38話 それぞれの戦い
風間銀郎は、角間行成と戦っていた。
ステップを踏みながら、銀郎が距離を測る。
巨体が地面を踏み鳴らし、行成まで届きそうなほどの揺れを起こしている。
行成が息を吐くと、銀郎が踏み出した。
右ストレートが、行成の顔面に迫る。
行成が一歩、後ろに下がった。
右拳は目の前で止まる。
銀郎が拳を戻しながら、行成に向かって進み出た。
左足を浮かせ、ローキックを放つ。
行成の右脚、スーツごと叩いた。
スーツのざらついた感触が、銀郎の左足に触れる。
その瞬間、銀郎の左足に届いたのは、鋭い痛みだった。
「っあ…!」
銀郎が右足のみで飛び下がる。
「おぉ、痛そうだねぇ。真っ赤だよぉ」
銀郎の足からは、赤い血が流れていた。
「仕込みか…」
「正解ぃ」
行成の前腕、脚には、棘の鎧を装着している。
スーツに浮き上がるほど大きくはなく、しかし肉を貫くほどの鋭さはある。
掴み、ローを防ぐ仕込みである。
「ムカつく奴だぜ」
銀郎が右足で飛び出す。
右ジャブを放つ。
行成は前腕を持ち上げ、ジャブを防ごうとした。
だが当たる直前、拳が止まる。
下から血が舞い上がった。
銀郎が左足で踏み込んだのだ。
行成の頬に、銀郎の左拳が直撃する。
行成の頭が飛び上がった。
銀郎が右足を滑らせ、行成の腹へ拳を打ち込んだ。
行成が数歩下がる。
銀郎が左足で、前蹴りを放った。
行成の胸を貫く。
行成が胸を抑えながら下がっていく。
銀郎が右腕を振りかぶり、拳を振り下ろした。
行成の顔面へ拳が迫る。
だが、拳は行成の目の前を落ちていった。
行成の足が、銀郎の脛を蹴っている。
銀郎の態勢が前のめりになり、拳が逸れたのだ。
そして銀郎の腕に、行成が右の前腕で触れた。
銀郎の腕から、血が噴き出る。
「痛っ…」
銀郎が怯むと、行成が飛び下がる。
行成がスーツを捲り、シャツのボタンを外した。
棘の付いた鎧が露わになる。
行成がステップを踏みながら、前へ進み出た。
行成が右腕を前に出しながら回転する。
銀郎の顔を、棘が流れていった。
傷が開き、血が流れ出す。
行成がまた下がる。
銀郎に対し、この攻撃で十分だと考えていた。
しかし、その考えは違った。
銀郎が血を流しながら、大きく口を開く。
行成に向かって踏み出した。
銀郎の拳が、行成を狙う。
行成は後ろに足を滑らせながら、拳を躱していく。
銀郎は続け様に拳を放ち、行成へ迫っていった。
足から、腕から、顔から血が噴き出そうと、その動きは止まらない。
右のアッパーを放った時、行成が右足で銀郎の脇腹を蹴った。
棘が深く刺さり、また血が噴き出す。
銀郎の体勢が、低く落ちた。
その瞬間、銀郎の顎を行成の右肘が掠めた。
銀郎の体が、そのまま落ちていく。
辺りは赤く染まっていた。
また別の所では、鉄野雅が戦っていた。
相手は、気竜高馬。
高馬がゆらりと下がっている。
雅は攻撃を仕掛けず、少し屈んだ状態で高馬に迫っていっている。
腕は大きな動きをせず、手が少し揺れるだけ。
それに対応するように、高馬の手も少し動いている。
高馬の踵が、壁に当たった。
高馬が一瞬後ろを見る。
雅がそれに気づくと、揺れていた手が降りあがった。
高馬の顔へ、手が迫る。
高馬は左手を振り上げ、その手を止めた。
雅が素早い連撃を繰り出す。
拳ではなく、平手のような、緩めた手。
それを防ぐ高馬の手も、緩んだ手。
緩んでいる代わりに、スピードが拳よりも速い。
雅が少し踏み込み、右手を突き出した。
それも左手で打ち上げ、防ぐ。
高馬が右手を握り締めた。
硬い拳が、雅の腹へ深く食い込んだ。
「グフッ…」
雅が一歩下がり、すぐに高馬へ目を移した。
高馬の左手が、雅の肩を叩く。
雅が反射で肩を上げ、左手を防いだ。
その左手を軸に、高馬が回転した。
雅が振り向く前に、高馬の右肘が雅の後頭部を打ち抜く。
雅の脳が揺れる。
高馬が両手を広げ、雅の首を両腕で締め上げた。
「かはっ…」
雅の瞳が揺れ、酸素が吐き出される。
高馬は息を吸い、さらに強く締めあげている。
雅の酸素が完全に断たれ、意識を失う寸前、高馬の背を大きなものが蹴り飛ばした。
高馬は回転しながら、蹴りの威力を弱め、すぐに顔を上げた。
「立てるか?雅」
そこにいたのは、銅器咲矢であった。
「ぁぁ…ぎりぎり…」
