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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺トーナメント編
52/52

52話 一か月間

龍一がサンドバッグにローキックを入れると、サンドバッグは大きく揺れて龍一の脚に戻ってきた。

「おぉ。ポスッ」

凛太がベンチに腰掛けながら、龍一を見ていた。

「何でここに来たんだ?お前はお前でやればいいだろ?ここにきても鍛えたりしねぇし」

龍一は次に、右ミドルでサンドバッグを打つ。

「情報収集だよ情報収集。お前を見ておけば、お前と当たった時に対策できるだろ?」

「お前逆ブロックだろ?当たったとしても決勝じゃん」

「俺が勝ちあがれないと?」

「俺は勝ち上がれる想定なんだな」

龍一が笑って、サンドバッグを右手で止めた。

「つっても、一か月間でどれだけ鍛えられるかな」

「新技新技術。そうそう出て来るわけないからな」

凛太の隣に座り、龍一は息をつく。

「…凛太、協力してくれないか?新技術」

「何で相手を強くしないといけないんだよ。いいぜ」

凛太が親指を立て、勢いづけて立ち上がる。

「で?何すんだ?」

「回し受けの応用というか。首あたり守るもんあったかな」

龍一は言いながら、立ち上がった。

「何打たれんの?俺。つーか、あとで俺にも協力しろよ」


「その鼻。大丈夫か?」

霧斗が人差し指で自分の鼻を指す。

「えぇ。相当ひどい状態でしたが、今じゃもうすっかり」

肩を少し上下させて笑う、正座の男。

白と黒の道着に、身を包んで入る。

「当主を外れたんだっけ?俺のせいか?」

霧斗が床に置かれた湯呑に、手を伸ばす。

「いえいえ、あたなのせいではありません。どの道、あのトーナメントで勝つには、私は未熟ですから」

「そうか。…髭、似合ってるぞ」

霧斗が指で顎を指す。

「これは、環境のせいで切れてないだけで、伸ばしてるわけでは…」

湯呑を床に置く。

「強いか?確か…宇田…ハルノブ?」

「ハルキです。晴喜」

男は人差し指で空中に文字を書く。

「強いです。私の従姉妹にあたります。彼と戦って、当主の座は彼に渡りました。まぁ、金殺に渡っている彼が継ぐのが、正しい判断でしょう」

「…滉」

「はい?」

「俺に、技を教えてくれないか?」

道着の男、宇田滉は首を傾げた。

「あなたは十分、技を持っているでしょう?繋ぎもできますし」

「合気はできないんでな。お前に勝ったといっても、合気が弱いという証明にはならない」

「そうですか。なら、ここに拠点を移すという形でしょうか」

「そうなるな。一か月、よろしく頼むぞ」

「ええ。覚悟しておいてください。もし修業が嫌になっても、一人でここから下に降りるのは難しいですよ」

霧斗が微笑む。

「覚悟の上だ」

ある山の頂上付近、滝の上に建てられた修行場に、霧斗はいた。


「俺の性に合わないことは、お前は良く知ってるだろ?竜二」

竜二に向けて、きっぱりと言い放つ。

「そう言わずにさ、特訓がてらの組手ぐらい…ね」

三郎はそう言われ、鼻で大きく息を吐いた。

「まぁ、お前をぶちのめすのなら、性に合ってるかもな」

言いながら、竜二の目の前に歩み寄る。

「そう来なくっちゃ」

「まんまと乗せられてやったんだ。楽しませろよ」

竜二と三郎は背を向けた状態で数メートル距離を取り、同時に振り返って駆け出した。

竜二の右拳が繰り出されると同時に、三郎の右ブローが腹を叩く。

竜二は衝撃と痛みで数歩下がり、震える腕で構えを取った。

三郎が追撃を仕掛けようと飛び出す。

その勢いに合わせ、竜二は右肘を振るった。

鋭く素早く、三郎の首を狙う。

しかし、竜二の肘は首に触れることなく、三郎の左足が体を止めた。

「ぐふっ」

竜二が呻くように噴き出したと同時に、三郎は右拳を振りかぶった状態で走り寄ろうとする。

それを止めるように、右足を前に突き出した。

右足は三郎の腹を軽く打ち、三郎の体を止めた。

そして前に進み出ての、全力の右アッパー。

竜二の右拳が、三郎の脳を顎を通して打つ。

だが三郎も怯むことなく、踏みとどまった。

三郎は体を捻り、回転しながら右肘を放つ。

竜二は腕を立て、三郎の肘と自分の頭との間に挟む。

竜二が肘を受け少し体勢を崩したが、すぐに左ローを三郎にお見舞いした。

三郎の体がガクッと落ちる。

三郎の顎へ、右膝を一直線に振るう。

三郎は両腕を顎の下に滑らせ、膝を両腕で受けた。

大きく一歩下がった後、前に進み出る。

竜二の顔面へ、額が落ちた。

「ぐっ…」

鼻から血が噴き出たのを見て、三郎は追い打ちを仕掛ける。

高い左ハイキック。

竜二の側頭部を叩き、脳を揺らす。

衝撃で、さらに鼻から血が噴き出てきた。

三郎が踏み込み、右掌底を突き出す。

掌底は竜二の目の下に当たり、眼窩の奥を叩いた。

竜二の体が沈む。

三郎が勢いよく背を向け、右アッパーを大きく振りかぶって放った。

拳は竜二の顎を正確に捉え、完璧に打ち抜いた。

竜二の体は後ろに向かって倒れた。

「どうだ?」

そう言った瞬間、三郎が膝をつく。

そして、竜二は体を起こした。

「どっちが勝ったかわかんないね」

「くそ…」


小さなメモ用紙に、幾つかの武術が書かれている。

「次は…浜道流か」

響十はそう呟き、バッグを肩にかけた。

「確か浜道流は…合気重心の武術か」

響十が道場の門を通る。

「おい!何者だ!」

大声で響十に話しかけ、大股で歩み寄る大柄の男。

「道場破りさ。技を盗ませてもらう」

響十が言うと、大柄の男は丸刈りの頭を掻いた。

「そうか」

言った瞬間、男は右腕を突き出した。

「おいおい。力任せに振るう武術じゃないだろ」

男の右腕を避け、左足で男の脚を打つ。

「っ…」

(この体格で…重い!足技主体か!?)

