47話 一対八
「やっほ~イッちゃん」
龍輝が試合場で、龍一に向けて手を振った。
「速いね」
「まぁね」
龍輝が笑い、龍一が試合場に入る。
「もう始めちゃって」
龍輝が審判に言い、首を鳴らした。
「始めぇ!」
飛び出しながら、左脚を空中で振るう。
龍一が右前腕を立て、それを受けた。
しかし、防御したうえで体勢を大きく崩される。
床に肩から倒れた龍一は、右手で地面を突き飛ばした。
その瞬間に、龍輝の足が落ちてくる。
転がりながら膝をついた状態に体を持ち上げる。
「何だよ、グラウンド専門じゃないのか」
龍一は愚痴をこぼしながら立ち上がる。
「僕の身の軽さを舐めない方がいいよ~」
龍輝はステップを踏みながら、龍一に手招きをした。
龍一が喉を鳴らし、勢い龍輝に向かって飛び出す。
龍輝はステップの動作のまま、身軽に身を躱す。
龍一は躱されても、再び飛びついた。
龍輝が足を振り上げ、龍一の顎を蹴り上げる。
だが、龍一は頭を回転させ、蹴りを流した。
そして、前に進み出て龍輝の体を掴み、地面に倒した。
「まさか、グラウンドで僕に勝つつもり?」
龍輝は上に覆いかぶさっている龍一の脇に腕を入れ体を離した。
そのまま右足で龍一の左脚を払い、右に倒す。
肘で床を突き、転がって龍一の上に覆いかぶさる。
「逆転」
龍輝が右拳を振り上げ、龍一の鼻に落とす。
「っ…」
鼻血が噴き出、龍輝の拳が濡れた。
龍輝が再び拳を振り下ろすと、龍一は首を動かして躱し、肘を掴む。
肘を逆方向へ押すと龍輝の腕が滑り、体勢を崩した。
右方向へ倒れる龍輝に向かって、龍一は思い切り右肘をこめかみにぶつけた。
「ぐっ…」
龍輝は唸りながらも、転がって龍一から離れる。
(加速が足らなかったか…だが、警戒している龍輝にグラウンドで勝つのは難しいし、立ち技も…)
龍一は考えながら、腰を低く落とした。
「レスリングも許容範囲だよ」
龍輝は笑いながら、キックボクサーの様に構えを取る。
「…ふっ」
龍一は素早く息を吹き、龍輝に向かって行く。
「無駄無駄」
右ミドルを繰り出し、龍一の頭を狙う。
龍輝の右足が龍一の側頭部を叩く。
直後、龍一が下に向けて転がった。
龍輝が向き直るより速く、龍一は飛び上がった。
「なっ」
ドロップキックが龍輝の顔面を打ち抜く。
龍輝は仰向けに倒れ、龍一はなんとか受け身を取った。
龍一が龍輝に目を向けるが、龍輝は起きる様子がない。
「…はっ」
龍輝が軽く笑う。
両手を頭の両隣につけ、足を振り上げる。
周りながら飛び上がった。
「あはぁ…面白いね」
鼻から血を流しながら、にやにや笑っている。
引きつった表情をした龍一を見て、龍輝の口角はさらに上がった。
「やっぱ楽しいねぇ…僕も立ち技やってみよっかな?」
両手で頬に触れながら、龍輝はその場で回転した。
「うわっ出たよ…」
入場口の三郎が、怪訝そうにつぶやく。
「ほらっ、やろっ」
龍輝は人差し指で、龍一を招く。
「あんた、おかしいよ」
薄く笑いながら、龍一が飛び出す。
「ふふっ」
龍輝が軽く吹き出し、左ローを放つ。
龍一の頬に、龍輝の左足が迫る。
その瞬間、龍輝の左足に鋭い痛みが走った。
龍輝が目を向けると、龍一の頬の隣に拳があった。
拳の中手骨が、足の骨にヒビを入れたのだ。
「痛いっ!」
そんな言葉を叫びながら、龍輝が飛び上がる。
左足を空中に置きながら、右足で龍一の側頭部を蹴った。