雅がふらつきながら立ち上がる。
「チッ」
高馬が軽く舌打ちした。
「戦れるか?」
咲矢が聞くと、雅は笑って頷いた。
「シャァ!行くぞ!」
咲矢が叫び、雅とともに駆け出す。
高馬は腕を落とし、二人を迎え入れた。
咲矢が左腕を振りかぶり、拳を振り下ろす。
同時に、高馬に向かって雅が右足で蹴り上げた。
高馬は拳の甲に触れ、拳をそらし、雅の蹴りを脛で受けた。
だが咲矢の右拳が、高馬の腹を打ち抜く。
高馬の体が浮かび上がり、一メートルほど吹っ飛んだ。
高馬が着地した瞬間、雅が低い体勢のまま駆け寄り、左足で高馬の両足を払った。
高馬が体勢を崩したと同時、咲矢が踏み込み、右足を振り上げた。
踵を振り下ろす。
踵が落ちてくるが、高馬は横に回ってその踵を避けた。
だが次の瞬間、雅がサッカーボールキックを高馬に浴びせてくる。
高馬はさらに回転して、壁に背をぶつけた。
二人が来る前に体勢を起こし、立ち上がって構えた。
力を抜いた、緩い構え。
そんな高馬に、雅が左足を振り、高馬の腕ごと胴体を蹴った。
高馬が踏みとどまると、そこに向かって咲矢が前蹴りを放つ。
高馬は低く屈んで避け、二人の後方に回って逃げた。
二人が同時に視線を向け、高馬に走り出す。
高馬は、二人同時に相手をするのは不可能だと考えた。
目標を一人に絞る。
雅の顎に向かって、素早く拳を繰り出す。
加速段階では緩いままの手が、当たる直前、固められた拳になった。
雅の顎を、速く硬い拳が打ち抜いた。
雅が前に倒れ行く。
高馬が、咲矢の方に目を移した。
その時には、左アッパーが高馬の顎を打っていた。
高馬が飛び、背中から地面に落ちた。
肺に強い衝撃が渡ると同時に、脳への衝撃。
高馬は倒れ伏したまま、動けなかった。
咲矢が右足を、高馬の腹に向かって振り落とした。
地面をもヒビ割りそうな程、重い踏み込み。
高馬の意識は、痛みによって途切れた。
針、赤獅子春男。
詰め込まれた筋肉は、圧迫感がある。
その前に立つ男、矢弓歩。
歩は煙草を吐き捨てた。
「行くぜマッチョマン」
歩がフリッカースタイルのような構えで、ステップを踏んでいる。
「来い」
春男はそれだけ言い、筋肉を織り込むように小さく、両拳を顎の横に立てた。
突っかけたのは、歩。
左足を春男の爪先の前に滑らせ、右足で地面を蹴り上げる。
綺麗な弧を描き、右足は春男の左前腕に直撃した。
春男は直撃したのにも関わらず、体が少しも揺れていなかった。
春男の左腕が、少し赤くなっている。
歩はそれを見て、怪訝そうな顔をしている。
「面倒な奴」
歩は右足を地面に強く落とし、左足を滑らせた。
春男の脚に、左ローが当たる。
春男は尚、揺れない。
まるで根を張った巨木のよう。
歩は両腕で体を軽くカバーしながら、左ローを打ち続けている。
春男がそれを受け続けるはずもなく、右拳を真っすぐ、顔面へ向けて放った。
歩は左手を拳に少し添えながら、体を回転して避けた。
その回転力のまま、右拳が春男の脇腹に刺さる。
だが、全く食い込んでいない。
脇腹の筋肉が、内臓へのダメージを抑えた。
「硬…」
歩の頬に、強い衝撃が走る。
春男の左フックが当たったのである。
歩は転がっていき、春男がそちらに体を向けた。
歩は脳への衝撃を耐えながら、素早く立ち上がった。
春男には距離がある。
歩は回復を優先し、数歩距離を取った。
しかし、歩の想像以上のスピードで、春男は動いた。
春男は、一瞬にして距離を詰める。
軽い右ジャブ。
歩は顔面にそれを食らい、一瞬怯んだ。
その瞬間、春男のアッパーが歩の顎を叩いた。
歩の首が、背が仰け反る。
春男が右腕に思いっきり力を込め、全力で振るった。
拳は歩の顔面へ向かう。
拳が当たる寸前、歩はさらに仰け反った。
拳がぎりぎり届かない位置まで、頭が仰け反る。
その仰け反った勢いのまま、左足を振り上げた。
春男の顎に、左足が当たる。
春男の頭が、打ちあげられた。
歩はそのままバク転し、元の状態に立ち直る。
「ふんっ」
春男が鼻から息を吐く。
「タフだね~、めんどくさい」
歩は少し笑いながら、再び突っかけた。
春男が少し、足を下げる。
ローが来ると予想したのだろう。
だが、歩は飛び跳ねた。
両膝を曲げ、突き出す。
春男の顔に、歩の両足が打ち込まれた。
春男の背が反れ、左足が宙に浮く。
