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龍道  作者: 栄光の平橋
金殺編
40/40

40話 頭

時牧礼樹。

時牧組の組長。

スーツに身を包み、ネクタイをキッチリと締めている。

「ふむ…龍というのは、面白いものなのだな」

礼樹が顎に手を当て、観察している。

その相手は、七人。

礼樹は、会議室から離れた、展望台にいた。

観光として使われる展望台。

礼樹は乱戦を見下ろしている。

だからこそ見える、七人の男たち。

各々がかかわれる距離には居ず、しかし見えるような距離。

「どれがどれかは知らないが、あの猛威を振るってるのだろうな」

右アッパー、左フック、右ロー、左膝。

連撃の雨霰。

組員が倒れ伏し、それを見下ろす金髪の男。

男の名は、夜頭竜二。

二つ目の竜。

胸ぐらを掴み上げ、地面に向けて投げる。

頭から落ちた組員は、血を流して気を失った。

首を鳴らし、欠伸をした。

長髪の黒髪、前髪を分けている。

三つ目の竜、登竜門三郎。

組員の顎を掌で触れ、壁に頭を叩きつける。

後ろから刃物を持った組員を、見えない状態で後ろ蹴りを当てた。

黒いオールバック、赤と橙の眼。

四つ目の龍、四龍夏秋。

組員の顔面に、素早く両拳を打ち出す。

組員の顔が腫れる頃、殴るのをやめた。

青い目をした、夏秋に似た男。

五つ目の竜、冬山竜伍。

組員の顎に、ヤクザキックを放つ。

組員がよろけた瞬間、全力で振りかぶって顔面を殴った。

黒いジャケットに身を包み、帽子を深くかぶる男。

六つ目の龍、六道龍人(リクドウリュウト)

組員の顔面に、巨拳がぶち当たる。

組員は吹っ飛び、地面に背を打ち付けた。

ネクタイを緩めながら、拳を握り締めている。

白いスーツに身を包み、髪をぴっちり七三分けで整えている。

七つ目の龍、雲龍七王(ウンリュウシチオウ)