「うっ…」
龍一は一瞬低く唸り、床の上で転がっていく。
金網の側で、龍一は止まった。
「ん?」
龍輝が気付いたとき、龍一の両足は金網に触れていた。
空中の蹴りでは明らかに多い回転は、龍一が自ら転がっていたから起きたこと。
龍一が両足で金網を蹴り、両手で地面を突き放す。
龍輝の腹へ、龍一が頭から突っ込んだ。
「ごふっ」
龍輝は溜まったような息を吹きだし、対の金網まで吹き飛ばされる。
「ごほっ、げほっ」
龍輝は咳き込み、手で腹を抑えながら膝をついた。
「シャッ!」
龍一はすぐに立ち上がり、左ローを龍輝の頭に向けて放った。
龍輝は腕を立て、ローキックを防ぐ。
しかし、衝撃で龍輝は飛ばされた。
試合場の隅まで蹴り飛ばされ、後方をなくすように素早く立ち上がった。
背中は金網のみ、前には龍一がいる。
「立ち技で俺に勝つ気?」
龍一が聞くと、含みのあるような笑いをした。
「ふふ。立ち技で勝つ気か?さて、どうだろうね」
言い終わった瞬間、龍一が飛び込む。
右のミドルキックを放つと、龍輝は両の逆手で金網を掴んだ。
そして、跳びあがる。
龍一のミドルが空を切り、龍輝の両足が両肩に乗せられた。
両足のスナップを効かせ、龍輝は龍一の頭に両手でしがみつく。
「っ…!」
龍一は重みに耐えきれず、背中から崩れ落ちた。
「立ち技で勝つ気なんか、さらさらないよ」
龍輝は言いながら、龍一の左足に上半身を組みつかせた。
「逆方向に、折っちゃうよ」
龍輝が脛を右腕で持ち上げ、左肘でももを押さえつける。
「このっ…」
龍一は咄嗟に、右足で地面を蹴った。
だが、体を持ち上げる訳でもなく、ただ右足が降りあがっただけ。
そのまま右足を振り下げ、龍輝の鎖骨に向かって踵を落とす。
「がっ!」
龍輝は右の鎖骨を抑えながら、龍一の上を飛び離れた。
「…やってくれたね~…!」
龍輝は唾を垂らしながら、這いつくばってそう言った。
龍一が立ち上がると、龍輝も右肩を抑えながら立ち上がる。
「良い攻撃だったよ。最悪の一撃だった」
「どっち?」
龍一が聞くと、龍輝は乾いた笑いをする。
「さぁ、ね」
龍輝は深く息を吸って、龍一に向かって駆けだした。
右上腕に力を入れ、極力肩が動かないようにしながら、龍一に迫っていく。
龍一は牽制するように、左足を少しだけ浮かせた。
龍輝はそれを見た瞬間、咄嗟に立ち止まった。
右腕を痛まないように全力で抑えながら、龍輝は一歩踏み下がる。
距離はギリギリ、蹴りの間合いの外。
お互いに、踏み出せば危険な状況。
ダメージの度合いで見れば、龍一が有利だ。
だが、容易く攻撃を放てば、一瞬で龍輝に絡めとられる。
二人は見合いながら、距離そのままにじりじりと回転していく。
やがて二人は、試合場中央に戻っていた。
「いいかな?そろそろ」
龍輝が右腕を離し、微笑んで言う。
「いいよ」
龍一は応えた。
瞬間、龍輝が地面を蹴る。
右のハイキックが龍一の頬へ迫っていく。
龍一は体勢を下げ、ハイキックは髪の毛をかすめ取っていった。
龍一が右掌を上へ向け、思いっきり突き出す。
龍輝の顎へ、掌底が入った。
しかし、龍輝は掌底が触れると同時に、飛び下がってダメージを軽減していた。
龍一は掌の感触からそれを感じ取ると、飛び下がった龍輝に向かって追撃へ踏み出す。
右ジャブを放ち、龍輝を牽制しようとする。
