そして、膝で蹴り飛ばす。

龍一は地面を転がっていくが、すぐに飛び掛かった。

またもや竜二が距離を取り、龍一の腕から逃れた。

その時、龍一は滑り込みながら足で脛を蹴ってきた。

まるで、ボクサーと対峙するプロレスラーのような蹴り。

竜二がガクンと、体を崩した瞬間、右足を高く振り上げ、竜二の顎を狙った。

地面に最も近いハイキックが、竜二の顎を打ち抜く。

竜二の膝が落ちた。

しかし、竜二は左手を地面に付け、意識を保つ。

その瞬間、竜二が見たのは立ち上がった状態で距離を取る龍一。

一瞬、意識が揺れていたせいで反応が遅れてしまった。

龍一は竜二から三メートルほど距離を取った。

龍一が飛び上がる。

身体を捻り、竜二をしっかりと目で捉える。

竜二は咄嗟にガードした。

だが、龍一は踵から落ちた。

それは、四龍夏秋が放ったような、回天落としであった。

竜二の両腕を破壊し、龍一は地面に落ちた。

竜二の腕がだらりと垂れた瞬間、腰を落とした状態で龍一は右フックを放った。

右フックは竜二の顎の先を打ち、意識を飛ばした。

竜二が前に倒れ、龍一がそれを支えた。

「勝負あり!」

声が響き、龍一は右腕を上げ勝ち名乗りをあげた。


「…龍一か」

藤木辰正は、自分の控室でそう呟いた。

「…まぁ、いい方が残ったな」

そう言いながら首を鳴らし、立ち上がる。

指を鳴らし、背骨を鳴らす。

全身を鳴らすように体を動かした後、深呼吸をする。

辰正は、控室を出た。

「組長」

左から声がし、そちらに目を向ける。

そこに立っていたのは、万場黒土。

「…心配か?」

辰正がそう聞くと、黒土は眉を動かしながら答える。

「まぁ…多少」

「たとえ負けても、俺は死なん」

「…頑張って」

黒土が膝を開いた状態で、少し体を前に倒す。

「…あぁ」

辰正が試合場に向かった。


「龍一」

龍一は廊下を歩いているとき、総一郎に声を掛けられた。

「ん?」

「一応優勝だろ?この後もあるとはいえ。もうちょい喜べよ」

「ん~なんか、気が抜けないというか。素直に喜べない」

「…それならそれでいい。気は抜くな」

総一郎はそう言いながら、龍一に背を向けた。

「…死ぬことはないぞ」

「大丈夫。負けないよ」

龍一は笑った。


49話 一対二 終

49話後書き。

どうも。遂に龍決勝です。

これまでで50話近くかかってますね。

龍道が始まってから約一年です。

一体どこへ向かうのでしょうか。

さて今回は、夜頭竜二です。

身長182センチ 体重86キロ。

標準ぐらいの体型です。

では。

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