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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
41/52

41話 終戦

何もかも振り切るようだった。

今まで、速く動くことは意識していた。

だが、そんな過去さえ振り切るような速さだった。

他の者から見たら、いつもと変わらない速度かもしれない。

それでも、龍一に取っては最速だった。

一瞬一瞬、進むごとに最速を更新していく。

見えない足枷を外され、自分は見えないスピードへ達していた。

そのまま右手を振るう。

右拳が、正和の顔面に直撃した。

あんたは、見えるだろう?なぁ、なぜ当たってくれた。

正和の視界には、龍一は映っていた。

見えたうえで、反応できなかった。

何が飛び出してくるか、当たるまでわからなかったという。

雲、いや、もっと軽い。

空気の変化が、目視ではわからないように。

まるで、空気に殴られた。

いやいや、痛いって、重いって。

正和は踏みとどまった。

「おもしれえじゃねぇか!龍一!」

正和が右拳を突き出した。

ストレートだ。

龍一は下に屈んで、ストレートを避ける。

そのまま突き進み、テイクダウンへ。

正和は仰向けに倒れ、龍一がそれに乗っかった。

正和が体をできるだけ起こし、龍一に掴みかかる。

龍一は足を立て、掴まれる前に正和の上から飛び退いた。

龍一が着地すると同時に、正和は立ち上がる。

両足を液体のように滑らせ、龍一が進み出る。

正和は近づいてきた龍一に向けて、前蹴りを放つ。

足が顔面に触れた。

次の瞬間、龍一が回転しながら、正和の後ろに回る。

回し受け。

正和が振り向く前に、龍一は凰眼拳で背中を打った。

背・神管打ち。

正和の目が血走る。

痛みで歯を食いしばる。

龍一はそのまま、正和の背を蹴り飛ばした。

正和が体勢を大きく崩し、前に倒れた。

だが、すぐに起き上がり、振り返って龍一を睨む。

そこへ、左から龍一の蹴りが飛んできた。

蹴られた正和は、手を付いた。

龍一が離れる。

ゆっくりと、正和は立ち上がった。

離れた龍一を睨みながら、正和は構えなおす。

龍一が飛び出し、右ジャブを放つ。

正和は体を後ろに傾け、それを避けた。

途端に、左ローが飛んでくる。

飛び上がって、それを避ける。

そして、正和の足が突き出される。

礼樹に放ったような、空中の蹴り。

龍一はバク転した。

正和の蹴りは、ちょうど空を蹴った。

正和が着地する。

その瞬間、龍一は一歩下がり、飛んだ。

正和がそれを目で追うと、龍一の体は捻り回転している。

右足が高く持ち上がると、遠心力を着けながら一回転半して、正和に振り下ろされた。

正和は両手をクロスさせ頭の上に出し、蹴りを防いだ。

ビリビリと、腕が痛む。

龍一は片手を付いて着地し、その片手を軸に跳び下がった。

しかし、その隙を見逃さず、正和は前に進み出た。

龍一は膝をついて着地する。

左ミドル。

龍一の顔面に向けての、左ミドル。

右腕を立て、それを受ける。

重い。

龍一は蹴り飛ばされた。

左腕で地面を触りながら、体勢を整える。

右腕を何度か振り、状態を確かめた後、立ち上がって構える。

正和が直進し、左足で前蹴りを放つ。

龍一は左にステップで避け、右ストレートを顔面へ放った。

正和の顔面に、右ストレートが直撃する。

だが、その腕を掴まれた。

正和は左腕を振るい、アッパーを放った。

龍一の顎に、アッパーがぶち当たる。

正和は腕を離し、アッパーの勢いで横に回転した。

その勢いに加速をつけ、右の裏拳で龍一の体を打つ。

龍一がよろめきながら、後ろに下がった。

正和がすぐにそちらに向く。

その時、茶色い物体が正和の顔面に飛んできた。

土だ。

龍一が土を蹴り、正和の目を封じた。

そして、右足を軸に、左足を浮かす。

一回転した後、左足を正和の側頭部へぶつけた。

「かっ…」

正和が前に向かって倒れていく。

砂埃を上げ、正和は倒れた。

「…回点蹴り…?」

点を作り、その点を軸にしたままその場で回転しながら蹴る技。

通常の回転蹴りよりも、回転数が高い分、威力が高い。

龍一が咄嗟に放った技を、名付けたのだ。

「…次は、あっちだ…」

龍一が歩き出した。

その方向は、先ほど、藤木辰正の向かった方向。