それを追撃するように、着地した歩が、右の前蹴りで春男の胴体を蹴った。
春男の体が崩れる。
それに歩が飛び乗った。
マウントポジションである。
歩が右拳を振り上げた。
その時、春男の左拳が飛んでくる。
歩の顔面に当たり、歩のマウントポジションが解かれた。
春男がすぐに立ち上がり、歩の顔面に拳を打った。
歩の頬に、左フック。
歩が右に向かって倒れた。
「ぐふっ…」
歩が血を吐いた。
体が震え。立ち上がれない。
その歩を見下ろし、春男はその場を離れた。
針、青松裕也。
細身の身体で、周りの敵を一掃していた。
襲い掛かってくる奴を、一歩も動かず顎に拳を放つ。
動かず、相手を倒す。
裕也の戦法はカウンター重視。
そこへ、男が歩み寄る。
白名桂太だ。
金属バットを肩にかけ、悠々と進んでくる。
「ふぅ…」
桂太が息を吐き、バットを肩から降ろした。
「抵抗なんかしないでよ。そのまま動かず、食らっといて」
言いながら、桂太が近づき、バットを振るう。
裕也は上体だけそらし、バットを避けた。
「死ぬよりましだろうに~」
桂太が何度もバットを振るう。
裕也は上体を動かし、それを避け続けている。
縦に振り下ろされた時、それを手で受け止めた。
バットを掴んでいる裕也の腹を、桂太が蹴り飛ばす。
そんなつもりだった。
だが、裕也の立つ場所は、依然同じだった。
「…はぁ」
桂太はため息をつきながら、ゆっくり足を戻す。
「お前、それ他にも活かせんじゃない?」
桂太がバットを振りながら言う。
「そうか」
裕也がそれだけ言った。
「お前だろ?無郎の奴倒したのは」
「無郎…」
裕也が避けながら呟く。
「あぁ…」
「あいつは弱かったけど…あくまで槍。なかなかだね」
「そうか」
裕也がバットを受け止める。
桂太はバットを押し込んでいる。
「ぶっ倒す」
桂太は笑いながら言い、バットをさらに押し込んだ。
「なっ…」
裕也は抑えきれず、右手越しに頭にバットを食らった。
「クッ…」
「カウンターが得意みたいだけど…ちょっと不利かな」
桂太がバットで裕也を指す。
次の瞬間、バットを前に突き出した。
裕也の顔面に、バットの先端が食い込む。
「…さすが」
裕也は気を失っていたが、倒れていなかった。
桂太は裕也に手を加えず、その場を去った。
龍一が、野呂組構成員の合間を駆け抜けていく。
構成員たちは、後ろを振り向く。
だが、追う前に構成員は倒れる。
「ありがとうございます!」
龍一が走りながらお礼を言った。
言った相手は、正 夢坂、正 東蓮、登 明凡。
中国人の三人は、戦っている最中、龍一と出会った。
「他の人たちは?」
夢坂が聞く。
「どっかで戦ってると思うんですけど…」
他の三人。
凛太、智、紺をまだ見かけていない。
それに、羽斗も来たそうにしていた。
一体どこで何をしているのか。
「おい!まだ着かねぇのか!」
明凡が声を荒げた。
「落ち着けよ明凡。中央の会議室までは、もうすぐだ」
東蓮が落ち着いた声で言った。
「何か…変ですね」
龍一が言うと、明凡が睨む。
「馬鹿にしてんのか」
「すいません、内の者が。いつもこんなんなんですよ」
「あ?」
明凡が夢坂を睨んだ。
「二人とも、前」
東蓮が言うと、構成員が大量にいた。
「邪魔だぁー!」
「退いてもらいますよ」
明凡が飛び蹴りを一人に打ち、夢坂が縦拳を打ち込んだ。
打たれた二人が倒れる。
「行ってください、龍一様。ただ、礼樹様が戦っている可能性があるので、その時は邪魔をしないように」
「はい!」
龍一が向かう先、それは黒薔薇組の組長、霊野正和。
「あいつら、どこに居んだろな~」
龍一がため息をついた。
38話 それぞれの戦い 終
38話後書き。
書き忘れてました。
申し訳ありません。
今回は、銀郎と行成、雅と高馬と咲矢、春男と歩、裕也と桂太というてんこもりです。
歩と高馬は強そうだったんですがね。
正直キャラの使用が難しい。
さて今回は、針の皆様です。
金時 身長179センチ 体重88キロ。
雅 身長176センチ 体重77キロ。
銀郎 身長203センチ 体重143キロ。
咲矢 身長198センチ 体重124キロ。
春男 身長183センチ 体重121キロ。
裕也 身長180センチ 体重72キロ。
考えるの疲れました。
では。