龍輝は拳がぎりぎり当たらないところまで下がり、目を見開いたままジャブを躱した。
そのまま龍一が拳を戻すのを見届けた後、前に進み出た。
龍輝の額が、龍一の鼻っ柱へ突き刺さる。
「うっ…」
鼻血をまき散らし、一滴の涙が垂れる。
そこへ、右の前蹴りが腹に打ち込まれた。
「ぐふっ」
龍一が地面を転がるのを見た龍輝は、右足を地面に戻した。
腹を抑えながら立ち上がると、龍輝が飛び込んでくる。
龍輝の飛び蹴りが、龍一の脇腹へ。
金網で挟み込むように、龍輝は足を突き出している。
右手を龍輝の下ももに回し、突き飛ばす。
龍輝は多少体勢を崩し、一歩龍一から距離を取った。
龍一は咳き込みながら、金網に背を任せながら立ち上がる。
龍輝が一気に息を吐き、もう一度踏み出してきた。
龍一の顔面に向かって、左ストレートを放つ。
龍一が右に躱すと、体勢が崩れた。
龍輝の左足が、龍一の足を引っかけている。
前傾姿勢になる龍一の顔面へ、龍輝の左膝が飛んできた。
再び、鼻を潰される。
「づぁっ!」
龍一が鼻を抑えながら、地面にうつぶせに倒れた。
龍輝が腰を落とし、左腕を龍一の首へ回してくる。
龍一は咄嗟に、左肘を振り上げた。
龍輝の顎に、肘の先端が直撃した。
「くっ…まじか…」
頭を抑えながら、顔をしかめている。
龍一は右手で地面を突き放し、金網に背を託した。
「いつまでも逃げてちゃ…終わんないよ?」
「確かにね…わかったよ」
俯きながら深く息を吸い、顔を上げる。
龍輝の拳が、眼前に迫っていた。
それを転がりながら躱し、右足を地面に滑らせ、龍輝の足を払う。
龍輝は後ろに倒れることを直感すると、焦ったように体を捻り、左腕で受け身を取った。
四肢で地面を蹴り、龍輝の上に覆いかぶさる。
龍輝は左肘を振り上げ、龍一の後頭部に振り下ろしてきた。
歯を食いしばり、衝撃を耐えながら、右掌底を龍輝の胸に落とす。
「かはっ」
一瞬怯んだ隙に、左足で地面を蹴り、右前腕を龍輝の首に乗せた。
体重をかけ、龍輝の左手を掴んで相手の脇腹へ回す。
龍輝は起き上がることができず、腕は使えない。
そんな状況を作り上げた。
息を吐きながら、右腕に体重を乗せ続ける。
龍輝は軌道が詰まり、呼吸が薄く速くなっている。
龍輝が右膝を必死にぶつけてきているが、びくともしない。
汗が龍輝の顔へ落ちる。
その時、龍輝は下唇を噛みながら、右腕を振り上げた。
予想しなかったところから、右耳を掴まれた。
そのまま龍輝の上から振り落とされる。
「くそっ…!」
片膝をついた状態に起き上がったとき、龍輝の右腕が伸びてくる。
首を傾けて避けると、後ろの金網を右手が突いた。
龍輝は眉間にしわを寄せながら、腰を浮かし、左足を振るってきた。
右腕を立てて、蹴りを受ける。
痛みに耐えながら振るってきた蹴りとは思えないほど威力は高く、地面を転がらされた。
龍輝が左足を大きく後ろに下げ、腰を落とした。
「まだまだ。やれるかい?」
息を荒げながら、聞いてくる。
右腕を振りながら、ニヤリと笑う。
「もちろん。勝てるよ」
「あっ…そう…どうやって?」
「どうって…殴って?」
「じゃあ、警戒させてもらうよ」
龍輝はそう言いながら、両手を胸の前に出し、前傾姿勢に移行した。
「でも無理だね」
両腕を立てて、顔の横に置く。
まるで違う構えが、相対している。
相手の出方によって攻め方を変える二人。
動かない。
「龍一…」