辰正が立ち止まり、振り返った。

「ここでいいか」

辰正が辺りを見渡しながら、善助に言う。

「別にどこでも」

そう言い終わると同時、善助が飛び出した。

辰正の襟を右手で掴み、左手は辰正の右の袖を掴んだ。

善助が辰正に背を向け、力む。

辰正の体が持ち上がり、善助によって投げられた。

善助が辰正を落とし、飛び離れる。

その時、善助には喜びがなかった。

普通に投げた時と、感触が違う。

辰正を見た時、それが何故か気づいた。

辰正は左腕をクッションにして受けていた。

今、辰正は左腕だけで逆立ちをしている。

「馬鹿力~…」

善助が冷や汗を垂らした。

「安心していい。それで成り上がったわけじゃない」

「逆に心配だね」

善助が辰正に向かって笑った。

辰正が両足を付き、善助の方に向き直る。

善助が距離を取りながら、構えを直す。

ボクシングスタイルだ。

辰正はしっかり善助を目で追いながら、構えを取った。

前羽の構え。

少しずつ、警戒を高めつつ善助が近づいてくる。

軽い右ジャブが飛び出す。

当たった。

辰正の顔面に、ジャブが当たった。

少し拍子抜けしたと同時に、善助は一歩分下がった。

そして、前に飛び出す。

再び右ジャブ。

再び、当たる。

善助はそのまま、左カーフを打った。

辰正の側頭部に、音を鳴らして撃ち込まれた。

更に、右足で踏み込む。

振りかぶっての右ストレート。

両手の間、辰正の顔へ。

ドンッ。

右中段突き。

善助の腹へ深く食い込んだ。

辰正はただ待っていたのである。

大技を。

左足で地面を蹴る。

太ももへ、ローキック。

善助が息を漏らし、後ろに下がる。

それを歩いて追い、右膝で善助の顔面を狙った。

善助はぎりぎりで頭をずらし、膝を避けた。

その後頭部へ、辰正左肘が落ちて来る。

脳が揺れると、辰正は右手の甲で善助の顔面を軽く打ち上げた。

上体が露になる。

深く踏み込み、片手ずつ拳を突き出す。

六連正拳突き。

善助が唾を吐いた。

辰正が飛び上がる。

右足を突き出し、善助の顔面を蹴り飛ばした。

善助が仰向けに倒れた。

辰正が着地する。

両腕をクロスさせるように空を切り、頭をすこし前に向けて下げた。

善助は気を失っていた。

「強い…」

辰正が声に気づき、振り返る。

正和との戦闘を終えた、龍一がいた。

「龍一…」

「…これで、この抗争は終わり?」

「あぁ」

辰正は頷きながら、善助を見下ろす。

「…龍によるトーナメントの話だったか?」

「そうそう。それがなきゃこんなのに参加してないよ」

龍一が言うと、辰正は辺りを見渡した。

「近いうちに、連絡する。そこまでは試合を組むこともない。精々、体を休めていてくれ」

辰正はそう言いながら、その場を後にした。

「…呆気なかったな」

龍一が善助を見ながら呟いた。


桐野運用本社。

「なるほど、良かったな」

総一郎が煙草を咥えながら言う。

「…うん」

龍一が力なく応える。

「…復讐心が消えた。その喪失感は俺にはわからない」

龍一が総一郎の顔を見た。

「だが、お前は強い奴と戦いたいんだろ?なら、やればいい」

総一郎が言うと、龍一は空を見つめた。

「戦うか戦わないかは別として、戦ってる最中に、復讐なんて思い出すなよ?全力でやればいいんだ」

龍一は数秒考え、頷いた。

「んじゃ、特訓でも始めるか?」

総一郎が聞く。

すると、龍一はスマホを取り出した。

「やっぱり、特訓は実戦じゃなきゃ」

龍一が笑いながら言い、スマホを自分の右耳に当てた。

「…確かにな」

総一郎も笑っていた。


「しゃあ!来たぜ!」

凛太が叫びながら、ジムに入ってくる。

「うるせぇ」

総一郎が言うと、凛太は黙った。

「うし。それで、これがお前の特訓相手達か?」

凛太の後ろにも、人はいた。

まず、龍一の十試合目の相手、古八木智。

龍一の九試合目の相手である、ミサエル・ジャルマー。

トーナメント初戦の対戦相手、高野勇。

そしてその弟の、高野武人。

二回戦の対戦相手のシミーア・ウォール。

三回戦、ムード・スロック。

山での特訓相手、黒山紺。

同じく、瀬賀羽斗。

凛太の三回戦の相手及び紺の二回戦の相手、牧オードンこと牧良二。

計十人の男たちが、ジムに入ってきていた。

「…こいつら全員と戦うのか?」

「そんな事したら、トーナメントに回復が間に合わない」

龍一がサンドバックに近づいて言った。