組員に向かって飛び込み、首に両足をかける。

組員の頭を掴んだ状態で、両足をぎりぎりと絞め上げ、組員から降りた。

次に向かってきた組員には、飛んで首に蹴りをかます。

若く、小さい。

茶髪の青年。

八つ目の龍、八嶋龍輝。

「…辰正組長が育て上げた…納得の強さだな」

礼樹が立ち上がる。

「そろそろ、出番かな」

礼樹が足を踏み出す。

展望台から、足を踏み外した。

真っすぐ、直立のまま落ちていく。

展望台は、二十メートル。

おおよそ六階ほどの高さ。

礼樹が前に体を傾けた。

すると、着地と同時に体が前に回転し、衝撃を分散させた。

「すごいな、礼樹」

拍手の音と共に、歩いてくる男。

巨大で筋肉質。

長い髪の毛は、三つ編みにまとめられている。

黒薔薇組組長、霊野正和。

「正和…組長同士でか」

「お前…そんな喋り方なんだな」

礼樹が微笑む。

「それを知ってたら、勧誘したかもな。まぁ、虫が良すぎるか」

「俺って真面目だから裏切られるのか」

礼樹が構える。

右半身を前に、左半身を後ろに。

腕を立てている。

正和も構えた。

普通のボクシングスタイルだ。

正和が飛び出す。

右足で踏み込み、左足を踵を少し浮かせた状態にする。

右脇をしっかりと締め、左拳を肩で振るった。

礼樹は左に飛んで、拳を避ける。

「ロシアンフックか…」

ロシアンフック。

腰を使わず、肩の遠心力のみで殴る打撃を、そう呼ぶ。

その者の鍛え方が、力を主軸にしてるほど、打撃の威力が強くなる。

「身震いするな…お前の打撃は」

再び、正和が構えた。

「殴ってこい」

礼樹が左手の親指で、胸骨を突っついた。

「…あぁ。そう」

正和が振りかぶり、ロシアンフックを放つ。

もちろん、礼樹は打たせる気は合っても、当たる気はない。

左の裏拳で、ロシアンフックをそらした。

右拳を打ち上げる形で、正和の脇腹に打ち込んだ。

「シュッ」

正和が息を吐く。

右手で礼樹の顔面を掴み、引き寄せた。

手を離し、右腕で礼樹の頭をがっちり捉える。

人中が圧迫された。

クリップラー・クロスフェイス。

あるプロレスラーが生み出した技の、立ち技版。

本来、常人なら人中を組まれると痛みで動転するだろう。

「…っ!」

だが、礼樹は違った。

全身で力み、正和を浮かせた。

「ザッ!」

礼樹は前に向かって体を倒した。

正和は腕を外し、受け身を取る。

礼樹は頭っから、地面に落ちた。

正和がすぐに立ち上がる。

礼樹も両手と両膝をついた状態で、頭を上げた。

正和は左に体を傾け、右足で礼樹の顔面に向けて蹴りを放つ。

礼樹は両掌で、その蹴りを防ぐ。

だが、威力は凄まじく、礼樹は後ろに向かって倒れた。

正和が追撃しようとしてくる。

礼樹は更に後ろに回転し、体を起こした。

二人は離れ、元の位置に戻った。

再び最初から、というわけではない。

礼樹の、クリップラー・クロスフェイスから脱するため取った行動。

頭に強い衝撃を受けることとなった。

それは、二人ともわかっている。

どれだけダメージを回復しながら、カバーを効かせるか。

どれだけダメージを深く、追うことができるか。

二人の戦いは、心理戦の域に達していた。

だが。

「…フッ、やめだやめ。慣れないことはしない方がいいな」

礼樹が言い始めた。

「俺は好きだぞ?こういうの」

「そう。じゃあ俺は、自由にイカせてもらう」

礼樹が倒れるように踏み出した。

同時、右足をつっかえ棒のように踏み込ませ、右ジャブを正和の顔面に放つ。

正和の視界を塞ぐように、拳が当たった。

正和が目を瞑った瞬間、左足で踏み込む。

その左足を軸にし、右方向に回転する。

正和の頬を、裏拳が叩いた。

正和は踏みとどまる。

礼樹は右足を地面に着け、左足を浮かせた。

正和の股に向かって、左足を蹴り上げる。

それを見た瞬間に、正和は飛びあがった。

礼樹がそれを目で追うと、二つの黒い物体が飛んできた。

空中で、両足の蹴り。

正和の図体では考えつかないほどの身軽さ。

礼樹が怯んだところに、着地した正和が右足を前に倒れ込んだ。

左拳を全力で握りしめ、右足に力を込め、立ち上がる。

立ち上がる勢いをつけた、左アッパー。

礼樹の顎を打ち抜き、正和の体が半回転するほどの勢いで殴り抜けた。

ザクッと、音が鳴る。

正和がそちらに目を向けた。

礼樹が倒れている。

仰向け。

殺せる。

正和は近づいた。

礼樹の胸に手を乗せ、右腕を振り上げる。

その時、ふわりと体が浮かび上がった。

礼樹の両足が、正和の体を下から押している。

「きさッ…」

「シュッ」

巴投げ。

本来、片足を軸にし、片足で相手の腹部を押し上げる技。

だが、礼樹は背筋を軸に、両膝で相手の太ももを押している。

柔道という護身術を基本にしたような《《技》》ではない。

殺し合いに特化した、投げという行為。

技の投げではなく、投げ。

どんな方法であっても、技でなくても、型がなくても、投げる。

それが礼樹の戦い方。

それによって生まれたのが、驚異的な背筋力による、投げ。

礼樹は手を使わず、正和を投げ飛ばした。

正和は背中から落ち、かひゅっと声を上げた。

礼樹は足を戻す勢いでそのまま起き上がる。

「逆転」

礼樹は一言呟く。

正和は仰向けに倒れ、礼樹が見下ろす。

先ほどと逆だ。

「でも、俺は不用意に近づかないぜ」

礼樹が地面に落ちてある石を拾う。

「これをお前に投げ続ける。お前を助けてくれるやつはもう…」

その瞬間、礼樹の頭によぎる。

あっちの組の直属兵は、こっちの直属兵と戦っているだろう。

もしこちらに来たのなら、誰かが何としても止める。

同じはず。

同じ原理のはずなのに、納得してしまう。

直属どころではない、もっと頭に近いものは止められないだろうという。

そんな、夢物語。

ご都合展開とでもいうのか。

礼樹が後ろを振り返った。

「Hello,礼樹」

野呂善助。

そこに立っている男は、最も警戒すべき男。

気づかなかった。

脳内麻薬で冷静さを失った?それともずっといて、今出てきた?いや。

「何考えてんのかわかんないけど、難しいことはやめにしようや」

…あぁ。

礼樹が踏み出す。

右ストレート。

善助が避けた。

同時に左ロー。

礼樹の太ももを叩く。

右アッパー。

礼樹の顎を再び打ち抜いた。

流れるように、左中段突き。

深く食い込む。

アッパーにより脳が揺れ、力みが一瞬遅れた。

内臓に直接、衝撃が行き渡る。

「がはっ…」

倒れるのを止めるよう、右掌底で顎をかちあげる。

連続の脳への衝撃。

この連戦で、四度。

脳組織が多く死滅していた。

礼樹が立っている。

目は虚ろだ。

善助が手を近づけた。

「終・わ・り」

指で礼樹の額をはじいた。

礼樹が倒れる。

「んで、殺す?」

善助が振り返る。

正和が立ち上がっていた。

「タフだねぇ~ほんと」

「黙ってろ」

正和は善助を押しのけ、礼樹の胸に再び手を触れた。

そして再び右腕を振り上げる。

コンッ。

石が飛んできた。

当たったのは、正和の右拳。

正和が血走った目で、石の飛んできた方を見る。

「ナイッショ」

ピストルを模倣した両手で、正和を指さす。

龍一だ。

「おぉ、あいつ…」

善助が驚いている。

「こっち来ないと、今度はこれ投げるぞ~」

手には、コンクリートブロック。

「ガキ…」

正和の顔は、怒りを表していた。

表情筋を全力で動かしている。

「そうそう…」

龍一は冷や汗をかいていた。

(辰正はいないか…他の龍も見かけてないし…というかわからんしな…)

