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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
48/52

48話 三対二

「始めぇ!」

審判の声が、試合場に響き渡る。

三郎が手首を鳴らし、首を回して骨の間の空気を潰す。

「行くか。二」

「そうだね、三郎」

竜二がにっこりと笑うと、三郎は気だるそうな顔をした。

「慣れねぇな。お前に名前呼ばれんのは」

「じゃ、三とでも呼べばいい?」

「いいんじゃないか?」

三郎が深く息をつき、竜二に向かって前に歩みを進める。

「凄いね。まるで散歩」

「そうだ…なっ」

フェンシングのように右拳を突き出す。

竜二は首を少し傾けて、拳を避けた。

同時に、右のジャブを腹に向けて放つ。

三郎の腹に、ジャブが軽く当たった。

「おぉ、硬い」

嘲るように軽く拳で叩く。

「舐めんなっ」

三郎が右腕を内側に曲げた。

竜二の後頭部を掴む。

「んっ」

そのまま右腕で引き寄せ、左膝を振り上げた。

「ぐづっ…!」

三郎が唸り声を上げる。

竜二の右肘が、三郎の脇腹に深く刺さっていた。

「シッ!」

三郎が右ミドルを放つ。

竜二は左肘を振り下ろして、三郎のくるぶしを打った。

だがそれを突き抜け、竜二の脇腹を打ち返した。

竜二の体が、地面を転がる。

「痛いなぁ…!もう!」

竜二は左手で脇腹を抑えながら、地面を思い切り蹴った。

三郎の身体へ、低い体勢で突っ込む。

「ふっ…」

三郎が浅く息を吸い、口を噤む。

踵を浮かし、竜二の体を止める。

「ふっ!」

息を素早く吐き、竜二の腹に両腕を回す。

そして、竜二の体が数センチ浮かび上がった。

三郎はそのまま、竜二に体重をかけるような体勢で落とした。

足に衝撃が走り、膝まで滑っていき、両膝が地面につく。

三郎が両腕を離し、竜二の背中を叩いて、自分の体を飛ばした。

跳び箱のように跳び、竜二の後方に回る。

竜二は左腕を突いたまま、後ろの三郎に向かって右足を蹴りだした。

三郎は両腕を胴の前に重ね、蹴りを防ぐ。

しかし、蹴った衝撃を利用し、竜二は起き上がってしまった。

屈んだ状態の三郎に向かって、竜二が左ローキックを放ってくる。

三郎が体を回転させ、背中で受けた。

衝撃で三郎は一度前に転がったが、すぐに立ち上がり体勢を立て直した。

そこへ、竜二の右ジャブが放たれる。

三郎の顔面を打ち、一瞬怯ませた。

竜二が左手で三郎の右手を掴み、足を払う。

三郎が体勢を崩すのに引っ張られて落ちるかのように、竜二は体勢を前に進めた。

その勢いを利用した、三郎への右拳。

だが、拳に向かって三郎が頭突きを放った。

三郎の額に拳は直撃し、骨の軋む音を立てた。

竜二の手は離れ、三郎が背中から倒れこむ。

竜二はギリギリ踏み込み、地面を蹴って三郎と距離を取った。

三郎が唸り声を上げながら立ち上がる。

「無茶なことするね~三は」

「ぶっ壊してやろうと思ったんだが、無理だったか」

「はは、怖」

三郎が踏み込む。

右アッパーが、竜二の顎を捉える。

しかし、竜二は軽く後ろに下がってアッパーを避けた。

次に、三郎が左フックを放つ。

竜二は右腕でしっかりと受けた。

竜二の左腕が、前に突き出る。

三郎の腹に向かって、真っすぐと。

左の正拳が、三郎の腹を突いた。

だが、三郎は効いた様子もなさそうに、左肘を振り上げた。

竜二の頭頂部に向かって、勢いよく肘が落ちてくる。

竜二は瞬時に踵を浮かせ、肘が当たった瞬間踵を落とし、衝撃をクッションのように吸収した。

それでも、竜二の脳に衝撃は響いていた。

一瞬怯んだところに、再び右アッパー。

竜二が咄嗟に出した手を挟み、顔面を叩いた。

竜二の体が宙を飛び、地面に向かって落ちていく。

音を立てて落ち、竜二の頭部は赤く染まっていた。

「どうする。まだやるか」

三郎が聞くと、竜二はゆっくりと起き上がった。

「もちろん」

顔面の血を腕で拭い、体を伸ばす。

「面倒くさいな、お前」