総一郎が観客席で、目を細めながら言った。
「どっちの龍が動くかな…」
聖一が呟く。
その瞬間、動いた。
「同時!」
聖一が言うように、二人は同時に動いた。
龍輝の頭に向けて、左ミドルを放つ。
龍輝はさらに体勢を落とし、左足は空中を蹴った。
左足が過ぎ去った瞬間、踏み込み、龍輝は両腕を胴体に回してくる。
左手でしっかりと右腕を掴みながら、龍輝は突き進む。
しかし、体重は龍輝の方が軽い。
二歩下がったところで、体勢を落とすことで龍輝を止めた。
龍輝は左手を離し、右腕が弾けるように胴体から離れ、右腕が首を抑えてきた。
眉を尖らせ、右腕を一瞬離し、首に左腕を乗せてきた。
その動きに左腕へ重みがかかり、息が閉ざされる。
龍輝が右腕を振り上げた。
それを狙い、左拳で軽く龍輝の右腕を叩いた。
「痛っ!」
歯を噛みながら唾が飛び、龍輝は体を引く。
それを追って、進み出る。
龍輝の顎に向け、右肘を水平に振る。
龍輝が左腕を顎の横に添え、防御の体勢を取った。
その瞬間、龍一の右拳が持ち上がった。
拳は龍一の首の前を通り、肘は下を向く。
そのまま回転するように、横に倒れたような鉄槌が龍輝の左側頭部を叩いた。
「っ…」
脳が揺れるのを感じながら、体が前に崩れた。
その顔面へ、龍一は上に真っすぐかち上げるように左拳を放った。
龍輝の背はその衝撃で後ろへ反り、仰向けに倒れた。
「言っただろ?殴って倒すって。今のは、斗折龍行と…龍騰孤高だ…」
言いながら、膝に手を付く。
「勝負あり!」
審判の声を聴いてからようやく、龍一は落ち着いて息を吐いた。
「いい加減起きろ。ぶん殴って起こしてやろうか」
三郎が拳を振り上げるのを見た瞬間、龍輝は体を起こした。
「起きた起きた!だから殴んないで!」
「誰が殴るかよ。起きたやつを、な」
「じゃあほんとに殴る気だったね。怖いな~三ちゃん」
龍輝は控室のベンチに横たわっていた。
ベンチから立ち上がり、龍輝は首を鳴らした。
「負けちゃったな~三ちゃんとの約束守れなかった」
三郎が天井を見上げる。
「約束…?んなもんしたか?」
「してないよ」
「んだてめぇ気持ち悪い」
「ひっど」
龍輝はブーブー言いながら、控室を歩き回っている。
「やっけに明るいな」
「まぁ僕、組長と戦う気あんまなかったし」
「だとしても、負けたんだぞ?気になんないのか?」
「なんないって。速く試合場行きなよ」
龍輝は面倒臭そうに、三郎の背中を押して控室の外に追いやっている。
「お前セコンド…まぁいいがな」
三郎が控室の扉を閉めた。
「はぁ…悔し」
龍輝が扉に寄りかかる。
47話 一対八 終
47話後書き。
どうも。
お久しぶりの投稿です。
中盤辺りは少しぐだってたのですが、どんどん加速していきました。
テストの結果はあまり良くなかったので、次のテストのときに結構休む可能性があります。
それまでに龍一は終わるのでしょうか。
今回、龍一対八でしたが、軽口叩く同士での戦いなので、会話が結構楽しかったです。
さて今回は、龍輝を既にやってしまったので代わりに龍一です。
少しですが変わっています。
身長180センチ 体重87キロ。
本当に少ししか変わってません。
というか龍一って結構大きいんですよね。
龍輝と10センチ差あります。
恐らく一番でかいのは223センチの日堂恵介さんです。
誰です?
では。




