39話 七人の男
「けっ、弱ぇな」
笑いながら、黒薔薇組の構成員を殴り倒していく。
轟凛太だ。
「しっかし多いな」
古八木智が、構成員の頭を掴んでいる。
「龍一は…ここにもいないようだな」
黒山紺が、微動だにせず言った。
「おっさんも戦えよ」
凛太が言った瞬間、構成員の一人が紺に襲い掛かった。
紺は構成員に見向きもせず、裏拳を顔面に打ち込む。
「…ん、そう」
凛太が目をそらす。
その時、凛太に向かって、何かが飛んできた。
直径五センチ程度の、小さなもの。
凛太はそれを左手でキャッチした。
「あ?」
凛太が持っている物は、小石。
「誰だこんな原始的なもん投げたのは」
凛太が辺りを見渡す。
すると、一つの小さな手が上がった。
「はーい!俺俺!」
「…ガキ」
凛太が呟く。
凛太の言った通り、手を上げた者はまだ十代。
だが凛太は分かっていた。
石のスピード、鋭利な形。
「てめぇ、ただのガキじゃねぇな」
「こんなとこいる時点でしょ」
少年の名は、津賀銀一。
「遊ぼうよ、こっちこっち」
銀一が後ろ向きで、遠ざかっていく。
凛太はそれに乗り、銀一を追いかけた。
「龍一はともかく、轟音野郎までいねぇとは」
古八木智が、ため息をついた。
「何やってんだあいつらは。まさか…」
「殺されてたりぃ?」
後ろからの声。
智が回転しながら、腕を振るった。
声の主は、飛び下がってそれを避ける。
「縁起でもねぇな」
智が唸る。
声の主は、角間行成。
「こんなとこなら、妥当でしょぉ」
行成が踏み出した。
紺が目を配り、警戒を高めた。
「離したか」
紺が呟くと、一人の男が歩いてきた。
白名桂太だ。
「おじさん、勘良いね」
桂太が笑った。
「じゃあ、わかるよね」
言った瞬間、桂太が突っかけてくる。
バットを振るう。
だが、それが到達するより早く、紺の右中段突きが腹へ打ち込まれた。
深く食いこんだ拳は、一目で内臓まで到達したとわからせるところまではいっている。
「かはっ…」
桂太の目が、虚ろになる。
桂太はよろつきながら、紺から離れていく。
その途中で、バットを落としてしまった。
紺は拳を戻し、再び構えなおした。
桂太が口から血を吐く。
手探りで、バットを探す。
紺は憐れむように見下ろしている。
そして、一瞬気が緩んだ。
桂太がバットを掴んだ瞬間、そのバットを紺に向けて投げ飛ばした。
紺は間一髪でバットを避ける。
だが、桂太はその隙に、飛んでいた。
左足を空中で、紺に向けて突き放つ。
紺の顔面に、蹴りが直撃した。
紺が体を反らせながら下がっていく。
桂太が着地した。
紺はすぐに構えなおす。
桂太は着地したままの前傾姿勢のまま、飛び出した。
左足を持ち上げ、桂太に向かって蹴りを放つ。
その蹴りが当たる寸前、桂太は急停止した。
紺の左足は空振りする。
桂太が、左足を地面に沿って滑らせた。
半円を描きながら、紺の右足を叩いた。
紺の体勢が崩れる。
「っ…」
桂太が地面を両手で突き飛ばし、体を起こした。
紺が右膝と右手を地面につけ、倒れるのを防ぐ。
桂太は警戒しながら飛び下がった。
紺はすぐに起き上がり、構えなおす。
その紺を中心とし、桂太はステップを踏みながら周っていた。
それを追うように、紺が体を回転させる。
桂太が先ほどの紺の真後ろまで来た頃。
いきなり大きく飛び下がった。
そして姿勢を屈める。
そして、立ち上がる。
右手には、何かが握られている。
バットを拾ったのだ。
「来なよ」
桂太が手で誘った。
「…いいだろう」
紺が構えを解き、歩き始める。
「おぉ」
桂太は少し驚きながら、笑って見せた。
紺との距離が潰れていき、二メートルほどの距離までに迫った。
その瞬間、バットを紺の正中線に狙いを定めて突き出す。
だが、バットが当たる直前、紺の右足が飛んだ。
前蹴りが桂太の脇腹を叩く。
「かひゅっ」
桂太の呼吸が乱れた。
続いて、右足を戻した紺は、左拳を突き出した。
桂太の顔面、鼻っ柱を直で打ち壊す。
血が舞い上がり、桂太が頭から仰向けに倒れた。
「甘いな」
「ここらへんでいいかな?」
銀一が笑って、凛太に言った。
「おう。いいぜ」
銀一に対して、凛太が笑い返す。
「来い」
凛太が言うと、銀一が突っかけてきた。
銀一が踏み出すと同時、凛太が構える。
銀一が飛び上がった。
凛太が目を見開く。