組員は、襟にバッチを着けている。

それを見れば一瞬で、どこの組かわかる。

龍一たち加勢組、龍の者たち、中国の者たちはバッチを着けていない。

だが広範囲で暴れまわっているため、組員からは顔が知れてる。

だが、龍一からして見たら、バッチを着けてないからといって、即座に龍とは判断できない。

暴力団の厳格さを知らない龍一にとって、落としたんじゃという気持ちさえある。

だから、龍が誰だかわからないのだ。

(顔写真でもあればいいのに)

龍一はそんなことを考えていたが、正和が近づいてきたことを思い出し、気を取り直した。

「ニセモンごときが…俺を倒そうってのかい…?」

正和が目の前に立ちふさがっていた。

「ニセっ…そもそも龍とも戦えてないだろ、あんた」

「組長とも違う…龍でもない…ニセモンが…」

「無視すんなよ…思い知らせてやるよ」

龍一が右手で再び、正和を指した。

「…ほう…?」

「ニセモンがどんだけすげぇかってのをな!」

右足で踏み込み、左拳で正和の顔面を狙う。

腕をクロスさせ、正和はそれを受けた。

「いいな。フォームが成っている」

龍一の、後ろからの声だった。

なのに、後ろが見える組長二人が驚いている。

龍一は声を知らずとも振り返った。

まるで、旧友に呼ばれたように。

「初めてだな、一」

藤木辰正。

この場にいるもの全員を統制していた男。

いや、龍一は違う。

この場で唯一、見慣れない動きができる。

龍一はジャブを放った。

速く、迅く、力みのないようなジャブ。

それを、辰正は掴んだ。

龍一はハッとし、拳を戻そうとした。

戻せない。

全力で引く。

戻せない。

こっちは全体重をかけている。

あっちは片手をポケットに入れ、無尽蔵につかんでいる。

だが、戻せない。

汗が、顎を伝った。

「いいジャブだ。独学か」

辰正は褒めながら、手を離した。

「…紺さん、覚えてる?」

龍一は、どう喋ればいいのかを掴めていなかった。

「あぁ、覚えてる。強い奴だった。闘ってみたい」

「あんたらしい…」

龍一が笑う。

「紺さんの話を聞いて、あんたを恨むのはお門違いだとわかった。でも…」

龍一が拳を握り締める。

「興味がある。あんたに」

「…そうか」

辰正の眼はどこか遠く、優しそうだ。

親ほど近くはない、叔父のように感じている。

実際は、言い表せない身内。

血は繋がっていないが、叔父を育てた人物ではある。

「…調べはついているから言うが、桐野総一郎を襲ったのは俺だぞ」

「あっ…」

「といっても、俺自身は手を出していない。領地のいざこざで手を出した組員を連れ帰った程度だがな」

龍一は、虚空にいる感覚だった。

恨んでいた人物から、恨みのメッキが剥がれていく。

「まぁ、どの道お前の親が死んだのは、こちらの不手際だ」

「そうだ…」

龍一は、穴の中で細い糸を掴んだ感覚だった。

「すまない」

その糸は切れた。

「…お前がどう思うとしても、俺はお前とやるぞ、一」

辰正が歩き出し、善助に向かって行く。

「茂原と闘れなかった分があるし、何より、興味があるんだろ?」

辰正が善助の前に立ちふさがった。

「お喋りが過ぎるぜ、組長さん」

善助が笑う。

「今回の抗争の頭同士、決着をつけよう」

辰正と善助は、並んで一緒に歩いて行った。

「…いいかな」

龍一が正和に聞いた。

「待たせやがってよ。怒りが冷めたぜ」

正和がため息をついた。

「じゃあまぁ、もう一回沸いてもらって」

「舐めてんのか」

「ハハッ、成功かな?」

「…最近の若い奴はどうも合わねぇ」

正和が頭を掻く。

「やろうか」

「来い、チビ」

龍一が踏み出す。

恨みや怒りを振り切るように。


40話 頭 終

40話後書き。

最近休みが多くてすみません。

遂に40話です。

もう9か月が経とうとしています。

そんな事より本編です。

今回は書いていて気持ちの良い話でした。

書き終わって気づいたのが、頭というタイトル。

本来、長という意味で付けたのですが、礼樹の頭がボロボロに…。

辰正への恨みが消えてしまいましたね。

どうにも辰正を悪く書けない…。

これから投稿を続けていくと、1周年まで4か月。

話にして15話です。

果たして、1年連載できるのか。

たぶんできます。

忘れてるかもしれませんが、金殺ってトーナメントあるんですよね。

実は元の構想では、トーナメント優勝景品が辰正との戦闘権利だったり。

正直書きたいキャラがいるので、トーナメントは開催すると思います。

本編内なのでしょうか、本編外なのでしょうか。

さて今回は、時牧組組長、時牧礼樹です。

身長180センチ 体重126キロ。

正直、身長体重が全く同じキャラがいつか出てきてしまうのではないかと思ってます。

では。

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