「お互い様?」

竜二は笑って首を傾げ、前に歩みを進める。

「俺の真似か?」

「さぁね」

竜二が首を振った瞬間、三郎の拳が顔面を狙う。

竜二は右手で三郎の拳を取った。

三郎が左手で、竜二の脇腹を狙う。

しかし、三郎の左拳は大きくそれた。

竜二が右手で、三郎の体を動かしたのだ。

竜二は地面に押し付けるかのように、下方向に三郎の体を振る。

三郎は左手を地面につき、左足を竜二に向かって蹴り上げた。

竜二は右肩で、蹴りを受ける。

だが、竜二の肘に向けて、左膝が突き出て来た。

竜二は三郎の手を離し、回転するように膝を避ける。

三郎も回転し、立ち上がった。

竜二と三郎が、お互いを見合った瞬間、同時に飛び出した。

三郎が左足で前蹴りを放つ。

竜二は跳びあがってそれを避け、右の足を突き出した。

三郎の顎に、足が直撃する。

三郎は体勢を崩し、床に横たわった。

対して竜二は、右手から着地し、膝をついた状態へ。

三郎が、ふらふらと体を振らせながらも、立ち上がろうとしている。

そこへ、低姿勢から放たれる左の蹴り。

三郎の腹を打ち、再び床に横たわらせた。

「ぐっ…」

三郎が一瞬唸ったかと思うと、体を転がしてうつぶせの状態になった。

そして、頭を振り上げ、床に向かって頭突きを放つ。

一回、二回、三回目で頭突きは止まった。

「あぁ…痛って…」

三郎は首に手を当てながら、キッチリと立ち上がる。

「なんでさらに衝撃起こして回復すんのさ」

「気合い」

三郎は額をこつこつと叩きながら、そう言った。

「凄いね」

「まぁな」

二人は短く言葉を交わし、お互いに近づいていく。

同時に踏み込み、同時に拳を突き出した。

リーチの差、三郎の右拳が竜二の顔面を叩く。

三郎の拳に怯むことなく、右のブローで脇腹を叩く。

しかし、竜二が肘をついた。

三郎の左ミドルが、竜二の頭を狙う。

竜二は腕で受け、体を転がすことで衝撃を逃がした。

竜二が転がったところへ、三郎がサッカーボールキックを放つ。

竜二は両腕でしっかりと防御を固め、三郎の蹴りを受けた。

衝撃が内臓まで伝わり、竜二の身体は金網まで飛ばされてしまった。

横たわった状態で唸る竜二に、三郎が左足を振り上げる。

竜二に向かって、左足が落ちてくる。

落ちた場所は脇腹。

「かはっ」

唾を吐き、竜二は目を見開いた。

その竜二に、三郎は右のサッカーボールキックを再び、今度は顔面に向けて放つ。

竜二は左掌で三郎の右足を受け、右手でアキレス腱を狙った。

三郎はそれに気づくと、左足で竜二の腹を蹴り、空中に浮いたまま後ろに下がった。

竜二の手が離れ、三郎は体を少し低く構える。

竜二は腹を抑えながら立ち上がり、脇腹を握って掴んでいる。

「まだ立つか」

三郎は小さく呟き、左ハイキックを放った。

そこに、竜二が右肘を合わせる。

三郎の脛は、肘を打った。

いや、肘が脛を打った。

三郎は左足を戻し、顔をしかめていた。

竜二が右肘で三郎のこめかみを狙う。

だが、脇腹の痛みか動きが遅い竜二の肘を、ぎりぎりで見切られてしまった。

三郎は肘を避けるために下がり、その体勢から右の前蹴りを繰り出した。

竜二は必死に腹を守りながらよけ、地面を転がる。

「くっそ、当たんねぇか」

三郎は左の脛を気にしながら、竜二に目を向ける。

竜二は腹を抑えながら、ゆらりと立ち上がった。

「腹狙えば、倒せると?」

竜二はふらつき、息が絶え絶えになりながら言う。

「思ったんだがな」

三郎は首と指を鳴らし、右の下段蹴りを放った。

竜二はギリギリのところで躱す。

その勢いのまま、倒れこむように再び右肘を放った。

右肘が、三郎の額をかすめる。

「っ…!」

三郎の額に傷口が開き、血が流れ出した。

竜二が勢いで回転し、再び右肘を振るってくる。

今度は三郎が見切り、肘をすれすれのところで躱した。

その肘の先端は、先ほど額の傷口の目の前を通っていく。

三郎が飛び下がる。

(あいつ…傷口を抉ろうとしてきたか?)

警戒しながら、金網に背を当てた。

(好機(チャンス)っ…!もう一度肘を当てて切り裂く!)