「回天…」
銀一が空中で体を捻り、左足を振り下ろした。
しかし、凛太はその左足を掴んでみせた。
「おっ!」
「甘ぇな。龍一のはそんなもんじゃねぇぜ!」
凛太が銀一を大きく投げ飛ばす。
空中で体を回転させ、銀一は着地した。
「アクロバティックだな」
「まぁね」
銀一が飛び出す。
再び飛び上がり、空中で蹴りを放つ。
凛太は腕を十字にし、蹴りを防いだ。
「軽ぃぜ!」
凛太が右足を振った。
右ミドルだ。
銀一はジャンプし、バク中でミドルを避ける。
「フッ」
銀一が息を吐き、右ジャブを放つ。
凛太の顔面に、ジャブはヒットした。
怯んだすきに、背を向ける。
凛太が目を開いた瞬間、回転しながらのジャンプ。
右回転で、右足を後方に放った。
凛太の肩に、右足が当たる。
「ちっ…」
凛太が肩を抑えながら、後ろに下がっていった。
「へっ、案外たいした事ねぇ。軽いんだよお前」
凛太が拳を握り締め、右肩を上げる。
決して、軽く速い打撃を打つ気はない構え。
「いいね」
銀一が地面を蹴り、凛太の左太ももを打った。
それが放たれるよりも早く、凛太は右拳を振り下ろしていた。
銀一は左腕で顔をカバーする。
だが、それごと殴りぬかれた。
銀一は地面に体を打ち付け、鼻からあふれてきた血を拭った。
「面白い…」
銀一は未だ笑っている。
「…怖ぇな、お前」
凛太は少し驚いた様子で言った。
「さっ、もう一本」
銀一が踏み出す。
今度は低姿勢のまま、凛太に駆け寄ってきた。
凛太は左半身を後方に回し、フルコンタクト空手のような構えを取る。
銀一が打撃勝負をするなら、凛太はそれに応えるつもりだった。
しかし、銀一はいきなり背中を地面に向けて、転がり始めた。
「なっ…」
銀一の右足が、回転しながら遠心力を帯びて、凛太の目の前に振り下ろされた。
凛太は腕を組んで、それを受ける。
銀一は回転しきって体を起こし、凛太の胴体に向かって突進した。
凛太の体勢が崩れ、銀一と一緒に倒れこむ。
銀一は素早く、凛太の左に周った。
そして、凛太の左腕を掴み、肩には両足をクロスさせる。
腕ひしぎ十字固め。
銀一は体を下に向けてそらした。
凛太の左腕が、軋む音を上げる。
「だっ!」
凛太は左肩甲骨で体を起こし、右拳を銀一の腹に振り下ろした。
「ぐふっ」
銀一の力みが緩み、凛太は左腕を引っこ抜いた。
凛太はすぐに起き上がり、右足を振り上げる。
銀一も横たわった状態で体を回転させ、凛太から少し離れたところで起き上がった。
凛太の右足は、地面に落ちていた。
ヒビが入っている。
「おぉ…こわっ」
銀一が笑っていった。
凛太が殴り掛かる。
左拳をまっすぐ前に放つ。
銀一は左手でその拳の軌道をずらし、右拳で凛太の腹を殴った。
あまり、ダメージは入っていない。
凛太が右膝を突き上げ、銀一の脇腹を狙った。
銀一は一瞬で飛びのく。
凛太が右足を地面に打ち付けた。
蹴る気はない。
本命はこれ。
全力で振るう、右肘。
銀一の頭に直撃した。
ゴッと鈍い音が鳴り、次に潤いのある音が鳴る。
血が垂れた。
肘の衝撃で内出血を起こし、肘の鋭さでその皮膚を切る。
ドクドクと、血が流れていく。
銀一の顔左半分は、赤く染まっていた。
左目は瞑り、もう使えない。
だが、右半分の口だけで、まだ笑っていた。
凛太は驚きながらも、笑い返した。
銀一が左半身を後ろにしながら、右拳を放つ。
凛太はその拳を、自分から見て右に避けた。
相手からすれば左。
死角。
血で覆われ、見えない。
銀一がすぐに、そちらの方に体を向けた。
その瞬間、顎に強い衝撃が走る。
凛太の全力で固めた右拳が、アッパーを放っていた。
歯を打ち砕く勢いで、銀一を殴り飛ばす。
「がふっ」
地面に落ち、血が広がっていた。
「シャア!」
凛太の声が、十数メートルに轟いた。
「さぁ、来い」
智が低く構えた。
レスラーのような構え。
行成も構えた。
ボクサーのようだが、ステップは踏んでない。
「だっ!」
智が声を上げ、突っかけた。
行成は右膝で、智の顔を狙う。
智は右に回転してそれを避けた。
行成はすぐに智を追って、右ジャブを放つ。
智はそれを顔面で受けてから、行成の左腕を掴もうとした。
だが、智の掌からは、血があふれ出した。
「痛ッ…」
スーツを少し切り裂き、棘の先端が少し見えていた。
「なるほどっ!」