「だから、全員で鍛える」

龍一がサンドバックを殴る。

「だから、止まりの準備とか、よろしく」

総一郎に向かって、片手でお願いをしている。

「…お前らはいいのか?」

「いいから呼ばれたんだよおっさん」

凛太が言う。

総一郎は疲れた目をしながら、いいだろうと許可をだした。

「うるさくなるぞ…」

総一郎が呟いた。


龍一には、全員が交代交代で教えることとなった。

他の者は他の者と鍛える。

龍一はまず、凛太に教わっていた。

教わることは、握力。

「いいか!相手を思いっきりぶん殴るには、握力が重要だ!」

「はい!」

龍一が雑に大きな声を出して言う。

「威勢はいいな!じゃあまず、俺はどうやってこんな握力を手に入れたと思う!?」

凛太の問いに、精一杯龍一が答える。

「地道な努力!」

「違う!」

龍一は再び考えた。

「…何?」

「天性の才能だ。お前はこれでもやってろ」

凛太から投げ渡されたのは、ハンドグリップだった。

「じゃあ…頑張って」

凛太はそれだけ言って、特訓を終えた。


次は、ミサエル・ジャルマー。

ミサエルから教わったことは、足さばき。

速い打撃をどう打つかだった。

龍一とミサエルが向き合っている。

どちらも構えながら、相手を見ている。

すると、ミサエルが急に前進し、左ジャブを放った。

左拳は、龍一の目の前で止まった。

「加速と同時に打つ。これが重要だ」

ミサエルは自分の拳を触りながら言う。

「速く…」

龍一は、自分の拳を見下ろした。


総一郎は、ビルの屋上にいた。

フェンスに寄りかかりながら、消えかけた夕陽を見ている。

煙草の煙が、ゆらゆらなびいている。

「会長~」

総一郎が振り向く。

聖一が手を振りながら、近づいてきた。

「どうした?」

総一郎が聞くと、聖一は総一郎の横に来た。

「もうすぐですね~」

「…あぁ」

総一郎が頷く。

長く追ってきた者と、もうすぐ終わる。

「あいつとの事が終わったら…どうするかねぇ」

総一郎が天を仰ぐ。

「会社の安泰を第一に考えてくださいよ」

「…あぁ、考えとく」

総一郎が手を上げながら答えた。

その時、総一郎のポケットから、電子音が鳴った。

総一郎がポケットから、スマホを取り出す。

「トーナメント決定だ」

総一郎が言うと、聖一がスマホを覗いてきた。

「来週…」

「いいじゃねぇか。近くてな」

総一郎が煙草を噛み締める。

「伝えてくるよ」

総一郎は屋上を出ていった。

聖一も、それに続いていく。


龍一たちが特訓をはじめ、一週間がたった。

「みんな、ありがと」

龍一が特訓相手全員に呼びかけた。

「今日で終わりか…」

オードンが呟いた。

「試合、全員で見に行くか」

凛太が言う。

誰も、反対する様子はなかった。

「…分かった」

龍一が総一郎の方を向いた。

「お金…頼みます」

総一郎が鼻でため息をついた。


「組長」

辰正が金殺の試合場を歩いていると、声を掛けられた。

「…ん?」

声の主は、万場黒土。

「何やってるんです?試合場を練り歩いたりなんかして」

黒土が聞くと、辰正は少し考えて口を開いた。

「俺が負けたら、長く続いたこの試合場も、金殺も、終わるんだ」

辰正が言うと、黒土が頷く。

「…最後に、見ておきたくってな。全部」

辰正は隅々まで、試合場をチェックしていた。

「…最後なんて」

「龍の誰かに負けたら、その時点でダメなんだ。最後の可能性が高いだろ?」

黒土はゆっくり頷いた。

「ただ、もし負けるのなら、一か…二か…」

黒土が不思議そうな顔をする。

「何故?」

「何故って…俺の言うことを普通に聞きそうだから」

黒土が首を傾げた。

「少しだけ、やり残したことがあってな」

黒土は鼻で深く息をついた。

「負けなきゃいい話」

「…あぁ」


41話 終戦 終

41話後書き。

遂に抗争編が終わりました。

ちょっと苦しかったけど完結です。

最後は意外とあっさり終わりましたね。

霊野戦は書き終わった時に幸福感がありました。

間違えて和正と書いてしまうんです。

もう出てこないといいです。

そして最終章に入ろうとしてると思います。

龍トーナメントは一体だれが勝つのでしょうか。

さて今回は、野呂善助です。

身長176センチ 体重80キロ。

では。

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