男が考える隙に、響十が進み出る。

右のハイキックが、男のこめかみを打つ。

男の体が土埃を上げて倒れた。

「何も盗めてない。もっといないのか」

響十がそう言い終わるや否や、歩いてくるものが一人。

小柄の中年男性だ。

「あんたか」

そう言って駆けだす。

左ミドルを放つと、男が足を取る。

ガクリと、響十の腰が沈んだ。

「ありがとう」

響十が右足で地面を蹴り、空中で前蹴りを放った。

「かはっ」

男が膝から崩れ落ちた。

「もういい。帰る」

「逃がすか!」

響十が去ろうとした時、何人もの男が前に出て来る。

「はぁ。もっと盗んでおくか」

響十が手首を鳴らし、男たちに向かって進んだ。


ドンッと、重い音が森に響く。

葉が揺れ、騒々しい音を立てている。

再び、音が鳴ると、大木が揺れた。

数メートルの大木が、ぐらりと揺れている。

辰正が拳を振るい、大木を叩いていた。

辰正の拳からは血が流れ、木に付着している。

右足で踏み込み、左ミドルで木を叩く。

大木は大きく揺れ、枝を何本か落とした。

「随分と張り切っているようだな。戦いに向けて」

後ろから声を掛けられ、辰正は振り向く。

「誰だ?…お前、バトロンか」

「あぁ。一試合目はよろしく頼むぜ」

バトロンが手を差し伸べた。

「…バトロン・ネルグイ。百八十七センチ百三十四キロ。モンゴルのボルガン出身。時牧戦録十二勝一敗、金殺戦録七勝一敗。負けはある者の、強いと言われる方の人間だな」

「調べてんだな。結構」

「金殺闘士なら、情報はすべて持っている」

バトロンが片眉を上げて、辰正を見た。

「ま、情報だけじゃ意味ないでしょ」

バトロンは辰正の横を通り、大木の前に立った。

「モンゴル相撲、見せてあげるよ」

幹に抱き着き、太い脚で踏み込む。

「むんっ!」

下唇を噛みながら、押し出すように力み始めた。

大木の根が音を上げ始める。

「ほう」

バトロンの額に赤が染まり始め、さらに大きく根は音を上げた。

「…だっ!」

バトロンが右手で押し出した。

大木の右側の根が、宙に浮いている。

「なるほど。機関車松野を投げ飛ばしただけある」

「あいつは投げやすかったよ。人体は特に投げやすい」

バトロンが額の汗を拭いながら、辰正に言った。

「そうか、言葉を借りるなら…」

辰正がバトロンの横を通り、外れかけの大木を睨んだ。

右足を思い切り振るう。

大木を蹴った瞬間、残っていた左側の根は地面の所でパキッと折れた。

バランスを崩した大木は、轟音とともに倒れ伏した。

「でかい方が蹴りやすい」

バトロンは倒れた大木を前にして唖然としている。

「やばー。まじやばー」


智は、ある男の話を聞いていた。

金殺戦録二勝一敗。

その一敗で、再起不能寸前まで追い詰められた男。

名を隆久(タカヒサ)と言う。

「あんたがトーナメントで戦うのかい。奴と」

隆久がソファに腰かけたまま聞く。

智は椅子に座った状態で頷いた。

「情報網を使い、あなたを探し出した。まさか、空手界の核兵器と呼ばれていたあなたが、金殺に入っていた上、負けているなんて」

「核兵器か…大げさだな」

隆久は笑いながらそう言った。

「…赤桐松之助についてだったな」

隆久が声色を変えて聞く。

「えぇ。異名は確か…」

「血濡れた男。その名にふさわしい」

咳払いをして、隆久は話し始めた。

「奴は金殺闘士であると同時に、破壊屋もやっている」

「破壊屋…?殺し屋ではなく?」

「まぁ、大体は殺し屋と同じ認識でいい」