智は前蹴りを放つ。
行成は後ろに飛んで躱した。
智は血だらけの手を眺めた。
「卑怯…とは違うか」
「さっきも言った通り、ここは戦場だからねぇ」
行成が笑う。
「なら、こういうのも」
智が言いながら、地面を爪先で蹴る。
土が蹴り上げられ、行成に飛んできた。
行成は目を瞑りながらよけた。
行成が目を開ける。
気づいたことがある。
二つ。
目は潰されなかったこと。
智が視界から消えていること。
その時、腹に大きな丸太が絡みついた。
智の両腕だ。
まるで錠前かの如く、がっちりと手が組まれている。
「だっ!」
智の仕掛けた技は、バックドロップ。
行成が、肩から頭にかけて落ちた。
「かっ…」
行成の視界が、ぐにゃぐにゃになる。
行成は目を瞑り、吐き気を抑えながら手探りで地面を探した。
地面に触れると、体が起き上がった。
立ったわけじゃない。
頭っから持ち上げられたような。
智の右手が、行成の頭を掴んでいた。
「ふんっ!」
智が行成を投げた。
行成は地面に打ち付けられ、その衝撃で吐き気が増大した。
行成を智が見下ろしている。
「とどめはぁ…ささないのかいぃ?」
行成が震えた声で言う。
「…馬鹿だな」
智が呟く。
「…えぇ…?」
行成が困惑したように声を上げた。
「そんなおぼつかない声を出してるやつに、刺すような止めはない」
智の言葉を理解すると、行成は笑った。
「はは…言葉を返すようだけど…」
智の眉が動く。
「馬鹿だなぁ、元々こんな感じだよ」
智が拳を振り下ろした。
行成が右腕で拳を受ける。
智の拳から、血が流れ出した。
同時に、行成は左手で土を握り、智に向けて投げた。
「クッ…」
行成は起き上がり、視界を奪われた智に向かって、ドロップキックを放つ。
智は仰向けに倒れた。
「はは」
行成が笑う。
「くそっ…てめぇ…」
智が起き上がろうとする。
それを制するよう、行成が智を蹴った。
「起きるなよぉ、馬鹿だなぁ」
智を蹴り続けながら言っている。
「おい」
声がした。
後ろだ。
行成の後ろ。
行成は振り向いた。
「どうやら、ふざけてるようだな」
瀬賀羽斗が、そこにいた。
「龍一のやつに会いたかったのに、なんだこの様は」
羽斗が智を見る。
「まぁいい。来い」
羽斗が軽く言った。
「…今の見てなかったのぉ?」
「見てたさ。智はこういうのに不向きだが、俺なら向いている。だから勝てると判断した」
行成が嗤う。
「じゃあ勝ってみなよ!」
行成が突っかけてきた。
「だから、勝てるって」
行成が右ジャブを放つ。
羽斗がそれを避け、行成の右腕に触れた。
その瞬間、何かが崩れる音がする。
「えっ…」
「武器に頼るな」
羽斗が右手で行成の左腕に触れ、右足で左脚を蹴った。
重なって、先ほどの音が鳴る。
「嘘だろぉ…?俺の鎧…」
行成がスーツを捲った。
ボロボロと、鎧と棘が落ちていく。
羽斗が左足で、行成の右脚を蹴る。
軽いが、鎧は崩れる。
「何でぇ…?」
行成は焦っている。
行成の四肢は、棘で血だらけになっていた。
「力みが足らねぇんだよ。少なくとも、そいつより」
羽斗が行成の後ろを指さす。
行成が急いで振り向いた。
そこには、目を瞑ったままの智が立っていた。
歯を食いしばっている。
「選手交代だ」
羽斗が後ろ歩きで離れた。
「目が見えない癖にぃ…?」
行成が殴り掛かった。
思いっきり振りかぶり、右拳を智の顔面へ。
打ち込まれた。
音が鳴った。
しかし、智は耐える。
智は右アッパーを放った。
行成の殴った右腕ごと、顎を打ち砕く。
「ぐふっ」
行成が歯と血を吐いた。
「はぁ~」
羽斗が珍しそうに声を上げる。
どさっと、行成が地面に落ちた。
「凄まじいな、金殺闘技者ってのは」
羽斗の言葉に、智は笑った。
「あんたもなかなかだ。相手が響十じゃなけりゃ、今頃俺の場だぜ」
「だろうな」
羽斗が智の前を横切っていった。
「頑張れよ。金殺の方」
39話 七人の男 終
39話後書き。
休み明けです。
テスト頑張りました。
今回は、あのほぼ行方知らずの人たちに焦点を当てました。
紺しか戦ってなかったんですよね。
久しぶりの、空こと羽斗勝利試合。
力みの仕方で、鎧が触れただけで壊れるものなんでしょうか。
さて今回は、あの霊野正和です。
身長180センチ 体重112キロ。
次回登場予定です。
では。