竜二が三郎を追い、右肘を振りかぶりながら飛び掛かった。

三郎は右に向かって体を思い切り捻り、竜二の肘を避ける。

竜二の肘は、三郎の頭の後ろの金網に当たった。

三郎が体を捻らせたまま、右のボディブローを放つ。

竜二の左脇腹を叩き、腎臓へ衝撃が響く。

そこへ、頬骨に衝撃が走った。

衝撃と言っても、鈍い打撃のような衝撃ではない。

斬撃のような、鋭い衝撃だ。

三郎が衝撃で地面に倒れ込んだ。

(何が…)

三郎が目を開けると、竜二が右拳を胸につけていた。

そう、肘が突き出ているのだ。

次に三郎は、金網に目を移す。

切れている。

先ほど三郎の後頭部が面していたところから、倒れる前の三郎の頬骨辺りまで、ぱっくりと。

金網の切れ口は外側に向かって曲がっている。

(あいつ…肘で…)

三郎が右手で地面を突き放し、転がりながら竜二と距離を取った。

竜二は追ってくる。

そこに向かって、逆に突っ込んだ。

突進で体勢を崩し、竜二を地面に倒す。

その上に馬乗りになり、三郎は左の拳を振り上げた。

拳を力任せに振り下ろす。

ガチッと、硬いところに当たった。

それと同時に、ビキッという音と共に、拳に痛みが走る。

竜二が肘で拳を受けていた。

三郎が怯んだ瞬間、竜二は三郎の背中を膝で蹴り上げ、体勢を崩してから突き飛ばした。

その勢いで、三郎は竜二の上から外れる。

竜二が下がると同時に、三郎は再び飛び掛かる。

そこに合わせて、竜二の右肘が飛んでくる。

三郎は左手でそれを掴んだ。

折れた左手で掴み、右拳を突き出す。

三郎にとって、合理的な判断だった。

しかし、竜二の左肘は、すでに動いていた。

三郎の額をかすめ取る。

竜二は自分を抱くような体勢になった。

その目の前で、三郎の額の傷口が抉られ、さらに血が噴き出した。

脳近くの大量の出血。

三郎の視界が歪む。

それと同時に、三郎の左手が緩んだ。

竜二が左膝を立て、右拳を振り上げる。

立ち上がる勢いで、三郎の顎にアッパーが炸裂した。

三郎の体は大きく仰け反り、仰向けに倒れた。

「はぁ…はぁ…」

竜二は息を荒げた。

「勝負あり!」

その瞬間、試合場に声が轟いた。


龍一が、控室で立ち尽くしている。

立ち尽くしてはいるが、脱力したようには見えない。

全身で力み、立ち尽くしている。

「ふぅ~…」

全身の力みを解き、深く息を吐いた。

「竜二…」

龍一が呟く。

控室の扉に向かって、手をかける。

「相手は満身創痍…いける…」

龍一はそう自分に言い聞かせ、控室を出た。


対して竜二は、控室でだらけていた。

「疲れた…三は強いなぁ…タフだし」

竜二がそう呟きながら、首を鳴らす。

そして、深くため息をつく。

「さて…と。行きますか」

竜二はそう言いながら、扉に向かった。

竜二が扉に手をかける直前、扉が開く。

「ん」

「よぉ、竜二」

目の前に立って、扉に手をかけていたのは三郎だった。

「どしたの、三」

「龍輝がうるさくてな、応援してきなって」

「うん、八らしいね」

「そうだな。…お前は、茂原の方の龍一に、良くなついてたよな」

「まぁ、二人きりの時間が多かったし」

「あいつのことはどう思う?」

「一ほどではないにしろ、結構強いと思うよ」

「…そうかよ。負けるか」

「どうだろうね。でも、もし一がこのトーナメントに参戦してたら、余裕で優勝をかっさらってっただろうね」

「だろうな」

三郎は軽く笑った。

「三…いつから龍たちを名前で呼ぶようになったの?」

「負けちまったら…抜けてったよ、なんか」

「そう…君は、みんなと仲良くね」

「…お前は?」

「僕は…龍一とは仲良くできるか怪しいかもね」

「なんで」

「一が浮かんじゃうんだよ」

「…そうか」

「ま、もしかしたらだけどね」

「…そうだな。お前なら龍一と仲良く行けるだろ」

「…三、なんか丸くなった?」

「ぶち折るぞ」

薄く笑いながら、三郎は言い放った。

「んじゃ、行ってきます」

「あぁ、頑張りな」

竜二は、控室を去っていった。


試合場に、二人の戦士。

一の龍、霞原龍一。

二の竜、夜頭竜二。

「龍一、君は、一を超えれる?」

「…あぁ、一ってのは俺の叔父さん?どうだろね」

龍一が笑いながら言った。

「超えてみな。じゃなきゃ、僕には勝てないよ」

「竜二とおんなじぐらいの強さってこと?」

「いや、僕より相当強い。でも、ここで一を超えなきゃ、組長にやられるだけだよ」

「…分かった」

龍一は笑顔で頷く。

「それでいい」

竜二も笑い返した。

「始めぇ!」

最後の龍同士、戦いが始まった。


48話 三対二 終

48話後書き。

どうも。

今回は竜二対三郎です。

遂に、龍の戦いが終わります。

竜という存在が出てから、一年経とうとしてますね。

時間の流れが速い。

さて今回は、登竜門三郎です。

身長186センチ 体重98キロ。

結構でかくするか、そこまででかくなくていいか、迷うキャラです。

では。

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