隆久は鼻で大きくため息をつく。

「殺し屋と違うのは、個人を殺すことはできないという点。そして、生命ならどんな生物でも任務内ということ。あとこれは殺し屋でもあることだが、奴は直接任務を任せることはできない」

「個人を殺さない…?どういうことです」

「奴の専門は組織。暴力団に乗り込み、もれなく滞在していた全員を殺すという」

「そんなことが…では、どんな生物でもというと?」

「奴はシリアスキラーだ。牛でも虎でも象でも鯱でも。どんな生物でも殺す

」

「そんな任務があると?」

「聞いた。鯱を殺したというのは聞いたことないが、山に潜む羆を殺したのだと」

智は口を拳で押さえる。

「何か変なこと言ったか?」

「いえ。ただ、羆なら俺でも殺れますよ」

経験から基づく、自身のこもった発言だった。

だが、智の想像と違う事を、知らない発言だった。

隆久は逆に笑って見せ、口を押さえる。

「その聞いた奴からもらった写真だ。落ち着いた松之助から、任務成功として送られてきたんだと」

隆久が写真を一枚取り出して、智に見せた。

そこには、血が巻き散り、アバラが飛び出し、内臓が飛び出して舌を垂らした白目の羆が仰向けに倒れていた。

「わかるか?筋肉の塊である羆を、ここまで解体したんだ。しかも素手で」

「素手で…」

智は笑った。

「薬やってるんじゃないですか?」

「…かもな。だが何がそんなにおかしい?」

「…仲間かもしれないんですもの」

智の笑顔に、隆久はつられて笑ってしまった。


暗いバーで、煙草を咥えた男が二人いた。

一人はカウンターの椅子に腰かけ、一人は壁に寄りかかっている。

「俺の知る限りでは、あんたが優勝候補の一角って呼ばれてるんだって?」

煙草を咥えて、そう言った。

言ったのは、総一郎だ。

「あの辰正や、あの龍一と並ぶほど?」

総一郎が問う相手、黒髪の男。

「大虎…って呼ばれてんだって?あんた」

「だったらなんだ?」

煙草を咥えながら、男はそう聞いてくる。

「後藤猛。あんた、どんなもんだ」

「お前、闘士じゃないだろ。なぜ聞く」

「ちょっと、息子のためにね」

「桐野ってやつはいなかったぞ」

「ま、複雑で」

総一郎が煙草を離し、猛の腕の横に置かれた灰皿で潰した。

「どんなもんか、見せてくれないか?」

「…無理だ」

そう言いながら、猛は灰皿を手に取った。

そして、丸い灰皿の両端を、両手で掴む。

そのまま力み、灰皿を折り曲げてしまった。

「熱くないのか?」

「あぁ」

猛は灰皿を逆に折り曲げ、歪に戻った灰皿を戻した。

「おぉ、ク(・)ー(・)ル(・)だね。でも、灰皿買いなおしたほうがいいよ」

「…あぁ」

猛はそう呟いた。

「ま、桐野運用に電話くれ。いつでも買ってやるから」

総一郎はそう言って、バーを後にした。


52話 一か月間 終

52話後書き。

どうも。

52話は会話中心の回です。

既存キャラと新キャラの数名のお話でした。

一体龍一は何を思いついて実行しようとしているのでしょうか。

因みに、作中で語られた優勝候補は、辰正、龍一、響十、猛です。

妥当な面子だと思ってます。

凛太達は入ってません。

まず金殺でも予選含め6勝程度しか挙げてませんし。

さて今回は、ウィロリアン・ジェイサム・ディクソンです。

身長176センチ 体重89キロです。

メッセンジャーという異名ですが、どういう意味でしょう。

では。

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